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隠しきれない04

バーを出て急に喧騒から隔離されたような廊下を歩く。



はじめて自分の好意を意識したのはあのとき。よく覚えている。


職場が同じになってはじめの頃、フォンさんに業務を教わることが多かった。自然に二人で話す時間も多くなった。

館内ではスタッフ同士が大声で話さないよう控えにしているので、ついつい歩きながらの質問が聞き取れなかったらしい。

そのときの、その仕草。
背が高い人特有の、相手の顔の高さまで耳を傾けるあの仕草。

フォンさんがそんな仕草をしなれているとはどうしても思えないのだ。
ただあのときの自然なあの仕草に、私は胸が高鳴って繰り返し思い出すことになってしまった。



みんなより一足先にバーを出てきた。
ふわふわとしたほどよい酔いが身体を包んでいて、少し歩きたい気分でもある。

地下にあるバーを出てホテルの部屋に戻る前に、ロビー階にあるコンビニへ寄るつもりだった。今晩と明日の朝一に飲むためのお水と杏仁プリンでも買おう。




コンビニの前まで来て少し気が変わった。

500mlのお水をひとつだけ買って、ホテルのロビーには戻らずコンビニの入口側からホテルの外へ向かった。
すぐ目の前は観光地だ。たくさんの人がまだ今日という一日を楽しんでいる。


時々立ち止まりお水を飲みながら、ゆるゆると歩く。

ペデストリアンデッキから手すりに寄りかかって遠くを見ていると、全国的観光地のゲートから賑やかな笑顔で満足感に満たされた人々が列をなしていて、それを見ているだけで贅沢な気分になる。


酔いに任せてひとりでふわふわゆるゆる歩くなんて、いい大人になったなぁなんて。





(たぶんつづかない)


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