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深圳の光と闇Vol.1〜情熱中国大陸〜

鄧小平が、「先富論」を唱え、「改革開放路線」を推進し始めて以来、奇跡の発展を遂げた夢の都市深セン。この経済特区、中国のシリコンバレー「深セン」を知らない人は、今や日本でも殆どいないだろう。

1,400万の人口を有し、世界の窓香港に隣接し、貿易を支える港もある。猛烈なスピードで政策、投資、開発が進み、証券、株式市場も相当な規模である。皆が成功しようと競い合う街。今やキャッシュを使う事も減り、水を買うのもラーメンを食べるのも、電車に乗るのも、車を買うのも、何から何まで電子マネー。たまにタクシーなどでキャッシュで払おうとすると、あからさまに怪訝な顔をされる。

街を走るバスは全てが電気自動車。排気ガスモクモク出して走っていた風景はもう見られない。20年前は1年中大気汚染、スモッグで曇っていた空が、今では青く澄んでいる。タクシーも自家用車も相当な割合で電気。電気自動車のナンバープレートは薄いグリーンなのですぐ見分けることができる。

シェア乗り捨て自転車が街中にあり、どこの店に入ってもフリーWiFiは当たり前、共有充電バッテリーまでが、どの店にも置かれているから、重いパワーバンクを持ち歩く必要もなく、電池切れを気にする事もない。名だたるIT企業がこの深センに本社を置き、ひしめきあい、しのぎを削っている。

「世界の工場」と言われる広東省は人口1億人ほどだが、出稼ぎ労働者の数は全国トップクラス、不動産価値は10倍以上に跳ね上がり、景気上昇に乗って日本円にして一億円以上の資産を持つ富裕層が、10万人はいると言われている。その計り知れないパワーと面白さは、世界中の人々を魅了する。

しかし、この20年の輝かしい発展を支えた底辺には、物凄い数の労働者がいた事を忘れてはいけない。

そして現在では様子は昔とは変わってしまっている。深センに来さえすれば、自分に合った仕事がが見つけられる、資格や学歴は無くとも、頑張って明るい未来を作れる、と信じ、地方から若者は深センに出稼ぎにやって来る。有名な「三和人材市場」という場所が深セン龍華にある。職業仲介マーケットである。中国全土から仕事を求めて若者達が毎日毎日ここへやって来る。最も多いのが、90後(1990年以降に生まれた世代)と呼ばれる若者たち。父母は生まれた時から深センへ出稼ぎに行き、一年中不在、会うのは帰省して来る正月だけ。地方の農村で、祖父母に可愛いがられて育った、いわゆる「留守児童世代」である。その子どもたちも大きくなった今深センを目指す。特別な資格や大卒などの学歴を持たない者が相当数いる。

毎日路上で寝起きし、その日ぐらしをしている若者が急増している事を知っているだろうか?

田舎で甘やかされて育った世代は、工場の厳しい長時間労働にも耐えられず、すぐに楽な仕事、楽な仕事に流れる。また素直で無知なため、悪質人材仲介業者に簡単に騙され、約束の給料も様々な理由でカットされ、金をもぎ取られ食い物にされる。文句を言おうにもその相手には連絡さえつかない。そうしながら仕事を転々とする事になる。

長期工場労働は辛いので避け、短期、日雇いで、その日に金を貰える仕事を探す。「楽で自由で安全」だからという理由である。親には工場で働いていると嘘をつき、安心させる。日雇い労働で1日稼ぎ、ネットカフェで2日遊んで暮らす。路上で寝起きし、金に余裕がある日は一泊数百円の違法旅館のベッドで寝る、という生活をしている。俗に、「三和GOD」と呼ばれる者達である。

食うに困り、不法ネット高利貸しから金を借り、ネットゲームや仮想社会の住人になる。ゲームの武器やアイテムなどを転売し、遊びながら「稼ぐ」。そして稼いだ金でネット博打。金は賭博で負けて一気になくなり、空腹でやる気も出ず、だらだらスマホだけを触って時を過ごす。

法外な利子を返せず、犯罪に手を染める者、体を売る者、中には身分証明書や、自分の臓器までも売る者がいるという。運転免許証も、その点数も、中国では何でも売れる。

社会生活で最も大切な「身分証明書」は様々な形で不法利用される。転売された身分証明書を使い、いくつもの銀行口座、携帯電話番号が開設され、各種企業の名義人にされ、各種違法賭博や麻薬販売、マネーロンダリングなどに悪用されると言う。深センは「来る前天国、来てみて地獄」という唄まであるそうだ。

貧富の差に喘ぎ、もがいても抜け出ることの出来ない現実。強い不満と絶望を抱え、夢を捨て、やる気も金もなく、ただ麻痺したように今日を生きる、そういう若者が五万といるのである。煌びやかな発展の裏にある深センの現実、社会の闇である。

つづく

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