Takehiro Kawana

1981年生まれ/書籍の営業職/「聞いたことがあるがよく知らないことば」の調査録です/…

Takehiro Kawana

1981年生まれ/書籍の営業職/「聞いたことがあるがよく知らないことば」の調査録です/更新は不定期(星の時間)

最近の記事

私の量子 ♯4

量子についてわかったフリをするためのまとめ ここ数ヶ月量子物理学についての読書を続けていて、量子が難しいことはわかりすぎるほどわかった。しかし知らないで済ませるにはあまりにも本質的な概念なので、私の気持ちとしては、量子は蒙古タンメン中本みたいな存在である。麺が好きなら辛いからと言ってスルーすることはできない。いきなり北極ラーメンを完食することは無理でも、せめて五目味噌タンメンくらいは食べ切りたい。というわけで、以下は私の私による私のための量子についてのまとめである。 Q:

    • 私のスピン ♯2

      素粒子セブンティーン 普段あまり触れることのないジャンルの勉強をすると、色々と副産物のような発見があるもので、私にとって今回それは原子のパーツだった。 物体は「分子」からできていて、分子は「原子」からできていて、原子は「原子核」とその周りをめぐる「電子」からできている。そして、原子核は「陽子」と「中性子」が組み合わさっている。原子の性質は陽子・中性子with電子がセットになって決まっている。ここまでが私の理解だった。 しかし今回スピンについて勉強したことで、この世界には

      • 私のスピン ♯1

        私にスピンをわからせる 先月、量子について調べていたら、理解しないと先に進めない概念にぶち当たった。「スピン」である。私の人生において、これまでの40年間、スピンについて話していた人はいなかったので、ひとまず本を買った。 本書は、物質構造科学研究所による「私にスピンをわからせて!」というウェブページ連載が元になっている。なんとなくバブル期の映画みたいなタイトルで、ゆるい解説なのかと思ったら、完全にイメージを覆された。この連載は2022年12月時点で完結しておらず、まだ進行

        • 私の量子 ♯3

          アンサング・ヒーローの系譜 福岡伸一氏の『生物と無生物のあいだ』という本に、生物学者のオズワルド・エイブリーについて割かれた「アンサング・ヒーロー」という一章がある。その偉大な功績と比べて、大きな賞賛を得られなかった英雄のことを福岡氏は敬意を込めて記している。 エイブリーは肺炎双球菌についての研究で、病原性のあるタイプの死んだ菌と、病原性のないタイプの生きた菌を混ぜ合わせて動物に注射すると、動物に肺炎が発症するという、不思議な作用の原因を解明した。いわゆる「遺伝子」の本体

        私の量子 ♯4

          私の量子♯2

          実在のもやもや感 10月から「量子」について調べている。調べれば調べるほど、このテーマについてわからないことが増えていく。ミクロなスケールでの電子や光の振る舞いについて記述する概念であることまではわかったので、高速で正確な情報処理が経済活動の成否を分けている今、量子が重視されているのは納得できる。でも、21世紀の現在使用されている量子概念の解像度を目指そうとすると、ここ100年間に物理学者の間で議論されてきた重要な問題の理解も必要になってきて、そこがとても難しい。 私なり

          私の量子♯2

          私の量子 ♯1

          文系脳を一撃で停止させるキラーワード「量子」 今年のノーベル物理学賞はフランスのアスペ、アメリカのクラウザー、オーストリアのツァイリンガーの3氏に授与された。受賞理由は「量子もつれ光子を用いたベルの不等式の破れの実験と量子情報科学の先駆的研究」である…らしいのだが、冒頭の二文字を通過した時点で、すでに私の脳は停止していた。「量子」である。 今月は、この単語の難しさについて考えてみたい。 ちょうど先月仕事で調べ物をしている時に、20世紀物理学の代表的な論争として「ボーア・ア

          私の量子 ♯1

          私のATP ♯4

          (前回からのつづき)今月は、生体のエネルギー通貨と呼ばれる物質、ATPという単語の意味や、その機能を社会人になって随分経ってから学び直している。実際には学生時代は「学んで」はいなかったわけで学び始めていると言ったほうがいいかもしれない。 前回はATPが私たちの細胞内で合成される仕組みを調べたので、今週はそのATPをどうやって増やすか、という個体レベルの活動について調べてみた。 参照したのはこの本である。 ATP(アデノシン3リン酸)はいわばエネルギーカプセルで、細胞内のミ

          私のATP ♯4

          私のATP ♯3

          高校生物への敬意 (前回からのつづき)今月は、生体のエネルギー通貨と呼ばれる物質、ATPという単語の意味や、その機能を社会人になって15年以上経ってから学び直そうとしている。何冊か本を読んだあと、家庭教師のトライさんが提供しているYouTube講義「Try It」チャンネルを見たら、そのわかりやすさと自分のそれまでの理解の適当さに腰が抜けた。 上の動画はシリーズになっており、1回約15分ワンテーマで解説してくれるのでとてもありがたい。生物学の先生はコムデギャルソンがお好き

          私のATP ♯2

          ATPの居場所 (前回からのつづき)「生体のエネルギー通貨」と呼ばれる物質、ATPについてメモする回の2回目。この単語を中学校でも、高校でも習わなかった(1990年代の話)私は、自分の動力源について知りたいと思い、少し調ベてみることにした。 急にミクロレベルのことを考えても実感しづらいので、実際にいま行っている運動、PCのタイピングを例に挙げて考えてみる。指を動かす、という筋肉の収縮は、骨格筋という細胞が行っている。筋の収縮は、運動神経からきた信号(アセチルコリン)によっ

          私のATP ♯1

          ユーザー認知の低い通貨 昔から、私はどうやって動いているのかという疑問があって、もう大人なのだからその辺りの仕組みを原理的に説明できる人でありたい。しかし残念ながら、今のところ40にして私の理解は「水と酸素を使って、炭素でできた体を燃やして動いている」というレベルだ。 高校時代に数学と理科を捨て、英・国・社の3科目で大学受験ができる「逃げの私文コース」に潜り込んだ私は、中年になった今、理数系の追っ手たちに日夜ボコられている。 生体の運動について勉強すると必ず出会う単語が

          私のATP ♯1

          私のエモ ♯4

          動物の心と感情問題 (前回からのつづき)今月はリサ・フェルドマン・バレットの『情動はこうしてつくられる』という本を読んでいる。情動(エモーション)、いわゆるエモという言葉について脳科学の知見を参照しよう、という軽い気持ちで始めた読書だったが、あまりに濃い内容で、この本とじっくり向き合っているうちに、自分にとっての脳や心の見方がかなり変わってしまった。 私がバレット博士の『情動はこうしてつくられる』を読むのは今回で2回目である。ユング心理学の本を読んだ後、現在の脳科学の知見

          私のエモ ♯4

          私のエモ ♯3

          新人アイドルを観る目的 (前回からのつづき)「エモ」とは何か。それは気分や感情とは違うのか、という個人的な関心から、人間の情動に関する現代の脳科学を学ぶ本として、今月はリサ・フェルドマン・バレットの『情動はこうしてつくられる』を読んでいる。先週は同じモノでも受け取る側の目的や経験が違えば異なった概念として知覚されるという話と、情動(エモーション)というのは色や匂いなどの分類と似ていて、社会的な構成物だという考え方を知った。 (いきなり余談ですが)私が最近直面した「まったく

          私のエモ ♯3

          私のエモ #2

          エモーションのレシピ (前回からのつづき)エモい感情は、何かが「生み出す」ものだろうか、それとも自分で「つくる」ものだろうか? 『情動はこうしてつくられる』の著者、リサ・フェルドマン・バレット氏は「構成主義的情動理論」という考え方で、人が脳の内外でエモーションを「つくる」仕組みを説明している。 怒りや悲しみ、幸福や畏怖などの「情動」という現象は当たり前のように感じられるが、だいたいは、何か許せないことや、うれしい出来事などがあったときに発生するので、自分で情動をつくるとい

          私のエモ ♯1

          古い地図と新しい地図 先月は、ひと月かけてユング 心理学の入門書『ユング 心の地図』について読み込んだ。ポップカルチャーを説明する概念の発明家としてユングは滅法面白かったし、中年になったら外的な富や名声の追求よりも、自分の内面ケアに気をつけろということも学んだ。 しかしながら、これは人文とか思想とか言われるジャンルの本を読むときにいつも気になることなのだが、これって21世紀現在、どこまで信じていい事柄なのだろうか。『ユング 心の地図』と言うけれど、この地図も古地図なのでは

          私のエモ ♯1

          私のユング ♯3.5

          シンクロニシティについて書き忘れた 前回の記事を読み返すと、そういえば「シンクロニシティ」について何も書いていなかったことに気づいた。今週はユングの晩年の思想について、書き忘れたことをまとめておきたい。 M・スタイン氏の『ユング 心の地図』を通読した後、ユングについて私の心に残ったことは二つある。一個めはユングの定義する「自己」という用語が独特で面白かったこと(これは前回書いた)。もう一つは「シンクロニシティ」という用語について、大事なことを言っている気がするけれども、何

          私のユング ♯3.5

          私のユング ♯3

          「自己」イコール私ではないという衝撃と納得感 (前回からのつづき)M・スタイン博士によるユング心理学の入門書『ユング 心の地図』を読んだ時の感動をまとめる記事の3回目、今回はユングが記した「自己」という言葉のいっぷう変わった意味に注目しながら、その魅力を簡単にまとめて記したい。 『ユング 心の地図』という本をおさらいすると、現代ユング心理学の第一人者である米国の分析心理学者スタイン氏が、ユングの「心の理論」について、9章に分けて一般向けに解説したもの。よくある新書サイズの

          私のユング ♯3