インゼルサラブレッドクラブの明日はどっちだ!?(後編)

インゼルサラブレッドクラブの明日はどっちだ!?いよいよ佳境の後編です。

前編では初年度募集の日高産・外国産へのダメ出…検証を行いましたが、後編では社台グループ編、そして今後の展望をお話ししたいと思います。


【社台ファームの現状】

まずは社台ファーム産。
募集は2頭でどちらも牝馬というラインナップだった。
個別の検証に入る前にまずは下のリストを見てもらいたい。

リスト①社台ファーム産総獲得賞金10傑(現3歳~現8歳)

色分けは前編で上げたノーザンのリストと同じく、
金色…GⅠ3勝以上または8大競走優勝馬
銀色…その他のGⅠ馬
銅色…重賞馬
無色…重賞勝ち無し
としました。
(なんとなく分かりやすいようにウイニングポストを意識してみました笑)

それにしてもこうやって可視化するとノーザンとの差がえげつないな…。

まず、このリストから読み取れることはいくつかあって、

①相変わらずセレクトに当たりは少ない。
②社台RHが概ねトップ。そうでなくても年3~4頭はランクイン。
③個人馬主の各世代トップはアスクビクターモア以外庭先か千葉サラ経由。
④オーナーズは年1頭ほど。東サラはここ4年ランク外。
⑤庭先&千葉組でランクインしているのはほぼ社台Fズブズブ馬主。

この5点ほどです。

まず①についてですが、元々社台Fはセレクトセールではあまり当たりを回さない傾向にあるんですよね。
これはセレクトセールが始まった1998年以降の社台ファーム→個人馬主の賞金上位馬の一覧なんですが、

リスト②セレクトセール開場以降の個人馬主所有馬賞金上位

全く、というほどではないがやはり差があるのは理解してもらえると思います。
特にTOP10が顕著ですよね。

アサクサキングスの馬主は田原慶子名義になっているが、これは先代の源一郎氏がこの馬の現役中に亡くなったため。
元々源一郎氏は古豪の馬主ではあったがGⅠ勝ちは2005年、アサクサデンエンが勝った安田記念が初めてだった。
兄弟実績の無いホワイトマズル産駒での7000万オーバーは当時破格であり、源一郎氏にGⅠひいてはクラシックを勝ってもらうためのご祝儀ではだとか、大コケしたアサクサキンメダル(セレクトセールで約2億)の補填だとかでとライン派界隈(そんなものはない)では密かに話題になっていたものである。

ちなみに田原氏はゴリゴリの照哉派。
社台ファームとの付き合いは遡れる範囲で1974年産のシヤダイパナマ以来、100頭弱の取引があったが、ノーザンからは生涯で数頭しか購入していない。

と、こんな感じで社台ファームは昔からセレクトで誰にでも売るみたいなことが少なく庭先が主体、仮にセールで売っても仲のいい馬主に口利きして回すことがほとんどで、ノーザン以上にインサイダー味がありました(笑)
特にセレクトセールが『ノーザンのためのセール』になってからはより顕著になりましたねえ。

あとこれは③にも繋がる話ですが、これは社台ファームがセレクトセールに対抗して千葉サラブレッドセールを開催し始めてからもあまり変わっていないようで、庭先で売る代わりに千葉に回す馬が多少増えただけのように思います。

ちなみに③でも書いた通りセレクト出身の馬は銀札すらほとんどいないのですが、唯一金札なのがアスクビクターモア。
廣崎氏も社台ファーム>ノーザンの馬主で先述の田原氏ほどではないがこの傾向が伺えますよね。

さて、順番がテレコになってしまいましたが②について。
まあこれは見ての通りですよね。
社台ファームが最優先しているのが社台RHであることが見て取れます。

④も見たまんまですね。オーナーズは顧客予備軍なので定期的に小当たり混ぜるのは当然でしょう。
東サラはここ4年落ちてる理由があんまりわからないんですが、そもそも社台→東サラは募集額超過率20%とかのかなりピーキーなラインです。
5頭に1頭当たり入れといて、あとは未勝利勝てれば御の字みたいなのでいいやって感じですね。

ここには載ってないけどグリーンに対してもまあ似たような感じだと思います(笑)

そして⑤ですが、これがかなり重要でして。
社台ファームはとにかく『ノーザンより社台を優先しているか』を特に重く見ているように思います。

分かりやすいところで言えば、原禮子(オメガ)、青山洋一(ジュエラー他)、浅沼廣幸(デルマ)、久保田定、谷掛龍夫、林田祥来(ベラッジオ)はおそらく過去に1頭も購入していません(漏れてたらすみません)

他にも、ラッキーフィールド(エア)、増田雄一(サウンド)、鈴木隆司(カレン)、村田能光、天白泰司(テン)もかなり社台>ノーザンに偏っています。

例外と言えるのは、金子真人、島川隆哉(トーセン)、小笹芳央(ホウオウ)、ダノックス、三木正浩(ABCマート)、藤田晋(アベマの人)、窪田芳郎のようなノーザンにも社台にもめっちゃ金使う人。(大富豪型)

もしくは、キャピタルシステム(モズ)、瀧本和義(ケイティ)のような完全馬主体で選んでそうな人。(相馬師型)

あとは鈴木剛史(なぜかノーザンからも社台からも一発で小当たり引いてる謎の歯科院長)のような人ぐらいです。


さて、ようやく主題に戻ります(長い)。

松島氏は過去の購入履歴からして、露骨な社台系馬主ではありません。
しかし、カザンやキスラーのような2億超えを筆頭に、結構な額を社台ファームにも落としています。
つまり、大富豪型に属してる可能性は全然否定できないんですね。

これならせいぜいオープンぐらいまでならなんとか来れる馬もいるかもしれません!

「は?ジャスティンなんちゃらみたいに重賞勝つかもしれんやろ!なんでせいぜいオープンやねん!」

そう思った方は深呼吸して、もう一度このリストを見てほしいです。


おさらいになりますが、社台ファームの優先順位は

①社台RH(金~銀銅3枚レベル)
②付き合いの深い個人馬主(世代トップ・金~銅レベル)
③付き合い浅めの個人馬主(銅レベル)
④オーナーズ、東サラ、(銅~無印レベル)
⑤グリーン(アウトレット)

ザックリというとこうです。

どうでしょう。インゼルってどこに入ると思いますか?
個人としての松島さんはええとこ③でしょう。
さらに言えば、クラブとしてのインゼルは④にも満たないんではないでしょうか。

そもそも、松島さんより東サラの山本英俊氏(フィールズ)の方が付き合い長いですし。


そしてなによりですよ。

今の社台ファームによそのクラブ面倒見てる余裕はねえ!!!!!!


ということなんです(涙)

なんとも身も蓋もない悲しい結論が出てしまいましたが、一応募集馬個別の評価もしていきます。


1頭目。
イリスレーンの母エレクトラレーンは初仔のエレクトロニカこそ4勝を挙げたものの、その後は年々成績が下降。
社台Fー清水久厩舎はちょこちょこ入ってますが、厩舎自体の成績を考えたら当たりラインと呼べるほどではありませんよね。
2400万なら最低2勝、出来たら3勝はしてほしいってとこでしょうか。
それぐらいなら何とかなりそうではありますが、もちろん未勝利で終わる可能性も否定できません。

2頭目。
ラヴェリテは兄弟実績ほとんどなし。
社台Fー上原佑厩舎は、ヒューミリティが転厩馬なのでこの馬の募集時点で預託実績なし。
少なくとも重賞級が入る可能性は低いでしょうねえ。
しかも3800万。2択ならおとなしくエレクトラレーンにしましょう。
というか3800万出すならキャロかシルクでよくね、、、?

【クラブの成否の鍵を握るノーザン】

ということで、やはりここまで見る限りたまたま仔分けで良い馬出たよ!という以外は重賞どころかオープン馬1頭出たら御の字というメンツでした。

となると、前編の冒頭でも触れたようにノーザン産に全てがかかっていると言って過言ではありません。

ではここで前編でも見せたこちらのリストの出番です。

 

ノーザン産→個人馬主 世代別賞金10傑(現3歳~8歳)

いやはや、社台と比べると層の厚みが違いますね、、、。
では社台の時と同じようにここから読み取れることをピックアップしていきます。

①日高旋風の2017年を除いて、サンデーRには毎年金札クラスが入っている。
②2017年を除いて、シルクとキャロットには1年ごとに交互に金札クラスが入っている。
③G1に入るのは良くて赤札クラス。
④仔分けを除けば個人馬主の活躍馬は大半がセレクト出身。
⑤セール出身の金札クラスは世代平均1頭程度。
⑥銀~銅クラスは年4~5頭
⑦2年以上連続でセールから当たりを引いているのはダノックスぐらいで他は皆無。

こんな具合でしょうか。
これを考慮すると、ノーザンにとっての優先順位は、
①サンデーレーシング
②シルク&キャロット
③個人馬主
④G1レーシング
と考えられます。

まずG1について言えば、こちらは追分F主体のクラブなので、まあお気持ち程度いう感じでしょう。妥当な序列です。

そしてサンデーRがやはり強いですね。
セレクト全盛の頃はサンデーRよりも個人の方が強かったんですが、今や完全に逆転してしまった印象です。

シルクとキャロットは偶然なのか意図してのものかは不明ですが、2017年を除けば1年ごとに金札クラスを交互に持ち回りしています。
ただ、毎年金札が入っているサンデーよりは序列は下。


そして肝心の個人馬主ですが、クラブと比較するとかなりボリュームに欠ける印象です。
特に仔分けでない庭先取引馬はチュウワウィザード、ドウデュースを除けば金どころか銀銅すらいません。
明確にクラブ>セール>庭先という傾向が出てるんですね。

ちなみに庭先金札の1頭、チュウワウィザードは母チュウワブロッサムの初仔です。
2番仔以降は中西氏の手に渡っていないことから、元より初仔譲渡契約なのではと考えています。

【実は異例中の異例の存在だったドウデュース】

ということは、事実上純粋な庭先取引で金札クラスだったドウデュースは実は超の付く例外パターンだったんですね。
なぜ、この馬が庭先で松島氏に売られたのでしょうか?

前編でも書きましたが、インゼルの法人設立は2020年7月です。
この時ドウデュースは1歳。
セレクトセールは6月なので既に終わっています。

私はこのドウデュースこそがノーザンから松島さんへのインゼル設立祝いだったのではないかと考えています。

この年、松島さんがノーザンからセレクトで購入した馬は他に2頭。
ダミエ(武幸厩舎)とコチョウラン(蛯名正厩舎)ですが、前者は吉田隼人、後者は田辺がデビュー戦の手綱を取っているのに対し、ドウデュースはノーザンー個人馬主の関西メインステイブルである友道厩舎で、デビューから一貫して武豊が乗っています。

期待度の差は明らかですよね。

なお、ノーザンーキーファーズで友道厩舎に入ったのはドウデュースを除けばあと1頭います。
2017年産、キーファーズ初の重賞馬となったマイラプソディがその馬で、実はこの馬も庭先での取引でした。
この年松島氏は約20000万のタイミングハートを筆頭に過去最多となる3頭の馬をセレクトで購入しています。

ここからも、友道厩舎という時点でドウデュースがいかに期待馬であり、何らかの意図をもって当たりが配されたことが推察できます。

松島さんからしても、全弟がインゼルで募集する以上ドウデュースがキーファーズ名義で活躍することは十二分にメリットのある話です。

しかし、上記の⑦で指摘したように、個人馬主で2年以上続けてランクインしているのは仔分けを除けばダノックスぐらいで、他には見当たりません。
そのダノックスですら全てセレクトセールでの購入馬です。

金札レベルの馬が庭先で売られた翌年に、さらに庭先で金札まではいかなくとも重賞クラスの馬が連続で売られるというのが相当ハードルの高いことだということがここから分かっていただけるのではないでしょうか?


【ノーザンにとっての松島さんの立ち位置】

ノーザンファームにとって、現状松島さんは毎年セールで高馬を購入してくれる上客です。
今後も良好な関係を築ければ、同様にノーザンから購入してくれることでしょう。

ですので、さすがに勝己氏もインゼルが大コケすることは望んでいないはずです。

しかし、勝己氏にとってインゼルは所詮外部のクラブです。
インゼルが大成功することで得することがどれほどあるでしょうか?

ましてや、松島さんは「武豊で凱旋門賞を勝ちたい」と常日頃公言しています。
未だ日本馬にとって凱旋門賞制覇は悲願ですが、その記念すべき日本馬初の凱旋門賞制覇を松島さんの勝負服で勝つことをノーザンは望んでいるでしょうか?

さらに言えば、キーファーズとインゼルの主戦である武豊は、もはやノーザンにとって主力騎手ではありません。
近年のノーザン産のトップクラスの馬に武豊が継続的に騎乗したのはワールドプレミアぐらいもので、ほとんどはルメールや川田や福永、横山武らが跨っています。
何なら石橋脩のほうがまだ乗せてもらってます(笑)

弟である武幸四郎ですら、非ノーザンのウォーターナビレラやドーブネ等には主戦レベルで乗せているのに対し、ノーザン系の馬にはキーファーズ以外ほとんど乗せてないんですよね。

なので、ノーザンにとって松島さんは『よく馬を買ってくれる馬主』である以上の、好ましい関係ではないのではないでしょうか。


【インゼルの今後】

そんなインゼルサラブレッドクラブは今後どうなってしまうのでしょうか?

現2歳世代は桑田牧場のビーグラッドが新馬勝ち。
ノーザン産のブラーヴイストワルも新馬で2着に好走していましたが、この2頭はどちらも仔分けです。

ただし、ドウデュースやマイラプソディが庭先でキーファーズに来た以上、いずれノーザンから当たりが入る可能性は十分あります。
インゼルを継続する人はその当たりを狙って引くか、純粋にデキの良い仔分け、または森ルートの〇外を狙うのがまだ期待値が高いのではないでしょうか。

今年度の募集馬ラインナップは先述の通り、○外が大きく減りマジックヒューマーの22のみの募集となりました。
武英厩舎かつ育成が三嶋であることから、森ルートである可能性は薄いです。

一方で、チャンピオンズファームの生産馬が2頭に増えました。
チャンピオンヒルズの設立に関わった森調教師とチャンピオンズファームの関係の深さは言わずもがなでしょう。

過去の実績から大きいところを勝てるかと言われると微妙なので募集価格との相談にはなりますが、一考の余地はあるかと思います。

そして肝心のノーザンF産の8頭ですが、庭先が3頭、仔分けが3頭、セール出身が2頭となります。
仔分けの3頭は純粋に馬のデキで考えるしかないので、残りの5頭について検証してみましょう。

シタディリオの2022(栗・藤原英) 庭先・初仔牝馬
スカイダイヤモンズの2022(美・国枝) 庭先・ドウフォルスの半弟
スターズアンドクラウズの2022(美・鹿戸) 庭先・ネビュルーズの半妹
ジンジャーミストの2022(栗・友道) セール(4510万)・ グーテンターク(中央2勝)の半弟
ダストアンドダイヤモンズの2022(栗・友道) セール(9460万)・ドウデュースの半弟

結論から言いましょう。

庭先は全て捨ててください!


今年、ノーザンから当たりが入るとすれば、ほぼ確実にセール出身の2頭です。
なぜか。この2頭はどちらもノーザンファームミックスセールの出身だからです。

ノーザンファームミックスセールってなんぞや?という人多いでしょう。
このセールは元々ノーザンファームが毎年10月に行っていた繁殖セールに、2022年から新たに当歳セクションを設けたものです。

セレクトセールの主催が名目上日本競走馬協会の主催であるのに対して、ノーザンファームミックスセールはその名の通りノーザンホースパークの主催です。

ノーザンファームからすれば、2022年が当歳セクション新設初年度。
必ずここから活躍馬を輩出したいはずです。

よって、デキの良い当歳をここに出さずに庭先で売る必要性が見当たりません。
おそらく、2022年産に限ればノーザン産のセール出身馬で最も活躍するのはこのミックスセール出身馬でしょう。

そして、インゼルはダストアンドダイヤモンズの2022でこのセールの最高落札額を記録しています。

つまりですね、この年このセールに関してはノーザンとインゼルの利害が一致しているわけなんです。

当たりがダストアンドダイヤモンズなのか、ジンジャーミストなのかはどちらも友道厩舎であることから現状測りかねますが、逆に言えばどちらかがかなりの当たり(少なくとも重賞級)である可能性は高いです。

インゼルを続けようと思っている方は、是非!この2頭を狙って見てください。

長々とお読みくださってありがとうございました!!










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