・・・あなたがもしも後輩や同僚から「利用規約のひな形ってないですか?」と聞かれたら、どうこたえますか? 最新の法令にもとづいた、自分のウェブサイトやクラウドサービスに最適な利用規約の作成のために、理想的な回答例と、ひな形を提案します。
以下は、あなたと同僚との会話のイメージです。
おつかれさま!
今日は、「利用規約」をつくりたいんだって?
よくぞ聞いてくれました。あれって簡単なようで、意外と最初につくるのは大変なんだよね。
「そもそも利用規約ってなんのためにあるんだろう?」って思ったこと、ないかな? そう、Webサービスなどのルールをあらかじめ公開して、ユーザが信頼してサービスを使えるようにしたり、ユーザ自身にも適切な利用をしてもらえるように促すためだね。
では作成するうえでの「注意点」はなんだろう?
そもそも利用規約には何が書いてある?
忙しいだろうから、結論だけ言うね。
■一般的に利用規約には次のポイントがあると考えられるよ。
・提供者と利用者間の「契約」(合意)内容の確認
・規約の「変更手続き」について定める
・「何が提供されるのか」を明確化する
・「禁止事項」を定める
・ユーザの「データの取扱い」について定める
・サービスの提供者を「免責」する
どれも重要だけど、特に大切なことを挙げろといわれたら「変更手続き」「禁止事項」「免責」の3つだと思うな。ちなみに規約の変更は、民法の「定型約款」の知識が重要だし、禁止事項の規定については気になる裁判例がある。そして、免責については、消費者契約法の知識が理解に必要となる。消費者契約法は改正もあったばかりだから、それも含めてぜひ知っておきたいね。
いったんまとめると、以下の通り。
とても重要だから、3点についてもう少し補足しておくよ。
①利用規約の変更手続きを定めよう
さまざまなネット上のサービス事業社から「利用規約変更のお知らせ」というメールが届くことがあると思うけど、読んだことあるかな? まさにあれが「変更手続」のひとつ。規約を変更するとき、多くのサービス提供事業者はメールで利用者にあらかじめメール等で「お知らせ」を送る対応をとっているはず。ということはそのような手続きも、利用規約に書いてあるはずなんだ。
そして、なぜこんなに面倒なことをやるのかは、民法の「定型約款」のルールに由来している。そこで、定型約款のところの条文を引用しておくから、一読しておいてほしい。
定型約款とみなし合意(民法548条の2)
民法548条の2には以下の通り、「定型約款」の定義が書いてあるよ。
つまり「定型取引」を行うと、①積極的に合意されたか、②事業者側があらかじめ定型約款の条文を示すことで表示していたときは、合意をしたとみなすということなんだけど、ようはこの「みなし合意」っていうのがポイントだ。なぜみなし合意が必要かというと、クラウドサービスみたいに大勢の利用者が一度に同じ契約をひとつの事業者と締結する場合、利用者が規約をほとんど読まずに利用し始めることはよくあるでしょ? 実は昔から「よく読んでもいないのに、なぜ契約が成立するのか」が謎のままだったから、あたらしい民法でベースとなるルールをつくったといういきさつがあって、それがまさにこの条文なんだ。普段あまり読んではもらえない「利用規約」だけど、この条文のおかげで「みなし合意」のルールによって合意が擬制されるから、れっきとした契約になることが法的に明確になったわけ。(ただし、この条文の第2項で「もし不当な内容が書いてあったら、その場合は合意とはみなさないぞ」って意味のことが書いてあるから、注意は必要だけどね。)
全てを読まなくても合意があったとみなすという原則はわかったけど、じゃあ、そうやって合意された利用規約を事業者が「変更」したくなったらどうしたらよいだろう? 変更するにはやっぱり特別なルールが必要だよね。
これについても、民法に規定されているから確認しよう。
定型約款は変更できる(民法548条の4)
そもそも定型約款は出発点が「みなし合意」だったわけだけど、それをあとで「変更」した場合どうなるのか、について書いてあるよね。つまり、変更した事項に関しても合意があったと「みなす」のが基本スタンスだ。やっぱりみなすわけ。だから事業者は民法上、特別にユーザと合意をしなくても、一方的に利用規約を変更して良い、ということになるね。
でも今「ちょっと待って」っと思わなかった? もし利用規約を合意なく(事業者が一方的に)変更できてしまうなら、事業者は最初は甘いことをたくさん書いておいて、あとでこっそりユーザに不利な内容に変更しちゃえば、それも合意があったと「みなされる」ってこと? そんなのおかしくない? という疑問がわいてくると思う。
スピードの出せない道路
もちろんそのとおりで、民法もさすがに、そんな乱暴なことはできないようになっている。というかむしろ、「定型約款の変更」にはかなり厳格な規制がされていると言ってもいいと思う。事業者に有利に見えるのは条文の最初だけで、「規約は変更してもいいよ、ただし・・・」っていう具合に、「ただし」以降の部分でちゃんと歯止めをかけてるんだよね。まるで、スピードがあんまり出せないように、舗装道路に凹凸がつけられているみたいに。ようするに事業者がみだりな変更をすることはできないようになっている。よく読むとむしろ「変更」なんて面倒でやりたくなくなっちゃうくらいだよ。
ごく簡単にいうと、①ユーザに有利に変更する場合は変更してもOK、だけど、 ②ユーザに有利じゃない変更の場合は、契約目的に反していなくて、かつ十分に合理的な変更のみOKだよ、みたいな意味のことが書いてる。つまり、そもそも「変更内容による縛り」があるよ。さらに、その変更手続きもちゃんと決まっている。これも簡単にいえば、①いつから変更するのか ②どのように変更するのか、について、あらかじめ利用者にネットとかでお知らせしないとだめだよ、となっているわけ。こういうのを「手続要件」というよ。
つまり民法は、定型約款の変更を原則として認めつつも、変更内容を限定し、手続要件を加重することで、不当な変更ができないように規制している、と整理できるね。
他社の利用規約なんかで「当社はいつでも当社の裁量に従ってこの規約を変更できるものとします」みたいな意味の一文が載っていることがあるけど、こういうのを見かけたら、今説明した民法の世界観とのギャップを意識してみてね。
②利用規約で禁止事項を定めよう
次に重要なのが、規約で禁止事項を定めることだね。まあ禁止事項は文字通りの意味だからあらためて説明する必要もないだろうけど、事業者としては利用の仕方に一定のルールを設けておかないと、適切な運営に差し支えるし、利用者側もある程度ルールのある環境でないと利用しづらいため、ここは提供者と利用者の双方にとって必要な規定といえるかもしれないね。
具体的にどんな禁止事項が必要かは、他社の事例なんかも参考にすれば難しくはない。けど、ここは運用面もイメージしながら規定するのがよいだろうね。
つまり、たとえば利用者が「禁止事項」に違反した場合には、なにかしら対応措置をとらなければならないはずだ。たとえば「ユーザのデータ、コンテンツ、アカウントを当社が削除したりすることによって、当社はサービス提供を停止できます」みたいなルールだね。「禁止事項」はそういった措置の前提になるものともいえるけど、ここを雑に規定するとコンプライアンス上難しい問題がある。注意が必要なところなんだ。
オレ様の注意点
たとえば何かの禁止事項に違反した利用者を、事業者側が、その違反への対抗措置として利用者を「アカウント停止処分」や「退会処分」にしたとしよう。処分された利用者はこれをどう受け止めるだろう? もしかしたら処分を不服に思うかもしれないし、サービスの内容によってはなんらかの経済的不利益が出てくる可能性がある。事業者の行為は、利用者の違反行為に対する適切なペナルティだったなら仕方ないと思うんだけど、一方で、それは「本当に妥当な処分なのか」という部分が問題になってしまうことがある。つまり見方によっては「事業者が恣意的に判断」して、その判断をもとに、利用者に対して強硬な処分をとれるような規定に読めてしまう。
ようするにあんまり「オレ様」に見えるような規定をつくってしまうと、運用が不適切だと評価されて、企業の評判を下げてしまうリスクや、消費者契約法違反ととらえられるリスクがあるといえるね。じゃあどうすべきかなんだけど、結局、禁止事項は「できるだけ具体的に列挙する」ことで、なるべく利用者と事業者の双方の認識にギャップが生じないようにするしかないんだ。逆にいうと、抽象的な禁止事項の記載はやめたほうがいい。たとえば「他の会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合」のような、事業者側の恣意的な判断が許される(ようにも読める)ような記載は、気を付けるべきといえるね。
③利用規約で免責を定めよう
でが最後は「免責」だよ。事業者が利用規約を公開する目的のなかでも特に重要なのがこの、事業者の責任を免除したり制限したりすることだ。既定の意味を簡単にいえば、事業者が提供するサービスによって利用者になにか損害が生じたとしても、原則として事業者はその責任は負わないか、負うべきときでも限定的にするっていう、免責の規定を置く。
豆知識だけど、契約書において免責の考え方としては、A.債務そのものを限定する方法、B.負うべき責任を制限する方法(一部免責)、そしてC.すべての責任を免除する方法(全部免責)の3パターンがあるんだ。
3つのうちどれかを選んで規定するというよりは、これらを組み合わせて規定するんだけど、契約書全般に使える考え方だから覚えておくといいよ。
詳しい人にとっては単純化し過ぎていて物足りないかもしれないなあ。でも、実際これくらいシンプルにイメージしておかないと、現実の契約書ってなかなか読みこなせないものなんだ。まあ民法による損害の考え方はもう少し複雑だから、また今度じっくり説明したいんだけど、それよりも今知っておいてほしいのは、「なんでも免責して大丈夫か、常に疑え」っていうことかな。
免責を疑え
つまりさ、事業者としては当然、あれも免責、これも免責、・・・と書いておけばリスクをどんどん減らせると勘違いしやすいんだよね。いくら書面上で免責だって書いても、冷静になってみると、それが有効な規定として認められなきゃ意味がないでしょ。じゃあどこまでは免責が認められるんだろう? 正直、ストライクゾーンやオフサイドの判定みたいなところもあって、究極的には裁判になってみないとわからないけど、とはいえ一定の基準として検討するべきなのが、消費者契約法だ。つまり、消費者契約(BtoC)の場合、事業者の債務不履行により生じた損害を賠償する責任の全部を免除するとその条項が無効になる、と定められている(消費者契約法第8条1項1号)んだ。
この基準で考えれば、ようするに「全部免責」(事業者が一切責任を負わないとか賠償しないという規定)は有効とは認められにくい。そして、たとえ(消費者契約法の適用がない)事業者間(BtoB)のサービスであっても、信義則や公序良俗違反という観点があるし、先ほど説明したとおり「定型約款」は不当条項について「みなし合意」を認めていないわけだから(民法第548条の2第2項)、やっぱり事業者の責任を全部免除する、特に「故意又は重過失」がある場合も免責と規定したような場合は、その条項は無効とみるべきだろうね。まあここまで難しく考えなくったって「故意又は重過失」があるのに免責です(事業者は責任を負いませんよ)っていう規定の有効性があやしいことくらいは、感覚としてもわかるんだけど。
事業者に「故意又は重過失」がある場合の免責が無効という点を、もう少し掘り下げてみようか。じゃあたとえば「過失(軽過失)」の場合の事業者の免責なら、認められるんだろうか? というわけで過失に限った場合の、全部免責と一部免責に分けて考えよう。まず①全部免責については先ほどの消費者契約法8条1項1号の規定によって無効となるよ。ただし消費者契約法の適用のない取引については、有効となる可能性がある。逆に②一部免責はどうかというと、過失(軽過失)の場合は有効と考えられる。なぜなら、消費者契約法第8条第1項2号で、一部免責の規定が無効となるのは事業者が故意又は重過失の場合に限定されているからだ(=軽過失の場合は無効にならない)。
ちょっと複雑な説明になっちゃったかな? ようするに、公式は「軽過失+一部免責」だ。っていうか「いかなる場合でも一切責任を負いません」っていわれるよりも、「責任は負うけどこの範囲に限定いたします、ただし故意又は重過失の場合は除きます」っていわれたほうが、合理的に感じるでしょう? だから法的にも、免責規定の有効性は部分的に認められるわけ。
重要な改正
ところでこれに関連して、消費者契約法第8条に重要な改正(令和4年改正令和5年6月1日施行)があったからお伝えしておこう。先ほどから引用している8条に3項が追加されて、
となった。
これもなんだかわかりにくい条文だから、かみ砕いていうと、「事業者の責任を一部免責する条項においては、それが軽過失の場合に限られることが不明確だと無効になるよ」っていう意味だ。
たとえば「当社が賠償するのは1万円までですよ」という書き方だと無効だとされているから注意が必要になるね。「当社が賠償するのは、軽過失の場合は1万円までですよ」といえば有効だ。
複雑だから、かえって混乱したかな? じゃあ最低限、「故意又は重過失の場合の免責規定はほぼ無効」とだけ覚えておいてほしい。
ざっと、利用規約の3つの重要ポイントを説明したけど、どうだったかな?
また不明点がでてきたらその都度聞いて・・・
え? 「いいからひな形をくれ」だって?
・・・だと思って、今回も用意してあるよ。
Wordでもダウンロードできるようにしておくから、ちょっとでも参考になればいいな。文面は必ずしもこのとおりとは限らないけど、たたき台になるよ。
Wordファイルダウンロードはこちら。
追伸
実例に基づく推奨ひな形を多数ご提供しています。ぜひこの機会にあわせてご覧ください。