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フランチャイズをやめた人が同じ業種の店をやるのを禁止するには

競合を禁止する条項

フランチャイズ契約書で必ず見かけるのが、競業避止(競業禁止)条項です。必須の条項に見えますが、具体的な意味はなんでしょうか。もちろん、「マネしたりして競合するの禁止」という意味です。

たとえばあなたが「たこ焼き」のフランチャイズチェーンに加盟していたとして、そこを辞めて(フランチャイズ契約を解除して)、地元でたこ焼き屋を起業したら「競業避止義務違反」になるのでしょうか? そのフランチャイズの名前も今は使わず、値段もメニューも新たに自分で考案した場合はどうでしょうか?


たこ焼きのフランチャイズチェーンをやめたあと、自分でたこ焼き屋を開店できるか

これはおそらくNGでしょう。つまりあなたはたこ焼き屋を開業できない(開業すると差し止め請求をくらう)はずです。しかし名前も使わないし、メニューも新しくするのに、なぜそんなことがまかりとおるのでしょうか。これは、そもそも競業避止義務が何を守っているのかを考える必要があります。


そもそも競業避止義務とはなにか

競業避止義務は、一定の関係にある企業と「競合しない義務」のことであり、この場合は「同種又は類似の取引」をしないこと。「たこ焼き屋」のフランチャイズをやっていたなら、解除以後は「たこ焼き屋」をやらないということです。

この義務は契約や信義則で定められます。参考までにいうと、取締役などには法律上の競業避止義務があります。参考までに条文を挙げておきます。

商法16条
(営業譲渡人の競業の禁止)
第十六条 営業を譲渡した商人(以下この章において「譲渡人」という。)は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市町村(特別区を含むものとし、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百五十二条の十九第一項の指定都市にあっては、区又は総合区。以下同じ。)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その営業を譲渡した日から二十年間は、同一の営業を行ってはならない。
2 譲渡人が同一の営業を行わない旨の特約をした場合には、その特約は、その営業を譲渡した日から三十年の期間内に限り、その効力を有する。
3 前二項の規定にかかわらず、譲渡人は、不正の競争の目的をもって同一の営業を行ってはならない。
商法23条
(支配人の競業の禁止)
第二十三条 支配人は、商人の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。
一 自ら営業を行うこと。
二 自己又は第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引をすること。
三 他の商人又は会社若しくは外国会社の使用人となること。
四 会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。
2 支配人が前項の規定に違反して同項第二号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって支配人又は第三者が得た利益の額は、商人に生じた損害の額と推定する。
商法28条
(代理商の競業の禁止)
第二十八条 代理商は、商人の許可を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。
一 自己又は第三者のためにその商人の営業の部類に属する取引をすること。
二 その商人の営業と同種の事業を行う会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。
2 代理商が前項の規定に違反して同項第一号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって代理商又は第三者が得た利益の額は、商人に生じた損害の額と推定する。
会社法356条
(競業及び利益相反取引の制限)
第三百五十六条 取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。
一 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
二 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
三 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。
2 民法第百八条の規定は、前項の承認を受けた同項第二号又は第三号の取引については、適用しない。
会社法365条
(競業及び取締役会設置会社との取引等の制限)
第三百六十五条 取締役会設置会社における第三百五十六条の規定の適用については、同条第一項中「株主総会」とあるのは、「取締役会」とする。
2 取締役会設置会社においては、第三百五十六条第一項各号の取引をした取締役は、当該取引後、遅滞なく、当該取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければならない。
会社法594条
(競業の禁止)
第五百九十四条 業務を執行する社員は、当該社員以外の社員の全員の承認を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 自己又は第三者のために持分会社の事業の部類に属する取引をすること。
二 持分会社の事業と同種の事業を目的とする会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。
2 業務を執行する社員が前項の規定に違反して同項第一号に掲げる行為をしたときは、当該行為によって当該業務を執行する社員又は第三者が得た利益の額は、持分会社に生じた損害の額と推定する。


競業避止義務を課す2つの理由

そして、フランチャイズの場合は取締役等としての法令上の義務ではなく、契約上の義務として、フランチャイズ契約書のなかの競業避止義務条項で規定されます。原則として、そのように契約した以上は守らなければなりません。理由は、フランチャイズを辞めた人に、同種又は類似の取引を許してしまうと、フランチャイズ本部は長年つちかった営業秘密の流出を許してしまうことになるし、また同時に、店舗の近隣のお客さんも奪われるだろうからです。

つまり、フランチャイザー側にとって「営業秘密の保護」と「顧客の確保」という2つの必要性により、同種又は類似の取引を行わせないために契約による競業避止義務を課すといえます。ちなみに、契約書には書いていなくても、判例などによると、いわゆる信義則を根拠に競業避止義務が認められることもあります。このようにフランチャイズ契約のような、営業ノウハウをロイヤルティというかたちで提供していく一種の権利ビジネスにおいては、ある程度は競業避止義務が及ぶことは明白です。


店名やメニューを変えてもだめか?

ところで、たこ焼き屋の店名を変えるのはもちろんのこと、メニューも刷新した場合、それでも開業できないのでしょうか。よほど画期的なブランドであればともかく、たこ焼き屋さんは日本にも昔からある、ごく一般的な業態のような気もします。だからこういう場合は競業にあたらないのでは? と考えたくなります。

しかし単純に「店名やメニューをマネしてないから競業ではない」という理屈が通ってしまうと、フランチャイズは目に見えないノウハウは保護できないことになってしまいますし、また、商圏の顧客を確保するという点でも保護されなくなります。やはり、競業避止義務は店名とメニューを変えて開業するたこ焼き屋さんにも、及ぶといえそうです。

もちろん、競業避止義務といえども永久にすべての競業を禁止できるわけではありません。あくまでも営業秘密の保護や顧客の確保に合理的に必要な範囲に限られるべきであるので、①期間②業務範囲③地域の点でどこかに限界があるはずです。過度な制約は、今度は公序良俗違反として無効になる可能性があります。

契約のとき気を付けるべきこと

フランチャイザーが気を付けるべきことは、競業避止義務を契約書できちんと定めることはもちろん、念のため、禁止地域、禁止期間、禁止業務の範囲が分かるような記載が望ましいといえます。

具体的条文として、たとえば次のようにします。甲はフランチャイズ本部を、乙は加盟店を意味します。

第〇〇条(競業の禁止)
乙は、その名義や態様を問わず、本事業と同種又は類似の営業(以下「競業取引」という。)を行ってはならないし、第三者をして行わせてはならない。直接的、間接的又は実質的に乙の影響下や支配下にあるか意思決定に重要な影響力を有する者をして競業取引を行わせた場合も本条項に違反するものとみなす。
2 競業取引には、日本国内において、a,たこ焼きを製造、提供、店頭販売又は通信販売等した場合、b,本契約により乙に提供されたマニュアル、手順、メニュー、レシピ、ノウハウ、ライセンス等を用いて運営される店舗や取引をした場合を含むものとし、名称、呼称、通称、ネーミング等にかかわらず実質的にこれらの事業を行う場合を含むものとする。
3 乙が本契約の有効期間中はもちろん、本契約終了後2年以内において、本条の規程に違反した場合には、乙は当該違反行為を直ちに停止し、かつ、甲に対し違約金として〇〇〇円を支払う。ただし、当該違約金は甲から乙に対する損害賠償請求及び本契約に定められたその他の違約金の請求を妨げない。

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