・・・あなたがもしも後輩や同僚から「データ利用契約のひな形ってないですか?」と聞かれたら、どうこたえますか? そんなあなたのために理想的な回答例と、ひな形を提案します。
以下は、あなたと同僚との会話のイメージです。
おつかれさま!
今度は「データ利用契約書」をつくりたいんだって? そうか、良いセンスをしてるんだね。見なおしたよ。というのは僕も、データ利用契約はこれからますます注目すべきビジネス契約のひとつだと思ってたところなんだ。とはいえ、そもそも「データ利用契約ってなんなのか」について、認識の違いがあるといけないから、念のためそこを整理したうえで、一応ポイントを伝えておくね。
そもそもデータ利用契約には何が書いてある?
ここでいう「データ利用契約」とは、たとえばの話、自社に何らかのデータがあって、それを別の企業が利用したい場合に、データの取扱いについて確認するために結ぶ契約だよ。具体的な活用場面としては、自社の業務をAIで効率化したいときに、その業務に関連しそうな過去の大量のデータを集めて、それをベンダへ提供することで、より効率的にアプリケーションやソフトウェアを開発してもらう、みたいなイメージかな。AIの開発やファインチューニングにおける、学習用データのやりとりなどだね。
ようするに、あるまとまったデータがあって、それを有効利用できそうなとき、当事者間でそのデータの利用条件を定める必要が出てくる。何に使うのかや、その期間、範囲、有償かどうか・・・など、いろいろと条件をつけることになるから、それを定めるのがここでいうデータ利用契約ということだ。まあともかくはA社が持つデータを、B社に利用させるというシンプルなケースをイメージしてほしい。
さてデータの利用契約には、一般的に次のポイントがあると考えられるよ。
■データに所有権はない
A社の”持っている”データをB社が利用する、といってしまったんだけど、そもそもA社がデータを「持っている」という表現は正しいのかな? データは手に持って歩けるわけじゃないよね。データに形や重さはないから(無体物だから)、僕も便宜上「持っている」といってしまったものの、A社は法的にはデータについて自らの「所有権」を主張することはできない。無体物である以上、理論上は「所有」し得ないんだ(データを格納した媒体を所有することはできるけどね)。所有権がないってことは、原則的には「排他的支配権」もないはずだ。
■許諾か禁止か
じゃあA社は、なぜ「データ」をB社に「利用許諾」することができるんだろう? もちろん、いくら法的に所有権が無いといっても、現実にA社にあるデータがなんらかの利用価値を持っている以上、誰もが自由に使えてしまっては、A社も困るよね。よってこの場合は契約によって当事者間でルールを創ってしまうしかない。所有権はないけど、「契約」で当事者間のルールを決めることでB社にもデータにアクセスさせ、一定の範囲で利用させることは可能だ。このように、一定の範囲で利用させるということは、別の言い方をすれば、A社が望まない方法での利用を禁止することでもある。たとえばA社としては、データをB社が第三者へ提供したり、A社とは無関係のビジネスに転用したりすることは、通常は望まないだろう。よってそうした利用は「契約」によって禁じられるはずだ。だからこの契約は、一見するとデータの「利用許諾」に見えるけど、実際は「許諾」というより、むしろA社にとってメリットの無い利用やデメリットとなるような利用を「禁止」あるいは「制限」している契約なんだ。
■知的財産権などによる情報の保護
「所有権がない」としても、たとえば「著作権法」なんかで、情報に対する権利の保護が図られているんじゃないか? って思うよね。それはもちろんその通りだよ。「データ」のなかには著作物もあるかもしれないし、それについてはたしかに、著作権法上の権利義務が生じるはずだ。著作物に限らず、他にも「個人情報」があるかもしれないし、はたまたなんらかの「知的財産権の対象になる情報」があるかもしれない。事業活動に関するデータなら、「営業秘密」にだって該当するかもしれない。そう考えると、データはそれぞれの法律の規律によってすでに、B社が自由には利用できない状態に制限されている、ともいえる。じゃあ契約なんてしなくても大丈夫なのかな? と思わなくもないんだよね。
ところがそうもいかないんだな。データの一部に著作物など、何らかの法律に基づく保護の対象となる情報が含まれていたとしても、それだけでデータ全体を丸ごと、まとめて保護してもらえるわけではないからね。データの一部は著作物かもしれないし、個人情報かもしれないし、特許発明なのかもしれないけど、それだけでデータ全体が保護の対象になるわけではない。法的保護の対象といえるためには、それぞれの法律が定める(多くの場合かなり複雑な)要件にぴったりとあてはまらなければならないから、データ全体の利用をカバーすることは現実的でないと思う。やはり通常は、契約によって利用条件を定める必要がありそうだ。
■新たなデータの生成も視野に入れておく
もうだいたいこの契約の意味がわかったよね。あと、個人的に気を付けたいことをひとつ付け加えるとね、当初のデータの利用だけじゃなく、そのデータを利用する過程で新たなデータが生まれた場合のことも、視野に入れておく必要があるよ。もちろんケースバイケースにはなるけど、たとえばA社がB社にデータを提供することになったとしよう。B社は、A社のデータを利用して、別の新たなデータをつくることがある、というか、通常はデータはそのまま利用するよりも、利用の目的に合わせてなんらかの加工をされることが多いだろうね。さてB社はその「新しいデータ」を、契約後も自由に利用できるのだろうか? 典型的には、C社との取引に活用したり、自社の別の製品に活用して横展開にもっていったりとかね。A社としては、別にそれで構わない場合もあるだろうし、なんらかの交換条件が必要なこともあると思う。ここは具体的なシチュエーションによるところだから、実態に合わせて検討するしかないけど、視野に入れておく必要があると思うな。
こんなところかな?
また不明点がでてきたらその都度聞いて・・・
え? 「いいからひな形をくれ」だって?
・・・もちろん、今回も用意してあるよ。
Wordでもダウンロードできるようにしておくから、もし少しでも役に立ったら、そう言ってもらえたら嬉しいな。
じゃあ、作成頑張ってね!
Wordファイルダウンロードはこちら。
追伸
実例に基づく推奨ひな形を多数ご提供しています。ぜひこの機会にあわせてご覧ください。