のりたま将棋V交流戦 対真澤千星さん振り返り

少し遅れたが去る8月22日に指されたのりたま将棋V交流戦対真澤千星さんについて振り返っていきたいと思う。
のりたま将棋V交流戦というのはネット将棋クラブののりたま将棋クラブと今をときめく将棋系Vtuber達の団体戦で昨年から始まり今年は15vs15という大規模なネット団体戦だ。
これまでの戦績はのりたまの4勝3敗とのりたま側がまずまずだと思われるが負ければ指し分け、勝てば2つ勝ち越しとターニングポイントともいえる場面で自分の番が来てしまった。
お相手はタイトルにもある通り真澤千星さん、天下のV名人で角交換振り飛車を得意とされ中終盤が鋭い棋風の持ち主だ。
手合いが決まった時点では真澤千星さんのことは正直あまり知らなかったが調べていくととてもお強い方だと知ってなんで入って1カ月ちょっとの自分が採用されたんだとも思ったが勝算があるからこそのりたま席主は自分を選んでくれたんだと思いなおし対策を練ることとした。

戦型はこちらが居飛車なら対抗系になるんかなと思った。対振り飛車全般に言える事だが居飛車側は経験値が少ない。振り飛車側はほぼ毎局指しているのに対し、居飛車側はある特定の振り飛車相手となると指す機会は割合的に結構限られているのだ。
そこでtwitterで角交換振り飛車を指してくれる方を募集しそこで経験を積むこととした。詳しい内容は省くが結果は0勝2敗と散々だった。
指した後このままじゃ負ける、作戦どうするかと考えているとくりそらさんから連絡があり以前くりそらさんが真澤さんと指した棋譜をもらえることになった。そこでは下図のような対策でくりそらさんが快勝していた。

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あまり見かけない陣形だが玉頭位取りと現代のバランス感覚を組み合わせたものととらえるとわかりやすい。
方針もわかりやすくここから29飛~89飛~85歩ように無条件で進めれば必勝形だ。そうでなくとも相手が3筋4筋を攻めてきたところでカウンターのようにもできる。
プロの前例や棋書もありこれらが挙げられる。

棋譜は少し形は違うが本筋は同じだろう。作戦が決まっていなかったこともありこの作戦を研究することにした。
増田先生の本はくりそらさんから勧められ買うか迷ったが下の北島先生の本を買うこととした。

こちらは66銀型が主だが対角交換振り飛車のエッセンスを学びたいと思い購入した。

まず研究の第一段階としてくりそら-真澤戦を精査していると嫌な局面が見つかった。それが下図だ。

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図は先手が76銀と指したところで実践は84歩からお互い組み合う展開になったがここで35歩があるんじゃないかなと思った。
同歩なら46歩同歩同飛と進むとすると

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ソフトはここから47金66飛67銀65歩のような手順を示した。

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もちろんここに至るまで変化する手順はいくらでもあるが居飛車側が受ける展開になりやすく嫌だなと思った。
ただこの手順は振り飛車からも選びづらいのではないかとも思った。
なぜなら戻って35歩同歩46歩の局面で34歩や24歩が気になるからだ。
しかし34歩に同銀なら居飛車から手が難しくそこで24歩だと36歩打がクリーンヒットする。
24歩も47歩成同銀36歩が厳しい。
なので嫌だったが持ち時間が早2なら分かりにくい攻めを見送り組み合って勝負にしたいだろうと思った。
しかしキズはキズなので別の作戦も用意することにした。それが下図だ。

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真澤さんは74歩(居飛車が先手の場合36歩)と居飛車が突かないと7筋(居飛車が先手の場合3筋)の位を早めに取る立石流チックな戦法をやってこられることが多かった。
先程の作戦を変化球とするなら相手の土俵で戦う作戦がこちらだ。
これもまた玉頭位取りだが先程と違いこれは囲って陣形の差で勝つといった趣旨のものだ。
ここから先手は78金~66飛~76飛と石田流に組み替えて左辺での捌きを狙ってくるだろうが先程述べたように居飛車としては組みあがるまで辛抱し、手数をかけた囲いを武器に強く戦っていくような展開になると思われる。

このどちらかにするか迷った。指す当日になって再現性の高い前者の作戦を採用することに決めた。作戦が決まれば後は作戦が嵌るかどうかだ。
もしノーマル四間を指されていたらいつも通りミレニアムを指していたと思う。
袖飛車も得意にされている事はこれを書いている最中に知った。


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私の先手で戦型は予想通り真澤さんの角交換振り飛車になった。途中76銀と指したときはドキドキしたがやはり見送り組み合う展開となった。
局面は75歩83銀と後手が一歩交換したところだ。
ここでくりそら-真澤戦では56歩だったが29飛と変えた。
早めに飛車を引いておけば玉頭攻めがしやすくわかりやすいかなというのが事前研究だった。
しかしここでは事前研究が大嵌りし気持ちがふわふわしていた。
いつもであればここまでで累計7分程度考えているのにノータイムで指していたせいで3分半程度しか使っていない。
時間を使わないと局面把握が出来ずいつも通り指せないのは分かっていたが緊張で早く読みという水の入ったバケツから顔を上げたいと思ってしまっていた。

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それが如実に表れたのが35歩と突かれたこの局面だ。
研究では24歩同歩85歩36歩84歩同銀34歩で少し先手がいいとわかっていたのだが本譜で指した89飛の方がいいんじゃないかと思ってしまった。
これは明らかに研究不足で自分の読みを信用していないから手を変えてしまったために起きた失敗だ。自分の読みを信用できなければ将棋は指せない、それをわかっていなかった。

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少し進んで後手が73金と寄ったところだ。
85歩を本線に考え73金は読みにない手で焦った。
直観では73金は疑問手だと感じなにか優勢になる順はないかなと考えた。
しかし考えても見つからず84歩同銀56角と打った。
56角は悪手でソフトは74歩83金(取れば56角が飛車金両取り)65歩と進めて互角だという。
優勢にする順があると思っていた当時の自分では見えにくいと思う。
ただでさえ51角32角95歩のようないろいろな手が見えるこの局面では正着を選ぶのは難しい。

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少し進んで先手が95歩と指したところだ。この局面では同歩とされると困っていた。
先手は74歩83金ぐらいしかないがその次がない。
むしろ74歩と突くと75から何か打たれるキズになってしまう。
本譜は44桂打だったので危機を免れたがそれでもまだ互角といったところだ。
ここから94歩56桂93歩成同香同香成同桂56歩と進んで下図となる。

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ここで8筋9筋からなにか手があると思ったが実践の88歩打は見えてなかった。
同飛としたがこれは疑問手であまりよくなかった。正解は59飛で意外と後手からその後の手が難しい。また99飛98歩打の交換をしてから59飛でもいい。
9筋に歩が効かなくなると94歩打の威力が向上する。

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少し進んで後手が94香打としたところだ。
ここで手が全く見えなくなってしまってだいぶ焦っていたと思う。
次に無条件に97歩成とやられると先手敗勢になってしまうのでなにか手をひねり出さなければいけないが見つけられなかった。
実践は84歩とし、97歩成83銀打で取ってくれればいいが冷静に71玉とされその後幾分もなく負けてしまった。
正着は74歩で同金は86桂打、83金なら84歩が厳しい。
63金も84歩が厳しく先手優勢の終盤戦が続いていただろう。


本局は序盤は研究嵌り、多少有利に進められたが中終盤の腕力はさすがだった。
特に8筋9筋の攻防では指してて読み負けていると思う場面が多々あった。
自分が書いている時点では6勝5敗とのりたまが勝ち越している。
自分が勝っていれば...と思うが結果は変わらないのでここからは応援側に回って対局者にエールを送りたいと思う。

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