公益社団法人 日本青年会議所 2019年度 会頭所信

公益社団法人 日本青年会議所 2019年度 会頭所信
鎌 田 長 明

0、はじめに
「より良くなりたい」それが私の最初の願いです。人生に過ちはつきもので、常に正しいことなどありはしません。しかし、どんなどん底にあっても、どんな高みにあっても、より良くなりたいと私は願っています。そして、どうか私に関わる全ての人々が幸せであって欲しいと祈っています。
未来のことは誰もわかりません。しかし、未来が誰の手に委ねられているかは明確です。私たちの未来を明るく豊かにできるのは、私たち自身だけなのです。たとえ、一人ではできなくても、同じ志をもつ仲間がたった数人集まるだけで、未来はきっと変えられます。さあ、青年よ、たとえ今は苦しくとも自ら変化の起点となり、心躍る素晴らしい未来を共に作ろうではありませんか。

1、平成時代の終わりと新しい時代の始まり
一つの時代が終わります。この約30年間日本は平和で治安が良く、GDPの総額は大きく、多くの人は社会的に自立し、健康で長寿でした。しかし、一人当たりGDPは先進国の中では高くなく、所得の格差は拡大し、相対的な貧困率は増加し、社会の公正さは向上していません。また、生活の満足度は上がらず、国民の社会参加は少なく、自殺率は高く、社会的なつながりが失われています。さらに、アジア地域の発展と日本経済の停滞により、日本の国家としての存在感は相対的に小さくなっています。そして、20代から40代の収入の減少により、消費と子供を生み出す力も弱まっています。その上、日本の社会基盤には老朽化による限界が来つつあります。このような状況下において、少子化による人口減少と、超高齢化による社会保障費の増加は、日本に国難をもたらします。そう遠くない未来に日本が先進国と言えなくなる日が来るかもしれません。私たち青年は現実から目をそらすことなく、圧倒的な危機感を持って、今、行動しなければならないのです。
一方で、時代は大きく変化をし始めています。一つめに、サステナビリティやボランタリー経済といった道徳的な価値を重んじる考え方が社会の中で大きな地位を占め始めています。二つめに、ITを媒介として新たな信用創造が起こり、共有経済が生まれ始めています。三つめに、高度情報化と人工知能の台頭により、従来評価されてきた能力や仕事や無形資産が価値を持たなくなりつつあります。一方で、人間的な能力の必要性が高まり、文化や芸術などの価値が上がり、新たな価値が生まれ始めています。四つめに、国籍や地域や性別や年齢などによる垣根が低くなり、社会の多様性が拡大しています。五つめに、人工知能や遺伝子工学などの新技術は、生活をより豊かで好ましいものにする一方で、社会に深刻な事態をもたらす可能性があります。充実した社会資本を活かし、このような変化を上手く捉えて社会をより良くできれば、日本の未来は必ず明るくなるはずです。そのとき、青年は誰よりも率先して変化を捉えて行動しなければなりません。
歴史を振り返れば、明治維新からの大躍進期でも、昭和の占領期からの高度経済成長期でも、危機感を持って変化を捉えて時代を動かしてきたのはいつも青年でした。しかし、発展は青年だけの力で成し遂げられたわけではありません。山縣有朋や吉田茂といった、青年を抜擢し活躍の場を与えた偉大なシニア層の力と、坂本龍馬や白洲次郎といった、青年をつなぎ社会の壁を越える人材の存在が必要でした。では、そのシニア層と青年はどのようにして結びついたのでしょうか。社会の壁を越える人材はどこから生まれるのでしょうか。社会のつながりが弱まった現代において、強い縦の関係と横の結束がある組織はなくなりつつあります。しかし、まだ日本には青年会議所があります。国難が目の前に迫った今こそ、日本の青年会議所は社会を動かす青年を生み出す存在とならなければなりません。

2、全員が挑戦し、誰一人取り残さない日本社会を築く
一部の人や集団が社会をリードするだけでは、20年後も日本が明るく豊かで世界に誇れる国となることは難しいでしょう。しかし、日本にはいまだ多くの社会的資本があり、何より多くの人材が存在します。全ての人材が成長して活躍の場を持つようになり、豊かな社会的資本を生かすことができれば、日本の未来は輝かしいものとなるはずです。
高齢化社会の最大の問題は、年齢を理由に個人の成長が止まることで組織の成長が止まり、社会の成長が止まることです。自らの置かれた現状を変えず同じことを繰り返すだけでは、成長はありません。成長を止めないためには挑戦し続けることが不可欠です。性別や年齢や置かれた条件を問わず、日本中のあらゆる個人と組織が挑戦し続ける、そんな日本社会を築こうではありませんか。
一方で、個人の置かれる条件は良いものばかりとは限らず、挑戦には成功と失敗が伴います。しかし、条件の悪い人や失敗した人を社会から取り残すならば、挑戦する人はいなくなり社会は暗いものとなります。誰一人取り残さない社会を築くこと、それは私たち全員の責務です。
全員が挑戦し、誰一人取り残さない日本社会を築くために、青年会議所及び青年会議所のメンバー、つまり私たちは更に一歩先を行かなければなりません。私たちは社会の問題を解決するだけでなく、社会に価値を創造し、時にはこれが価値だと決める、つまり価値そのものをデザインするリーダーとなるのです。そして、社会に持続的なインパクトを与え、青年に新しい時代に必要とされる能力を与える機動的組織へと青年会議所は進化しなければなりません。

3、社会、経済、人材を開発し、組織を進化させる
上記のビジョンを達成するために、日本青年会議所は社会の改善、経済の充実、人材の育成に取り組み、組織を進化させます。
社会の改善の指標としては、SDGsに注目します。日本社会と日本に関わる国々の社会の改善のために、SDGsの17の項目について私たち自身の目標を定めて推進を行います。また、持続可能な社会を作るため、地域特性に合った持続可能な社会福祉の確立並びに社会基盤の形成を目指します。さらに、周辺地域の平和維持に貢献し、災害の激甚化への備えを充実させ、地域の発展の障害を取り除き、社会から取り残される若者を救う必要があります。
経済の充実の指標としては、企業の競争力と持続性の向上と、GDPの中でも特に民間消費、民間投資、輸出の向上に注目します。人口減少の中で1人あたりGDPの高い国を目指し、サービスや財の供給側の国際競争力と持続的な成長力を上げるとともに、需要側の質と量を上げ、好循環を生む環境を作る必要があります。
人材の育成の指標としては、人材の数、広がり、質に注目します。まずは、少子化を克服し各地域のあるべき人口像の実現を目指します。また、社会の分断を避けつつ多様性を拡大するとともに、国際競争力のある人材を増やし、社会を先導する傑出した人材を生み出す必要があります。
組織の進化の指標としては、地域の青年会議所の数、メンバー数、メンバーの能力、ネットワーク、社会の中での発言力、内部統制に注目します。青年により多くの発展・成長の機会を提供し、若き能動的市民のグローバルネットワークとなるべく、青年会議所をより質が高く、広いつながりを持ち、機動的に行動できる組織へと進化させる必要があります。

4、5つの戦略
上記の目標を達成し、社会を変革するために、日本青年会議所はこれまでに積み上げてきた実績とつながりという強みを生かし、知名度や継続性といった弱みを克服する5つの戦略を実行します。
第1の戦略は、力ある青年を増やすことです。全員が挑戦する社会で最も積極的に挑戦して成長を遂げ、社会を動かす力を持つのは青年であるべきです。日本青年会議所は、青年を動機付け、より多くの仲間を作り、機動的に決定する会議を通して挑戦をする機会を作り出すことで青年を成長させ、力ある青年を増やします。
第2の戦略は、パートナーシップを築くことです。青年会議所の力だけでは、社会を変えることは容易ではありません。社会の中で影響力を持つ組織との連携なしには、社会に長期的な変革を起こすことはできないのです。日本青年会議所は長期的目的を共有できる個人や団体と対話を進めて信頼関係を醸成し、時に共に行動することで、パートナーシップを築いていきます。
第3の戦略は、社会実験を行うことです。誰もやったことがないことに人は恐れを感じるものです。場所と範囲を限って政策を実施する社会実験は、政策に実績という根拠を与え、社会運動を起こします。一方で、私たちだけで社会実験を実施しても、その影響力は限られたものにしかなりません。日本青年会議所は、社会実験をパートナーと共に企画し、共に資金を集め、共に発信し、共に実施します。
第4の戦略は、未来に向けた投資を行うことです。行動には資金が必要であり、自己資金がなければ行動は限られたものとなりますし、手元資金を消費するだけでは長期的な発展は望めません。日本青年会議所は、継続的に資金を集める仕組みを作り、長期的資産となる情報基盤や有形・無形の資産に投資します。そして、メンバーの拡大と人材の開発に投資し、組織の発信力を高めていきます。
第5の戦略は、政治を動かすことです。社会制度の変革において重要なのは、政治の力であります。しかし、政治は政治家の力だけで動くものではありません。行政、外郭団体、各種団体、企業そして市民など、様々な利害関係者の思惑のもとに政治は動いています。日本青年会議所は、同じ志を持つ集団の声を集め、政治家だけでなく利害関係者に対して横串で訴えかけ、政治が動くきっかけを作ります。

5、社会を改善する
日本青年会議所は綱領で明るい豊かな社会を築き上げることを宣言していますが、どうなればより良いかは明確ではありません。社会課題を数字で表せば未来は見える形になり、目指すものを多くの人と共有することができます。既に世界にはSDGsという明確な17の目標が示されています。日本青年会議所は全ての政策の展開にあたってこのSDGsと関連した目標を定め、多くのパートナーと共有し、各地の青年会議所とともに自らその目標を進ませる主体となります。国際協力だけでなく、自社や社会を良くするためのSDGsの目標に対して地域の企業ができることを進めていく運動を作る必要があります。そして、力あるパートナーとともに、世界中でSDGsの推進に向けて活動する私たちの仲間とのつながりを強め、ベストプラクティスを共有する機会を作ります。
国と地方の財政を圧迫しているのは、社会基盤への投資でも公務員の人件費でもなく、歳出の約4割を占める社会保障費です。しかし、社会保障を支える財政の先行きの不透明さは、一時的な景気の改善で解決できる問題ではなくなっています。少子高齢化の中で誰一人取り残さない社会保障制度と持続的な財政を実現するためには、私たち一人ひとりが社会保障制度について考え、自ら選択していかなければなりません。それは同時に自分たちの生活する地域の未来についての選択でもあります。20年後も生きている私たちだからこそ課題から目をそらさず、社会保障制度と地域のあり方についての国民的な議論を推進していきます。また、地域の改善が進まない大きな理由に土地が何もされないままに放置されることが挙げられます。日本青年会議所は、各地域の持続可能なまちの未来ビジョンに基づき、全国の声を集めて有効に土地が使われるために必要な土地制度改革の議論を起こします。
自然、人為に関わらず災害は日本のどこでも起こりうることですが、全ての災害を防ぐことは技術面からも費用面からも容易ではありません。しかし、災害が起きた時に取り残される被災者を一人も出さない社会を作ることはできるはずです。防災4.0が叫ばれる時代に、災害の初動対応、物資の供給、復興支援、日常の啓発など、青年会議所だからこそできる防災体制を全国で確立することは、地域に対する最高の貢献となります。一方で、高度経済成長期に形成された日本の社会基盤は老朽化の時期を迎え、その維持には多大な費用がかかります。さらに時代の変化により、過去に企画された社会基盤整備計画は今後の日本社会にふさわしいものとは言えなくなっています。私たちは、地域の特性と発展の歴史を見つめ直し、私たちがまだ生きている可能性も高い40年後にどのような社会基盤が必要なのかを、より広いエリアで自由な発想で考え、地域に新しい光を見出していくべきです。
社会から取り残される人をなくすためには、格差の是正よりも、貧困による機会の不平等の解消と貧困の再生産の防止に力を注ぐ必要があります。発言権の弱い子供たちを貧困や虐待から守りその可能性を引き出さなければなりません。外国人労働者についても、その存在を無視し地域から疎外してしまうと、いずれ社会が分断され、社会の不安定化の要因となります。また、心や体の問題で職場から脱落し社会から取り残される若者が生まれることを防がなければなりません。青年会議所は地域社会をつなぎ、地域から取り残される人材を活かすためのハブとなれるはずです。社会的包摂を目指して、青年会議所が地域で活躍する組織とパートナーシップを組み、貧困や国籍や心身の問題で若者が社会から分断されない仕組みを作る必要があります。
日本国憲法は、民主主義や資本主義、基本的人権などの社会の原則を基礎として作られていますが、その前提となる社会の状況は制定時と大きく変化しています。日本青年会議所は、歴史の大局と社会のあり方を学び、日本国民が憲法を通して国家にどのような社会の実現を求めるべきなのかという未来を見据えた議論を進めていきます。そして、G20の日本開催を機に、各国の若きリーダーと共に未来の資本主義や民主主義についての議論を深めていくことができれば、その広がりはさらに大きくなるでしょう。
社会の安定の基盤は平和ですが、歴史を見れば平和は不断の努力無くしては維持できないことがわかります。恒久的世界平和を目指すJCIに加盟する国家青年会議所の一つとして、青年会議所の政策や事業が恒久的世界平和につながっていることを示していかなければなりません。一方で、周辺諸国との領土問題は古い問題ではなく、対話を進め関係性を強める中で解決の糸口を見つけ出していくべきものです。特に、日本の周辺諸国の状況が変化する中で、いまだ平和条約すら成されていないロシアとの関係は重要度を増しています。日本青年会議所は20年以上に渡り続けられてきた両国の未来を担う青年の交流の機会をさらに広げ、特に極東地域の平和と繁栄の未来像をカウンターパートと共に描いていきます。

6、経済を充実させる
日本の一人当たりGDPを増やしていくためには、明らかな必要性に応えるだけでなく、潜在的な必要性や欲求を捉えるデザイン思考によって、価値そのものをデザインすることのできる社会を目指す必要があります。そのためには、日本各地でこれまでの常識を捨てて、平均を求めることを止め、異能を集めて挑戦する取り組みを増やすことが必要です。日本青年会議所は新たな事業を創造するためのプラットフォームをさらに拡大し、規制のサンドボックス制度や企業向け助成金や海外進出支援などの政策を利用し、地域を巻き込み挑戦を行う仕組みを作り、広く発信していきます。また、理念を継承し、新技術の導入やブランドの革新を行い続けるファミリービジネスに学び、企業がより持続的に成長し続ける仕組みを作り、企業のライフサイクルに合わせて必要な経営人材を育成していく必要があります。
多くの中小企業にとっては、地域経済の縮小は自社の市場の縮小につながっています。人口減少により地域経済の縮小が予想される中で、需要の変化や新技術や制度改革などの時流を捉え、地域特性を踏まえて地域でどのような産業を育成していくべきかを、地域の経営者自らが議論する必要があります。同時にそれは個人の働き方、生活の仕方の議論でもあります。日本青年会議所は、女性や高齢者や外国人労働者などにとってどのような働き方が必要なのかの議論を推進していきます。そして、各地域の経済団体や研究機関と連携し、地域経済のプレーヤーとして20年後を見据えた地域経済のビジョンを描き出し、推進を行なっていく仕組み作りを進めます。
SDGsの達成には、ビジネスを通した国を越えた企業の連携が必要です。青年会議所のネットワークを用いて各国においてSDGsを軸にした企業のマッチングを行います。そして、これまで日本青年会議所として推進してきたSMILE by WATER事業を、世界各国の青年会議所や水や衛生に関連する企業と連携した持続可能な事業創造のプラットフォームへと変えて行きます。
人口減少による縮小が予想される国内市場に対し、日本にとって今後拡大が期待できる市場となるのは中国です。しかし、日本と中国の人と人とのつながりはいまだ限定的です。そして、今急激に発展する中国から学ぶことには大きなビジネスの機会があります。未来を築く青年として、特に人材育成やSDGsの達成など互恵的な面を通じて、日本と中国との人的なつながりを強固なものとしていくことは、国際経済との連携を強めるだけでなく、アジア地域の平和と安定にも貢献することになります。
日本はガラパゴス市場と揶揄されることがありますが、国内にグローバル市場から隔絶した市場を形成できるだけの消費量がある国は限られています。供給側を育てるだけでなく、別の地域にない消費者を育てて行くことも重要です。歴史や文化を踏まえて社会のために行動する消費者コミュニティが存在し、独自の価値を評価する土壌があれば、新たな価値が生まれやすくなります。まずは、青年会議所メンバー自身がよき消費者となって、地域の消費者コミュニティの核となる必要があります。

7、人材を育成する
人口減少が日本の成長を阻む原因となることは否定できません。また、国防も防災も介護も社会基盤の維持や文化の維持も全て人がいてこそできることです。日本人の絶滅を防ぐためには合計特殊出生率2.07の回復は必須であり、少子化対策は国家の成長戦略の最たるものです。子供が生まれることは社会全体の利益なのですから、子供を持つことが個人をより幸せにする社会に変えていかなければなりません。同時に、人口減少社会の中で地域ごとに実態に即したあるべき人口像を描く議論を進める必要があります。私たちは、18歳から投票権を持つ統一地方選挙及び参議院選挙にあたり、若年層の政治参加を促し、多子社会を実現する議論を進めて行く必要があります。
時代の変化を捉えて社会を変えるのに最も必要なのは、それを実現できる人材です。しかし、現在の高等教育は新しい時代に必要な能力、特に職業的能力、対人的能力、組織的能力を十分に育めていません。また、既に教育を終えた年代も時代の変化に対応した教育を再度受ける必要が出てきています。青年会議所は、地域の高等教育機関とパートナーシップを築き、地域の若者に新しい時代に必要な能力を身につける場を作るとともに、自らの学びを得る場を作ります。
社会の多様性が増す中で、歴史、身体的条件、価値観、経済社会状況などの多様な背景を有する他者と共に学ぶことによって、その多様性を理解し敬意を育むダイバーシティ教育が必要とされています。青年会議所の国際的なネットワークや新しい技術を用いて、ダイバーシティを育む実践的な教育の場を作り上げます。また、多様性を理解し、お互いへの敬意を育むには、スポーツの場は最適と言えます。日本青年会議所は日本で開催される2019年のラグビーワールドカップや、2020年のオリンピック・パラリンピックを好機として、共生社会づくりを推し進め、グッドルーザーの精神を広めます。
新技術や新しい社会運動を生むには時として天才や異能が必要です。しかし、今の日本社会は若き天才や異能を素直に「すごい」と認めることが十分にできていません。青年会議所が、若者の感性で「すごい」と認められる傑出した若き人材を発掘し、青年会議所のネットワークに乗せて活躍の場を作ることができれば、天才や異能が日本のみならず世界をより良く変えていくきっかけを作ることになるでしょう。従来目を向けられていなかった分野の人材にも目を向けていく必要があります。
異能を持つ若者が単なる我欲や社会的に認められない目的を持つのであれば、価値あるものは生まれません。また、ストレスのない日常の繰り返しだけの教育では、異能を持つ若者を傑出した人材へと育てることはできません。若者が社会と目的を共有し、その異能を示すことができる若者の日常を超えた場所を作ることは、若者の可能性を引き出します。青年会議所の持つ国連との強固なつながりによって実現した、若者を「国連大使」として送り出す取り組みは、異能を持つ若者を傑出した若き人材へと育成する場となるはずです。

8、国際的な組織を拡大し、メンバーを開発する
青年に発展・成長の機会を与えることを使命とする青年会議所にとって、青年会議所のメンバーを増やすことは、その使命を達成するための最もよい方法です。限られた環境の中で成長が止まっている若者は、青年会議所のメンバーとなることで、素晴らしい仲間と成長の機会を得ることができます。拡大の活動は組織と社会の最大の接点でもあり、組織をより良く変えるきっかけにもなります。どのような組織も社会の変化についていけなければ消滅する定めにあります。女性の社会での活躍が広まる中で、青年会議所が女性に十分な成長の場を提供できていないことは明らかに問題です。日本全体だけでなく他国の青年会議所から学び、青年会議所の法人格の見直しのみならず新しい青年会議所組織のあり方を議論し、組織を拡大していくべきです。
日本青年会議所は世界最大の国家青年会議所ですが、JCIの中での存在感はその貢献に比べて小さいものとなっています。一方で、JCIの持つネットワークや知識や手法の中で、日本の青年会議所が活用できるものも数多くあります。数ある青年団体の中でもこれほど国際的に強いつながりを持つ団体は他になく、その強みを最大限に生かしてメンバーに発展・成長の機会を提供していかなければなりません。
各地の青年会議所はメンバーの成長の場として最適ですが、そこで活動するだけでは得られない体験や知識もあります。特に、別の地域の若きリーダーと出会い、同じ体験をする機会はかけがえのないものです。日本の青年会議所には、世界約80カ国や47都道府県から若きリーダーが集まり、共に学ぶことのできる機会があります。日本青年会議所は、国際アカデミー、日本アカデミー、そして各ブロックで行われるアカデミー事業に一本の軸を定め、各アカデミーにおいてそこでしか得られない体験があり、最低限身につけられることがあるアカデミーを開催します。また、青年会議所の学びの基本は教え合いにあります。これまでに生み出された個人の能力開発のプログラムを発展させ、叡智を結集して新しいプログラムを作り、教え合いの運動を広げるべきです。
青年会議所の起こしたいくつかの社会運動や事業は、これまで確実に地域を変えてきました。どうすればこのような素晴らしい社会運動や事業を生み出すことができるのでしょうか。そのための方法論やベストプラクティスは数多く存在しますが、いまだ十分に浸透しているとは言えません。日本青年会議所はプログラムやメンバーの憧れとなる褒賞事業を通して、より良い事業構築の方法論を伝えていきます。さらに、傑出したメンバーや地域の青年会議所をロールモデルとして発信することで、青年会議所のブランドを高めて行きます。

9、組織を進化させる
若き能動的市民が最も頻繁に目にする報道機関は何でしょうか。日本青年会議所がもし青年の社会活動を専門的に取り上げる代表的な報道機関となることができれば、それは青年会議所の運動の発信になるだけでなく、日本全体の社会活動を促進することになります。全国的なネットワークを用いて広くコンテンツを集め、単なる広報を脱した自律的な報道機関を作ります。
クラウドファンディングはもはや社会実験を実施する上で不可欠になりましたが、日本青年会議所は単にお金を集めるだけでなく、社会に貢献したいという思いを持つ人々との長期的な信頼関係を構築するべきです。企画段階からの参加や正確な報告など、既存のクラウドファンディングと差別化された仕組みが必要です。
私たちの活動に関わる資金はメンバー一人ひとりから出た会費と私たちの運動に賛同する多くの方々の思いから成り立っています。この資金を有効に使うことはもちろんですが、資金が有効に使われているかを積極的に知らしめて行くことも重要です。また、用途を特定化することで、より大きなインパクトを出すことができるのであれば積極的に取り組むべきです。
公益法人である日本青年会議所にとって、公益性とコンプライアンスの確保はその存続にとって不可欠です。しかし、個人の暴走を防ぐことは容易ではありません。公益法人に出向するメンバーとして一人ひとりのコンプライアンス意識を向上すると同時に、組織的なコンプライアンスの確認体制を整備し、組織のガバナンスを強化していきます。
青年会議所のベストプラクティスの一つは議案と会議にあります。しかし、時として精緻で冗長すぎる仕組みが、効果的な事業実施を阻害し、外部の信用を失うことにつながることもあります。会議は議論のうえで計画を決定し、報告を承認する場であって、議案を改善する場ではありません。1年限りの機動部隊としてOODAループを実現できるよう、適切な権限委譲を行い、実施体制を築き、これを補完する財政・コンプライアンスの確認体制を築いていきます。

10、社会の各分野をつなぐ
少子高齢化によって日本の各地域が今後急激に変わっていくことが予想される中で、希望を持って未来を描く青年会議所の政策や事業は各地域をリードする可能性があります。しかし、青年会議所とパートナーとなり得る行政や団体や個人とのつながりが強い地域と、そうでない地域があります。日本青年会議所の各委員会等や各協議会は、行政をはじめとした社会の各分野とのつながりを強め、地域の青年会議所だけでは築くことのできないネットワークを築き、地域の青年会議所とつなげていきます。さらに、各協議会においては、日本青年会議所の運動を推進するとともに、一つの青年会議所も取り残すことがないように地域の青年会議所を支援し、各地域の問題に取り組む必要があります。
また、日本青年会議所はその定款第55条において「本会は、会員会議所の意見を総合調整し、かつ、地域においてその目的達成のために地区協議会およびブロック協議会を設置する」としています。各協議会は本来の目的を見失うことのないように組織を進化させ続ける必要があります。

11、何を残していくのか
社会にインパクトを与える上で持続的な事業を作ることは重要ですが、日本青年会議所自体が同じ事業を実施し続けることは新たな挑戦を阻害してしまいます。日本青年会議所は1年という限られた時間の中で、可能な限り素早く各地の青年会議所に政策を周知して賛同を集め、パートナーシップを築いて社会実験を実施し、そこから得られた実績や知見を行政やパートナーや各地の青年会議所が実施できる形にして渡すことで、インパクトの持続性と単年度制を両立していかなければなりません。そして、次年度以降に1年間の活動で作り上げた実績とネットワークと人材を引き渡していくことで、新たな挑戦により大きな力を与えていくのです。

12、終わりに
私は、全員が挑戦し誰も取り残さない社会は必ず実現可能だということを、強く信じています。70年前に日本で青年会議所運動が始まった時に比べ、私たちははるかに良い条件のもとに置かれています。私たちは歴史ある日本の青年会議所運動の偉大な「巨人の肩」の上に乗っているのです。青年が時代の変化を捉え、能動的に価値を創造するために行動するとき、社会は必ず動き出します。私たちはいつまでも青年のままでいることはできませんが、私たち自身が何歳になっても挑戦できる社会の実現は可能です。いまこそ、私たち青年は信念を持ち、国境を越えてつながり、自由な発想で経済活動を行い、社会的公正を重視し、多様性を活かし、社会に貢献しようではありませんか。私たちが共に行動することこそが、日本をもっと偉大な国へと変え、私たち一人ひとりが幸せになるために重要なことなのです。

危機感を持とう
心地の良い場所から共に飛び出そう
そして、変化を起こそう

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