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植物の色のヒミツ:奈良先端科学技術大学院大学 オープンキャンパス2020から学んだこと その02

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2020年11月15日、私は奈良先端科学技術大学院大学を訪れ、一般客としてオープンキャンパス2020に参加した([1])。

バイオサイエンス領域 植物二次代謝研究室(以下同研究室,[2],[3])は研究テーマとして、植物代謝における多様性の理解と機能ゲノミクス、種間比較と新機能分化ゲノム領域の解析、ならびに、栄養欠乏生育下における代謝変動の解析を取り扱っている。

同研究室は以下の研究成果を発表した。

2021年06月16日、同研究室ら共同研究チームは、シロイヌナズナにおいてアブシシン酸輸送体として機能することが報告されていたNPF4.6タンパク質が、葉の孔辺細胞でアブシシン酸の取り込みを行うことにより、気孔の閉鎖を促進することを突き止めた。さらに、NPF5.1と呼ばれる別のタンパク質がアブシシン酸輸送体として機能することも明らかにした([4],[5])。

タンパク質複合体「染色体パッセンジャー複合体(chromosomal passenger complex:CPC)」は異なる機能を持つタンパク質が連係して構成され、触媒である「オーロラキナーゼ」を足場の役目をするタンパク質群が適切な場所に運ぶことで機能するが、2022年10月13日、同研究室ら共同研究チームはシロイヌナズナを使って、この足場タンパク質群に含まれる「BORI1」と「BORI2」というタンパク質を発見した。BORI1とBORI2は、共通する領域としてFHAドメインと呼ばれるアミノ酸の配列を持っており、このドメインが染色体のリン酸化されたヒストンタンパク質を認識し結合することで、CPCを正しく、キネトコア(動原体)という部位に局在させることが分かった。

一方、動物と酵母ではサバイビンというタンパク質が、BIRというドメインを介してCPCをキネトコアに局在させることが知られていた。そこで、BORIとサバイビンのアミノ酸配列を詳しく比較し解析したところ、これらのタンパク質には共通するごく短い配列が保存されており、進化の初期段階に登場した生物はこの短い配列のみを持っていたことが分かった。このことから、進化の過程でFHAとBIRという異なるヒストンのリン酸化認識ドメインが付加されることで、現在の生物が持つ、同じ機能でありながら全く異なるドメインから構成される「BORI」と「サバイビン」という2種のタンパク質が誕生したことが明らかとなった([6],[7])。

「04.植物の色のヒミツ」で、同研究室は、植物の二次代謝物である色素を紹介した(図01,[8])。

図01.植物の色素。

植物の色素として、フラボノイド類(例.アントシアニン,図02,[9])、カロテノイド類(図03,[10])、ベタレイン類(図04,[11])、ポリフェノール類(図04,[12])、および、クロロフィル類(図05,[13])の抽出液、植物名、および、主要色素成分が展示・紹介された。

図02.アントシアニン類(フラボノイド化合物の一種)。
図03.カロテノイド類。 
図04.向かって左から、ベタレイン類とポリフェノール類。
図05.クロロフィル類。

また、「いろがなぜかわるのか?」(図06)で、アントシアニンはpHにより色調が変わることを、同研究室は伝えた(図07,[14])。

図06.「いろがなぜかわるのか?」。
図07. pHの変化によるアントシアニンの色調の変化。
バタフライ ピーとムラサキイモ由来アントシアニン抽出物が使用されている。
レモン果汁は酸性を、重曹水はアルカリ性を示す。

「04.植物の色のヒミツ」は私に、植物色素の美しさやその役割を伝えてくれた。

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参考文献

[1] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学.“オープンキャンパス2020 ホームページ”.https://www.naist.jp/collaboration/regional/open_campus/2020/index.html,(参照2023年02月16日).

[2] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域.“植物二次代謝(峠研究室)”.奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 トップページ.研究室・教員.研究室一覧.https://bsw3.naist.jp/courses/courses114.html,(参照2023年02月16日).

[3] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 植物二次代謝(峠研究室).“植物二次代謝(峠研究室) ホームページ”.https://bsw3.naist.jp/tohge/,(参照2023年02月16日).

[4] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域.“アブシシン酸の輸送を介した気孔開度の調節 -二つのアブシシン酸輸送体の異なる機能を解明-”.バイオサイエンス領域 トップページ.研究成果の紹介.研究成果の紹介(2021年).2021年06月18日.https://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=2319,(参照2023年02月18日).

[5] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学.“アブシシン酸の輸送を介した気孔開度の調節 -二つのアブシシン酸輸送体の異なる機能を解明-”.奈良先端科学技術大学院大学 トップページ.プレスリリース.2021年.2021年06月16日.http://www.naist.jp/pressrelease/2021/06/008012.html,(参照2023年02月18日).

[6] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域.“ストレス下でも植物の正常な細胞分裂を進める CPC複合体の局在機構を解明 染色体の特定部位に局在して機能 ~動植物間でタンパク質レベルの収束進化があった~”.バイオサイエンス領域 トップページ.研究成果の紹介.研究成果の紹介(2022年).2022年10月17日.https://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=2591,(参照2023年02月18日).

[7] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学.“ストレス下でも植物の正常な細胞分裂を進める CPC複合体の局在機構を解明 染色体の特定部位に局在して機能 ~動植物間でタンパク質レベルの収束進化があった~”.奈良先端科学技術大学院大学 トップページ.プレスリリース.2022年.2022年10月13日.http://www.naist.jp/pressrelease/2022/10/009342.html,(参照2023年02月18日).

[8] 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構).“色素の基礎知識”.農研機構 ホームページ.野菜花き研究部門.花色の基礎知識.https://www.naro.go.jp/laboratory/nivfs/kiso/color_shikiso/index.html,(参照2023年02月18日).

[9] 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構).“フラボノイド”.農研機構 ホームページ.野菜花き研究部門.花色の基礎知識.色素の基礎知識.https://www.naro.go.jp/laboratory/nivfs/kiso/color_shikiso/contents/flavonoid.html,(参照2023年02月18日).

[10] 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構).“カロテノイド”.農研機構 ホームページ.野菜花き研究部門.花色の基礎知識.色素の基礎知識.https://www.naro.go.jp/laboratory/nivfs/kiso/color_shikiso/contents/carotenoid.html,(参照2023年02月18日).

[11] 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構).“ベタレイン”.農研機構 ホームページ.野菜花き研究部門.花色の基礎知識.色素の基礎知識.https://www.naro.go.jp/laboratory/nivfs/kiso/color_shikiso/contents/betarein.html,(参照2023年02月18日).

[12] 公益財団法人 長寿科学振興財団.“ポリフェノールの種類と効果と摂取方法”.健康長寿ネット トップページ.健康長寿とは.食品・料理・食品成分.2022年07月04日.https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/shokuhin-seibun/polyphenol.html,(参照2023年02月18日).

[13] 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構).“クロロフィル”.農研機構 ホームページ.野菜花き研究部門.花色の基礎知識.色素の基礎知識.https://www.naro.go.jp/laboratory/nivfs/kiso/color_shikiso/contents/chlorophyl.html,(参照2023年02月18日).

[14] 株式会社 鹿光生物科学研究所.“天然色素―アントシアニン”.鹿光生物科学研究所 ホームページ.食品の色のいろいろ.2021年11月09日.https://www.rokkou-co.jp/wp/home/food_color_main/%e5%a4%a9%e7%84%b6%e6%a4%8d%e7%89%a9%e8%89%b2%e7%b4%a0%e3%83%bc%e3%82%a2%e3%83%b3%e3%83%88%e3%82%b7%e3%82%a2%e3%83%8b%e3%83%b3/,(参照2023年02月18日).

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