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意外と身近な寄生植物:奈良先端科学技術大学院大学 オープンキャンパス2020から学んだこと その01

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2020年11月15日、私は奈良先端科学技術大学院大学を訪れ、一般客としてオープンキャンパス2020に参加した([1])。

「01.意外と身近な寄生植物」で、バイオサイエンス領域 植物共生学研究室(以下同研究室,[2],[3])はコシオガマ(図01)とシロイヌナズナの根に寄生しているコシオガマの根(図02)を展示することで、ストライガとコシオガマに関する研究を紹介した([4])。

なお、コシオガマはモデル寄生植物として利用されている([5])。

図01.コシオガマ。
図02.向かって左から、コシオガマの根とシロイヌナズナの根、3倍。
コシオガマの根が吸器を使って、シロイヌナズナの根に寄生している。

同研究室は以下の研究成果を発表した。

2019年09月13日、同研究室ら国際共同研究グループは、1950年代に米国に侵入したストライガの系統からゲノムDNAを抽出し、全ゲノムシークエンス解析やトランスクリプトーム解析などを行った結果、タンパク質をコードする遺伝子34,577 個を同定した。また、適応進化の過程において、ストライガは全ゲノム2倍化を2回起こすことで寄生に必要な遺伝子を獲得したこと、および、ストリゴラトン受容体ファミリーが著しく増えたことでさまざまな宿主を獲得したことを突き止めた。さらに、ストライガゲノムに宿主から「遺伝子の水平伝播」が起きた証拠も発見した。本研究成果は、ストライガの進化および寄生メカニズムの理解、ストライガ撲滅に向けた除去剤開発などに貢献すると期待できるものである([6],[7])。  

2020年10月29日、同研究室ら研究チームはコシオガマを使って、吸器の伸長が止まらず、宿主に侵入できない変異体を単離した。また、ゲノム解析により、この現象(表現型)がエチレンのシグナル伝達に関わる遺伝子の異常に基づいて生じていることを突き止めた。つまり、寄生植物におけるエチレンのシグナル伝達に異常が生じると宿主の存在を認識できず、侵入することができないことが分かった。さらに、エチレンを作れない宿主植物に寄生植物を感染させると、寄生率が低下したことから、寄生植物は、宿主植物が生産するエチレンを認識して侵入していることが明らかとなった。これは、宿主の侵入に必要な遺伝子を初めて明らかにしたもので、病害寄生雑草の防除法の開発への応用が期待される([8],[9])。

2022年08月18日、同研究室ら国際共同研究グループは、コシオガマが宿主の根から放出される根圏情報物質であるストリゴラクトンに対して屈性を示すことを発見した。この屈性はストライガでも見られる一方で、非寄生植物では見られないことから、ハマウツボ科寄生植物に特有の戦略である可能性がある。

また、ストリゴラクトンへの屈性にはオーキシンの輸送が関与すること、屈性はアンモニウム イオンの存在下では抑制されることを発見し、さらにストリゴラクトンを認識して屈性を引き起こす受容体を同定した([10],[11])。

そして、同研究室はコシオガマ以外の寄生植物も紹介した([12])。

ホンオニクも寄生植物の一種で、その肉質茎が生薬である肉蓯蓉(ニクジュヨウ)になる(図03,[13])。

図03.肉蓯蓉。

余談だが、名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(Institute of Transformative Bio-Molecules:ITbM)は寄生植物ストライガの発芽を制御する分子SPL7を開発した。SPL7は、アフリカの食料安全保障に長年必要と考えられていた分子技術として期待されている。ITbMは、SPL7の社会実装に向け、ケニアで圃場実験の準備を進め、ケニア農畜産業研究機構(KALRO)の協力によってケニアの実験圃場で実証試験を開始している([14],[15])。

「01.意外と身近な寄生植物」から、私は寄生植物に関する研究の最前線を知ることができた。また、寄生植物は意外と身近なものであることも痛感した。

本記事が読者の皆様のお役に立つのなら、嬉しくかつ有難い。


参考文献

[1] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学.“オープンキャンパス2020 ホームページ”.https://www.naist.jp/collaboration/regional/open_campus/2020/index.html,(参照2023年02月10日).

[2] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域.“植物共生学(吉田聡子研究室)”.奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 トップページ.研究室・教員.研究室一覧.https://bsw3.naist.jp/courses/courses113.html,(参照2023年02月10日).

[3] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 植物共生学(吉田聡子研究室).“植物共生学(吉田聡子研究室) ホームページ”.https://bsw3.naist.jp/yoshida/index.html,(参照2023年02月10日).

[4] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域.“植物と植物を取り巻く他者との関わりを紐解く 植物共生学研究室・助教・大津美奈”.奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 トップページ.NAIST Edge BIO.2022年10月03日.https://bsw3.naist.jp/bsedge/0005.html,(参照2023年02月12日).

[5] 国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学.“寄生植物の不思議 理化学研究所 環境資源科学研究センター 副センター長 白須 賢”.植物科学のトビラ ホームページ.INTERVIEW.2021年03月01日.https://interview.plant-resilience.jp/ken_shirasu/,(参照2023年02月15日).

[6] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域.“病害寄生雑草ストライガの全ゲノム解読に成功 -アフリカを襲う農業被害の撲滅に光-”.バイオサイエンス領域 トップページ.研究成果の紹介.研究成果の紹介(2019年).2019年09月24日.https://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=1971,(参照2023年02月14日).

[7] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学.“病害寄生雑草ストライガの全ゲノム解読に成功 -アフリカを襲う農業被害の撲滅に光-”.奈良先端科学技術大学院大学 トップページ.プレスリリース.2019年.2019年09月13日.http://www.naist.jp/pressrelease/2019/09/006157.html,(参照2023年02月14日).

[8] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域.“寄生植物の宿主植物への侵入に必要な遺伝子を同定 ~深刻な病害寄生植物の防除法開発に期待〜”.バイオサイエンス領域 トップページ.研究成果の紹介.研究成果の紹介(2020年).2020年11月06日.https://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=2176,(参照2023年02月14日).

[9] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学.“寄生植物の宿主植物への侵入に必要な遺伝子を同定 ~深刻な病害寄生植物の防除法開発に期待〜”.奈良先端科学技術大学院大学 トップページ.プレスリリース.2020年.2020年10月29日.http://www.naist.jp/pressrelease/2020/10/007374.html,(参照2023年02月14日).

[10] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域.“寄生植物が宿主に接近するメカニズムの解明 -病害寄生雑草による農業被害を防ぐ方法の開発に期待-”.バイオサイエンス領域 トップページ.研究成果の紹介.研究成果の紹介(2022年).2022年08月22日.https://bsw3.naist.jp/research/index.php?id=2564,(参照2023年02月14日).

[11] 国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学.“寄生植物が宿主に接近するメカニズムの解明 -病害寄生雑草による農業被害を防ぐ方法の開発に期待-”.奈良先端科学技術大学院大学 トップページ.プレスリリース.2022年.2022年08月18日.https://www.naist.jp/pressrelease/2022/08/009183.html,(参照2023年02月14日).

[12] JT生命誌研究館.“RESEARCH 寄生植物と宿主の根深い関わり 白須賢”.JT生命誌研究館 トップページ.季刊「生命誌」.季刊「生命誌」96号.https://www.brh.co.jp/publication/journal/096/research/2,(参照2023年02月15日).

[13] 養命酒製造株式会社.“ニクジュヨウ”.養命酒製造 ホームページ.「生薬」と「薬酒」のなるほど事典.生薬について.https://www.yomeishu.co.jp/encyclopedia/traditional_medicine/cistanchis_herba.html,(参照2023年02月14日).

[14] 国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所(Institute of Transformative Bio-Molecules:ITbM).“研究分野”.ITbM ホームページ.ITbMについて.https://www.itbm.nagoya-u.ac.jp/ja/about/research.php,(参照2023年02月15日).

[15] 国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学.“寄生植物からアフリカの農業を守る 名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 特任教授 土屋雄一朗”.植物科学のトビラ ホームページ.INTERVIEW.2021年08月14日.https://interview.plant-resilience.jp/yuichiro_tsuchiya/,(参照2023年02月15日).

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