『宇宙の卵』に思うこと 2

そんな訳で、アナログの場合よりも作家さんアシスタントさんの作業的負担は小さくなった。
(もちろんデジタルはササッと済ませられる訳ではなく、デジタル作画にも膨大な時間はかかる)
在宅でもアシスタント業が出来ることもあり、アシスタント側としても仕事を請け負いやすくなったのではないだろうか。

効率化、そして分業化が進み、完全アナログであった時代よりも美麗絵が増えたことに繋がっているものと思われる。

分業化ついでに、今は原作者と作画作家が別、という作品が多い。マンガが(ストーリー込みで)描けない絵描きでも、原作があるので描ける、ということだ。
近年、イラストレーターがマンガデビューすることが多いのはその辺の理由もあるのだろう。

そして絵描き人口の増大。これは一口には言えないところがあるが、オタク文化が定着していること、そして一般に知られるようになったこと(クールジャパンなど)が大きい。
今の若者は幼い頃から多くのマンガ作品、アニメ作品に触れているし、SNSで発信することが当たり前の文化で育っている。目が肥えるのも当然である。
一般に絵というものは模倣から始まる。たくさんの絵を見て模倣して、大人も顔負けのイラストを描ける若者がたくさんいるのが現代である。
また、アナログと違って道具を揃える手間もかからない。スマホやパッド、パソコンは身近にあり、描き始める敷居が低いが、クオリティは簡単に上げられる。チラシの裏に鉛筆で描いたものは投稿出来ないが、スマホでは完全原稿が描けるのだ。
もちろん仕事にしようとすれば、パソコンや液晶タブなど、一回の出費はデジタルの方が遥かに高い。長い目で見ても金銭的にはアナログの方が安く済むかもしれない。

今はキレイな絵を描ける人が大勢いるのだ。

ただし、

絵がキレイ=絵が上手い  ではないし、

絵が描ける=マンガが描ける  訳ではない。

例えとしてお名前を挙げるのは大変申し訳ないのだけれど、例えば、『進撃の巨人』を読んで絵がキレイだと思う人は少ないだろう。だが、『進撃の巨人』がもし、『GANZ』の絵で描かれていたら、おそらく私はグロすぎて読めない。『進撃の巨人』はあの絵だから良いのだ。登場人物たちの置かれた状況、心理が強く印象に残るのは、諫山創先生の描かれた絵だからこそである。
マンガには、時として美しい絵よりも、荒々しく、魂のこもった絵の方が必要なのだ。そうでなければ世界観が表現出来ないことがままある。
そして、夢中になって読んでいる読者は、その面白さに惹かれている。いちいち上手い下手など気にしていない。面白ければ良いのである。
『HUNTER×HUNTER』の冨樫義博先生がご病気を抱えて休載を挟みながらもご自分で描かれているのは、ご自身にしかその世界観を表現出来る人間がいないからなのだろう。先生、どうぞご自愛ください。そして何とか結末まで描き切ってください…!!

絵柄の好みで読む作品を分けてしまうのは、誰でもあると思う。だが、絵の好みと作品の好みはまた別だったりする。
敬遠していた作品が実はめちゃくちゃ面白くてどハマりした経験はないだろうか。私はある。割とよくある。
逆に、絵が好みだな、と思って読んだ作品がつまらなかったこともある。これも割とある。
流石にお名前は挙げないけれど、好きなイラストレーターさんがマンガ作品を出した時は、あまりのつまらなさに驚いた。ネタ的につまらなくなる要素はひとつもなかったのだが。それはもう、ビックリするほどつまらなかった。

絵が上手いことと、マンガが上手いことは、全く別なのである。

何十年もマンガが好きで読み続けているけれど、懐古厨であると自覚を持ちつつ思うことがある。
何だか最近のマンガ作品には勢いがない。
キレイに整頓されて読みやすくはあるけれど、どうにも作者の声を感じられない作品が増えてきたように思える。キレイで取っ付きやすく、当たり障りのない作品。トゲとかキズとか、そういうものがない。引っかかりがないから、サラリと読めて残らない。
そういう作品が多いように感じるのだ。

専門学校の講師の一人は言っていた。
「マンガはアートじゃない、ただ消費されるだけ」
確かにマンガは芸術作品ではない。現れては消えてゆくエンタメのひとつである。だから、周りに迎合してニコニコしてる良い子のような作品も、望まれる限り存在するし、それが間違っている訳ではないのだろう。
だが、それでも私は魂の叫びを聞きたい。見苦しくても取っ付きにくくても、血反吐を吐き、悶え苦しみながら生み出される作品を読みたい。

長くなったが、『宇宙の卵』は久しぶりにそんな作品だった。トゲとキズしかない、けれど希望を失わない、そんな世界だった。
そんな作品が、Webではあってもジャンプ(正しくはジャンプ+なのだが)から出版されたことが嬉しい。
マンガ業界も、新人マンガ家さんも、まだまだ捨てたものではないぞ、とワクワクしている自分がいる。

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