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もしも高校生サッカー部監督がアローチャートを学んだら

はじめに

自己満でアローチャートを学ぶための小説を書いてみることにしました。

アローチャートというアセスメント手法を小説を通して学んでいくという本です。

小説に入る前に少しこの本を書こうと思った経緯について自己紹介を合わせてさせていただきますね。

私は介護支援専門員として日々仕事をしています。
介護支援専門員の専門性の一つにアセスメントがあります。
私たちは利用者に対し、困りごとを聞いていきます。情報収集ですね。情報の中には、本人の思いもあります。願いなんて言い方をしたりします。
願いもあれば困りごともある。願いを阻害している要因があるということですね。
そういった情報をもとに分析をし、課題を解決するために様々な社会資源を活用したり、本人の中にある解決する力を見積もったりします。その計画書となるのがケアプランと呼ばれるものです。ケアプランをもとに本人、家族、各専門職や地域の社会資源などが具体的な支援をしていきます。

介護支援専門員のアセスメントをもとにケアプランが作られ、それをもとに支援が行われていくということです。
すごい責任のあることをしているんですね。

4年ほど前に自分の作るプランやアセスメントに対し、なんとなく自信のなさを感じていた時に、本屋で自分に合うアセスメント手法はないか?と本棚を眺めていました。

そんな時にアローチャートのガイドブックと出会ったのです。
偶然にもその書籍は出版されたばかりでした。そして偶然にも著者の一人が同じ府中で介護支援専門員をしている方だったんです。
これは運命だ!と思い、すぐに購入しました。

中を読みました。
本自体が分かり易いのもありましたが、アローチャートを通して利用者の全体像や、悪循環になっているところ、因果関係がとてもわかりやすくて衝撃的でした。
自分の頭の中の思考過程を可視化して相手に伝えようとは、その当時は思ってもいなかったので、なるほどー!となりました。

でも、そこからアローチャートを実際に描くまでに、しばらく時間を要しました。

なぜなら今までのやり方から抜けだすことができなかったのです。
人は行動をするときに頭ではわかっていても、今までのしがらみから抜け出すのには覚悟がいるんですね。
やりたいのに、やりたくない。
気持ちが拮抗していました。

自信がなかったのに?

変わることを望んでいたのに?

この時すでに頭の中で考えていることが、可視化されず、頭の中で処理されていて行動に移せなかったのかもしれません。

アローチャートは頭の中で考えている原因と結果について可視化するメソッドです。介護支援専門員として利用者から情報収集し、課題分析をする。本人の願いを阻害しているものは何か?

望む暮らしはどのようなものか?

できた計画をもとに本人宅で各事業所を呼びサービス担当者会議を行う。

計画書には本人の思いとそれを阻害している課題が載っている。

本人と各事業所はそれを読みあわせて目標達成に向けて行動ができるでしょうか?

願いを阻害している要因(結果)には原因があります。その因果関係が絡み合って今の困りごとにつながっています。
介護支援専門員が頭の中で考えている原因と結果について、果たしてその場にいる人たちには見えているのでしょうか?
おそらく見えていないでしょう。
見えていないから共有できない。
計画が計画通りにいかない。
だから計画に自信がなくなる、専門性に誇りをもてずにいる。

これから高校のサッカー部を舞台に監督と選手達のマネジメントを新しく入ったマネージャーがアセスメントし、目標を立てて、計画を立て、実践していきます。

アローチャートを通して、チームが勝てない原因を探っていき、全国大会を目指していくという内容の小説で話は展開していきます。

アローチャートの考え方や介護支援専門員がケアプランを作成し、多職種で利用者を支えていく。アセスメントし、目標を立て、本人の思いに沿った支援をしていく。

アセスメントは難しい。原因と結果の関係を踏まえて計画を立てるのって大変。そんな介護支援専門員の皆さんにもアローチャートを描くことの楽しさを通じて、自分の仕事の専門性に誇りを持てる。仕事にやりがいを持てるように、少しでもお力になれればと思います。


プロローグ

「ピッピッピッー」    


試合終了ーー


そして、それは新たな始まりの意味でもあった。



今年の夏も予選リーグ敗退。ここ数年予選突破の記憶がない。

僕はホーヤ高校サッカー部の監督をしている。もうすぐ40歳になる数学を教えている教師。うちのサッカー部はとにかく弱い。

練習は週3回、週末は練習試合がなければオフ。
僕もその方が週末を謳歌できるから助かっている。
以前は毎日のように、遅くまで練習して、週末は練習試合をする。その繰り返しで本当に大変だったけど、充実していた。

昔は全国大会にみんなを連れていくんだ!と意気込んでいた時もあったが、負けが続いてどんどんモチベーションが下がってしまい、しまいにはどうせ負けるだろう。と諦めてしまっている自分がいることにも気づいていた。

でも、それでも心のどこかでは全国大会に行くことを夢見ていた。そんな中、あいつがやってきた。

これは夢を諦めかけたけど、諦めきれない監督と全国大会を夢見たサッカー部員,そしてアローチャートを知っていて、実践したくてうずうずしているマネージャーの話である。


出会い

「新入部員の府中弓子です!よろしくお願いしまーす!」

俺の名前は竹松。高校で数学を教える傍ら、サッカー部の監督も兼務している。

高校のサッカー部といえば、だいたい高校生生活の花形で、青春を謳歌する、最たるイメージだと思う。

しかしながら、このサッカー部、とにかく弱い。そのため、学校内でもあまり華やかのポジションにいる生徒が少ない印象。逆に野球部は坊主で真面目。硬派な印象があるが、うちの高校の野球部は強く、クラスの中でも中心人物になるような生徒が多い。

こと、うちのサッカー部は毎年予選リーグの突破が目下の目標であったが、例年負けが続いていた。ホーヤ高校サッカー部では、新入部員が少なかった。理由は明白、弱いからだ。とにかく人気がなかった。野球部は甲子園初出場した都立高校から新しくきた監督のおかげで、部員に困ることはなかったがサッカー部はギリギリ試合ができるくらいしか毎年申し込みが来なかった。実績がない、そのため人気がない。結果、部員が集まらなかった。

マネージャーも同様。一人も希望者がいない時もあった。マネージャーの縁の下の力持ち感は半端ないのに。


そんな中。今年は府中がやってきた。

元気で笑顔が素敵な子だ。思ったことは言わないと気が済まない。でも、真剣に向き合っているから故であることは、すぐにわかった。

府中の父親は介護支援専門員という福祉の仕事をしているらしい。介護保険の制度を活用し、計画を立てるプランナーという印象。

府中の父は、アセスメントと呼ばれることを生業としていた。

アセスメントとは情報収集をして、課題を抽出し、分析するという原因分析のことのようだ。

その手法にはいろいろな手法があるらしく、介護支援専門員はそれぞれが学びながら、自分に合う手法でアセスメントを行い、計画を作っていく。そんな中、府中の父はアセスメントした情報を「アローチャート」と呼ばれる手法を使い原因と結果を見える化する手法を使っているとのことだった。


原因と結果

竹松「今年はマネージャーが入ったんだなー!よろしく頼む。最近は人気がなくて、今年は入るかと毎年ヒヤヒヤしていたんだ。」

府中「うちのチーム、毎年予選敗退が続いているんですね。なんでこんなに弱いんですかー?」

竹松「お前、めっちゃ直球だな・・・。原因かー。なんだろうな色々ありすぎて、これというものがすぐにあげられないけど、試合に勝てないから、予選敗退しているんだけど、その理由はたくさんあるってことかな。」

府中「なるほど。要はあまりその辺りの分析をしていないんですね。そのことがまず、大きな問題ですね。そして試合に勝てない理由は整理できていないけど、たくさんあって、それが合わさって勝てないチームになったわけだ。」

竹松「お前友達いるか・・・?」

府中「今、そのことは問題ではないですよね。現状の課題と関係ないことは一旦おいておきましょう。」

竹松「・・・。その通りだな。色々と原因があって、それに対して一つ一つ明確にしていないから、どこからクリアしてチームを強くするかも、正直わからないな。」

府中「でも、先生はチームを勝たせたいんですよね?」

竹松「当たり前だろ。そりゃ、毎年、予選敗退で諦めていた部分もあるが、本当のところでは勝って、勝って、目標は全国大会出場!いや全国大会優勝したいと思っているさ!」

府中「なるほど。。全国大会優勝は夢のまた夢な感じなので、今の時点では目標としてはどうかと思いますが、まずは勝てるチームにするために、明確な目標設定をしましょう!そのためには、今、何が起こっているか?(結果)その原因は何か?を考えていきましょう。」

竹松「お前、なんかすごいな。」

府中「うちの父が介護支援専門員という仕事をしているんですが、おじいちゃん、おばあちゃん達から話を聞いて、計画を立てる仕事をしているんです。話を聞いて計画に落とし込むことをケアマネジメントと呼んで、その計画を立てるために、情報を集めて、分析することをアセスメントっていうらしいんです。内容は難しいんですけど、その困りごとの原因や結果を図にしてわかりやすく説明してくれるんです。それを見ていると、あー!なるほどー。それが原因で今の状態になっているんだ。だから困っているんだなーって、わかりやすいんです。」

竹松「図にする?その方がわかりやすいのか?」

府中「だって、先生、さっき弱い理由はたくさんあるけどすぐには出てこない感じでしたよね?それは頭の中にはあるけど整理するには時間がかかったり、自分の中でも整理しづらいからじゃないですか?」

竹松「・・・そうだな。。」

府中「ではアセスメントしてみていいですか?」

さて、このようにサッカー部は弱小チームです。弱いことには理由があり、監督もそれをわかっているようでした。しかし、理由はいくつもあり、何から手をつけたら良いのか、それぞれの原因などの分析はあまりできていないようです。

結果には必ず原因があります。その原因にも原因があるかもしれません。このように原因と結果には因果関係があるんですね。介護支援専門員は、因果関係を明らかにする分析を行なっています。分析といっても様々ありますが、介護支援専門員は、原因分析を行います。監督も原因があることはわかっている。しかし、それを具体的な計画に落とし込んでいないんですね。

解決すべき課題に対し、総合的にどのような方針で行っていくか、長期的な目標は?それを達成するためのより短いスパンでの短期目標は?それを達成するための日々の支援は?というように僕たちは計画を立てます。計画書は見える形で利用者、多職種に提示されます。しかし、その過程であるアセスメントについてはどうでしょうか?多くの方は、この部分を自分の中にしまい込んでいませんか?課題分析で利用者から聞き取った内容をもとに仮説を立て、ケアプランに計画を作っていく。それをサービス担当者会議に持参してそこでプランの説明をする。そこでみなさんから了承をいただき、それでは支援をはじめましょう。というような感じでしょうか?

ここで、一つ質問です。アセスメント結果について、本人に説明し、その上で計画を立てていますか?どうでしょう。僕はいろいろな介護支援専門員の方とお話をさせていただきますが、それは当たり前でしょ?という人にはあまりあったことがありません(笑)

でもそれは、必要性を感じていないから?かもしれません。他にも、その部分は説明しなくても、計画書の中で大体出てくるし。説明してもわからないんじゃないかな?など。

しかし、これから、どんな生活をしていきたい。こんなことをしたい!といったことを引き出せたのに、それを阻害している、その原因は何かを?提示しないことは相手にとってメリットなのでしょうか?

とはいえアセスメントを説明するときにやはりわかりづらいんですよね。説明する側がわかりづらいんですから話を聞く側はもっとわかりにくいはずです。

もう一つ押さえておいてほしいポイントは、アセスメントは情報収集しておしまいではないということです。私たちは情報収集したとほぼ同時に自然に分析を始めます。分析とは集めた情報から利用者が望む生活を送る上で何が課題となっているか、それが原因と結果の背景としてあるかを明らかにする作業。私たちは自然と情報と情報を関連づけています。

目の前の利用者が話している困りごとの原因はなんだろう、そのことに困っているのであれば他にもできないことがあるんじゃないかな?ということは・・・と。それが仮説形成ということになります。さらにその困りごとが大きくなっていくと・・・と予後予測をしていきます。そしてその仮説があっているかどうかをもう一度情報収取するというサイクルを繰り返しているんじゃないかと思います。仮説形成をしながら、問題が生じるメカニズムや、悪循環がないかを探り、生活全体を捉えていきます。

ここでいう情報収集とは具体的な部分を聞き取る作業、分析というのはそれを抽象化して関連性を探り、さらに具体的な情報を見つけるために作業です。この分析というのは今起こっている困りごとや本人の訴えの原因はなんだろうと結果に対する原因を探っていくので原因分析と呼んだりします。原因と結果の因果関係を関連づける作業です。

それを踏まえてアローチャートとは何か?を見ていきます。

アローチャートとは情報収集された情報をケアプランに落とし込むまでの介護支援専門員の思考の足取りを○、□、→、などの簡単な記号を使って図式化したものです。このチャートを使用することにより、利用者やケアチームのメンバーにわかりやすく説明でき、介護支援専門員が本来担うべき「専門性」が見える形になります。様々な課題、絡み、原因、背景をたどり、課題の根っこ(本質)を明らかする。思考の整理をサポートするというものです。

ようやくアローチャートが出てきました。(笑)

頭の中の思考過程は自分の中で外在化されず、相手にも、自分にもよくわからないんですね。


遡及推論

時間を遡って考えていく

府中「ふむふむ。そうすると点が入らない、失点も多い負けるんですね。では点が入らないのはなんでですか?」

竹松「まずはシュート数が少ないな。打たなきゃ入らない。でも打てたとしても決定力に欠ける。両方が攻めについては課題だなー。」

府中「なるほど。もう少し深掘りしますね。シュート数が少ないのは理由がありますか?」

竹松「攻めきれないんだよ。攻めに人数をかけれない。オーバーラップ(守りが上がって攻めに加わること)がない。うちは走力がないんだな。走れるチームにするためには体力を上げていかないと。試合で勝てないからモチベーションも上がらなくて、練習量も少なくなっている。そうすると技術も上がらないし、連携にミスが出る。そうするとボールを奪えれて失点にもつながっているんだ。」

竹松「うーん。攻めきれないことと失点してしまうことは関係なさそうで、あるような感じですね。後でもう少し整理しますね。まずは攻め。他にも決定力が低いことを理由に挙げてましたよね。」

竹松「そう。シュートの精度が低いと攻めれていても、キーパーに止められてしまう。精度が低いのは技術的なとこだな。こう聞かれると理由がたくさんあるな。。」

府中「結果にも原因があります。さらに言えばその原因にも、元になる原因があると考えます。そこをどんどん遡っていくことで原因がはっきりしていくと思いません?そこが曖昧だと解決策も曖昧になって、なんとなく、になってしまいますよ。攻めについて、今考えられるのはその辺りですか?」

竹松「そうだな。」




上のやりとりの部分をアローチャートで整理すると、このような図になります。


先ほど結果には原因があると話しました。

事象には理由があるということです。WHY型思考などともいわれますが「なぜ?」と問いを立てることで時間軸が過去に遡ります。WHY型思考については、ここでは詳しく触れませんので気になる方は、参考文献を是非お読みください。

Why型思考」が仕事を変える 鋭いアウトプットを出せる人の「頭の使い方」 (PHPビジネス新書)

https://www.amazon.co.jp/dp/B00799XK8Y/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1

ここでは「なぜ?」と問いかけることで時間軸が遡ることについて、少しお話しさせていただきます。結果には原因があるとお話ししました。

その原因にも原因があるかもしれない。そのように原因と結果の関係を見ていくときに時間を遡って考えていくことを遡及推論と言います。

時間を遡って原因を考えてくんですね。今の結果は、今の現象だけを解決しても、それは対処となり、根本の解決には向かっていかない可能性があります。体のことで考えると、腰痛はその典型的な例かもしれません。

僕たちは腰が痛いと整骨院に行く場合と整形外科に行く場合がありますよね。どちらも必要なことだとは思いますが筋肉をほぐすことで、その場では楽になったけど数日後にまた筋肉が張ってしまい、腰が痛い。また整骨院に通う。なんてことを長い間続けている人が周りにいませんか?

これは対症療法という言い方をします。その場の困りごとへの対処ですね。腰痛の原因はわからないままです。でも腰痛には原因があり、姿勢が悪いのかもしれないし、筋肉が少ないのかもしれない。はたまた内臓が悪さをしているかもしれません。姿勢、筋肉、内科的疾患、どれにもその原因があるかもしれません。遡及推論はその原因を遡及して考えて、より根本に近いところの解決を考えていくというものです。


悪循環

府中「じゃあ次は守りについてですね!
勝てない理由に守りを上げていましたが守りが弱い原因は何が考えられますか?」

竹松「なんとなく勝手が掴めてきたぞ!
まず、サッカーは失点しなければ絶対に負けない。
勝つことはなくても引き分け以上にはなる。
だけど失点することで負ける可能性が出てくる。
失点に関してはさっきも少し出たが、技術がないと連携が上手くいかずに、パスが繋がらない。
そうするとボールを奪われ失点する。
いくら上手い選手でも何度もシュートを打たれれば、失点はしてしまう。
しかもだ、試合に負けることで選手のモチベーションが下がる。
そうすると皆、練習をしなくなるんだ。諦めてしまうんだろうな。
当然、技術なんて向上しない。朝起きて、上手くなってたら苦労はしない。」

府中「悪循環ですね。」

竹松「悪循環?」

府中「はい。要は、結果に対し原因が生まれていますが、それに対しても原因があり、さらに悪い結果が延々と続いていくということです。」

竹松「もう少しわかりやすく頼む。」

府中「先生、数学の先生なのに論理的思考に弱いですか?
さっきの話、
技術がない→連携が上手くいかない→パスが繋がらない→ミスが増え相手ボールになる→失点して負ける→がモチベーションが下がる→練習量が増えない→技術が向上しない→連携が上手くいかない・・・・・と螺旋階段のようにぐるぐる回っていますよね?」

竹松「そう!それ!なんか負のスパイラルから抜け出せないんだ。どうしたらいいんだ?」

府中「具体的な手立てはまた後ほど考えましょう。
まずは原因と結果の因果関係をしっかりと整理する。そこからです。モチベーションの話がありましたが調子がいい選手をしっかりと選んで試合に臨んだりはしているんですか?要はモチベーションが上がらない原因は他にもあるか?という質問ですね。

竹松「モチベーションはな、競い合う相手がいることで、もっと頑張らないと!!となるだろ?そうしないとレギュラーになれない。
あいつよりもっと練習して上手くなるんだ!ってなるだろ?
でもな、選手層が薄いとな、それができないんだ。
うちのチームはな、弱小チームのレッテルを貼られているから人気がないんだ。実績がないから。実績さえあれば、どんどん親友部員が増えて切磋琢磨して、練習してどんどん強くなっていくはずなのに。

府中「なるほどですね。大分、分析ができてきました。描きながら説明したいのでホワイトボードはありますか?」

竹松「部室にある。ちょうど部室の説明もしたかったから案内する。」



このように悪循環から抜け出せずにぐるぐると回っているケース、多いのではないでしょうか?
高齢者はフレイルサイクルという負のスパイラルに陥っているケースが多いですよね。その場合には対処できる部分に焦点をあてます。
自分がより得意で少しでも対処できそうな部分にフォーカスするということですね。
そうすることでスパイラルがきれ、一つ一つの状況が少しずつ変容し、好循環に変わっていくかもしれません。
悪循環を探っていくことはアセスメントにおいてはとても重要です。


分類思考と関連付け思考

府中「部室は綺麗ですねー!整理整頓が行き届いてる。」

竹松「そうだろ。うちのキャプテンはしっかり者だからな。ユニフォームはユニフォーム、練習着は練習着、スパイク、トレーニングシューズ、シンガード(脛当て)、ソックス、コーン、ビブスなどそれぞれのボックスと場所を決めてそこに入れるようにしている。」

府中「そうなんですね!試合の時には何を使うんですか?」

竹松「試合の時には、ユニフォーム、ソックス、スパイク、シンガードだな。」

府中「練習では何を使うんですか??」

竹松「練習着、トレシュー、コーン、ビブスかな。」

府中「そうなんですね!ありがとうございます。それぞれボックスで整理整頓されていると、どこに何があるかわかりやすいし、用途に分けて考えるときに関連づけて覚えやすいですね。」

竹松「そうそう。部室ごとになっているのも本当に助かっているよ。テニス部や卓球部なんかは一緒の部室で、どこに何があるか、何がなんだかわからないって、よく生徒が言っているよ。」

府中「部室にも限りがあるから、似たようなもので分類しているんですかね。それで、サッカー部は実績もないのに、優遇されているんですねー。」

竹松「お前本当に友達いないだろ・・・・」


アセスメントの課題分析シートは項目ごとに分かれています。
小説の部室の中でいうボックスを使って整理しているんですね。
その方が整理がしやすいし、足りない情報についてもわかりやすいですよね。
僕たちは情報収集するときに、情報を分類しながら整理をしていきます。
その上で分析をします。アセスメントは情報収集しておしまいではないということです。
私たちは情報収集したとほぼ同時に自然に分析を始めます。
分析とは集めた情報から利用者が望む生活を送る上で、何が課題となっているか、それが原因と結果の背景としてあるかを明らかにする作業。私たちは自然と情報と情報を関連づけています。

府中さんが、試合の時には何が必要か、練習の時には何が必要かを確認していた作業がそれですね。

目の前の利用者が話している困りごとの原因はなんだろう、そのことに困っているのであれば他にもできないことがあるのではないかな?ということは・・・と。

それが仮説形成ということになります。

さらにその困りごとが大きくなっていくと・・・と予後予測をしていきます。

そしてその仮説があっているかどうかをもう一度情報収取するというサイクルを繰り返しています。

仮説形成をしながら、問題が生じるメカニズムや、悪循環がないかを探り、生活全体を捉えていきます。

ここでいう情報収集とは具体的な部分を聞き取る作業、分析というのはそれを抽象化してさらに具体的な情報を見つけるための作業です。

この分析というのは今起こっている困りごとや本人の訴えの原因はなんだろうと結果に対する原因を探っていくので原因分析と呼んだりします。原因と結果の因果関係を関連づける作業です。


◯と□と↑とギザギザ

府中「では、ホワイトボードに今までのところの情報同士の関係性を描いてみますね。チーム、選手のモチベーションが下がっている。その原因としては実績がなく、人気がないため選手層が薄い。他にも練習をしないから連携やパスワークにミスが出て、失点に繋がる。点も入らないため試合には勝てない。さらにモチベーションが下がると。点が入らない理由として、練習しないから体力が低く、走り切れずに攻め人数がかけれず、シュートが打てない。そもそも練習していないので技術が上がらずシュートの精度が低い。だいたいこのような整理でした。しかし、点も取りたいし、失点も少なくしたいという気持ちはあるわけです。当然試合に勝ちたいからです。アローチャートではこのような図になります。」


竹松「この◯と□と↑にはそれぞれ意味があるんだよな?なんとなく◯は事象で□は気持ちに見えるな。↑は繋ぐための接続詞か?ギザギザしたのは・・・?」

府中「先生、大体のところはいい線いっています。さすが数学の先生。図とか記号には敏感なんですねぇ。まず、◯は誰がみても変わらない事実です。写真にできるものなんて言い方をします。ここでは失点や得点が入らないというのはわかりやすいですね。試合に勝てないという事象に対し、点が入っている、失点しなければ試合には勝っています。他についてもシュート精度が低くなければ点になりますし、パスが通ればミスにはならないし、相手ボールにもなりません。相手もボールにならなければ失点しませんね。」

竹松「なるほど。この↑は『ので』とか『だから』と読めそうだ。」

府中「そうです!ここでは時間の流れと思ってください。ちょっと難しいですがアローチャートという手法は、その瞬間を切り取ります。瞬間を切り取るので時間は止まっていますが、因果関係を示す時間の流れがあります。前に話した結果には原因があって、その原因にも、その状態になった原因があると考えていく。と、そこには少しでも時間の流れ、つまり由来があるということです。由来関係とここでは言いましょうか。」

竹松「そうすると◯→◯→◯には因果関係がある。その先にある□は気持ちに見えるが関係はあるのか?しかもギザギザで繋がっている。」

府中「まず、ギザギザについては、しかし、けれども、といった逆接で読んでいきます。抗うという言い方でしょうか。そしてその際には□の主観的事実がついています。主観的事実は感情、考え、価値観です。3Kですね。主観的事実を取り扱うときには視覚で表現します。」

竹松「なるほど。そうやってみてみると◯はネガティブな情報に見えるが、その解釈でいいかな?」

府中「いいところに目をつけましたね!その通りです。→は順接で読むと言いました。そしてギザギザは逆説と。その流れで一つの◯→◯ギザギザ□を読んでみてください。」

竹松「実績がないので、人気がないので、選手層が薄いので、モチベーションが低いので、練習が少ないので、体力がないので、走力がないので、攻められないので、シュートが少ないので、得点が入らないけれども、点を入れたい。」

府中「そうです。でも『ので』『ので』がわかりにくいので、少しわかりやすく文脈にします。弱小チームで人気がないことから選手層が薄く、モチベーションが低下している。そのため練習量が少なくなり、走り切って攻めるだけの体力がない。その結果シュートが打てずに点が入らないが、点を決めたいと思っている。ということですよね?」

竹松「そう!わかりやすくなった!」

府中「大切なことは、□の願いは、叶っていないから願いだということ。そして願いが叶っていないのは阻害要因があるということです。つまり、願いと阻害要因は1セットだということです。」

竹松「願いと阻害要因かー。点を取りたいけれど、取れない理由がある。失点をしたくないけれど、失点をしてしまう原因があるということだな。」

府中「そうです、そうです。でもこれって普通に私たちの生活でも当たり前にあるんですよね。先生は普段食べたいけど、食べれないものとかありますか?」

竹松「あるある!カツ丼は3食食べても、飽きない。でも3食食べていたら揚げ物まみれで動脈硬化で倒れちゃうからな。」

府中「カツ丼は毎食でも食べたい。けれど健康を考えると食べられない。」

竹松「そう!そういうこと!」

府中「こんな風に私の生活の中にも普通に願いとそれを阻害している要因がセットになって、帳尻を合わせて折り合いをつけているってことですね。ここでは出てきていませんがもう一つ使う記号があります。それは線(棒)です。これはまたの機会に説明しますが、はっきりした因果関係があるかはわからないけれど、何かしら関係がある。というときは線で繋いでおくと、なんとなく頭の片隅に置いておいてください。」



いかがだったでしょうか?アローチャートの基本について説明をしてきました。アローチャートは図と記号を用いて、頭の中の思考過程を可視化するものです。使う図と記号は至ってシンプルです。一つずつ改めて確認しましょう。またルールについても触れていきます。

①客観的事実


利用者が実際に体験したこと、過去に起きた出来事、環境など誰がみてもそうである事柄をいいます。例えば、[歩行不安定][体重減少][段差][脳梗塞]といったものです。

ここでは疾患についても触れていますが、疾患については診断を受けているので実際に体験したことですね。

他にも、リスクがある場合には!をつけたり、既になったことがあり、再発や再度起こりうるリスクがある場合は‼︎と表現します。

事実であるか確認が必要な場合には?をつけることもあります。推測を含む表現です。

②主観的事実


感情、考え、価値観といった、利用者が体験した事柄について、利用者がどう感じたりしているか、どう考えるか、その人でなければわからない事柄のことを言います。
例えば[うれしい][自宅で暮らしたい][ひとの面倒にはなるべきではない]といったものです。この□にはできるだけ、その人が語ったように書き入れます。

③→(矢印)


小説の中でも書いてありますが→には時間の流れがあります。
[ので]のように接続詞の役割です。AなのでBの場合はA→B、BなのでAの場合はB→Aと描きます。この→でつなぐ情報は基本的には客観的事実同士を繋ぎます。

④ギザギザ


逆接の接続詞の役割です。相容れない関係を表す記号です。ギザギザで繋ぐ情報の組み合わせは3通りあります。
[主観的事実と主観的事実]:例「たべたい」けれど「食べたくない」
[主観的事実と客観的事実]:例「外出したい」けれど「外出できない状況にある」
[客観的事実と客観的事実]:例「買い物はできない」けれど「ネット注文はできる 。」
ここでは、それぞれの関係が[ADLとIADL]、[ADLと改善可能性につながる情報(福祉用具の利用等)]というような、改善の可能性を探るような関係にあるときにのみ使います。
後ほどもう少し詳しく述べますがここで出てくる[主観的事実と主観的事実]が抗った状態のことをアンビバレント(両価感情)と呼びます。
気持ちと気持ちが拮抗して身動きが取れない状態です。
僕たちも普段からこのような状態に悩まされることがしばしばあります。
両価感情とは言葉の通り、どちらにも価値があるということです。どちらかが自分にとって価値がなければ、悩まずにもう一方を選択しますよね。先生が言っている食べたいけど食べたくない。ここには、表面的な言葉には見えない、背景がありそうですね。

⑤意味づけ、背景


例えば「体を動かしたい」と利用者が考える背景には「体を動かすことが健康を保つには必須だ」という利用者の考えによる場合があります。
他にも「毎日風呂に入りたい」という考えには「昔から母親に綺麗にしていないと人から嫌われるよと言われて育った」という背景があるかもしれません。
このように物事の背景にはその人なりの意味づけや背景が存在します。
ある状況に対し、因果関係があるとは言い切れないが何かしらの関係があると思われる場合に、[主観的事実、主観的事実]、[主観的事実と客観的事実]で繋ぎます。

⑥対処は描かない


実際に描いていくと客観的事実について悩んでくるところがあります。
例えば頭痛という客観的事実に対し、服薬という客観的事実をいれるなどです。
ここでいう服薬は対処ですね。他にも通院、手術、なども同様です。
少し複雑な部分なのでここではさわり程度にしますが、対処により本人の生活にマイナスな面が出ている場合は客観的事実として取り扱う場合があります。服薬が過剰で副作用により何かしらの困りごとにつながっている場合などです。

⑦ポジティブな情報(+)、ネガティブな情報(−) 


描いている途中や、書き終わったときに、このつながりで良いのかな?と迷うことがあります。そのときには情報を本人にとってポジティブな情報か、ネガティブな情報か確認しましょう。
先ほど→は順接であると書きました。
文脈で読んだときに順接であれば、(−)→(−)→(−)となり意味が通じますが、(−)→(+)→(−)となると文脈で読むと意味が通じなくなります。具体的な例で見てみましょう。脳梗塞(−)→右麻痺(−)→歩行不安定(−)→外出ができない(−)となります。これは文脈としては違和感はないと思います。

一方、味覚障害(−)→食事量が増加(+)→低栄養となった場合に、味覚障害と低栄養の間に(+)の情報が入り文脈が変になっています。

このように+と−を確認することで文脈に戻して文が成り立つか確認することができます。もし文脈に戻した時に違和感があれば、アローチャートを再考するチャンスかもしれません。
またギザギザで繋がれている場合は(+)と(−)の関係になります。
接続詞が「けれど」で逆接だからです。そのようにチェックをしていきますが、一つ注意することがあります。その情報自体が本当に(+)なのか(−)なのか?です。

食事量が増えることは、必ず(+)なのか?ということです。ここでは味覚障害と、低栄養の間に食事量増加が入っています。もし食事量増加の→の先にある情報が体重増加→膝痛であった場合は食事量が増えたことで膝への負担が大きくなったと捉えられます。

その場合、食事量が増えたことは(−)の情報ですね。このように取り扱い方で情報が(+)にも(−)にもなることには注意しましょう。



目標設定

府中「ここまでは情報収集と課題分析をし、計画に落とし込むための思考過程を可視化するためにアローチャートを作成しました。実際の計画について考えていきましょう。」

竹松「実際に日々の練習に落とし込んでいくんだな?」

府中「はい。まずはサッカー部としてこれからどのようにしていきたいかですね。先ほど全国大会優勝というのが夢とおっしゃっていました。そこに向けて目標を立てていきますか?気になることは今の時点では全国大会優勝は、夢のまた夢であることです。まずは東京都の予選を勝ち抜け、東京都の決勝トーナメントで優勝し、全国大会の切符を獲得。そしてそこからは全国の強豪と戦って勝ち続けなくてはいけないんですよね?」

竹松「そうだ。そしてうちのサッカー部は近年、東京都都大会の予選で敗退している・・・。」

府中「先生は目標は一度決めたら、絶対に変えてはいけないものだと思いますか?」

竹松「一度決めたことを変えることには抵抗がいるのは事実だ。でも正直、今のチームの実力で全国大会優勝はどう頑張っても無理だ。まずは東京都都大会で優勝を目標にしよう思う。」

府中「では目標としては、試合に勝てる強いチームを作り、東京大会で優勝したいという目標にしましょう。次はそのためには予選を勝ち抜くということです。そのためには強いチームを作ること、試合に勝てるチーム作りをする事です。具体的な目標と設定をしていきましょう。アローチャートを見ながら考えていきましょう。全体の目標としては東京都大会に出場し、優勝する。そのためには良い選手が来るための実績をつくる。そのためには試合に勝つ。試合に勝つために得点を取る。失点をしないようにする。を挙げます。まずは得点を取りたいという願いを阻害している要因を解決するためにはどうしたらいいかを考えていきましょう。シュートの本数を増やすにはどうしたらいいか?決定力を上げるにはどうしたらいいか?という長期的な目標に対して、短い期間での目標と具体的な手段を考えるとしたらどうなりますかね?ポイントとしてはも点が入らないという客観的事実に入る矢印を遡って考えていき目標設定できそうな項目を探してみてください。」

竹松「そうだな。まず、シュート数については攻めることができればシュートまで持っていける可能性が高いから、90分間走り切れるチームになれば、マイボールの時にサポートに入るために走ることができる。そのためには毎日の練習に耐えられる体力を作る。という目標にしてみてはどうかな?具体的な手段としては、週3回の練習を5回に増やす、加えて練習後に100Mダッシュを15本行う。」

府中「いいですね!決定力を上げるにはどうすればいいですか?」

竹松「決定力はとにかくシュートの精度が必要だ。精度を上げるには技術を上げればいい。技術を上げるには練習あるのみ。これも練習量を増やすことが一つの短期目標かな。」

府中「なるほど。どちらも原因を探っていくと練習量の低下からきているという分析になっていますね。具体的な練習内容は後でキャプテンや他の選手と相談が必要になりますが、次に失点をしないようにするためにどうしていくか?について考えていきましょう。」

竹松「この図を見ると本当にわかりやすいな。失点をしないようにするにはマイボールの時にミスをしなければ相手は責めれない。また相手ボールの時も守備がしっかりしていれば攻められないから失点につながる可能性が低くなる。」

府中「ここは悪循環になっているんでしたよね。ミスをしてしまうのはモチベーションが低いから練習が足りなくて技術不足から連携がうまくいかない。連携ミスから失点につながる。ここの部分を対処するための目標はどんなものが上がりそうですか?ここは長期目標と短期目標という形で明確にしましょうか。長期目標としては、□につながっている失点が増えるに対する対処なので[失点せずに試合を終えられる]としましょう。そのための短期目標はどんなことが挙げられそうですか?」

竹松「守備力を上げることと、連携ミスを防ぐための技術を上げることが今できることかな。モチベーションは上げようと思って上げることができなそうだ。」

府中「先生、いいところに目をつけましたよ!モチベーションに対して、今の時点では対処は難しいですよね。おっしゃりる通りでモチベーションを上げるためには選手の気持ちを変えなければいけないのですが、それって気持ちの問題なので簡単なようで、難しいんです。だから短期目標を決める時には①主体的にできること②少し背伸びした目標③評価できるということを意識すると良いと父が言ってました。そこを目標にして取り組んでいくとモチベーションも徐々に上がっていくということになるかもしれません。悪循環で取り組めるところから対処していったことで好循環になるということですね。」

竹松「なるほどー。残す□は実績×についている□だがここはどうしたらいいんだ?」

府中「ここに関して、実績が過去にないことは事実として変えることができないんですよね。なので対処ができない。でも優勝するためには実績を作っていき優秀な人材が必要であるとことに対して、実績をこれ以上悪くしない必要があると考えましょう。これはこれで一つの目標として必要だと思います。」

竹松「短期目標として今以上に実績を下げないという目標を掲げるってことだな。。結構なプレッシャーだな。」

府中「さて、アローチャートを見ながら目標設定をしてきました。目標を立てる時に気づいたことはありませんか?」

竹松「気づいたこと?そうだなー。目標を考えるときに客観的事実を見ながら、それに対する解決策を考えていくことか?」

府中「そうですね。それもそうなんですけど、矢印の向きとかはどうでした?」

竹松「矢印の向き?目標を考えるとき、まずは□があって、それを達成するためにはくっついている◯への対処を考えていて・・・・そうか!目標を考える時に矢印の向きとは逆の方向に遡って対処できないか考えた!」

府中「そうです!矢印の説明の時に、矢印には時間の流れがあると話しました。結果には原因がある。そこの時間の流れを→で表していたわけです。分析をするときに時間を遡って推論をしていたわけですが、目標を作る時にも同じように時間を遡って、チームが主体的に行える素材はあるか?検討していきます。これで目標設定の草案ができました。これをもとにキャプテンと各ポジションのリーダーと相談していけば良いと思います。」

府中「これをやってくれって感じで持っていくのはダメなのか?」

府中「答えはNOです。ここで作ったアローチャートはあくまで仮説でこれをもとにみんなで話し合い、その上でチームの目標として掲げていかなければ、目標が一人歩きしてしまいますよ。父はそのことを合意形成(コンセンサス)と言っていました。」



さて、アローチャートを作成し、その思考過程と主観的な事実をもとに計画原案を作成する段階に入りました。

□の主観的事実は本人の願いとなるので居宅計画書の解決すべき課題の部分になります。本人の願いですね。それを解決できれば願いが叶うということです。

そして、その願いを阻害している原因を長期目標とします。

この□ギザギザ○の部分をN構造と呼びます。NはニーズのNです。居宅サービス計画書の[生活全般の解決すべき課題]の部分ですね。

解決すべき課題ということは、それを解決すれば困りごとがなくなる=願いが叶うということです。

願いと困りごとはセットで考えるということです。願いを阻害している困りごとを解決することが長期目標となります。長期目標はLG(ロングゴール)と呼びます。

続いて短期目標ですが、設定するにあたり気を付けるポイントは3つ。

①主体的にできること

②少し背伸びした目標

③評価できるということの3つです。

この中で主体的であることがとても大切です。しかし、逆に主体的な目標を設定することがとても難しいのです。
なぜならば本人も主体的になれるものが何なのかはっきりわかっていないことが多いからです。
主体的に取り組むためにはどうしたらいいか?ここは今は追求しませんが、皆さんも考えてみて下さい。
主体的に取り組むとは、生活の仕方が見えなくても設定することはできるでしょうか?[主観]が考えるための鍵かもしれません。

さて、話を戻します。
短期目標の材料はN構造として扱った◯(長期目標の材料)から上流となります。
上流とは矢印の方向の反対に登っているという意味で捉えてください。
上流に向かっていく中でいくつかの◯が出てきます。これらは全て短期目標の材料です。
材料ということは、必ずしも全てを短期目標に落とし込むわけではないということです。
では、何を短期目標とすれば良いでしょうか?
そうです。先ほど出てきた、3つのポイントをもとに目標に設定できそうなものを選ぶ、もしくは関連づけて作っても構いません。
本人、支援者が主体期に取り組めそうなものがあればそれを短期目標としてプランの位置付けをします。
短期目標はSG(ショートゴール)と呼びます。生活の解決すべき課題、長期目標、短期目標を設定した後、サービス内容、サービス種別、頻度、期間と考えていきます。
ここまでできたら、サービス担当者会議を開きます。本人、家族、支援者でこの計画で良いか?同意形成をするわけです。なので、ここまでのプロセスでできた計画はあくまで仮説であるということは重要な視点です。介護支援専門員は情報収集、分析をし、仮説を立てて居宅サービス計画書を作成する。ようやくできた!というそこで満足してしまい、あとはその内容をサービス担当者会議で報告するという風にはしていないでしょうか?
一旦立ち止まって考えてみてください。
この計画は誰のためのものでしょう?
サービス担当者会議とは誰の何のためのものでしょうか?
利用者本人のものですよね?アセスメントをし、居宅サービス計画を作り、サービス担当者会議を行い、サービス内容を確認し本人、支援者が計画をもとに主体的に目標達成に向け行動する。このプロセス全てにおいて本人が主体的に参加することは大切だと思います。

ホーヤ高校サッカー部でも目標設定し、それを選手に伝えるためにキャプテン、ポジションのリーダーを交え会議をすることになったようです。


会議

竹松「ということでキャプテン、それぞれのポジションのリーダーに集まってもらったので紹介する。キャプテンとリーダーは2年に任せている。今年の1年もやる気があるのが多そうで久しぶりにいいチームができそうな予感がする。キャプテンの上田、FW(フォワード)のリーダー鈴木、MF(ミッドフィルダー)のリーダー齋藤、DF(ディフェンス)のリーダー浅見、 GK(ゴールキーパー)のリーダー佐藤だ。この目標設定についてキャプテンの上田、何か意見や感想はあるか?」

上田「正直、東京都大会優勝はハードルが高いなーって思いました。でも、確かにそのくらいの目標があることで、日々の練習やコミュニケーションに変化が出てくるし、何よりモチベーションが上がってきました。今までは明確な目標がなく、何となくこなしてたなって感じですね。まずは東京都大会の予選を勝ち抜いて決勝トーナメントに行かないと話にならないっすけどね。」

竹松「そうだな。予選突破→決勝トーナメントで4回勝たないと優勝はできない。そのためには予選は余裕で突破できないと厳しいな。他のみんなはどうだ?」

鈴木「そうっすね。目標は高くもちましょ!攻めの課題はこのチャートに描いてある通りシュート数、決定力を上げること。
そのためにどんな練習をしていくか考えてみます。先生とマネージャーで考えた短期目標に加えてシュート練習に多く時間を割くことにします。90分間走り切れるチームになる、マイボールの時にサポートに入るために走ることができる。毎日の練習に耐えれる体力を作るために、週3回の練習を5回に増やす。練習後に100Mダッシュを15本行う。についてはチーム全体で必要な部分だと思います。」

浅見「DFはDF力を上げることが大事だから対人練習を多く増やします。1対1や2対2でシュートまでいかせなければいいので。練習時間の後半はポジションごとに分かれて練習の方がいいかもね!マネージャー、具体的な練習メニューについては僕らが考えてやっていっていいの?」

府中「はい!どんな練習メニューでどんな成果が見込めるかを教えもらって、日々記録や評価をいきます。斎藤先輩、MFはどうします?」

斎藤「そうだなー。MFは攻めと守り両方が必要なので練習後半のポジション別のところでは選手を毎日半分ずつ分けて参加しようと思う。中盤はどっちも大事だけど、とにかく走れないと話にならないから運動量を上げていこうと思う。GKも一緒じゃね?」

佐藤「そうそう。だからキーパーも半々に分かれて参加するよ。紅白戦はどうする?週末は練習試合したいし、実戦形式でやっていくことも必要だよね。」

竹松「週末の練習試合は任せろ。先生の母校や、知り合いにチームに打診していく。今が4月、まずは8月の夏の大会だ、ここは腕試し、来年の春の大会に照準を合わせていこうと思うがどうだ?夏の大会では予選突破まではいきたいところだな。紅白戦の段取りは上田頼む。」

上田「了解です!あと得点が取れない原因と思うことがあります。内のチームはセットプレーがないので相手チームが怖くないと思うんです。あと攻守の切り替えが遅いことが得点、失点の両方に関係があると思う。もう一個、気づいたんですけどグラウンドを週5で借りれないんじゃないかな?野球部も練習あるし。」

竹松「そのことなんだがな・・・実は一つ良い提案がある。週3回は学校で練習、週1回はひばりが丘中学校で中学生にサッカーを教える、週1回は社会人チーム「PITBULL」でサッカーを教えてもらうんだ。目的は二つ。「上のレベルで教わる」ということと、「教える」ということだ。」

一同「中学生に教える?社会人チームに教わる?」

竹松「そうだ。前から考えてはいたんだが、中々覚悟ができなくてな。人に教えるのは自分で体現できても、相手に伝えるのはまた別の次元と考えている。理解した上で相手にどう伝えるか、そこを学ぶためにはひばりが丘中学の部員に教えるのは最高の機会と考えた。加えて、PITBULLでは主にどんな練習をどのくらいの負荷でやっているか、戦術、セットプレー、連携面をみて、感じて、体感してほしいと思ったんだ。」

府中「名案だと思います。それぞれのところで何を学ぶか、何を提供するか、何を共に学ぶか。役割の明確は非常に合理的な考え方だと思います。でも、先生って人脈が広いんですね!中学校に社会人チーム。サッカー経験者ですか?」

竹松「俺も昔からサッカーをずっとやっていてな。中学の時は補欠で悔しい思いをした。練習を仮病でサボるようになった。みんなとはどんどんレベルの差をつけられて、逃げるように勉強に励んだ。でも何でだろうな。サッカーが上手い奴は大抵勉強もできた。成績が悪い奴は勉強をしないだけで、すればすぐに抜かされたよ。とにかく悔しかったなー。それでも、ずっとサッカーは続けた。なんだかんだ好きだっだんだな。自分の素を出せる気がした。だから就職しても、社会人のチームで続けた。大人になっても熱中できることがあるのは幸せだ。今でもたまにその社会人のチームで蹴っている。中学校は同級生が教師をしていてサッカー部の顧問をしていて普段から連絡を取っていた。」

府中「そうだったんですね。先生は自分の過去の出来事を今の生徒たちに重ねてみているのかなーって、話を聞いて思いました。」

上田「先生にそんな風に思ってた何で知りませんでしたよ。そもそもこんな風にみんなで話し合うことなんてあまりなかったですもんね。あっても、報告連絡くらいでしたよ。」

佐藤「そうだな。チームの目標があるとそれに向けて、それぞれの考えや思いを共有することができるような気がする。なんか、ゴールキーパー目線、シュート数増やす上でロングシュートを打ってくると気が抜けなくなるから責めきれなくてもシュート打つ場面も必要。DFにも同様のことがいえて、責めさせないことはめっちゃ大事なんだけど、ロングシュートも警戒してほしい。」

府中「良いですね。たくさん意見が出てきたので、少しアローチャートを修正しましょう。アローチャートは大人数の時にも非常に有効で、今みたいにアローチャートを見ながら議論ができるんです。その上で具体的な部分は、それぞれのポジションのリーダーに任せる。全体の舵取り、方向性は監督とキャプテンで話し合う。その時も有効ですよね。視点の違いもあると思うんです。虫の目と鳥の目なんていう言い方をする人もいますよね。そんなこんなで描けました。こんな感じでしょうか?(挿図2)さっきより原因分析が細かくなりました。」 

さて、今回は監督とマネージャーで作ったアローチャートをもとにキャプテン、それぞれのポジションのリーダーで改めて原因と結果、そして願い(目標)とそれを阻害している要因に整理し、計画を立てました。
その上で自分達の役割と具体的な練習内容、他にも試合に勝てない要因としてと考えられる○(客観的事実)をそれぞれの立場で、出し合っています。もうお気づきだと思いますが、これは僕たちの仕事でいう、サービス担当者会議にあたります。
アローチャートは本人、家族、多職種を交えて計画を確認する場面でも活用できるということです。
ここが[可視化]のすごいところです。それぞれの頭の中で思い描いて共有するよりも、目で見て、因果関係を確認する方が理解が深まります。
頭の中で考えていることが可視化されていない状況のことを[ブラックボックス]と呼びます。
居宅サービス計画書はアセスメントをもとに作成されます。アセスメントの使命は

①全体像をとらえる
②悪循環を探す
③メカニズムを解明する

の三つです。
アセスメントの思考過程を可視化し共有することは、ケアマネジメントプロセスに本人が参画し、計画を立てた内容をサービス担当者会議で確認するという非常に合理的な形になっています。

そしてそれぞれのポジションごとに原因となっている◯に対し改善可能性があるか、改善可能性がある場合にどのような練習をすることでその部分が改善していくかを考え、練習メニューを考えています。
実際の仕事ではサービス担当者会議において、介護支援専門員が作成した計画に対し、目標の部分で、専門的な見地から意見はないか、サービス内容や頻度等においても介護支援専門員が作って終わりではなく、このように議論した上で合意形成の上で決まっていくべきですよね。
それをさらにその人らしさが出ている個別計画に落とし込んでいく
。居宅サービス計画書(マスタープラン)と個別計画書(アクションプラン)の棲み分けですね。
アローチャートを使うことで、原因分析が可視化され、その部分の対処にそれぞれの役割と具体的な支援が明確になります。

他にもアローチャートを活用することの大きなメリットとして、コミュニケーションが生まれやすくなります。
一つの媒体を通して議論をすることで共通認識がしやすくなり、この○からでている→はこの◯にはつながらないんじゃないか?
他の◯も原因として考えられるんじゃないか?など議論が活発になり、より深まります。頭の中が見えていないよりも見えていることで自分の思考の整理ができ、相手に伝えやすくなる。相手にも伝わりやすくなることで、相手の考えがわかり、自分の考えと違いがあるのか等の考えに横展開していくかもしれません。
アローチャートをコミュニケーションツールという言い方をする人もいます
が、このようなことがそう呼ばれる所以かもしれません。


PDCAサイクル

私がサッカー部にマネージャーとして加わり、前回の会議を経てホーヤ高校は原因分析を行い、目標設定をそれを阻害している原因を遡及しながら考えていった。
それをもとにそれぞれのポジションリーダーが今自分達に足りない部分を補うための練習メニューに落とし込んだ。
そして練習をする環境や対外試合を設定し、毎日の練習が始まった。その中で新たな◯があることに選手が気付き、アローチャートに加えていった。

選手達はストレッチやクールダウンを怠って慢性的に怪我をしていた。
そのことで選手層がより薄くなっていたことや、ボールを使っての練習がメインだったからか、インナーマッスルを鍛えておらず、体幹が弱かった。
これは選手の全体的な能力に影響していることであったが特に走り方への影響があることがわかった。
選手全員のスピードが上がったのだ。他にも走り方に無駄がなくなったのか、疲れにくい体になっていった。
攻守の切り替えについては、選手間のコミュニケーションが圧倒的に不足していて、ピッチ上では11人の選手が出場するが、それぞれで試合をしてるような感覚になっていた。
意識的に声を出すことでチームの雰囲気も良くなり、選手間でのやりとりも活発になり、ポジションの枠を超えて双方向に、課題や練習メニュー等の意見交換を行うようになった。
私は全体を見ながら、練習内容、質、量などを確認したり、選手の特徴、性格、強み、個人を活かせるのが今のポジションなのか等を見ていった。
監督とキャプテンには選手間のコミュニケーションを中心に対外試合の調整や試合内容の分析、課題抽出、戦術等実践においてチーム、選手においてのマネジメントをしてもらった。
そして練習試合では初めは全然上手くいかなかったが、必ず振り返りをして、幾度目標の確認、課題の確認をアローチャートを用い、共有をしていった。

社会人チームにはいまだに勝てていないが、中学生には負けないチームになっていた。月日は半年ほど経ち夏の大会の予選を迎えていた。



PDCAサイクル。
最近はこの言葉はスタンダードになりました。計画(プラン)、実行(DO)、評価(チェック)、改善(アクション)のサイクルを繰り返すという意味。計画は立てて終わりではないということですね。
介護支援専門員が作成する居宅サービス計画書も例外ではなく、計画を作って終わりではなく、実際の支援をしていき、
その支援や目標が実現可能性があるのか?
現在の状況で少しでも前に進んだのか?
評価をし、その上で改善に向けて計画の修正をするのか、このまま現行していくのか、継続したアセスメントを行います。
ケアマネジメントプロセスがその部分にあたります。
プロセスの進捗を確認していく際にアローチャートは一助となります。

「今」を切り取り、客観的事実が関連づいて→で繋がっているので、短期目標としている箇所と、対処、それに対して現状がどうか?をアローチャートで確認しながら本人、家族に確認ができます。
各専門職に状況を確認するときも同様です。
どのような個別計画を立て、どのような支援を客観的事実に基づいて行っているか?その進捗はどうか?を確認できます。


軌道修正

夏の予選は昨年負けたチームを含む4チーム総当たりで行われた。
初戦こそみんな緊張していたが、普段から厳しい練習を毎日行い、コミュニケーションを頻繁にとり、毎週目標とにらめっこをしていたチームは昔のチームとはかけ離れた強さだった。
毎日練習後にダッシュをすることで体力面が向上。味方がパスをするとその選手を味方のチームメイトが追い抜いていき、パスコースを増やす。チームが攻めにかける人数が相手の選手よりも多い。サポート体制が整うと、ボールを持った選手は選択肢が増える。そして心に余裕が生まれる。相手ディフェンスはパスコースを気にしながら、ボールを持っている選手と対峙する。当然集中力が散漫になる。よりゴールに結びつくための選択をしやすくなる。そこに加えてピッチ内の選手の声が覆いかぶさるように聞こえてくる波状攻撃。数的優位を常に作れることで相手を圧倒する。得点を重ねれば重ねるほど、相手チームのモチベーションが下がっていく。声が出なくなる。集中が切れ、切り替えが遅くなる。どこかで以前見たことあるような光景だった。蓋を開ければ予選リーグは全勝し、首位通過。こんな圧倒的な予選は初めてだった。夏はまだ終わらない。



竹松「リーグ戦突破!おめでとう!!ここまで本当に大変な思いをして頑張ってくれたみんなのおかげだ。次の決勝トーナメントまで、さらに今までやってきた練習をこなして、次に備えよう!上田キャプテン、何かあるか?」


上田「みんなお疲れ様!まずは予選リーグを全勝で突破できて、一安心しています。新しく目標を立てて、日々の練習に負荷をかけてきたり、対外試合を増やして、格上の社会人のチームと繰り返し試合をすることがいい結果につながったと思います。でもこれから決勝トーナメント。今までの相手とは比べ物にならないチームばかり。このままの進め方でいいのかな。マネージャーはどう思う?」


府中「そうですねー。ここまで順調ですね。今までの練習でチームの力が上がっていることは間違いないんですが、社会人チームに勝つにはどうしたらいいのかなぁ。社会人のチームに勝てなければ、決勝トーナメントに行っても、強豪相手には勝てない、もしくは苦戦を強いられます。今の自分達の力を分析する必要があると思います。勝てない理由を掘り下げた方が良いかと。」


上田「技術的にはかなり練習をこなすことで差が縮まった気がするんだけど。」


佐藤「うちのチームの攻めの大きな課題と思うんだけどさ、セットプレーを生かしきれないと思うんだよね。守備についてはロングシュートを打たれての失点が多い。上にいけばいくほど強いシュートを打つ選手がが多いから、遠目から打たれたら、なかなか反応できない。」


府中「監督、そこを対処する方法はありそうですか?練習メニューでも戦術でも良いので。」 


竹松「そうだな、セットプレーについてはフットサルのセットプレーは参考になるかもしれないな。セットプレーの数が10以上あって一つ一つが緻密だから、相手は分かっていても止められないことも多い。実さにフットサルをすることで技術的にもかなり上手くなるはず。ロングシュートについては対人を鍛えることが最短の方法な気がするんだけどな。対人のディフェンスが強くなれば、当然シュートを打つチャンスは減る。そもそも遠目からはシュートを打てないはず。」


府中「決勝トーナメントまでまだ1ヶ月あるので、目標を少し変更して[決勝トーナメントを勝ち抜くために社会人チームに勝てるようになる]に変更して、具体的な練習メニューに落とし込んで評価して行った方がいいかもしれません。実際にはその先の目標で全国大会出場があるのは言うまでもないですが、より具体的に実現可能な目標をその前段階で短いスパンで刻むことで練習内容が変わると思います。」


上田「そうしたら、攻めはフットサルを通じて①セットプレーの強化②技術の向上をしていく。守りは①引き続きロングシュートをうける②対人強化。当面、中学生への指導の部分を社会人チームとの練習試合に当てて取り組んでいくのはどうかな?みんなどう思う?」


一同「賛成!」


上田「よし。じゃあ早速役割分担を確認しよう。先生は中学校へ連絡、社会人チームに打診お願いします。鈴木、斎藤、浅見、佐藤はぞれぞのポジションでミーティングしてそれぞれに軌道修正した部分を共有。その後、全体で戦術やシステムの確認。マネージャーは日々のロングシュートの本数と失点のスコアを業務に追加。あと夏場で足を攣る選手が増えているからスポーツドリンクの濃さを調整してほしい。」



さて、順調に予選リーグを勝ち進んだサッカー部ですが、このままの練習や戦術でやっていくと勝てないという自覚が出てきました。
そこで目標の軌道修正をしています。
このままの計画で全国大会出場のための練習メニューよりも、少し目先の部分の目標に対しての到達度が低いので少し直近の目標に対し、どのように取り組むかを話し合うことにした結果、新しい取り組みや練習内容の修正、力を入れたいところの頻度を増やすなどしています。
そしてこれは一人で決めているのではなく、みんなに合意形成をしていますね。

僕たちの仕事の中でも居宅サービス計画に対し、現状を確認、評価したときに軌道修正を図る場面に皆さんも遭遇することがあると思います。
なぜ目標達成ができないのか?
目標の現可能性が低いのか、計画自体が理にかなっていないのか。
本人、家族、多職種で話し合い、改めて計画を変更したり、サービス内容、頻度を見直す。一度決めた計画はあくまでその時点での計画です。よって、そのように適宜、軌道修正が必要ということですね。


試合終了

1ヶ月はあっという間に過ぎた。

結局社会人チームに勝つことは、一度もなかった。しかし、初めて試合をした時に比べ差が縮まったのは明らかだった。得点が増え、失点は減った。セットプレーからの得点は増えたし、ロングシュートでの失点も減った。取り組んできたことは無駄ではなかったのだ。そして夏の本大会がスタートした。


35度を超える猛暑の中、一回戦がはじまった。

ホーヤ高校は本大会に出たことがなかった。初めて予選リーグを勝ち上がったのだ。誰一人としてこんなにも早く結果が出るとは思わなかっただろう。中には本大会初出場で初優勝ができると本気で思っている選手もいた。

チームの雰囲気は実際にとてもよく、コミュニケーションも良く取れていた。個々の力はまだまだだったがチームの総合力が高かったのだ。

初戦の相手はうちを同じく、本大会初出場のチーム。

試合は一進一退だった。

今までやってきたことを一つ一つ確かめるように、セットプレーからの得点、ロングシュート2点。守備の練習と思ってやっていたロングシュートの練習は、攻めの強力な武器になっていた。

しかし相手も予選を突破していきた強者。同点に追いつかれ、最後は逆転を期した。     



「ピッピッピッー」


 試合終了ーー


 そして、それは新たな始まりの意味でもあった。




 翌年の夏、彼らは東京都大会を優勝し全国大会出場を果たす。


 夢は終わらない。


 新たな始まりなのだ。


あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございました。

僕らの仕事は介護保険で要介護認定を受けている方が対象です。そのため、目標を立てて、それを一つずつ着実にこなし、目標達成!困りごとがなくなったので卒業します!という風になかなかいかないのが現実だと思います。それでも日々の生活の中で支え、支えられ日常の営みをしっかりと行っています。中には絵に描いたようなサクセスストーリーでリハビリを頑張り、仕事復帰をするといった方を担当した方もいらっしゃるかと思います。目標を達成したら、それで終わりでしょうか?違いますね。その時点でさらに新たな目標となる願いやそれを阻害するものが出てくると思います。逆も然りです。目標が達成できなかった場合、今回も達成できなかったね。次回も同じ目標で達成できるように頑張ろうね。ではなく、その時は改めてアセスメントですね。情報収集し、原因分析をしましょう。アローチャートが皆さんが誇りを持っている専門性を可視化し、アセスメントにも本人が主体的に関われる一助なっていることを切に願います。

ここまで読んでくださった皆さんなら大丈夫ですよね。
拙い文章にお付き合いいただきありがとうございました。


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