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⑻◯と□と↑とギザギザ

府中「では、ホワイトボードに今までのところの情報同士の関係性を描いてみますね。チーム、選手のモチベーションが下がっている。その原因としては実績がなく、人気がないため選手層が薄い。他にも練習をしないから連携やパスワークにミスが出て、失点に繋がる。点も入らないため試合には勝てない。さらにモチベーションが下がると。点が入らない理由として、練習しないから体力が低く、走り切れずに攻め人数がかけれず、シュートが打てない。そもそも練習していないので技術が上がらずシュートの精度が低い。だいたいこのような整理でした。しかし、点も取りたいし、失点も少なくしたいという気持ちはあるわけです。当然試合に勝ちたいからです。アローチャートではこのような図になります。」(挿図)


竹松「この◯と□と↑にはそれぞれ意味があるんだよな?なんとなく◯は事象で□は気持ちに見えるな。↑は繋ぐための接続詞か?ギザギザしたのは・・・?」

府中「先生、大体のところはいい線いっています。さすが数学の先生。図とか記号には敏感なんですねぇ。まず、◯は誰がみても変わらない事実です。写真にできるものなんて言い方をします。ここでは失点や得点が入らないというのはわかりやすいですね。試合に勝てないという事象に対し、点が入っている、失点しなければ試合には勝っています。他についてもシュート精度が低くなければ点になりますし、パスが通ればミスにはならないし、相手ボールにもなりません。相手もボールにならなければ失点しませんね。」

竹松「なるほど。この↑は『ので』とか『だから』と読めそうだ。」

府中「そうです!ここでは時間の流れと思ってください。ちょっと難しいですがアローチャートという手法は、その瞬間を切り取ります。瞬間を切り取るので時間は止まっていますが、因果関係を示す時間の流れがあります。前に話した結果には原因があって、その原因にも、その状態になった原因があると考えていく。と、そこには少しでも時間の流れ、つまり由来があるということです。由来関係とここでは言いましょうか。」

竹松「そうすると◯→◯→◯には因果関係がある。その先にある□は気持ちに見えるが関係はあるのか?しかもギザギザで繋がっている。」

府中「まず、ギザギザについては、しかし、けれども、といった逆接で読んでいきます。抗うという言い方でしょうか。そしてその際には□の主観的事実がついています。主観的事実は感情、考え、価値観です。3Kですね。主観的事実を取り扱うときには視覚で表現します。」

竹松「なるほど。そうやってみてみると◯はネガティブな情報に見えるが、その解釈でいいかな?」

府中「いいところに目をつけましたね!その通りです。→は順接で読むと言いました。そしてギザギザは逆説と。その流れで一つの◯→◯ギザギザ□を読んでみてください。」

竹松「実績がないので、人気がないので、選手層が薄いので、モチベーションが低いので、練習が少ないので、体力がないので、走力がないので、攻められないので、シュートが少ないので、得点が入らないけれども、点を入れたい。」

府中「そうです。でも『ので』『ので』がわかりにくいので、少しわかりやすく文脈にします。弱小チームで人気がないことから選手層が薄く、モチベーションが低下している。そのため練習量が少なくなり、走り切って攻めるだけの体力がない。その結果シュートが打てずに点が入らないが、点を決めたいと思っている。ということですよね?」

竹松「そう!わかりやすくなった!」

府中「大切なことは、□の願いは、叶っていないから願いだということ。そして願いが叶っていないのは阻害要因があるということです。つまり、願いと阻害要因は1セットだということです。」

竹松「願いと阻害要因かー。点を取りたいけれど、取れない理由がある。失点をしたくないけれど、失点をしてしまう原因があるということだな。」

府中「そうです、そうです。でもこれって普通に私たちの生活でも当たり前にあるんですよね。先生は普段食べたいけど、食べれないものとかありますか?」

竹松「あるある!カツ丼は3食食べても、飽きない。でも3食食べていたら揚げ物まみれで動脈硬化で倒れちゃうからな。」

府中「カツ丼は毎食でも食べたい。けれど健康を考えると食べられない。」

竹松「そう!そういうこと!」

府中「こんな風に私の生活の中にも普通に願いとそれを阻害している要因がセットになって、帳尻を合わせて折り合いをつけているってことですね。ここでは出てきていませんがもう一つ使う記号があります。それは線(棒)です。これはまたの機会に説明しますが、はっきりした因果関係があるかはわからないけれど、何かしら関係がある。というときは線で繋いでおくと、なんとなく頭の片隅に置いておいてください。」

いかがだったでしょうか?アローチャートの基本について説明をしてきました。アローチャートは図と記号を用いて、頭の中の思考過程を可視化するものです。使う図と記号は至ってシンプルです。一つずつ改めて確認しましょう。またルールについても触れていきます。

①客観的事実
利用者が実際に体験したこと、過去に起きた出来事、環境など誰がみてもそうである事柄をいいます。例えば、[歩行不安定][体重減少][段差][脳梗塞]といったものです。

ここでは疾患についても触れていますが、疾患については診断を受けているので実際に体験したことですね。

他にも、リスクがある場合には!をつけたり、既になったことがあり、再発や再度起こりうるリスクがある場合は‼︎と表現します。

事実であるか確認が必要な場合には?をつけることもあります。推測を含む表現です。

②主観的事実
感情、考え、価値観といった、利用者が体験した事柄について、利用者がどう感じたりしているか、どう考えるか、その人でなければわからない事柄のことを言います。
例えば[うれしい][自宅で暮らしたい][ひとの面倒にはなるべきではない]といったものです。この□にはできるだけ、その人が語ったように書き入れます。

③→(矢印)
小説の中でも書いてありますが→には時間の流れがあります。
[ので]のように接続詞の役割です。AなのでBの場合はA→B、BなのでAの場合はB→Aと描きます。この→でつなぐ情報は基本的には客観的事実同士を繋ぎます。

④ギザギザ
逆接の接続詞の役割です。相容れない関係を表す記号です。ギザギザで繋ぐ情報の組み合わせは3通りあります。
[主観的事実と主観的事実]:例「たべたい」けれど「食べたくない」
[主観的事実と客観的事実]:例「外出したい」けれど「外出できない状況にある」
[客観的事実と客観的事実]:例「買い物はできない」けれど「ネット注文はできる 。」
ここでは、それぞれの関係が[ADLとIADL]、[ADLと改善可能性につながる情報(福祉用具の利用等)]というような、改善の可能性を探るような関係にあるときにのみ使います。
後ほどもう少し詳しく述べますがここで出てくる[主観的事実と主観的事実]が抗った状態のことをアンビバレント(両価感情)と呼びます。
気持ちと気持ちが拮抗して身動きが取れない状態です。
僕たちも普段からこのような状態に悩まされることがしばしばあります。
両価感情とは言葉の通り、どちらにも価値があるということです。どちらかが自分にとって価値がなければ、悩まずにもう一方を選択しますよね。先生が言っている食べたいけど食べたくない。ここには、表面的な言葉には見えない、背景がありそうですね。

⑤意味づけ、背景
例えば「体を動かしたい」と利用者が考える背景には「体を動かすことが健康を保つには必須だ」という利用者の考えによる場合があります。
他にも「毎日風呂に入りたい」という考えには「昔から母親に綺麗にしていないと人から嫌われるよと言われて育った」という背景があるかもしれません。
このように物事の背景にはその人なりの意味づけや背景が存在します。
ある状況に対し、因果関係があるとは言い切れないが何かしらの関係があると思われる場合に、[主観的事実、主観的事実]、[主観的事実と客観的事実]で繋ぎます。

⑥対処は描かない
実際に描いていくと客観的事実について悩んでくるところがあります。
例えば頭痛という客観的事実に対し、服薬という客観的事実をいれるなどです。
ここでいう服薬は対処ですね。他にも通院、手術、なども同様です。
少し複雑な部分なのでここではさわり程度にしますが、対処により本人の生活にマイナスな面が出ている場合は客観的事実として取り扱う場合があります。服薬が過剰で副作用により何かしらの困りごとにつながっている場合などです。

⑦ポジティブな情報(+)、ネガティブな情報(−) 
描いている途中や、書き終わったときに、このつながりで良いのかな?と迷うことがあります。そのときには情報を本人にとってポジティブな情報か、ネガティブな情報か確認しましょう。
先ほど→は順接であると書きました。
文脈で読んだときに順接であれば、(−)→(−)→(−)となり意味が通じますが、(−)→(+)→(−)となると文脈で読むと意味が通じなくなります。具体的な例で見てみましょう。脳梗塞(−)→右麻痺(−)→歩行不安定(−)→外出ができない(−)となります。これは文脈としては違和感はないと思います。

一方、味覚障害(−)→食事量が増加(+)→低栄養となった場合に、味覚障害と低栄養の間に(+)の情報が入り文脈が変になっています。

このように+と−を確認することで文脈に戻して文が成り立つか確認することができます。もし文脈に戻した時に違和感があれば、アローチャートを再考するチャンスかもしれません。
またギザギザで繋がれている場合は(+)と(−)の関係になります。
接続詞が「けれど」で逆接だからです。そのようにチェックをしていきますが、一つ注意することがあります。その情報自体が本当に(+)なのか(−)なのか?です。

食事量が増えることは、必ず(+)なのか?ということです。ここでは味覚障害と、低栄養の間に食事量増加が入っています。もし食事量増加の→の先にある情報が体重増加→膝痛であった場合は食事量が増えたことで膝への負担が大きくなったと捉えられます。

その場合、食事量が増えたことは(−)の情報ですね。このように取り扱い方で情報が(+)にも(−)にもなることには注意しましょう。

 


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