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佐野元春 The Heartland Session 1987➕

Dear Mr.Songwriter Vol.17

  今回は、1989年にロンドンのミュージシャンと作った『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』をリリースする前、アルバムとして形にはならなかった東京でのThe Heartlandとのレコーディングの音源(後に様々なコンピレーション盤に収録される)があるので、そこにスポットを当てていきます。


1.サンデーアフタヌーン Sunday Afternoon   ブルーベルズ M.74

Rec.Date 1987 .5

 元春がFM東京(現TOKYO FM)において1987年の5月から1989年の3月までDJをしていたラジオ番組"AJI FM SUPER MIXTURE"(スポンサーが味の素のためその頭文字。)のコーナーのひとつとして、AJIレーベル(associate Japanese Indipendentと気の利いた名前にしていた)を発足。
 毎月、インディペンデントなアーティストをプロデュースするという試みがあり、これはその第一弾の男女ユニット"ブルーベルズ"。
 素性を明かさない謎の2人組というふれ込みだったけど、リスナーのみんなは元春と石川ひろみ(ROMY)という事で承知の事実でした。

 「シーズン•イン•ザ•サン」の続編というような、ネオアコースティックな曲調と、ラジオの時間が日曜日の午後3時ということもあって、レイジーでピースフルな世界が広がっている。

 1989年8月にM'sファクトリー•レーベルから『mf VARIOUS ARTISTS Vol.1』としてまとめてられた。

2.ブッダ BUDDHA   M.75

Rec.Date 1987.6.22

 リリックに関しては、1992年リリースの『Sweet 16』に収録された「ハッピーエンド」のプロトタイプと言っていい楽曲です。

 "言葉より遥か 深い河流れてる"
「ハッピーエンド」にはないリリック。どうしても言葉にできない気持ちを表していているような、とても好きなライン。

 "アジアの恋人たちのためのラヴ•ソング"ということ。東洋的なキーボードのフレーズが印象的。
 ダブル•ヴォーカルに強めのエフェクトをかけている感じかな。
 
 2000年リリースの20周年記念盤『GRASS』に収録されました。

3.ディズニーピープル Disney People M.76

Rec.Date 1987.6.23

 ディズニーランドにインスパイアされた楽曲。そう考えると、"Jumboly Tuesday"はジャンボリー•ミッキーを連想しちゃう。
 こちらもリリックは『Sweet16』に収録されることになる「エイジアン•フラワーズ」のプロトタイプ。
 nananana〜のフレーズは「ポップ•チルドレン」ぽい。
 
 ここでもアラビア、ジャカルタ、ベトナム、チャイナ、エルサレム、TOKYOのディズニー•ピープルと歌っているのは、すべての境界線がぼけていく世界が見えるようでもある。
 
 この楽曲も2000年リリースのコンピ盤
『GRASS』に収録されました。

4.水の中のグラジオラス M.77

Rec.Date 1987.6.24

 『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』からシングルカットされた「シティチャイルド」のカップリングとしてリリース。
 水が入ったグラスの中のグラジオラスが見ている世界を表現していて"形の崩れた窓辺に"というリリックが出来上がる。
 
 ROMYのコーラスは、とてもよいアクセントになっていて聴き惚れてしまう。
 
 最終ヴァースでは歪んだギターの音とともにSWITCHに連載していた散文詩『エーテルのための序章」の冒頭部分をリーディングしています。

5.シティチャイルド City Child   M.78

Rec.Date 1987.6.25

 『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』収録の楽曲のザ•ハートランド•ヴァージョン。
 長田進のギターをフィーチャーしたハード•ドライヴィングなグラム•ロック•アレンジになってますね。
 
 ロンドン•セッションにはないリリックは"人ごみをぬけて自由な世界へ 永遠に君と祈ろう"

6.自由の岸辺 La Costa Libre   ブルーベルズ M.79

Rec.Date 1987.8

  AJIレーベル、ブルーベルズの第二弾として1987年9月に発表された楽曲。
 ベースとドラムは編成にないけど、パーカッションとオルガン、キーボードが心地よいグルーヴを作りだしている。
 自由の岸辺は何処にあるのか?

 2018年5月にTHE HOBO KING BANDとレコーディングしたセルフカバーアルバム『自由の岸辺』がリリースされる。

7.ブルーベルズのサマー ブルーベルズ Summer M.80

Rec.Date 1987.7

 ブルーベルズ名義としては、3曲発表されている今のところ最後の曲(1988年6月)となってますね。続編希望!
 
 この楽曲は聴いた瞬間から大好きで、夏の終わりに聴くとぴったりなんだよね。
 
 メロウなビートが心地よいブルーベルズ版AORという感じの仕上がり。
 
 "夕立に子供の声 どこからか聴こえてくる"
ここがとても好きなライン。

8.モスキート•インターリュード  

Rec.Date 1987.8.12

 ザ•ハートランドとのレコーディング中にあるメンバーのパートに時間がかかっていて待ち時間に作った本当に蚊がなくような小作品。
 
 後に『マニジュ』収録の「青い鳥」としてリリースされる。

9.新しい航海 M.81

Rec.Date 1987.9.4

 ロンドン•セッションと東京のザ•ハートランド•セッションの違う点は、英語をなるべく日本語にしているという事が挙げられる。
 
 "for you"は、"君に" バラ色のBLUE 偽りのTRUEは"バラ色のブルー 偽りの真実"に。
 "ワイヤレスにメイクラブ"は「愛のシステム」にもでてくる"愛はフラスコの中"と同じ意味なんだろう。
 
 2008年の『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日 限定編集盤』に収録。

10.おれは最低 M.82

Rec.Date 1987.11.9

『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』は基本的にロンドンのミュージシャンの録音なんだけど、このハートランド•セッションの音源が収録されたのがこの楽曲。詳細は『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』の時に。

11.風の中の友達  M.83

Rec.Date 1987.11.10

 シングル「警告どおり 計画どおり」のフリップ•サイドに収録されて、隠れたナンバーとしても人気がある印象があります。
 
 リリース前に1987年〜1988年の"PISCESツアーで披露されました。
 
 少し寂しげなギターリフとピアノのフレーズに乗せて少し力を抜いたヴォーカルが優しく響く。
 
 この中で歌われる寄り添う姿勢と慈悲の心は元春ソングライティングの重要な位置をしめているように感じます。

 ザ•ハートランドを解散しようとして、メンバーに向けて作った曲。

12.愛のシステム M.84

Rec Date 1987.11.11

 1988年のツアー"PIECES TOUR"で「風の中の友達」とともに披露された楽曲。
 
 シンセ?のサイケデリックなフレーズは『ナポレオンフィッシュ•ツアー』で聴かれたもの。
 
 ロンドン•セッションに比べてサイケ度が高くてこっちの方が好きってリスナー結構いますよね。
 
 こちらも2008年の『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日 限定編集盤』に収録。

13.君が訪れる日 M.85

Rec.Date 1987.11.12

 シングル「約束の橋」のフリップ•サイドに収録。
 
 アコースティック•ギターの響きがとてもいい。ヴォーカルの重ね方も工夫を凝らしている。最終ヴァースでは、テープの逆回転を使ってサイケデリックな趣きをだしてますね。
 サウンドの構想としては、ビートルズの『リボルバー』を再評価していたという事。


14.双子のコマドリとゴールデンフィッシュ ブルー M.86

Rec.Date 1987.12

 コックの見習い中だった?ブルー。ギターとサックス以外はシンセ•キーボードとシンセ•ドラム、シンセ•ベースをブルーが多重録音している。
 
 コーラスにはハーランドのメンバーと元春のライヴのオープニング•アクトも務めたシェイクスがクレジットされています。
 
 "ここはチョコレートファクトリー"
 子供たちに向けられた言葉。
1987年THIS No.4に発表された詩「Street Meeting」にも出てきていました。
 チョコレートはヴァニティとは真逆で、真実の象徴なのかな。
 ちなみに、番組への問い合わせが多かったのは、こまどり姉妹と関係あるんですか?ということだったみたい(笑)

警告どおり 計画どおり M.87

警告どおり 計画どおり
C/W 風の中の友達
1988.8.18
Produced & Mixed Moto'Crocodile'Sano
Engineered by 阿部保弘
Photo 上田義彦
Art & Design 駿東 宏
オリコンチャート最高位9位


 バービー•ボーイズのイマサ、"いまみちともたか"とトリオ•バンドthe REDS(大平太一 ギター藤原和美 ベース 杉山靖幸 ドラムス)とレコーディングした反核、反原発についての楽曲。

 今までやったことのないミュージシャンとせーのの一発録りがしたいということで、元春とみんなでヘッドアレンジをして一日でレコーディングされた。

当時は国内でも原発問題が取り沙汰され、その是非が集中的に討論されはじめたころ。僕のファンの世代でも、確かな関心を持っていた。つまりこの曲はそんなリスナーに向けて問いかけるようなつもりで書いた。
音楽は時代を映す鏡のようなもの。突発的に起こった社会的なイシューに、間髪入れずポップミュージックが反応していく行為は極めて健康的だと思う。
ただ聴き手はそうしたアーティストのアクションにどう反応していいいか戸惑っていたようだ。
それ以来こうしたトピックソングを書く時には、みんなが戸惑わないように工夫するようになった。

佐野元春を成立させるクリエイティブのかけら
ぴあ 連載 2020.10.24

 この曲に関しては表現が直接的すぎたとも語っていました。
 そしてこのレコードリリースに関しては、いろいろなところから圧力がかかっていたのを後から知ることになる。

 DJをしていた番組"Super Mixture"1988年6月5日放送分において、アトミック•パワー•ジェネレーション特集 -私は勉強よりスパゲティが好きです-と題して反原発についての曲を流した。
 それもこの曲を作成しようとする要因にもなったのだろう。
 この特集が原因かどうかは言及していないけど、数ヶ月後にスポンサーが味の素からL&Mというタバコの会社がスポンサーに変更になったりしました。
 
 アナログ•レコードからCDへの変換の時、これが最後の7インチ•シングルになるという事で、最後の抵抗として、ピクチャー•ディスクにしたという経緯があります。

 そして、ある意味ノンコンセプトで行われた半年に渡るレコーディングを一旦終了する。
 ここで、よりよい成果を得るために、ロンドン•セッションが決定し、アルバムを制作することになります。
 
 今回はここで終わりです。最後まで読んでくれてありがとうございます。
 ではまた!


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