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詩人としての佐野元春

Dear Mr.Songwriter Vol.25

先日6月5日に配信リリースされた「Young Bloods New Recording 2024」では、コヨーテ•バンドと新しい解釈によって躍動感のある素晴らしいテイクでしたね。

変化は音だけではなく歌詞もアップデートされていました。

そこで今回は今までにアップデートされた楽曲を振り返りながら音楽としての詩、活字としての詩などを検証していこうかと思います。

過去には、ホーボー•キング•バンドと2枚のセルフカバーアルバムをリリースしてるけど、腕利きのバンドメンバーによるアーシーでブルース色が強い楽曲が並んでいます。

その中には歌詞を少し変えている楽曲も何曲かありました。例えば、2011年にリリースされた『月と専制君主』収録の「夏草の誘い」では〈汚れを知らない小鳥のように〉を〈言葉を知らない小鳥のように〉と日本語をそのまま変えてあるのもあれば、「日曜の朝の憂鬱」では〈Sweet Little Girls 〉を〈ちいさな娘〉と英語を日本語に変えているものもあります。

そしてもう一枚のセルフカバーアルバムの『自由の岸辺』ではもう少し過激に変化しているものもありました。「最新マシンを手にした子供達」においては〈君はビデオフィルムのエンドマークを探してる〉が〈君はグーグルの検索窓を探してる〉に変わっていました。

初期の作品、特に街3部作といわれたアルバムでは確かに英語まじりの歌詞が多くそれも魅力のひとつではあったんだけど、おそらく『ヴィジターズ』作成の為にニューヨークに滞在している時は必然的に英語で会話をしている訳で、そのあたりから日本語に対する意識が変わってきたのかなって思います。

それが顕著になったのが89年リリースの『ナポレオンフィッシュと泳ぐ日』ですよね。意識的に日本語で作るロックンロールとして言葉を乗せていったのだと思います。

そしてこの「Young Bloods New Recording 2024」での変化はまず、冒頭の〈静かな冬の〉が〈静かな街の〉に、〈この街のニューイヤーズディ〉が〈この胸の葵い信念〉になってますね。
これに関しては考えてみれば、どうしてもお正月を連想してしまうので、普遍的に響かせるという意味ではよかったんではないかなって感じています。
ニューイヤーズディ🟰新年を信念にしてあるなぁなんて思ったりして。
〈Let's Stay Together〉は〈夜明けと滲んで君と行く〉に。アル•グリーンから続く"一緒に行こうぜ"という連帯の歌だと思うんだけど、これは素晴らしいですよね。滲んでという表現は元春の楽曲の中でおそらく初めて出てくるフレーズで、これまた発明級の詩だと思う。
この「Let's Stay Together」ってフレーズは大好きな一節なんだけどね、なくなって少し寂しいなと思ってはいたんだけど、何回か聴くうちに、あまり気にならなくはなったかな。日本語が持つ情感をうまくビートに乗せてますよね。

この楽曲をこのタイミングで再録したのは〈争ってばかりじゃ 人は悲しずぎる〉というのが大きかったんじゃないかなと。

少し飛びますが、ここに『佐野元春 音楽詩集 1980-2010』という書籍があります。

これは生涯学習のユーキャンから出ている『佐野元春 SOUND & VISION』という5つの時代に分けたボックスセットに収録されている音楽詩集になります。
デビューから2010年までの楽曲の中から選ばれた80遍の詩が掲載されていて、詩集として、活字として定着した詩というコンセプトで元春自身が少し手を加えています。英語を日本語に変更されているのが少なくありません。特に初期の作品において。

ここにユーキャンのHPにも乗っている「街の少年」という詩を紹介させてください。

街の少年

まぁこれは「ダウンタウンボーイ」なんだけどね。
音楽の中には日本語と英語が混じっているんだけど、それよりも言葉が音楽に乗って機能しているかという事を優先的に考えて作っていると。
これが音楽詩集として活字だけになると、言葉が機能しているかどうかの検証が必要であると、その作業のひとつてして詩をリライトしているという事ですね。
英語のままのもあるし、日本語に変わっているものもあります。

タイトルだけでもうわかっちゃいますよね。
この「至福と静寂」はあの有名な曲なんだけど、これに関しては小川洋子さんとの対談の中で「Happiness & Rest」の部分、英語で逃げてしまったという若干の苦味を残していると語っていました。そして考え抜いて行き着いた言葉はこの「至福と静寂」なんだという事を告白していました。

とても興味深い内容になっているので、機会があれば読んでみてください。

そして詩として気になる楽曲でいうと、『THE ESSENTIAL TRACKS 2005-2020』の「君が気高い孤独なら」に記載されている冒頭の詩です。そこにはこうあります。「あんたはそっぽを向いていたから」これは「街の少年」の〈ねえ、いいかい〉に繋がるところがあると感じるんだけど、どうだろうね。

さて、詩人としての佐野元春。今回の「Young Bloods 2024」を聴いて音楽の詩も活字による詩も、もう、そういう境界線を超えていってしまう表現をしていく。そんな意思も感じている今日この頃です。
他の楽曲はどんな感じに仕上がっているんでしょうかね?楽しみの一つでもありますが、
あとはやっぱり新作を聴きたいですね。その時にでてくる詩がどの様なものなのか興味はまだつきません。

最後まで読んでくれてありがとうございます。
では、また!

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