Dear Mr.Songwriter Vol.6
SOMEDAY 佐野元春
今回のジャケットは、前2作のブラック&ホワイトからカラー写真になってます。アートワークを手がけたのは、YMOなど数々のアルバム•デザイン手がけている奥村靫正。カメラマンは三浦憲治。EPICとしては社運を賭けているという事もあり、元春自身は不本意だったみたいですが、動き出した歯車は止められずこのジャケットに。後に認めてはいるけど気に入ってはいないと語っていたけど、だんだん好きになってきたっていう発言も。2022年の"Where Are You Now" ツアーの時、ちょうど40周年の『SOMEDAY』収録曲を演奏する時バックに大きくジャケットを映していたから、好きになってきてるのかもしれないね。歌詞カードと呼ばれるものは自作48頁手作りポケット•ブックという凝ったもの。自分の場合はどうしても作ってみたくなり作ったけど、後にそのままの状態でも持っていたくなり買い直しました。今流通している中古のレコードはこれがない場合があるので要確認ですね。
ときどき"ロックンロールしてない"って妹さんに言われてしまう元春。このアルバムはどういう感想だったのかな。
3枚目のアルバム『SOMEDAY』は1982年5月21日にリリースされます。今作から元春のセルフ•プロデュース、銀次さんは「ちょっと心配だからそばにいてほしい」という事でコ•プロデュースという形。前2作と比べるとまず音の厚みというか、鳴っている音が断然違いますね。これはエンジニアの吉野金次さんの力も大きかったのだと思います。
1.Sugartime M27
アルバムから1ヶ月先駆けてシングルリリース。B面は「WONDERLAND 〈WALKMANのテーマ〉」オリコンチャートは最高位77位。ブレイクのところの囁きはシングルは"I Love You"アルバムだと"I Need You"になっています。
原題は「エレファント•マン」だったそう。当時の関係者の証言によると、歌詞はかなり過激な内容だったみたいだね。ディレクターの小坂さん、銀次さんとディスカッションをして、3回書き直されている。そしてでてきたのが、"Dance! Dance !Dance!"という明るい感じに、これはこれで銀次さんはずっこけた、どうしたのって。それに対し元春は「自分の肉親や音楽に詳しくない友達が歌える曲が僕にはない。この曲をそういう曲にしてみようと思った」そして「日本語が持っている語感の楽しさが曲の中で飛び跳ねるような、そういう今までにないような日本語の響き方をするリリックを書いてみようと考えシフトした」と語っている。確かに歌ってると気持ちいいもんね。「実はこの曲で一見、ポップ•チューンに聞こえるけど、なかでちゃんと主張がある•••••というスタイルにしたい」という元春の言葉でこの曲の方針が決まり、"エブリバディ ひとりだけじゃ闘えない"というフレーズを書きたして完成された。イントロのリフのフレーズは、ドンカマチックというリズムマシンでサンプリングをしてループ感をだすという実験もしている。"何かが間違ってるのさ〜からのコーラスが入り、い!つの頃からか〜の、い!のアクセントかなんとも好き。そこからの杉さんのコーラスが入り、そしてブレイクの囁きのところは自分的ハイライト。the pillowsの山中さわおさんもフェイバリットにあげており、(初めて買ったロックレコードはSOMEDAYみたいです)元春主催のイベント、THIS'98でも素晴らしいカバーを聴かせてくれました。大滝さんはこの曲の存在を知っていたなら、『ナイアガラ トライアングルVol.2』のA面一曲目になっていたなんて発言も、大滝さん!もうこれ以上とらないで(笑)って感じだけど、魅力的な曲が多すぎるって事だもんね。
2.Happy Man M28
アルバム発売後8月にシングルカット。B面は「マンハッタンブリッヂにたたずんで」
「それまでの日本にない、ストリートに放たれたロックンロール•ソング。それをレコードに定着させるために、友達をみんな呼んで。サビのフックのところを合唱させたんです。」と語っている。
“アスピリン片手のジェットマシーン" "タフでクールでヒューマンタッチ"なんてイカしたフレーズに"世界中のインチキにAi Ai Ai" "ただのスクラップには、なりたくないんだ"というラインも強烈なインパクトを持っている。
「SOMEDAY」では鳴っている楽器にディレイを使っていたが、ここではヴォーカルにディレイを使ってより重厚なミックスになっている。
なお、渡辺省二郎リミックスによる99 mix versionではヴォーカルは中央にされソリッドな感じの仕上がりに。2020年の3枚組ベストにはこの
ヴァージョンが収録されているので元春自身、現在はこちらがお気に入りなのかもしれない。
ディレクターの小坂さんからこんな証言も。
確かに!2回目のAi Ai Aiは弾けてるんだよね。
3.Down Town Boy M29
シングルはアルバムに先行して1981年10月21日にリリース。これはアルバム用に新録したヴァージョン。シングルは別物と考えた方がいいと思うので改めて。
この詩の"主人公達は皆、立ち止まっているんだよね"と評したのは銀次さん。確かにそうなんだよ。少し寂しさを感じてしまう。街の歌には間違いないんだけど、疾走していた彼や彼女がここでは、何かを喪してしまっている。それは"すべてをスタートラインに戻してギヤを入れ直してる君"や"オールナイト•ムービー 入り口の前ではくわえタバコのブルーボーイ"だったりするのだろう。"本当のものより、きれいなウソに夢を見つけてるあの娘"は「ガラスのジェネレーション」において"君の幻を守りたい"と思ったあの娘かもしれない。アレンジは元春曰くウェルメイドなつくりになっている。Boyfriend〜から始まる大サビの部分はスペクターなドラミングとストリングスの絡みにいつもゾクゾクする。
2010年に発売された別冊カドカワにおいて、30周年へのメッセージ。一番好きな曲としてあげている片寄明人さんのコメント。片寄さんらしい選曲だなってずっと思ってます。
4.二人のバースディ M30
跳ねるドラムとベースそしてサックスとピアノの絡みがなんとも心地よい。派手なアレンジがない分、ヴォーカルに焦点を合わせていて魅力的な歌声を改めて発見できる。プリティ•フラミンゴスのコーラスも華があっていい。こういう歌はハッピーになれるね。曲自体はアルバムリリース前、デビュー当時のライヴではすでに披露されており、ファンからの要望もあってレコードになった。ピアノのタッチなどベン•シドランの曲にインスパイアされている感じがします。
Ben Sidran
Song For A Sucker Like You 1977
5.麗しのドンナ•アンナ M31
フィル•スペクターがプロデュースしたライチャス•ブラザーズみたいな感じを一人でできないか、そして教会の中で響かせるような曲として作ったと語る。特定の宗教を信じる事はないけれど、プロテスタント系の学校に通っていた事もあり、キリスト教的な世界観は当時の曲作りに影響を与えているかもしれないという。
この曲のエンディングが次の「SOMEDAY」に向けてのオーバーチュア(序曲)のような意識でミックスしたと語るのはエンジニアの吉野さん。これは素晴らしいです。当初は土屋昌巳さんのギター•インストゥルメンタルが「SOMEDAY」へのつなぎとして収録される予定だったが、色々な意見がありお蔵入りになる。このエンディングの神聖な響きが十分に役割を果たしているように感じます。
The Righteous Brothers
[You're My]Soul And Inspiration 1965
6.SOMEDAY
この曲に関してはVol.4で詳しくまとめてあるんだけど、そもそもこのフィル•スペクター•サウンドのアイデアはどこから来たのか。
これを改めて読むと大滝さんのレコーディングを見学する前にフィル•スペクター•サウンドの構想はあったと考えられます。エレン•フォーリーのこの曲は片寄さんのラジオ番組に出演した時に何回かオンエアしているから、馴染みがあるんじゃないかな。
Ellen Foley
What's a Matter Baby 1979
Meat Loaf
Bat Out of Hell 1977
7.I'm in blue M32
レコードなら、ここからB面のスタート。ジュリーに提供した曲のセルフカバー。『路上のイノセンス』での小坂さんの証言だとデビューアルバムのシングル候補として「アンジェリーナ」などと一緒にレコーディングされているトラックもあるようです。ギターの鳴りが心地よいポップ•ロック。アレンジもストリングスはなくドライな印象も受ける。かまわないで すきにさ、せ、て、のところがなんとも好きなところ。"without your love"のところはピーター•アンド•ゴードンの「愛なき世界」を連想しちゃうな。
Peter and Gordon
A World Without Love 1964
8.真夜中に清めて M33
とても美しい曲。この曲のイメージは最終ヴァースでの"星の降りしきる 8月のバルコニー"という箇所。星空の下に君と一緒にいるんだけど、手をさしのべようとすると、消えていってしまうような儚さ。そんな思いを打ち消すかのように"Midnight tripper"というシャウトは胸をえぐるようにこちらに迫ってくる。そして注目したいのはベースラインの美しさだろう。
The Beatles
Something 1969
9.Vanity Factory M34
直訳すると虚しい工場とでもいうのかな。まるで真逆な意味を持つ二つの言葉。工場を例えば他の言葉に置き換えてみる。国家、都市、街路、ここでの主人公はなにかとても苛立っているようも見える。叫ばずにはいられない感情とともに。
この曲もジュリーへの提供曲で、完全にジュリーをイメージして書いたと言うことなので、曲はカッコいいなとは思うんだけど、歌詞の面ではその世界に入りずらいような気が今でもしているのが正直なところ。
ここでの元春とジュリーのコーラスなんだけど、トラック•シートというものを見てみると、驚いたのは2人が同じマイクで歌っているんだってね。それは2人とも、負けちゃいられない!って感じになるよね。そして(MID ジュリー LOW 元春)(HIGH 元春 MIDジュリー)というようにふたつのトラックを同時に再生していると言うこと。これは吉野金次さんのアイデアだったそうです。これはすごい。
10.Rock & Roll Night M35
原題は「Rock & Roll Dreams」この壮大な組曲、ロック•オペラはThe Heartlandとともに一発録りされている。譜面は銀次さんが書いていたそうで、全部で6枚あったという。録音する前に、リズムもハーモニーも違うとても凝った曲なので、パートごとに練習して最終的にスタジオに入り、組み立てられている。この曲のドラムは古田たかしではなければ叩けなかっただろうと元春は語っている。
自分の体験になると、この曲はFMラジオで1時間の枠の中でライヴを流す番組があったんだけど、たまたま付けたラジオで初めて聴きました。しかも途中から、うわー、なんだこの曲は!なんて展開なんだ!ってかなりの衝撃をうけたのは鮮明に覚えています。それが「ロックンロール•ナイト」だと知り、こんな曲あるんだ!って。そりゃ驚くよね、しかも何も情報がなくいきなりおそらく"たったひとつの夢が〜"くらいから徐々に盛り上がる一番のハイライトのところだもん。理屈やうんちくなんか何も知らない状態で聴くのっいうのはかなりの無敵感があるんだよ。経験なんかなくね、あの時ラジオ付けたおれナイスだ。この8分31秒はいまだに長いって感じた事は一度もない。
ここでの元春はダブル•ヴォーカルが多い他の曲とは違いシングル•ヴォーカル。これによってより思いはリアルに伝わってくる。この曲のキーワードでもある"瓦礫の中のGolden Ring"のところだけ三度上のハーモニーをつけている。このラインはそれぞれが感じて謎解きをしていきたいところだと思います。
11.サンチャイルドは僕の友達 M36
「マンハッタンブリッヂにたたずんで」が『ナイアガラ トライアングルVol.2』に収録される事になり、もう一曲という形で作られた。元春のアコースティック•ギターを中心に、(コードチェンジする時のキュッキュッという音も鮮明に聞こえる)キーボードは明さん、コーラスは銀次さん、最初と最後のキックは小野田さんというメンバーで録音された。
そしてレコード盤には、こんな仕掛けも。
そしてこの『SOMEDAY』はめでたく、オリコンチャート4位に入りました!!ここからまた新しい物語が始まりスピードを加速して駆け上がり、ビートは永遠に響き続ける事になります。
最後までお読みいただきありがとうございます。
次回はアルバム未収録曲をまとめていきます。
#佐野元春
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