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Dear Mr.Songwriter Vol.6

SOMEDAY 佐野元春 

ART DIRECTION 奥村靫正
PHOTO 三浦憲治

今回のジャケットは、前2作のブラック&ホワイトからカラー写真になってます。アートワークを手がけたのは、YMOなど数々のアルバム•デザイン手がけている奥村靫正。カメラマンは三浦憲治。EPICとしては社運を賭けているという事もあり、元春自身は不本意だったみたいですが、動き出した歯車は止められずこのジャケットに。後に認めてはいるけど気に入ってはいないと語っていたけど、だんだん好きになってきたっていう発言も。2022年の"Where Are You Now" ツアーの時、ちょうど40周年の『SOMEDAY』収録曲を演奏する時バックに大きくジャケットを映していたから、好きになってきてるのかもしれないね。歌詞カードと呼ばれるものは自作48頁手作りポケット•ブックという凝ったもの。自分の場合はどうしても作ってみたくなり作ったけど、後にそのままの状態でも持っていたくなり買い直しました。今流通している中古のレコードはこれがない場合があるので要確認ですね。

2枚目のLPを妹に聞かせたんだ。そうしたら妹がその音がイカしてないっていったから、それじゃ3枚目では(プロデュースやディレクションを)全部僕がやるから見てろっていったんだ。
それで3枚目は全部自分でやったよ。妹にいいところを見せたかった。それだけだよ。

新譜ジャーナル 1982年7月号

ときどき"ロックンロールしてない"って妹さんに言われてしまう元春。このアルバムはどういう感想だったのかな。

三枚目のアルバム『サムディ』を作った時、これで僕の役割はおしまいだと思いました。一枚目でうまくいかなかった所は二枚目でクリアした。二枚目でうまくいかなかった点は、三枚目にぶちこんだ。だから「サムディ』は僕の二十三年間の結晶のようなアルバムになったんです。
 これでもし、多くの人たちに受け入れられないのであれば、僕はもう音楽を辞めようとと思っていた。せっぱつまっていた」

時代をノックする音 佐野元春が疾走した社会 山下柚実

3枚目のアルバム『SOMEDAY』は1982年5月21日にリリースされます。今作から元春のセルフ•プロデュース、銀次さんは「ちょっと心配だからそばにいてほしい」という事でコ•プロデュースという形。前2作と比べるとまず音の厚みというか、鳴っている音が断然違いますね。これはエンジニアの吉野金次さんの力も大きかったのだと思います。

僕が十代からその時までずっと蓄積してきたもの、それはソングライティングの方法からサウンドの形態からうたい方からすべて、をそこで出し切ってしまった。だから次にアルバムを作れるかどうかわからない、という不安はできたと同時にあった。恥ずかしい話だけれど、全部マスター•テープが完成して、頭からずっと聞いてって最後のところで、不覚にも涙を流してしまった。それはどういうものなのかよくわからないけれども、僕はとにかく、やることはやったと思った。その時は。••••••まぁ、いろんな人が言ってくれるとおり、『サムデイ』は初期の佐野元春の完成品だと思うし、この『サムデイ』で、ファンの人たちとしっかり何か約束できたような気がする

ROCKIN'ON JAPAN 1986年9月号

1.Sugartime   M27

Sugartime 1982.4.25
ART DIRECTION :YUKIMASA OKUMURA
DESIGN:THE STUDIO
PHOTOGRAPHY:KENJI MIURA

アルバムから1ヶ月先駆けてシングルリリース。B面は「WONDERLAND 〈WALKMANのテーマ〉」オリコンチャートは最高位77位。ブレイクのところの囁きはシングルは"I Love You"アルバムだと"I Need You"になっています。
原題は「エレファント•マン」だったそう。当時の関係者の証言によると、歌詞はかなり過激な内容だったみたいだね。ディレクターの小坂さん、銀次さんとディスカッションをして、3回書き直されている。そしてでてきたのが、"Dance! Dance !Dance!"という明るい感じに、これはこれで銀次さんはずっこけた、どうしたのって。それに対し元春は「自分の肉親や音楽に詳しくない友達が歌える曲が僕にはない。この曲をそういう曲にしてみようと思った」そして「日本語が持っている語感の楽しさが曲の中で飛び跳ねるような、そういう今までにないような日本語の響き方をするリリックを書いてみようと考えシフトした」と語っている。確かに歌ってると気持ちいいもんね。「実はこの曲で一見、ポップ•チューンに聞こえるけど、なかでちゃんと主張がある•••••というスタイルにしたい」という元春の言葉でこの曲の方針が決まり、"エブリバディ ひとりだけじゃ闘えない"というフレーズを書きたして完成された。イントロのリフのフレーズは、ドンカマチックというリズムマシンでサンプリングをしてループ感をだすという実験もしている。"何かが間違ってるのさ〜からのコーラスが入り、い!つの頃からか〜の、い!のアクセントかなんとも好き。そこからの杉さんのコーラスが入り、そしてブレイクの囁きのところは自分的ハイライト。the pillowsの山中さわおさんもフェイバリットにあげており、(初めて買ったロックレコードはSOMEDAYみたいです)元春主催のイベント、THIS'98でも素晴らしいカバーを聴かせてくれました。大滝さんはこの曲の存在を知っていたなら、『ナイアガラ トライアングルVol.2』のA面一曲目になっていたなんて発言も、大滝さん!もうこれ以上とらないで(笑)って感じだけど、魅力的な曲が多すぎるって事だもんね。

2.Happy Man  M28

Happy Man 1982.8.25
PHOTO by SATOSHI HAGA

アルバム発売後8月にシングルカット。B面は「マンハッタンブリッヂにたたずんで」
「それまでの日本にない、ストリートに放たれたロックンロール•ソング。それをレコードに定着させるために、友達をみんな呼んで。サビのフックのところを合唱させたんです。」と語っている。
“アスピリン片手のジェットマシーン" "タフでクールでヒューマンタッチ"なんてイカしたフレーズに"世界中のインチキにAi Ai Ai" "ただのスクラップには、なりたくないんだ"というラインも強烈なインパクトを持っている。

ラブリーなポップ•ロックで始まるので、2曲目の「ハッピーマン」は"ラブリーだけじゃないよ"と、その印象を打ち消すために一番攻撃的な音作りにしたんです。ボーカルには、1台しかないディレイを使いました。右側から出して、左に流してますね。"ただのスクラップにはなりたくない"というメッセージが、あの音作りの基になりました。

名盤ライブ『SOMEDAY』佐野元春 THE BOOK
吉野金次、かく語りき

「SOMEDAY」では鳴っている楽器にディレイを使っていたが、ここではヴォーカルにディレイを使ってより重厚なミックスになっている。
なお、渡辺省二郎リミックスによる99 mix versionではヴォーカルは中央にされソリッドな感じの仕上がりに。2020年の3枚組ベストにはこの
ヴァージョンが収録されているので元春自身、現在はこちらがお気に入りなのかもしれない。

ディレクターの小坂さんからこんな証言も。

小坂さんの曲だと言われたことがあります。長時間スタジオにこもっていて、疲れてくると佐野くんがビールを買ってきてくれるんですよ。こいつに酒飲ませておけば朝までいるだろうと思ってたんでしょうね。私はちょうどそのころ、何人かアーティストを掛け持ちで担当するようになって、以前ほど佐野くんのスタジオにいられないようになっていましたから。まだ30代でしたし、よくディスコにも行っていたので、スタジオにいないときはディスコで遊んでいると彼は訝しんでいたんじゃないかな(笑)。"仕事も適当に みんなが待ってる店まで Hurry Up, Hurry Up,って、まさにそう思っていたかもしれませんね」

名盤ライブ 『SOMEDAY』佐野元春 THE BOOK

擬音や具体音楽、意味のない言葉の使い方の中で、僕が一番好きなのは「Happy Man」だ。この曲で、僕は佐野元春の最も音楽的な瞬間を味わったような気がしているのだ。(中略)
リフレインのところに出てくる"冷たい夜さAi Ai Ai / 「気にしないの」とBig Fat Mama /世界中のインチキにAi Ai Ai"ってくだりは"I'm a happy man"って気分にさせてくれる。情けなくて泣き出しそうな1回目の"Ai Ai Ai"と2回目の無邪気さと力強さの交錯した"Ai Ai Ai"の表情の違いはどうだ。こういう音楽的な時に出会えるのが、音楽り聴く一番の楽しみなのだ。

別冊ind's Chart 03 1987 JUL-SEP
菅 岳彦

確かに!2回目のAi Ai Aiは弾けてるんだよね。

3.Down Town Boy  M29

シングルはアルバムに先行して1981年10月21日にリリース。これはアルバム用に新録したヴァージョン。シングルは別物と考えた方がいいと思うので改めて。
この詩の"主人公達は皆、立ち止まっているんだよね"と評したのは銀次さん。確かにそうなんだよ。少し寂しさを感じてしまう。街の歌には間違いないんだけど、疾走していた彼や彼女がここでは、何かを喪してしまっている。それは"すべてをスタートラインに戻してギヤを入れ直してる君"や"オールナイト•ムービー 入り口の前ではくわえタバコのブルーボーイ"だったりするのだろう。"本当のものより、きれいなウソに夢を見つけてるあの娘"は「ガラスのジェネレーション」において"君の幻を守りたい"と思ったあの娘かもしれない。アレンジは元春曰くウェルメイドなつくりになっている。Boyfriend〜から始まる大サビの部分はスペクターなドラミングとストリングスの絡みにいつもゾクゾクする。

バラードでもなく、アップテンポなR&Rでもない、この曲だけが持っているあらゆる感情を網羅した独特のムードに、初めて聴いた14歳の頃から魅了され続けています。

別冊カドカワ 総力特集 佐野元春

2010年に発売された別冊カドカワにおいて、30周年へのメッセージ。一番好きな曲としてあげている片寄明人さんのコメント。片寄さんらしい選曲だなってずっと思ってます。

4.二人のバースディ M30

跳ねるドラムとベースそしてサックスとピアノの絡みがなんとも心地よい。派手なアレンジがない分、ヴォーカルに焦点を合わせていて魅力的な歌声を改めて発見できる。プリティ•フラミンゴスのコーラスも華があっていい。こういう歌はハッピーになれるね。曲自体はアルバムリリース前、デビュー当時のライヴではすでに披露されており、ファンからの要望もあってレコードになった。ピアノのタッチなどベン•シドランの曲にインスパイアされている感じがします。
Ben Sidran
Song For A Sucker Like You 1977

5.麗しのドンナ•アンナ M31

フィル•スペクターがプロデュースしたライチャス•ブラザーズみたいな感じを一人でできないか、そして教会の中で響かせるような曲として作ったと語る。特定の宗教を信じる事はないけれど、プロテスタント系の学校に通っていた事もあり、キリスト教的な世界観は当時の曲作りに影響を与えているかもしれないという。
この曲のエンディングが次の「SOMEDAY」に向けてのオーバーチュア(序曲)のような意識でミックスしたと語るのはエンジニアの吉野さん。これは素晴らしいです。当初は土屋昌巳さんのギター•インストゥルメンタルが「SOMEDAY」へのつなぎとして収録される予定だったが、色々な意見がありお蔵入りになる。このエンディングの神聖な響きが十分に役割を果たしているように感じます。
The Righteous Brothers
[You're My]Soul And Inspiration 1965

6.SOMEDAY

この曲に関してはVol.4で詳しくまとめてあるんだけど、そもそもこのフィル•スペクター•サウンドのアイデアはどこから来たのか。

「70年代の終わりに出たエレン•フォーリーの『What's a Matter Baby」もいう曲がある。これは60年代にティミー•ユーローでヒットした曲をフィル•スペクター視点でリメイクしたご機嫌なポップソングで、ちょうどその頃から世界的にフィル•スペクター•サウンドの再評価がイギリスでもアメリカでも起こってきた。その曲を聴いて、僕は『これだ!』と思った。そして、その流れを追っていくと実際にいくつかのアーティストがやはりスペクター•サウンドをフォーマットにしたサウンドづくりを始めていた。一番近いなと思ったのは、アメリカ、クリーブランド•レーベルのミートローフでした。ロックオペラ仕立てで、サウンドはフィル•スペクター。ユニークでワクワクする作品を作っていた。それで自分も『SOMEDAY』という曲をフィル•スペクターのスタイルでやってみたいと思ったけれど、どうすればあのサウンドが得られるかわからなかった」

佐野元春&ザ•コヨーテバンド "WHERE ARE YOU NOW
コンサートパンフレット LONG INTERVIEW
佐野元春サウンド、その40年の変遷
訊き手 片寄明人

これを改めて読むと大滝さんのレコーディングを見学する前にフィル•スペクター•サウンドの構想はあったと考えられます。エレン•フォーリーのこの曲は片寄さんのラジオ番組に出演した時に何回かオンエアしているから、馴染みがあるんじゃないかな。

Ellen Foley
What's a Matter Baby 1979

Meat Loaf
Bat Out of Hell 1977

7.I'm in blue  M32

レコードなら、ここからB面のスタート。ジュリーに提供した曲のセルフカバー。『路上のイノセンス』での小坂さんの証言だとデビューアルバムのシングル候補として「アンジェリーナ」などと一緒にレコーディングされているトラックもあるようです。ギターの鳴りが心地よいポップ•ロック。アレンジもストリングスはなくドライな印象も受ける。かまわないで すきにさ、せ、て、のところがなんとも好きなところ。"without your love"のところはピーター•アンド•ゴードンの「愛なき世界」を連想しちゃうな。
Peter and Gordon 
A World Without Love 1964

8.真夜中に清めて M33

とても美しい曲。この曲のイメージは最終ヴァースでの"星の降りしきる 8月のバルコニー"という箇所。星空の下に君と一緒にいるんだけど、手をさしのべようとすると、消えていってしまうような儚さ。そんな思いを打ち消すかのように"Midnight tripper"というシャウトは胸をえぐるようにこちらに迫ってくる。そして注目したいのはベースラインの美しさだろう。

佐野 ビートルズのアルバムで言うと、ジョージ•ハリスンの曲かな。
伊藤 ああ、そうか。ソロ•アーティストだから、ひとりで全部の役割をやらなくちゃいけないから(笑)。
佐野 だからディミニッシュ•コードを多用しているし。「サムシング」というジョージの曲の、あのベース•ラインに近いベース•ラインを持ってきたり。自分なりのジョージ•ハリスン•サウンドの解釈から始まった。
伊藤 佐野くんの曲にしては、モヤッているよね。ジョージ•ハリスンの曲ってそうじゃない?
佐野 そうだね(笑)。
伊藤 ポールとかジョンはパキっとしている。「この曲はこうだよ」っていう、メロディーや言葉の印象が強いんだけど。ジョージ•ハリスンは、もう少しモヤッとした空気感みたいな曲調だもんね。なるほど。僕、それで初めて分かったよ。
佐野 この曲は、僕の方でベーシストにベース•ラインを指定するところから入っていった。そして、そのベースに合うようなドラムを付けて••••••というふうに。

名盤ライブ 佐野元春 『SOMEDAY』 THE BOOK

The Beatles 
Something 1969

9.Vanity Factory  M34

直訳すると虚しい工場とでもいうのかな。まるで真逆な意味を持つ二つの言葉。工場を例えば他の言葉に置き換えてみる。国家、都市、街路、ここでの主人公はなにかとても苛立っているようも見える。叫ばずにはいられない感情とともに。
この曲もジュリーへの提供曲で、完全にジュリーをイメージして書いたと言うことなので、曲はカッコいいなとは思うんだけど、歌詞の面ではその世界に入りずらいような気が今でもしているのが正直なところ。
ここでの元春とジュリーのコーラスなんだけど、トラック•シートというものを見てみると、驚いたのは2人が同じマイクで歌っているんだってね。それは2人とも、負けちゃいられない!って感じになるよね。そして(MID ジュリー LOW 元春)(HIGH 元春 MIDジュリー)というようにふたつのトラックを同時に再生していると言うこと。これは吉野金次さんのアイデアだったそうです。これはすごい。

10.Rock & Roll Night  M35

ソングライターの視点から見ると、当時、国内のロックンロール•ソングというのは、"俺が、私が"と、常に自分が主体となって書かれたものが大半だったんだよね。そういう曲に、僕はちょっと辟易していて。自分が書く曲は、いわゆる三人称。つまり"彼"や"彼女"の物語を書きたいと思っていた。「サムデイ」もそうだし。この「ロックンロール•ナイト」でも、セカンド•バースでは仲間のひとりがどこどこに行き、別の友達はどこへいってと••••••ひとつの青春群像だよね。小説で言うと、コンセプトは"群像"そういう俯瞰するように眺めた、若者のためのロックンロール•アンセムを書きたいと。そんなふうに意気込んでいた。

名盤ライブ 佐野元春『SOMEDAY』 THE BOOK

原題は「Rock & Roll Dreams」この壮大な組曲、ロック•オペラはThe Heartlandとともに一発録りされている。譜面は銀次さんが書いていたそうで、全部で6枚あったという。録音する前に、リズムもハーモニーも違うとても凝った曲なので、パートごとに練習して最終的にスタジオに入り、組み立てられている。この曲のドラムは古田たかしではなければ叩けなかっただろうと元春は語っている。

「ロックンロール•ナイト」は伸びたり縮んだりというのがあるので、間奏の部分というのはダイナミックになってゆったりとやって、というように言われたのも覚えています。当時クリックは使っていないので、みんなの呼吸を合わせてというレコーディングでしたね。
最初、この曲をちゃんとした形にするのはかなり難しいんじゃないかと思っていました。でも、さすがに銀次さんと佐野くんでタッグを組んで、バッチリなアレンジになっていたのには驚かされましたね。アコースティック•ギターは3.4人みんなで一斉に弾いたり。そこだけでも、すごくいい感じのグルーブが出ていた。そんなふうに「ロックンロール•ナイト」は、作りながら全体像を描いていくというよりも、最初に銀次さんと佐野くんの中に完成図があって、ちゃんと譜面も用意されていたんです。ですので、それほどああじゃない、こうじゃないということなく進んだレコーディングでしたね。

名盤ライブ『SOMEDAY』佐野元春 THE BOOK
古田たかし インタビュー

自分の体験になると、この曲はFMラジオで1時間の枠の中でライヴを流す番組があったんだけど、たまたま付けたラジオで初めて聴きました。しかも途中から、うわー、なんだこの曲は!なんて展開なんだ!ってかなりの衝撃をうけたのは鮮明に覚えています。それが「ロックンロール•ナイト」だと知り、こんな曲あるんだ!って。そりゃ驚くよね、しかも何も情報がなくいきなりおそらく"たったひとつの夢が〜"くらいから徐々に盛り上がる一番のハイライトのところだもん。理屈やうんちくなんか何も知らない状態で聴くのっいうのはかなりの無敵感があるんだよ。経験なんかなくね、あの時ラジオ付けたおれナイスだ。この8分31秒はいまだに長いって感じた事は一度もない。

ここでの元春はダブル•ヴォーカルが多い他の曲とは違いシングル•ヴォーカル。これによってより思いはリアルに伝わってくる。この曲のキーワードでもある"瓦礫の中のGolden Ring"のところだけ三度上のハーモニーをつけている。このラインはそれぞれが感じて謎解きをしていきたいところだと思います。

11.サンチャイルドは僕の友達 M36

「マンハッタンブリッヂにたたずんで」が『ナイアガラ トライアングルVol.2』に収録される事になり、もう一曲という形で作られた。元春のアコースティック•ギターを中心に、(コードチェンジする時のキュッキュッという音も鮮明に聞こえる)キーボードは明さん、コーラスは銀次さん、最初と最後のキックは小野田さんというメンバーで録音された。

ぼくは、自分の頭上に強い光を見ていたんです。そして「ロックンロール•ナイト」のあのブレイクで思い切りシャウトしたとき、同時にありったけの力を使ってジャンプしました。その光をつかもうとして。でも、もう少しのところでぼくはつかみ損ねてしまい、そして〈Rock & Roll Night たどりつきたい〉というリフレインがきて、その後牧歌的なメロディになる。あの時間の中で、ゆっくりゆっくり落ちてくる自分を感じるんです。そして、地上につく直前、地上というのはつまり現実ということなんですが、その直前であの曲は終わっています。光を結局つかむことができず、そして現実にたちかえるその直前でぼくはとまってしまった。あの状態でアルバムを終わらせたら、あまりにもぼくの心は切なくなってしまう。で、ぼくは「サンチャイルドは僕の友達」をつくったんです。Hello Sun Child Little Sun Child••••••きみの眠りが醒めるまで、ぼくはきみのそばにいるよ、と。こんなに素敵な光が誰かに奪われてしまうなんて、こんなに暖かい陽差しが誰か第三者に奪われてしまうなんて、といった思いをこめて••••••。
現実に戻る直前でストップしてしまった自分を、眠りという一種の凍結状態にすることによって、確かに光を見た幸福な体験をなんとかそのまま保たせたい。そうした気持ちがぼくには多分あったんだと思います。光をつかみ損ねてしまった自分を眠らせることで、とりあえず心の平衡状態を保ったわけです。そうするしかなかった。とりあえず眠らせてしまう以外どうすればいいのか、あのときのぼくはわからなかったんです。サンチャイルドはぼくであり、あのレコードを聴いてくれている誰かであるかもしれない。ぼくはそう思っていました。つまり、このままぼくは眠ってしまおう。きみも眠ろうよ、と。そしてお互いにこういい合おう。きみの目が覚めるまでそばにいるよ、と。

新譜ジャーナル1984年7月号

そしてレコード盤には、こんな仕掛けも。

実は『サンチャイルドは僕の友達』という曲のかなりあとの部分に、ボンっていう音、非常に深いエコー「伴ったベースキック、心臓に一撃をくらわすかのような、しかしソフトな音を収録した。そして、聴き手が針を自分で上げない限り、永遠にボンッボンッという音が続く仕掛けを作った。プレーヤーを持っている人なら、試してほしい。
 その深い音を聞いているうちに、前作『ハートビート』の原初的な『鼓動』がそこへ重なってくるはずです。そんなトリッキーな手法を使ってでも、僕のビートが永遠に響き続けてほしい、という願いを、アルバムに刻み込んだんだ。

時代をノックする音 佐野元春が疾走した社会 山下柚実

そしてこの『SOMEDAY』はめでたく、オリコンチャート4位に入りました!!ここからまた新しい物語が始まりスピードを加速して駆け上がり、ビートは永遠に響き続ける事になります。

最後までお読みいただきありがとうございます。
次回はアルバム未収録曲をまとめていきます。
#佐野元春

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