佐野元春with The Heartland "HEARTLAND"
Dear Mr.Songwriter Vol.16
「ライブ•ツアーは、自分たちの教室だった。」
と語ったのは、ザ•バンドのギタリスト、ロビー•ロバートソンだ。Survivalの意識。現実をどうにかやりくりして〈明日〉を肯定すること。この一文に触れたのは僕が15の時だった。
そんな時には、わからなかった意味も今は実感としてうけとめることができる。
〈明日〉に絶望することを恐れながらもなお、〈明日〉を肯定せざるを得ない理由、とはどこに?
僕にとってのライブ•ツアーは、その理由のありかを探しあてるための旅であったように思う。
ハートランドからの手紙#30 佐野元春
今まで、ソングライターとしての元春にスポットを当ててきましたが、今回取り上げるのは、初のライヴアルバムとしてリリースされた『ハートランド』です。
この時の元春とザ•ハートランドのライヴはアレンジを変えて演奏することが珍しくなく、イントロを聴いただけでは、何の曲なのかわからなかったりしていて、それも楽しみのひとつでもありました。
この『ハートランド』はバンド名をタイトルにしているように、ライヴを共に成長してきたザ•ハートランドの何度目かのピークを迎えた1987年9月14日と15日に横浜スタジアムで行われた"横浜スタジアムミーティング"と同年の5月28日の渋谷公会堂での"カフェ•ボヘミアミーティング"の模様が収録されています。
LP、CD、カセットの3形態でリリース。全て深緑のLPサイズのボックスの仕様。今までの活動をまとめたフォトが乗っている歌詞の冊子と、ライナーノーツが収められていました。
LPは2枚組、CDは1枚分の収録限界の74分。収録時間の都合上、全曲とはいかなかったけれど、ベスト盤的な内容になっています。
では、ここで曲に入る前にザ•ハートランドのメンバーをサラッとスポットを当てていきますね。
THE HEARTLAND
阿部吉剛
1956年9月27日生まれ 静岡県出身。
ピィアノ⤴️Sweet Baby あべちゃん!といつも紹介されていたあべちゃん。
元春の出会いは、大学卒業後、フォーク•シンガーの"とみたいちろう"のバック•バンドをしている時に当時、元春が所属していた事務所『ヤングジャパン』のちの『ハートランド』の代表になる春名源基さんを通じ、レコーディングを見学することになる。
「バッドガール」の歌入れを見た時に、元春の歌う姿に感動。元春も"ザ•ハートランド"のバンド構想もあったことから、それがきっかけでバンドに参加することになる。
※少しややこしいんだけど、元春がデビューした時の事務所の『ヤングジャパン』にいた春名源基さんが『ハートランド』という事務所の代表になり、そこに元春も所属することに。白井貴子、渡辺美里も所属していた。
そしてなんと、2023年の『今、何処』ツアーの静岡公演では、29年ぶりの共演を果たしていて感動的なステージだったみたいです。観たかったな。
小野田清文
1955年9月30日生まれ 東京都出身
どっしりとバンドの屋台骨を支えていたベーシストの小野田さん。
元春とは、同じ立教高校の同級生。元春が手がけていた佐藤奈々子のバックバンドのメンバーのオーディションが通り、プロの音楽活動をスタートさせる。
アルバム『SOMEDAY』では、腕利きのスタジオ•ミュージシャンに混じり、全曲ベースを担当している。全幅の信頼を得ていたんでしょうね。
残念ながら、2022年に出た『名盤ライブSweet16』のDVDにおいてこのようなお知らせがありました。
THE HEARTLAND ベース担当、故•小野田清文君を偲んで。
ー佐野元春
古田たかし
1958年7月6日生まれ 東京都出身
ドラムス 古田マイティたかし⤴️。Migtyの名の通り強力なドラミングが魅力のシータカさん。
元春との出会いはベースの小野田さんの紹介だったみたい。
1981年にオーディションがあり、そこで加入が決まったということ。
元春曰く、たかしくんは神様からのプレゼントという発言もありましたね。シータカさんの加入により、なかなか定着しなかったドラムというポジションが決まることになったようです。
なんとプロとしての活動は、15歳の時"カルメン•マキ&OZ"のレコーディングに参加。高校3年の時に原田真二と出会い、彼のバンド"クライシス"のメンバーとなる。原田真二が活動を休止してからはザ•ハートランドのドラマーとしての活動に専念することに。その後も渡辺美里や吉川晃司、ユニコーンなどのライブやレコーディングに参加するなど活動は多岐に渡る。
ギターの長田さんと"Dr.Strange Love"も結成しました。
西本明
1957年10月6日生まれ 千葉県出身
エレキーボー、に、し、も、と、あ、き、ら!と紹介されてたキーボード担当の明さん。
元春との出会いは松原みきのバンド「カステラ•ムーン」に参加した時、そこでのバンマスの銀次さんの紹介だったということです。
そこから2ndアルバムの『ハートビート』に参加。1982年のツアーからザ•ハートランドのメンバーになることに。
アレンジャーやスタジオの仕事を重きにおいてツアー等には出ないような活動をしていたけど、"ザ•ハートランド"は特別な存在であったようです。ツアーも一時抜けている時期はあったけど、ザ•ハートランド解散後もTHE HOBO KING BANDの一員としてバンドに加わりました。
尾崎豊のアレンジャーとしても素晴らしい仕事を残していますね。
長田進
1958年4月4日生まれ 神奈川県出身
ギィタァー オサダススム!と紹介されてたオサボンこと長田さん。
伊藤銀次1980〜1983、横内タケ健広1984〜1986に次いで"ザ•ハートランド"3代目ギタリストです。
中原理恵やマリーンのバックを務めていた時に"ザ•ハートランド"のオーディションの話がある。
このオーディションは後に語り草になるほどで面白いんだけど、1994年シータカさんとの会話を引用させてください。
オーディションの1週間後にツアーが始まるなんて、すごい吸収力ですよね。元春もなんて無茶なことを、だけど、もう長田さんの力を見抜いていたんだよね。すごいなー。
ザ•ハートランド解散後はGreat3のプロデュース。尾崎豊、奥田民生、井上陽水などのバッキングをする誰もが認めるギタリストになりましたよね。ここ最近ではCoccoとの仕事も印象的でした。
里村美和
1955年3月25日生まれ 東京都出身
シンバルを蹴ったり、ジャンプしたり躍動するパーカッショニスト里村さん。
里村さんは元春と小野田さんのひとつ上の立教の先輩にあたり、この頃から知り合いではあったみたいだね。
小野田さんと"マナ•アンド•ドロッピン•パイ"というバンドを組んでいて、プロへの道があったそうなんだけど、ボーカルだけデビューという形になって一度サラリーマンに、それから村田和人と"アーモンド•ロッカというバンドを組んでいたけど、それも村田さんだけがデビューする形になってしまったという。
元春とは、ニューヨークから戻り初めて公の場に現れた1984年6月28日、茅場町の倉庫を改造したスペース"クルクルという場所で「VIDEO ART BACK UP PARTY」というイベントが催された。その時に、パーカッショニストとして元春と2人でパフォーマンスをしたのが最初の活動になる。
その年の1984年のVISITORS TOURからザ•ハートランドに参加。その後"ナポレオンフィッシュ•ツアー"で脱退するも、何度かパーカッショニストとしてレコーディングに参加している。
ちなみに弟さんは、ココナッツディスクの代表の里村真和さん。吉祥寺店には元春のサイン入りの『Back To The Street』が飾ってあります。
THE TOKYO BE-BOP
ボーン助谷
1953年8月13日生まれ 神奈川県出身
本名 池谷明宏。"ダディ竹千代と東京おとぼけCATS"で活動していた頃にダディ柴田さんと知り合いだったトランペットの石垣三十郎さんを通じ、THE TOKYO BE-BOPとしての活動がスタートする。
元春とは、1984年の夏、麻布のスタジオが最初の出会い。革ジャンを着ていて変な奴だと思った。というのが第一印象だったみたい。
メンバー紹介の時の投げキッスは盛り上がる場面でした。大阪での公演では、アドリブで「六甲おろし」を吹いたりしていたようで、サービス精神旺盛で会場をハッピーな空気にしていました。
石垣三十郎
1953年3月16日生まれ 北海道出身
渋くダンディなトランペット担当の三十郎さん。
ダウンタウン•ブギウギ•バンドのホーン•セクションで活動中に、ダディさんからの誘いがあり、THE TOKYO BE-BOPの一員になる。
ステージ上でのダンスやタンバリンもカッコよかった。
ダディ柴田
1945年4月18日生まれ 栃木県出身
そして最後に!スーパー•ダイナマイト•サキソフォン!ダァディーし、ば、た!!
最大級のリスペクトを込めて紹介されるダディこと柴田光久さん。
矢沢永吉のバンドに約1年在籍した後に、元春の方から誘いがあり、デビューアルバム『Back To The Street』のアルバム•リリースの時のライブからザ•ハートランドの一員となる。
ザ•ハートランドのメンバーからは、"おとうさん"と呼ばれていて、ある雑誌にプロフィールを載せる時に、元春のマネージャーが"おとうさん"を"ダディ"に変えてから"ダディ柴田"が誕生した。
84年からの"VISITORS TOUR"から助さん、三十郎さんとTHE TOKYO BE-BOPを結成する。最初は"東京よさこい連中"なんて呼んでたみたいだね。
メドレーでの元春の絡みは盛り上がり必須。すごい楽しいステージを見せてくれました。
1.アンジェリーナ Angelina
ご挨拶として、デビュー曲からのスタート。実際にはステージ両サイドの花道を走りながら、回っているので、もう少し長いイントロになっていました。
当時のラジオ番組"AJI Super Mixture"で発売前により早くオンエアしていてカセットに録音してずっと聴いてたんだよね。現行のミックスはベースが強調されているけど、オンエアのミックスはオサボンのギターがかなり前に出ていた記憶があります。
この"カフェ•ボヘミア•ミーティング"で初披露になったこのヴァージョンは、エディ•コクランの「Somethin'Else」のイントロをオマージュしたアレンジになっていて、少し改良を重ねながらも今もこのアレンジで演奏しているのは、胸アツです。
ホーンセクションが入るところは、大きな白い風船が割れて小さな風船が飛び出す仕掛けになっててとても素敵な演出でした。
"今夜も愛をさがして"のラインはこの時から通常2回、ラストだけ3回のリフレインになっていますね。
2.冒険者たち Wild Hearts
ほぼ原曲に近いアレンジになっているけど、中盤のところから、「ラジオに流れるサキソフォン〜」のところはダディのサックスがドラマティックに演出されていました。この時のメロディは「スターダスト」かな。
3.君を探している Looking For You
「冒険者たち」からメドレーになって始まるザ• ハートランドお得意のフォーク•ロック•サウンド。ここでも、THE TOKYO BE-BOPのホーン•セクションが生かされているアレンジ。
"でも今夜はいつもの夜とはちがう 君に 会えそうな気がするのさ"
このラインはやっぱり盛り上がるね。
タイトル表記は本来「君をさがしている」という平仮名たけど、ここでは「君を探している」とう漢字表記になってます。
4.ハートビート Heart Beat
デビューの地、横浜に凱旋。バンドもファンにとっても特別な曲。
オリジナルに比べると、スポークン•ワーズのような、言葉を紡ぎだすスタイルかな。出だしのところ、歌詞を変えているけど、その場のアドリブで変えた感じもしなくもない。
やっぱりこの曲のサビのハートビートの箇所は、"ハーートビィーーーィト"って感じで伸ばすのが好きだな。
およそ2分半にも及ぶハーモニカソロは、何回聴いてもシビれるカッコよさ。
5.コンプリケーション•シェイクダウンComplication Shakedown
原曲よりも少しテンポを落としているけど、グルーヴィ•ファンク•ヴァージョンとでもいうような仕上がり。ここでも、シータカさんと小野田さんのリズム•セクションのパターンの面白さに耳がいく。
聴きどころは間奏のダディのサックス•ソロからのオサボンのギターが絡むところ。ゾクゾクするカッコよさ。
6.ニューエイジ New Age
テンプテーションズの「My Girl」を彷彿させるイントロから始まる。後にハートランド•ヴァージョンとしてリリースされるアレンジになってますね。
7.君を汚したのは誰 Shame
セットリストでは、ライヴ終盤に演奏されていた。横浜の夜空の下、投げかけられる言葉たちが胸を打つ。
8.インディビジュアリスト Individualists
5月28日、渋谷公会堂でのテイク。
強力なスカ•ナンバー。バンドメンバーがステップを踏みながら演奏するところが目に浮かぶよう。
THE TOKYO BE-BOPのフォーメーションがクールでカッコいい。途中のテンポチェンジからワウギターの鳴りもシビれる。
9.勝手にしなよ Do What You Like
この"横浜スタジアムミーティング"は途中インターバルを置く第一部と第二部に分かれており、第二部のスタート「カフェ・ボヘミアのテーマ」に続いて演奏されたジャジーナンバー。
"土曜の夜 あちこちの車で"のところはジェスチャーを交えながら、何かやっているのはわかる。オーディエンスのひとりの男性ファンが"うまい うまい!!"って言ってる気がするけど。
THE TOKYO BE-BOPの存在が、よりいい感じのアンサンブルを出している。
ラストのブレイクからのもう一回はお約束でした。
10.奇妙な日々 Strange Days
この曲も「インディビジュアリスト」と同じ渋谷公会堂のテイク。
あべちゃんのピアノと明さんのキーボードの絡みもバッチリ決まってるんだよね。
"あの光の向こうにつきぬけたい"って改めて、すごいフレーズだなぁ。
どうしたって、ヘイヘイヘイは声でちゃうよ!
11.プリーズ•ドント•テル•ミー•ア•ライ
Pleses Don't Tell Me A Lie
この曲はやっぱりオサボンのギター•ソロにつきる!オーディションから一週間後にツアーが始まるという過酷な状況の中、全国を周り、このツアーの最後の大舞台、3万5千人のオーディエンスの前でスポットライトを浴びてソロを弾く!もうそれだけで、なんか泣けてきた。
最後の元春のシャウトもカッコよすぎる。
12.99ブルース 99Blues
この横浜スタジアム、このライブ盤のハイライトともいえるロックンロール。
シータカさんのドラミングと小野田さんのベースラインのコンビネーションは鉄壁。自由自在に暴れまくるオサボンのギタープレイも燃える!
13.ロックンロール•ナイト R & R Night
1983年に演奏されたこの曲とニューヨークから戻ってから、この1987年に演奏されたこの曲の印象はたった4年なんだけど、違うように聴こえる。
あの時につかみ損ねた光はつかめたのかな。いや、これは永遠の迷宮なのかもしれない。
14.サムデイ Someday
「ロックンロール•ナイト」からのメドレーのように始まるので、イントロのドラムが聴けないのは少し寂しいけど、ここで聴ける贅肉を削ぎ落としたようなヴォーカル•スタイルはこの時期にしか聴けないものが確かにあったように思う。
14.ガラスのジェネレーション Crystal Genaration
"つまらない大人にはなりたくない"このフレーズの呪縛により、歌えなくなっていたこの曲がピアノ•バラードで蘇る。この瞬間から新たな歴史が刻まれた。
アルバムに先駆けシングルレコードでリリースされている。
ダウンタウンボーイ Downtown Boy
「ガラスのジェネレーション」のB面に収録。
オリジナルと比べると、テンポは早め、ここでもTHE TOKYO BE-BOPのホーン•セクションが躍動している。
カフェ•ボヘミアのテーマ Theme of Café Bohemia
「カフェ•ボヘミア•ミーティング」1987年5月27日渋谷公会堂での演奏を収録。
サックスのフレーズなどは、オリジナルよりフリーキーなフレーズが聴ける。
1994年ハートランド解散ライヴ"LAND Ho!"のパンフレットの付録CD。
レコードにするため曲順は変更されている。
横浜スタジアム•ミーティングのセットリストはこんな感じになってます。
第一部が13曲目の「Young Bloods」で一旦終了。「カフェ•ボヘミアのテーマ」から第二部がスタートする形になっていました。
いつか完全版を聴きたいという願いを込めてここで今回は終わりです。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
ではまた!
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