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Dear Mr.Songwriter Vol.7

佐野元春 Singles & More 1981〜1983

Art Director:水野富夫
Designer:高橋伸明、加藤靖隆
Photographer:渡辺真也、但馬一憲
Cordinator:林トコ

今回はシングルオンリーのオリジナル•アルバム未収録の楽曲をとりあげます。
元春はニューヨークに旅立つ前に、10枚の7インチレコードをリリースしています。その中でアルバムとはヴァージョンが違ったり、特にB面 Flip Sideにはアルバム未収録の曲があり、それを見つけて聴いたりするのが密かな楽しみでした。今は何でもすぐ聴けてしまって、いいとは思うけど何か少し寂しい気もします。


1.バイバイ•ハンディ•ラブ M37

4枚目のシングル「SOMEDAY」1981年6月21日リリースのB面に収録。1983年のコンピレーション盤『No Damage』ではラストナンバーに配置された。"パーティ帰りのフェアリー•テイル"という歌詞もあって締めくくりにピッタリな感じ。R&Bな雰囲気がするこの曲のイメージは50'sのアメリカン•グラフィティの世界。ポニーテールの女の子とボーリングシャツの男の子が楽しそうにダンスをしているんだけど、もうそろそろ終わりTime Up 泣かないでという風な。
"誰もがさがしてる心の港(ハートランドって事でいいよね)闇の窓をくぐりぬけて"のところは、「スターダスト•キッズ」の冒頭、"真夜中の扉に足をかけて"につながっているのかも。"愛を求めてる Starry Eyes"の"あっ!いをもとめてる"のアクセントは大滝さんの「あつさのせい」の"あっ!つさの"をリスペクトしていると受け止めているぞ。
『No Damage』に収録された際には"揺れてる心お前が どんなに隠してみても 見えてしまうのさ俺には Oh Yeah Oh Yeah!"という箇所がエディットされている。
銀次さんが全曲アレンジしたジュリーの1981年6月10日リリースの『STRIPPER』に曲提供している。こちらはもろゴキゲンなロカビリーでロックパイルのビリー•ブレムナーがリード•ギターを弾いているカッコいいトラック。

2.ダウンタウン•ボーイ シングル•ヴァージョン

PHOTO:GORO IWAOKA

1981年10月21日リリース。B面の「スターダスト•キッズ」とともにザ•ハートランドとしての初めてのレコードになった曲。レコーディングの状況はあまりよくなかったらしく、スタジオの近くの川が氾濫する程の大雨で湿気が多くうまく録音されなかったようです。そして失敗作だと思い『SOMEDAY』のアルバムで挽回しようと再レコーディングをする。しかし数年経って改めてこのシングル•ヴァージョンを聴くと音質はよくなかったとはいえ、当時のバンドのメンバーの勢いがものすごくロックンロールしていたと、どちらのヴァージョンも優劣はつけられないが、最初のシングル•ヴァージョンが当時の思いが正直に反映したトラックだと語っている。

これはヴォーカル、ハートランドの演奏、全部いいなぁ。やっぱりシングルヴァージョンが好きですね。80年代の曲の中ではベスト3に入るかも。言葉とビートの乗せ方がいいんだよね。"夜のメリーゴーランド 毎日が迷子のアクロバット"のところなんて冴え渡ってる。やっぱり3番の歌詞がよくて、Boysなら共感しちゃうところだと思う。そこでの"Down Town Boy Yes He's Down Town Boy"のYes He'sのところは一層グッとくるポイントです。そういえば、Marvin Gayeはこの歌で知りました。

3.スターダスト•キッズ M38

まず「ダウンタウンボーイ」のB面としてリリース。こちらは、元春のゴキゲンなブルース•ハープからスタートする。ギターのリフはエルヴィス•コステロ&ジ•アトラクションズの「I Can't Stand Up For Falling Down」(サム & デイヴのカバー)のフレーズを元にしている。銀次さんがラジオを言っていたので間違いないと思う。
スターではなく、スターダスト。これはジョニ•ミッチェルの「Woodstock」の歌詞の一部"We Are Stardust We Are Golden"という箇所からインスパイアされている。

Elvis Costello & The Attractions
I Can't Stand Up Falling Down 1980

PHOTOGRAPHY:KENJI TANAKA
〈Thanks to anan〉

そして12弦ギター、ホーンなどを入れパワーアップして1982年11月21日にシングルとしてリリース。コンピレーション盤『No Damage 14のありふれたチャイム達』のオープニング•ナンバーとして収録される。ひとりのクールな元春からもうひとりのやんちゃな元春に光るボール?を投げるTVCMもありました。ジャケットに映るデビュー当時からよく履いている靴はコンバースではなくプロケッズ。
いやはやこの曲、Aメロ、Bメロ、からのサビの展開が素晴らしい。演奏も、初期ハートランドの集大成のように感じる。杉さんのビーチ•ボーイズなコーラスもあるし、最高にハッピーな気持ちになる。そして"本当の真実がつかめるまで"というフレーズ。真実って本当の事じゃないのか、それを君や僕はずっとさがしているのかもしれないね。

4.ワンダーランド- ウォークマンのテーマ M39

シングル「シュガータイム」のB面に収録。1981年、SONYウォークマンのCMに起用される。実際リアルタイムでは見た事はないんだけど、Youtubeで確認すると、ウォークマンの2代目、赤と黒が新登場というCMです。コーラス部分"walkman when I'm Black"というところがあるから発注先からBlackという単語は入れて欲しいとかあったかもしれないですね。全編英語詩で曲調はひとりビートルズって感じ。ここではハートランドではなくスタジオミュージシャンを使っているようです。

5.ソー•ヤング M40

山下久美子に提供した楽曲。1981年の10月リリースの3枚目『雨の日は家にいて』に収録。少し歌詞が変更されていて、久美子さんの"ジェスチャーに見えさせちゃいやよ"が元春では"ジェスチャーにみせかけたジェスチャー"になってますね。さすがに"いやよ"とは歌えなかったのでしょうか。元春はセルフカバーの形になる9枚目のシングル「スターダスト•キッズ」のB面に収録される。ちょっとだけ若すぎる。これは初期作品に一貫してる。成長、グローインアップというテーマ。これでもかというくらい脚韻を踏んでいて気持ちいい。確か89年の「ナポレオンフィッシュ•ツアー」でメドレーの中でラップ調にアレンジしてたけどあれもカッコよかったな。デビュー当時のファンの間では"Motoharu Radio Show"のオープニングを思い浮かべてしまう感じでしょうか。その後『No Damage』に収録した時は、フィル•スペクターなミックス。ハンドクラップも入ってウェルメイドな仕上がりになってます。

6.グッドバイからはじめよう M41

Photo by SHINYA WATANABE

1983年3月25日リリース。元春自身が弾くピアノとストリングスのみの美しくも儚い楽曲。15歳の時に祖父との別れがあり、生まれて初めて〈死〉というものに直面した素直な感情が曲に反映しているそう。そしてT.S.エリオットの『荒地』の一節「終わりははじまり」という表現にもインスパイアされたという。手紙の最後に付ける「Sincerely」や「With Love」のようかもしれないとも語っている。ジャケットに映っているコートのポケットの"Interview"誌(アンディ•ウォーホールによって1969年に創刊されたアメリカの月刊誌)を忍ばせる事によってニューヨークへ旅立つ事を暗示しています。

7.モリスンは朝、空港で M42

「グッドバイからはじめよう」のB面に収録。『No Damage』では「SOMEDAY」の次の4曲目に配置されて重要な位置を示している隠れた名曲ともいえるのかも。その後は20周年の裏ベストとでも言えそうな『GRASS』(2000年11月22日リリース)や、2020年の3枚組ベストにも収録されたり元春自身も80年代の楽曲でとてもよくできた曲とも語っていましたね。
間奏でのアカペラやチューブラベルの響き、小鳥のさえずりなど朝を連想させる構成もユニークなつくりに。最終ヴァースではギタリストの銀次さんがジミ•ヘンドリクスの「星条旗よ永遠なれ」のフレーズに対抗して「君が代」のフレーズを弾き倒しているのも、ある種のユーモアなのだろう。

この曲のサウンドには、いくつかの要素が混じりあっている。後に誰かが"ソフトロック"と名付けたジャンルだ。60年代のビーチ•ボーイズ、フォー•シーズンズ、そしてアソシエイション。特にアンサンブルやハーモニーはそうしたバンドのレコードを意識していたかもしれない。途中の多重ハーモニーは自分一人でやった。アカペラが出てくるのは、今のところ自分のレコードの中でこの曲だけだ。
 よく、モリスンとは誰ですか、と訊ねられた。モリスンという名前は歌詞には出てこない。そもそも名前はなんでもよかった。彼が自分の居場所から旅立っていく様子を描きたかった。舞台は空港だ。自分にとって空港というのは、外に出ていくための"玄関"のメタファーだ。今まで見ていた景色と何かが違って見える、目が覚めてきたという感覚。つまりこの曲のテーマは"覚醒"と"気付き"だ。これって多感な頃にはよくある感覚で、大人になるとなくなってしまう感覚。十代のリスナーならこの曲から何かを感じてくれるはずだと、僕は確信している。

MOTOHARU SANO GREATEST SONGS COLLECTION1980-2004
自身によるライナーノーツ

これらの楽曲がコンパイルされている『No Damage』は1983年5月2日付オリコンランキングで初登場第1位に輝きました!この時はもうニューヨークにいますね。ちなみに第2位は中森明菜の『ファンタジー』第3位はepoの『ビタミンE•P•O』杉真理の『スターゲイザー』も初登場第6位にランクインしてます。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
次回は『VISITORS』です。
#佐野元春

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