ゴラッソ製造機、アセンシオの左足を徹底解剖・前編。無回転は空気抵抗が最小?

今回は左足のキックで飯を食っていると言っても過言ではない(?)アセンシオの弾丸シュートを分析します。今回は書きたいことが盛り沢山なので二部作でお届けします。

分析対象とするのは、このようなペナルティエリア外からの強烈なシュートです。どれもアセンシオらしさ全開のシーンですね。

前編となる今回はシュートの球筋について、つまりアセンシオのシュートは他の選手と何が違うのかを解説します。そして、後編ではそのような弾道のシュートを蹴るためのシュートフォームを解説します。

二部作ということもあり月額マガジンの購読がお得です。
月4本キックに関する記事を投稿していくのでぜひこの機会に!

ボールの特徴

まず、ボールの軌道を決める要素は、1. 初速、2. 回転、3. 蹴り出し角度の3つです。当然ですが、この3つの要素を適切に組み合わせることで様々なボールを蹴ることができます。蹴り出し角度については少しイメージしづらいかもしれませんが、ここではどのくらい高さを出すかと言い換えても問題ないです。

アセンシオのシュートをそれぞれの要素について見てみましょう。

1. 初速が速い

初速の速さは相手キーパーが反応できる時間を短くすることに繋がるので、シュートにおいては有利であると言えます。
初速を速くするためには足の振りを速くすることとインパクト時に力が逃げないように当て方を工夫することが基本になります。この辺りは後編で細かく解説します。

2. 無回転

アセンシオの最大の特徴は無回転でのシュートが多いことです。
無回転のメリットとして最初にイメージされているのは南アフリカW杯での本田圭佑のゴールのような不規則にブレる変化が得られることかと思います。
これは一つ大きな点ですが、それ以外にも無回転のメリットについては誤解されている点や一般に知られていないであろう点があるのでこの後に詳しく解説します。
ポイントを簡単に挙げると以下の通りです。

・ ブレる、落ちるなどの変化
・初速が最大
・空気抵抗が最小

3. ゴールの四隅に到達

四隅に蹴り込むというのはアセンシオに限らずほとんどのシュートに見られる特徴ですが、高速無回転であるからこそ、より反応しにくくなっている側面はあると考えられます。実際、冒頭で挙げた4つのゴールシーンはすべてキーパーがほとんど反応できずに見送るだけになってしまっています。
アセンシオならこの距離で打ってくる可能性が高いことはキーパーも想定しているだろうし、その上スペースも時間も与えてしまっているのでもう少し準備して反応できそうなものですが、何か反応が難しい要因があるはずです。

まず、ゴール下隅に到達するシュートへの反応が難しい要因としては、以前の記事で取り上げた鎌田大地のゴールシーンと同様のことが考えられます。

簡単にまとめると、無回転のボールはストンとボールが落ちるので、キーパーがボールの到達位置を予測してその方向に飛んだ時に、その運動方向とずれたところにボールが来るので触るのが難しいといった内容でした。それを表したのが以下の図です。この辺は無料で読めるので気になる方はぜひ以前の記事を読んでみてください。

以下のシーンはまさにキーパーの予測がずれたために、正しく反応できず膝をつくような形になってしまったと推測できます。

一方で、ゴール上隅へのシュートが反応しづらい理由は、バーの上へ外れたような軌道からストンと落ちて上隅ギリギリに到達しているからだと考えられます。
特にわかりやすいのはこのシーンで、テアシュテーゲンの見送り方を見ると上に外れると予測していたことが推測できます。

無回転のメリット

さて、ここからが本題です。
もう一度書きますが、無回転のメリットは以下の3つです。

1. ブレる、落ちるなどの変化
2. 初速が最大
3. 空気抵抗が最小

以前に同様の内容をtwitterに投稿した際に、空気抵抗が最小になるという点に関して疑問の声を多数頂きました。

これに関する詳しい解説は後でするとして、この3つのメリットを一旦受け入れて考えると、まず不規則な変化が加わるためキーパーにとっては予測しづらいボールになります。また、初速が最大でありながらその後の空気抵抗による減速は最小ということでゴールへの到達時間は最小になり、キーパーが反応するために与えられる時間が最も短くなります。

つまり、無回転のシュートはキーパーにとっては軌道が予測しづらい上に最小限の時間で反応しなければならないという極めて厄介なボールと言えます。ゴールまでの距離が伸びるほどボールの軌道の変化、ゴールまでの到達時間の短縮の影響は大きくなると考えられるので、これらの無回転シュートのメリットはミドルシュートで顕著に現れると考えられます。

先ほど掲載したtweetのエンシソ(ブライトン所属)のシーンもそうですが、無回転でのミドルシュートは現代サッカーのトップレベルの試合ではよく見られます。


特に僕が衝撃を受けたのはカタールW杯のスペイン戦でジョルディ・アルバが利き足とは逆の右足で無回転ミドルを打ったことです。確か枠を外れて得点にはなりませんでしたが、サイドバックのジョルディ・アルバが右足でこの質のボールを蹴れるんだというのは衝撃でした。

他の例で言うと、堂安のスペイン戦でのゴールは若干横回転気味とはいえ回転数が少ない強シュートだし、スペイン対ドイツのフュルクルクのゴールは至近距離ですが綺麗な無回転です。FIFAの動画はnote上では再生できないようなので興味のある方はyoutubeに飛んで飛んで見てみて下さい。1個目の動画の40秒あたりから堂安のゴールシーン、2個目の1分30秒あたりからフュルクルクです。

このような事例を多数見ると、無回転の強シュートはトップレベルでは標準装備になっていく(もしくは既になっている)のではないかと思います。実際、僕のトレーニングを受ける選手でこの蹴り方を身に付けたことで決定力が格段に伸びたと言ってくださる選手は小学生からプロを目指すレベルの大学生まで複数います。


また少し脱線してしまいましたが、ここからは無回転シュートのメリットを一つずつ解説していきます。

1.ブレる、落ちる

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