プレミアリーグ開幕戦。ハーランドが見せたシュート技術を紐解く。
ついこの間昨シーズンが終わったばかりのような気がしますが、早くも今年のプレミアリーグが開幕しました。
そんな中でも注目の試合、マンチェスターシティvsバーンリーで怪物・ハーランドは早速2ゴールを記録しました。その内でも2点目のシュートは素晴らしいテクニックが詰まっているので、今回の記事で解説します。
今をときめく名解説・林陵平さんも上記動画内でコメントされていますが、この体の向きでダイレクトのタイミングで振り抜けるのはまさに規格外です。
この記事では、ハーランドがどのようにして
・ゴールに背を向けたところから振りの向きを合わせているのか
・ダイレクトのタイミングに合わせて素早く足を振っているのか
の二つを詳しく解説していきます。
振りの向きの合わせ方
まず振りの向きの合わせ方についてです。
上記画像のようにアルバレスからのパスが来る時点でのハーランドの体勢に注目するとボールの方を向いていて、ゴールに対しては半身〜背を向けたような状態になっていることが分かります。
当然ですがこの状態では蹴り足の振りの向きをゴール方向へ向けることは難しいため、工夫が必要です。
基本:膝のお皿の向きを蹴り出し方向へ向ける
前提として、キックにおける蹴り足の加速に最も貢献するのは膝関節伸展、つまり膝下の振りです。よって、効率良く蹴り足を加速させた場合の蹴り足の運動方向は膝下の振りによる蹴り足の運動方向と一致すると言えます。
また、膝下の振りは膝のお皿が向いている方向に向くので、体の向きが蹴り出したい方向からずれている時にすべきことは蹴り脚の膝のお皿の向きを蹴り出し方向へ向けることであると言えます。
一般によく挙げられるポイントには、軸足のつま先の向きを蹴り出したい方向に向けるというものがありますが、本質的に重要なのは膝のお皿の向きです。確かに軸足のつま先の向きを向けることで蹴り足の膝のお皿もある程度蹴り出し方向に向きやすくなりますが、今回のシーンのような角度がかなり急な場合ではそれだけでは不十分です。
実際にハーランドのシュートを軸足の向きと膝のお皿の向きに注目して見ると、軸足の向きは確かに最初の体の向きよりも蹴り出し方向に向いているが、それ以上に蹴り脚の股関節を内旋させるようにして蹴り脚の膝のお皿の向きを蹴り出し方向に向けていることが分かります。
上半身を先に捻る
では、この膝のお皿の向きを大きく(しかも一瞬で)変えるためにはどのようにすれば良いかと言うと、上半身を先に捻ることで体全体に回転方向の運動を生み出すという工夫が考えられます。
これは物理的に正確な表現を用いると、上半身の運動によって角運動量を生み出すことに相当し、生み出された角運動量を蹴り脚の膝のお皿の向きを変える動きに変換することがこのシーンの肝です。
また、全身の回転運動を生み出すには地面に力を加えているタイミングで捻りの動きを出す必要があります。ハーランドのキックを見てみるとまだ蹴り脚のスイング動作に入る前の左足(蹴り足)が接地している時点で腕を大きく開くように動かしており、これによって体を回転させる向きの運動(角運動量)が生み出されていることが分かります。
ざっくりとしたイメージで言うと、早めのタイミングで腕を大きく開くように回すことで体の回転を生み出し、軸足のつま先の向きは勝手に蹴り出し方向に近付くし蹴り足の膝のお皿の向きも蹴り出し方向に向いて誘導されるということです。
体の回転による蹴り足の加速については以下の記事に詳しく書いているのでこちらもぜひ!
軸足を斜めに倒して回転半径を小さく
このシーンはダイレクトのタイミングで素早く蹴る必要があることもあり特に重要になるのですが、先述したような上半身の回転を起点に生み出した回転運動を加速させることが必要になります。
回転運動を加速させる上で最も簡単なのは回転が生じた後に回転半径を小さくすることです。分かりやすいイメージはフィギュアスケートの高速スピンのような感じで体のパーツが回転軸に対して遠くにある状態から一気に縮めるとものすごいスピードで回転が加速することになります。
キックにおける回転軸は地面に接地した軸足になります。ハーランドの軸足の置き方に注目してみると、脛が斜め横に倒れる形になるように自身の体の正面方向に対して左方向へ滑り込ませるように軸足を置いていることが分かります。
これは軸足を回転軸とした時の回転半径を小さくする工夫の一つです。軸足を地面に垂直に立てた場合は図の左側のように軸足に対して体のパーツが遠くに散らばっているのに対して、軸足を斜めにしてあげることで図の右側のように回転軸近くに体のパーツが集まることになります。
このようにして回転半径を縮めることで回転方向の運動を速く出すことができ、蹴り足の振りが蹴りたい方向へ向くような調節が可能になっていると言えます。
ダイレクトのタイミングへの合わせ方
ここまでで体の向きに対して大きくずれた方向へ蹴り足の振りを向け良いシュートを打つための方法を解説してきました。
このようなキックは時間とスペースがあればそこまで難しいことではなく、言ってしまえば角度がついたキックにおける基本に則った動作でしかないのですが、このシーンにおけるハーランドの凄みはこれをダイレクトでスペースをほぼ使わずにやってのけたことです。
ここから先で解説するようなことをさらっとできてしまうのがハーランドがここまで得点を量産できる一つの理由であると、キックという視点だけで見ても言うことができます。
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