見出し画像

北九州市のプラネタリウムで提案の顛末その3(提案した内容3)


前回、前々回と、北九州市科学館のプラネタリウム提案内容についてまとめてきましたが、簡潔にまとめるつもりが大長編になってしまってすみません。実はこれでもだいぶ端折っている点があるのです。今回こそは提案内容について終えたいと思います。

ただ、そこでいくつか漏れていたことがあったのでここに載せます。仕様書と、募集要項です。主な情報は以下のリンクにあります。

北九州市「新科学館のプラネタリウム機器等設置業務委託に係る公募型プロポーザルの実施について」

募集要項は、現在、サイトから見当たらなくなっていますが、公開されていた資料ですのでこちらから載せます。

さて、それでは提案内容の話に戻ります。

究極の観客参加型プラネタリウム

あまりアイディアをばらすのもどうかと思いますが、特許も出したのでよいかと思い、書きます。

「もし、自分がプラネタリウム上映に参加できたらどんなに良いだろう?」

そんなことを考えついたのは当社の新入社員でした。これまでのプラネタリウムでも、解説者の出題に対して観客が答えを座席のボタンで選び、集計を上映する(レスポンスアナライザと言います)機能はありました。けれど、数あるうちの一人でしかありません。自分自身がプラネタリウム上映に登場できたらもっと楽しいのではないか?

私は、星座絵にお客さんの姿を出すのがどうかと言ったのですが社員はそうではないといいます。景色の中をお客が闊歩するほうがおもしろいし自由度がある。そこで生まれたのがアバター機能です。お客(特に学校団体投影での生徒や児童など)が書いた自画像や友達のイラストをスキャンし、それをそのままドームに登場させる。クイズに答えると反応したり、手足を認識して歩いたり空を飛んだりする。星座の中に現れたりもする。そんなアイディアでした。

図1

画像6

一般上映でも、夜空の中を飛ぶ旅客機の窓に、お客さんの姿が登場するなど。そんなことができたら、きっと子供たちも寝たり退屈せずに、プラネタリウムの体験を思い出として持ち帰れるに違いないと思ったのです。

究極のコンソール:時空を超えたタイムマシン

プラネタリウムは、時間と空間を自在に操る事のできる宇宙のシミュレータです。地球上の任意の場所と年月の星空を出せるというとそれだけで一般の人には驚かれますが、それだけでは説明として不十分です。

年月を変えると星の見え方は変化しますが、それは以下のような動きによります。理科の授業ぽいですが(汗)なるべく簡単に説明するので、頑張ってついてきてください。

1)日周運動:時刻と共に星が東から南、西に移動する動き。数分~数時間単位で変化がはっきりわかる。

2)年周運動:月日と共に、惑星や太陽や月が、星空の中で位置を変えていく動き。数日から数年で変化がはっきりわかる。

3)歳差運動:長い年月を経て、地球の地軸の向きが徐々に変わり、北極星が北極星でなくなる動き。1000年単位で変化が分かる。

4)固有運動:きわめて長い年月を経て、星座の形が変わっていく動き。(星座作る恒星が位置を変えていく)

これらをどれだけ忠実に再現できるかにかかっています。

従来のプラネタリウムでも確実にできるのは、1)で、常設用の機器であれば2)もできます。3)もたいていできますが、前回の記事で紹介したように、3軸式のプラネタリウムでは、動きがおかしくなったりすることがあります。

4)は、光学式プラネタリウムではまずできません。けれどFUSIONならそれも可能にしてしまいます。ここは他社との決定的な差です。これは、時間移動を可能にするTrueConsoleの提案内容の抜粋です。

画像7

特に、10万年を超える時間の移動では、固有運動も再現しないと正しい星空とは言えません。デジタルプラネタリウムなら可能ですが、星空の美しさは二の次になってしまう。美しい星空のまま、10万年以上の時間移動ができるのは、わたしたちが知る限り、メガスターFUSIONだけなのです。

実際、この機能を使って上映したのが、人類生誕の時代を、タイムトラベルを経て再現する2018年夏番組「Ancient stars」で、千葉県立現代産業科学館で上映しました。


ギャラクシー回廊

これは自由提案という項目として提案しました。自由提案というのは、仕様書に盛り込まれていない項目について、自由な提案内容を記載するというものです。良い内容なら採点されます。

自由提案といいつつ、いくつかテーマが与えられています。ここで私たちの目をまずひいたのが、

「星空の美しさが際立つ工夫が詰まったプラネタリウム」星空と風景の質感を高いレベルで調和させ、より星空の美しさが際立つ技術の開発・投入は可
能であるか。具体的な方法と合わせて提案すること。

の記載でした。「おお、これはまさに私たちのFUSIONを強く意識しているではないか?」と感じたのです。景色と星の調和については私達の右に出るものはいません。これは競合他社含めて誰もが認める事だと思いますから。

そして、本題のエントランスの展示。実は市はもともと入場導線の展示までは考えていなかったようです。私たちが意見交換の際に、エントランスの展示を考えている旨を話したら「そんな発想があったのか!」と市の職員がおっしゃいました。これも私たちにとって手ごたえを感じました。

千K超え!巨大精密ディスプレイ

画像2

私たちは、銀河眺望ディスプレイという、超巨大な天の川の画像ディスプレイを提案しました。中心の光学式プラネタリウムで投影する15億個の恒星データと同じ観測データをそのまま全長40m横幅110万ピクセル(千K!以上)の超高解像度画像にして精密プリントして回廊の内面に貼るというものでした。遠くからは天の川に見えますが、近寄ってみると、それが天の川銀河を作り出す星の一つ一つを視認できるというものです。これは人類が作り出したもっとも精密な天体画像ディスプレイであり、「あのプラネタリウムで観た星空にはこれだけの星があって、それは全て本当の夜空にあるんだよ」ということを示す意味合いがありました。これはとりもなおさず我々が銀河系の住人であることを示す意味あいがありました。私が最も重要視しているテーマが、「宇宙のスケールを伝え、その中の私たち人類を知る」ことだからです。

バリアフリーと座席

デザイン事務所の意向があり図版は公表できないのですが、内装と客席にも趣向を凝らしました。まず、ドーム全域が車いすがアクセスできるバリアフリーは基本として、ドーム前半部は可動椅子にして取り外しが容易にできる設計、ワイヤレスの多言語補聴システム、泣いてしまった子がほかのお客に迷惑かけずに観覧できる防音室、新型コロナウイルス対応の、紫外線UV-C殺菌機能。そして、ドーム中心部に空いたスペースに、広々と空いたドーム中央区画を活用した、寝そべり座席やパラボラアンテナ状の座席にハンモックに寝そべるようにして観覧できるスペース等の企画が盛り込まれていました。さて、基礎知識ですが、他社のシステムの場合、往々にしてドーム中心付近に大型のプロジェクタや惑星投影機を設置するため、広大なスペースを機材が占有してしまいます。参考例を紹介します。大手2社の最新の導入事例です。画像の引用は控えましたので、リンク先で確認願いたいですが、

以下は、福岡市科学館。

そして倉敷科学センター。

いずれも、ドーム中心の恒星投影機の周りにこれらの機材がかなりのスペースを占有していることがわかります。

ドーム中心付近は、もとより星や映像が最もよく楽しめる特等席です。だから私はプロジェクタや惑星投影機などをドームの端に置き、中央に置くのは恒星投影機だけにして、極力、ドーム中央を広々と開放することにこだわりました。実現はしませんでしたが、その恒星投影機すら、可動式にしてドーム端に格納可能にするアイディアまで検討されていました。この手書きの構想図は、提案書そのものに盛り込んだものではありませんが、こんなこともできるわけです。

北九州様_ドーム内部簡易パース図

天文教育にとどまらない意義

ここまで、とかく機能や性能を中心に紹介してきました。しかし私たちが意識していたのはそれだけではありませんでした。他社が10だからうちは15です。こんな単なる高スペックだけではむなしいだけです。その機能や性能は何のためにあるのか?そして、社会にとってどんな意味があるのか?それこそが最も重要なことです。巨額の税金を投下する事業ならなおさらでしょう?ここまでの提案内容も全てそれに繋がっています。

私たちは、北九州市が何より「モノづくりの街」であることに着目していました。日本の産業技術の礎を作った街。ここにせっかく世界を圧倒する機器を入れるのです。プラネタリウムはもちろん、第一に天文教育機器ではありますが、そこに注ぎ込まれた先端技術を紹介し、モノづくりの興味関心を刺激する事ができれば、もっと幅広い価値を放つ事ができるのではと考えました。

例えばいくつかの学校教科書が私の事を例題にしていますが、その多くは、一つの物事に取り組む事の意義を伝える内容です。

大平教科書

講演会も、教育機関からの依頼も多いですが、依頼主から期待されるのは、まさにそういう話なんです。私は講演会場でメガスターの実機で実演しながらそうした話をします。けれど、もはや最新のものではありません。子どものころから一つの物事に取り組んだ結果、北九州市のドームで、こんなすごいものがができるのだ、ということをモノづくりの街の子供や生徒たち、いや、九州、全国、全世界に示せたらどんなに良いでしょう?

だから、私たちは、最新型メガスターへの系譜を、プラネタリウム界全体の歴史と共に紹介する展示も提案に入れていました。おりしも、プラネタリウムの発達史が編纂され、纏められていますが、http://sts.kahaku.go.jp/diversity/document/system/pdf/115.pdf

プラネタリウムは産業分野の一つとしても注目を受けている現れです。特に、提案していた最新型メガスターは、開発途上ですが、北九州市の企業が開発したサーボモーターを使用することで高速性能を獲得します(これはたまたまの偶然!)。他の施設とは決定的にちがう、ここだけでしか見られない(私たちは他社と違い、あまり多くの施設に同型機を入れようという考えはあまりありません)プラネタリウムで市内、市外、海外から話題を集め、お客を集め、そこで最新の宇宙や天文学の成果を伝えるとともに、モノづくりの意義や日本の産業技術も伝え、子供たちのモノづくりへの興味を刺激する事も目指していました。

プラネタリウムの社会的意義

実は、個人的に最も大切にしていたのが、ここでした。プラネタリウムを作る理由や意義は、行政が考えることであって、提案業者が考える事ではありません。けれど、私はそれでもここは伝えたかった。ただ、選ばれるだけでなく、その先、目的意識を合わせて良好な関係で仕事を進める事が必要だと思ったからです。とても大切な事なので、これはページ1枚をまるまる載せます。

提案書末尾

こうした話をするべきか否かは、関係者間でも、土壇場まで意見が分かれました。あまりに多くのアイディアと提案がある中、提案書は最大15ページ。文字の大きさも規定されていたので、載せられる情報は限られます。しかも、審査委員はプラネタリウムの専門家以外の人もいるので、素人でもわかりやすく説明しなければならないと説明を受けていましたから、ますます載せられる情報は限られます。発表練習でも、時間は制限をオーバーしていた中、さらに貴重な1ページと、貴重な時間を割くべきか?直前まで紛糾しました。けれど私はこの話だけは絶対に譲れなかった。ギガマスクを実演しながら、私は混沌とする現代社会の中でプラネタリウムが果たせる意義を説明しました。私は思いを伝えられたと思います。

まだまだ書き足りない事はあるのですが、とりあえず私たちの提案内容についての説明は以上です。いかがだったでしょうか?

続いて、次回はプレゼンテーションの出来事と結果について、説明していきたいと思います。

続きはこちらから。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?