ハイパールミナンスという表現技法
皆さんはハイパールミナンス(Hyper Luminance)と言う言葉を知っていますか?
知るわけありませんよね。私が最近新しく作った造語です。日本語では「超輝度」などと訳しますが、特別に高い輝度を表す言葉です。それだけだとまだピンときませんよね。映像などで、特別に高い輝度をリアルに再現することで、今までにないリアルな映像再現するための特殊な表現技法を指します。
テレビを始めとするディスプレイデバイスは随分と鮮明な映像を表現することができるようになりました。最近はHDR(High Dynamic Range=ハイダイナミックレンジ)もずいぶんと一般化して、ディスプレイでは明るい部分から暗い部分までを豊かな階調で表現できるようになりました。デバイスのコントラストも上がり有機ELやLEDディスプレイでは、完全な漆黒から純白までを表現できるものも登場してきています。
しかしそれらの表示デバイスが未だ一貫して不得意としていることがあります。それが鋭い輝点です。例えばギラギラ輝く夕日や強い照明の光。今のディスプレイで表示しても、本物同様の明るさに表示することはとても難しい。当たり前の話ですが、あらゆる表示デバイスにはあらかじめ決まった輝度の上限が決まっていて、それを「白色」として決め、この白と黒レベルの間であらゆる映像を表現しているからです。本物の太陽はまぶしくて直視できないけれど、テレビに映った太陽がまぶしく感じるなんてことはありませんよね。
ハイパールミナンスはその壁を越えるための特別な表現技法です。考え方は単純です。通常の表示デバイスに特殊なハードウェアを加えることで特別に輝く部分を再現します。簡単な例で言うと、ディスプレイで夕日を映しているときに、太陽の部分だけ特別の光源(例えばプロジェクタやバックライト)を使って太陽を高輝度で表示する。あるいは星空を表示しているときに明るい星だけ光ファイバーを使ってキラキラと輝かせるなど。
今ここで例示したように、星空の表示では、このハイパールミナンスの技法がとても効果を発揮します。夜空の星は、絶対的な明るさは小さいのですが、面積が限りなく小さく、単位面積あちゃりの光の量が大きい。つまり典型的な高輝度の光源だからです。
実は、プラネタリウムに携わっている方ならお察しの通り、明るい星の輝度を特別のハードウェアで上げるという考え方自体は、昔から当たり前にあって、ブライトスター投影機、などの形で実現されてきたのでした。すなわち、恒星原板ではうまく表現しにくい明るい一等星だけ、特別の光源を持つ投影機で投影する。まさにこれこそハイパールミナンスの典型例なのです。そう考えると考え方自体は決して新しいものではないことが分かります。
ただし、このように自然に行われてきた技法を一般的に表現する用語がいまひとつ見当たらなかったというわけです。
私は、幼少からプラネタリウム造りに取り組む過程で、よりリアルな星の再現を求めて、このハイパールミナンスの考え方は無意識的に強く意識をしてきました。その結果、さまざまなオリジナル技術を生み出しました。
例えば私の代表作の一つであるFUSION(フュージョン)システムの場合、暗い大多数の星はデジタルプロジェクタで投影しますが、明るい特別の星だけ特別の投影機で強い輝きを出します。これによってデジタルのフレキシビリティーと輝く星のリアルさを共存させることに成功しました。
また、観測データに基づきそれぞれの星の3次元座標にあわせて特殊なLED光源を無数につるし、3次元の立体宇宙を散策する体験を提供する「3Dスカイウォーク」では、多くの暗い星を背景に投影し、明るい星だけLED光源で表現することでやはり明るい星の鋭い輝きと暗い星の繊細な光を同時に実現するハイパールミナンスの一例です。
皆既日食をプラネタリウムでリアルに再現するためにこれまでの投影だけでなく、ドームスクリーン側に太陽に相当する強力な光源を組み込んで日食グラスで観察する体験をさせると言う企画もハイパールミナンスの1つです。他にも様々な試みがありますが振り返ってみると私が最近得意とする表現技には共通項があることに気づき、それを言葉に表してみたときにこのワードが浮かんだのでした。
ハイパールミナンスは、特殊なハードウエアありきで実現するものですから、まだ一般のスマートフォンやテレビデバイスなどに応用することは難しいかもしれません(いつかそういう時代がくるかもしれない)。
だからこそ限られた場で提供されるハイパールミナンスだからこそ提供できる映像世界を大切にしたい。たとえば、星が一層リアルになる。夜景のキラメキや、真っ赤に輝く夕日が、本当にその場にいるのと区別できないくらいに見える。それらは、他では体験できないものです。そこでこそ表現できる映像世界を体験した人々は、どんなイマジネーションを引き起こすでしょうか?それを開拓していきたいと考えています。
よって引き起こされるイマジネーションから、を広げるような活動を、これかもを開拓していきたいと思っています。
以上、ハイパールミナンスのご紹介でした。