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北九州市のプラネタリウムで提案の顛末その4(プレゼンテーション)

前回まで、私たちの提案内容についてまとめてきました。それでは、その提案の経緯について書きたいと思います。但しややデリケートな内容になりますので、閲覧者を興味本位でない方に制限する目的で、当面は有料記事として公開します。後に無料化する可能性もありますが、ご承知ください。

まず、基本的な流れについておさらいします。選定は、公募型プロポーザルといって、発注者(今回は北九州市)の提示する仕様書に基づいて応募する企業が提案書をまとめて期日内に提出、選定委員たちにプレゼンテーションを行います。ただ、誰もが応募できるとは限らず、応募資格が定められている事が多く、たとえば同種の案件での実績や必要な資格が求められる事が多いです。特に今回の北九州市新科学館のプラネタリウムは、プラネタリウム機器のみならず、ドームスクリーンや内装、座席なども業務範囲に含まれるため、建築設計の資格や実績も求められました)

予算は凡そ7億円です。巨額のように思われますが、プラネタリウム機器だけならまだしも、高解像度のプロジェクタ群や音響機器、座席、内装設計と施工、番組制作室、そして巨大なスクリーン工事まで一式を含めると、相当に厳しい予算です。私たちは、はじめ、10億弱の予算規模を想定していました。私たちを何より悩ませたのはこの予算で、正直言えば、今回の提案内容のコストを試算すると、材料費ベース(当社内の人件費をまるまる計算に入れずに)1億円以上の赤字が予想され、冗談抜きで家を売らないといけないかと話していたほどです。それでも前に進むことができたのは、歴史に残る、圧倒的な凄いプラネタリウムを作りたいという一心と、それに共感してパートナー各社が限界まで値下げに協力してくれたから、何より北九州市が我々にそれを期待してくれていると強く感じたからです。これらには今でも感謝してもしきることはありません。たぶんこのような提案をこの金額で行うことはもう難しいでしょう。

さて、提案書を5月半ばに提出してから、2週間ほどでプレゼンテーションがありました。審査委員は事前に知らされません。新型コロナで、プレゼンが実施されずに書類だけの審査になる可能性もありましたが、実施されたのは幸いでした。

審査に先立ち、注意事項の説明がありました。時間厳守であること。そして社名や個人名を説明の場で明かさない事。これは会社名を伝えることで審査委員が先入観で審査する事を防ぐためです。言い換えれば、審査員は提案内容だけで審査する事を要求されており、提案者そのものの会社に関する関連情報を評価に含めてはならない事を意味します。

審査会場で配布された注意書き

審査会場に入り、その場で初めて審査委員に対面したわけです。5名の審査委員(うち一名はリモート参加)に向けて1時間のプレゼン。プレゼンターは私です。繰り返しの練習の成果を概ね発揮できたと思います。与えられた制限時間(1時間)は厳格で、1秒の延長も許されないのですが、最後に予定していたGIGAMASKの実演、そして私のプラネタリウム設置への考えや思いも私なりに精いっぱい伝えることができたと思います。途中でパワーポイントの映像がパソコン不具合で止まるなどのトラブルはありましたが、できることはやり通したと思います。

その次に質疑です。5人の審査委員から質問が飛びます。録音は禁止されていたため一語一句の正確な記憶はないのですが、まず、審査員A氏は、遠隔地からリモートで参加。A氏から、12Kシステムについての質疑がありました。概ね以下のようなものです。


(※以下質疑記録は記憶を頼りにしているために、一語一句は正確でない可能性。また順番も不正確の可能性があります。但しこの主旨のやり取り自体があったことは誓約します

A氏「1台のサーバから、14台の4Kプロジェクタに映像をリアルタイムに出力する事は到底実現できないように思われるが、どうなのか?」

弊社「疑問はごもっとも。私たちは海外企業の最新技術を駆使して国際共同開発でこれを実現した。他社にはない技術である」

A氏「最近のプラネタリウムはプロジェクタ数を減らすのが主流のはずである。これほどの台数を運用することは信頼性で問題あるでしょう?」

弊社「他社が2分割方式を多用しているのは承知しているが、海外のハイエンド館ではむしろ多分割が増えている。IPS国際プラネタリウム協会の会場予定(コロナで中止)だったカナダのエドモントンでは12分割。私たちが手掛けたロシアのサンクトペテルブルクでは10分割。高信頼のレーザー光源プロジェクタと、シングルサーバ方式で十分な信頼性を担保している」

A氏「長期に渡る運用実績は?千葉県立現代産業科学館では開催期間はどのくらいか?」

弊社「(提案社を特定する情報を説明に盛り込むのは禁止の中、唐突に客先名を出されて戸惑いつつ)年によるが毎夏3週間から1か月ほど」

A氏「解像度をそこまで上げても映像は鮮明にならないでしょう?」

弊社「提案書に4Kと12Kの比較画像がある。特に恒星の描画では大きな差が出る」

A氏「そんなものはいくらでも加工できるでしょう?実際に投影して比較した映像はないのか?」

弊社「プレゼンで使用できるのは事前に認められた資料だけ。今この場では用意がないが、機会をいただけるなら後で見せる事ならできる」

A氏「過半球スクリーンは、観客の目に光が入り安全性の問題があるのではないか?」

弊社「ドーム図面をよくご覧頂きたい。他の施設で観客の目にプロジェクタの光が目に入るレイアウトだが我々のものは違う。過半球ではあるが、観客の目線にプロジェクタの光路は重ならない。名古屋市科学館と似たレイアウト」

続いてB氏です。

B氏「10億以上の星を映すということだが、そんなに星を映す必要があるのか?」

弊社「実演で示した通り、肉眼で見えない星でも夜空に実在する。これらを可能の限り映すことで宇宙の奥行と拡がりを伝えられる」

B氏「あなたは人間の目でそんなものを見分けられないのをわかるでしょう?あなた、人間の目がどこまで見分けられるか知っているのか?」

弊社「視力1.0で1分角」

B氏「世界一?世界一?世界一??東京や大阪じゃあるまいし、こんな小さな街で、こんな世界一のプラネタリウムが必要か?こんなものはまったくちゃらんぽらんな提案だ」

※ここで事務局が挙手

事務局(市職員)「県内一、随一という要件は自由提案の評価点でも明記している通り市の要求項目であることをご確認願いたい」

そしてC氏。A氏の後、C氏との質疑の間に挟まる形で。

C氏「このプラネタリウムであなたは何を伝えたいと考えているか?」

弊社「宇宙の拡がりとスケールである。プレゼンでもお話したように、私たち人間自身を見つめなおすきっかけとしたい」

C氏「15億個の星を映すとあるが、そのうち天の川の星の数はどのくらいか?このような事を聞かねばならないので」

弊社「私たちは天の川を作る星とその他の星を区別していない。したがって天の川は何個とは正確には回答できない。但し概ね全恒星の半数ほどが天の川に属していると考えて頂ければよい」

D氏「恒星球は冷却ファンが不要とあるが、高出力でファンが不要で小型軽量化できるというのは矛盾があるように感じる。何故そのような事ができるのか?」

弊社「光ファイバーを駆使した独自技術で可能とした。私たちはこれで既に特許も取得している。小型化とのことだが、現在主力としている機器に比べると幾分かサイズは大きくなっている」

概ねそのようなやりとりでした。

A氏,B氏D氏は、プラネタリウムに関わりのある人物。C氏は科学コミュニケータでプラネタリウム界とは無関係の人物、と記憶しています。もう一名のE氏は学校教員で質問がなかったと記憶しています。

審査会場を出て、私たちは予想外のネガティブな反応をされたことに驚き、特にA氏とB氏は何者なのか?と話し合いました。A氏については、よく知るプラネタリウムの解説員だと我々のメンバーが指摘し、確かに声が似ていたが、リモート参加で画面が不鮮明だったため、私はその場では分らなかったのです。B氏については我々はその時点では誰も知りませんでした。

但し、同席した従業員が、「B氏は大平さんの説明をそもそも聞いていなかった。少なくともパワーポイントの画面はほとんど見ていない」と証言しました。

一方でC氏は最も好意的な姿勢をしたと感じていました。プレゼン中の聞く表情、そして質問の内容。やり取りなど。D氏、E氏についてはあまりわかりませんでした。

プレゼンの翌日、まだ審査結果が届いていない段階ですが、当社内で、「やはりあの質疑はおかしすぎる」という意見が出ました。審査委員A,B氏について調べると、競合他社と懇意な関係を彷彿させる情報がいくつか見つかったためです。「たとえ我々が選ばれていたとしても、違和感がある。これは事務局に伝えるべきではないか?」と意見が出ました。私もそれは賛成しましたが、他の反対意見を聞いてそれは差し控えました。

数日後、審査結果が郵送で届きました。結果は不選定。しかも3社中、最下位でした。プレゼンに参加した全員が納得できない顔をしていました。

審査結果は以下で公表されています。

https://www.city.kitakyushu.lg.jp/ko-katei/k11901013.html

我々はこの中でB社です。

次回は、その後の調査した結果について、お伝えしようと思います。

続きはこちらから。


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