自#479「飛び込みの競技を少し見て、いったいどうやって、この競技は点数化するんだろうと、素朴な疑問を持ちました。世の中、本当は、点数化できないことだらけなのにとは、やっぱり思ってしまいます」

          「たかやん自由ノート479」

 村上春樹さんが「古くて素敵なクラシックレコードたち」というタイトルのクラシック音楽を語る新刊本をお出しになりました。約100曲を、それぞれ3~6枚のレコードを挙げながら、紹介しているので、単純に考えても、500枚くらいのLPを聞いて書いています。コロナ禍で、巣ごもり生活を余儀なくされ、時間に余裕ができたので、音楽に没頭することが可能になったわけです。私も、20年くらい前に、3回目の肺炎で倒れて自宅療養した時、CDを500枚聞きました。当時1500枚くらい(今は1800枚くらいです)CDを持っていたので、3分の1は聞いたわけです。それなりに充実した療養生活でした。が、所詮はCDです。村上さんがお聞きになったのは、レコードです。レコードは、聞こえない音も聞こえますし、リアルの音圧もあります。レコード三昧という生活は(いいレコードは簡単には手に入らないし、オーディオ機器も高価なので)もう庶民には高嶺の花です。それなりにお金を持っている音楽ファンが、ちょっと羨ましくなりました。
 フリードリヒグルダの弾くピアノ協奏曲について「大阪のうどん屋で素うどんを食べているときのような不思議な安心感を感じる」と表現されているそうです。この感覚は、関西ルーツの方にしか判りません。今や土佐っぽではなく、どこから見ても東京者の爺さんの私が、ミナミで素うどんを食べても、ミナミ独特のあのヤバい雰囲気を周囲に感じてしまって、素な感じの安心感は、とても得られないだろうと想像できます。
 村上さんは、ベームやワルターのような巨匠より、マルケビッチやフリッチャイみたいな個が出る指揮者の方が、好きだと仰っています。村上さんのクラシックを語る本には、いわゆる「名盤」と呼ばれているものは、取り上げてないそうです。村上さんが、意識的に名盤を外したわけではなく、名盤を別段、いいとは感じなかったから、語られてないんです。
「世の中の一般的な評価と、僕の評価が必ずしも合わないってことです」と述べています。それが、まあ普通だと思います。
 たとえば、ビートルズですと、「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」が、全部のアルバムの中のNo1の名盤だと、言われています。私は、ビートルズを教えるカリキュラムをかつて一度、作ったことがあります。「Sgt.Pepper's Lonely Hearts Club Band」から入ると、ビートルズは「?」ってことに多分、なります。やっぱり素直に一枚目の「Please Please Me」とか二枚目の「With the Beatles」あたりから入った方がいいです。ビートルズの「通」の方は、七枚目の「Revolver」が最高傑作だと、主張するのかもしれません。が、これは、「通」が選ぶビートルズのNo1は、「Revolver」だという情報が、刷り込まれているから、そう言っているだけなんじゃないかという気がします。私個人は、「Revolver」より六枚目の「Rubber Soul」の方が好きです。「Rubber Soul」に入っている、「ミッシェル」とか「ガール」とか「インマイライフ」とかを聞くと、ごく自然に、中二病時代の自分に戻って行けます。クラシックは、全然、詳しくないんですが、指揮者ですと、カラヤンとかバーンスタインとかが、解り易くて、楽に聞けます。フルトベングラーのアルバムを、何枚か持っていますが、フルトベングラーのどこがいいのか、所詮、CDでしか聞いてない私には、皆目、判りません。
 音楽の評価は、個人的で主観的なものです。ですから、バンドの大会で、順位をつけることは、理論的に言うと不可能だと思っています。もっとも、まあ誰が聞いても、このバンドがNo1だと納得させてくれる図抜けたバンドは、実際、存在します。が、2位~4位の三つのバンドは、団子状態で、審査員がchangeすれば、順位も変化します。
 オリンピックのトランポリンの競技を少し見ました。一体、どういう風にして、これを採点するんだろうと、疑問を感じました。まずより高く上がっていることが、ポイントだそうです。より長く、宙に浮いていることもポイントです。左右にブレないで、中央付近で演技をすることも大切です。トランポリンの枠から外れたとこに着地してしまうと、おそらく失格です。それぞれのcheck項目をポイントに換算し、総合得点を出すってことだろうと思います。が、合計ポイントが低くても、ミラクル美しいと云う演技も、現実には存在します。バンドですと、リズム、ハーモニー、全体のバランス、Voのピッチなどの項目に分けてポイントを出し、合算します。が、リズムがよれてVoの歌が下手でも、ものすごくカッコいいバンドは、やっぱり確実に存在します。
 スケボーとかも、たとえば着地で失敗すれば、減点できますが、手すりをゴン攻めして、ビッタビタに滑って行く、その滑りに関して、Aくんは15.7ポイントだけど、Bくんは15.5ポイントかな、などと、0.2ポイントの差とかは、正直、つけようがないです。サーフィンもそう。結局は、審査員の好みと主観に尽きてしまいます。
 アーチェリーの競技を少しだけ見ました。アーチェリーは、矢が的の中心に近ければ近いほど、ポイントが高くなります。瞬時に見分けがつきます。銅メダルを取った古川さんのプレイを、最初のセットから見ました。使い慣れたアーチェリーの弓と矢です。同じ立ち位置から同じ的を狙います。が、毎回、矢の当たる場所は、変化します。それも、ほんのわずかの変化ではなく、大きくブレたりします。
 私はアーチェリーも、弓道も、槍投げも、円盤投げも、経験したことがありません。キャッチボールの経験すら、ほぼないです。唯一、多少、似たようなactivityを挙げるとしたら、高齢者の脳トレーニングの講座のボランティアに行った時に体験した、吹き矢です。吹き矢の筒を手にし、矢を入れ、筒を口に含んで構える手順には、ルーティーンがあります。このルーティーンの間に、呼吸を整えます。浅い呼吸だと、矢は大きく外れます。深い静かな呼吸が、自然にできていると、矢は真ん中付近に命中します。借金があって、債権者に追われていたり、不倫騒動で、家庭内がパニック状態だったりしたら、矢は的には当たりません。心が落ち着いてないと、精神を集中することができないんです。別段、吹き矢に限らず、メンタルが安定してないと、どういう仕事であれ、いい結果は出せません。アーチェリーとか弓道とかは、ほんの少しの心のブレが、はっきり結果として出てしまう競技だと感じました。古川さんは、今年の2月に長男さんが生まれたそうです。「子どもが生まれた年には、いいことがある」と信じているようです。こういうポジティブな考え方が、記録を伸ばすことに、大きく貢献するんだろうと想像できます。

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