自#「入試問題(特に現国)には、悪問・奇問がいっぱいありますが、まあ世の中こういうものだと割り切って、そういう圧迫問題には、ちゃちゃっと答えて、他の教科も含めた総合力で、合格を勝ち取って欲しいです」

  「たかやん自由ノート262」

不要不急の本だとは想いつつ、「漢文法基礎」を、半分くらい読んでしまいました。漢文の参考書ですから、漢字のオンパレードです。が、私は、別段、漢字が苦手ってわけでもありません。中学生の頃までは、多分、漢字は苦手でした。大学受験のために、世界史の勉強をすると、どうしても中国史に出て来る難しい漢字の人名を覚えなければいけません。わら半紙にボールペンで何回も書いて、董仲舒とか趙匡胤、銭大昕などと言った日常生活では、絶対にお目にかかれない漢字を覚えました。難しい漢字を克服すると、簡単な漢字は、造作なく覚えられるようになります。国語や日本史よりも、中国史に出て来る人名の漢字の方が難しいです。漢文には、難しい漢字が普通に登場しますが、必ずふりがながついていますし、別段、覚える必要もありません。漢文は、読むことができたら、理解できますし、問題も解答できます。諸子百家の名前くらいは、書かせるのかもしれませんが、鄒衍なんて、難しい漢字の人名は、出さないと思います。

 が、まあそうは言っても、大学入試です。難問・奇問がちりばめられているのかもしれません。難問・奇問と云うのは、点数に差をつけるための必要悪のようなものです。「漢文法基礎」に入試終了後に、文科省が各大学に通知した、注意書きのようなものが掲載されていました。かなり前に出された注意書きですが、文科省の基本の姿勢は変わってないと思います。文科省が、大学センターが作成したセンター試験を批判する筈はないので、各大学の個別問題について、クレームと云うか、要望を出しているんです。文科省の意見は、しごくもっともで、正しくて、まともです。が、しごくもっともな、正しいまともな意見だけでは、世の中は回らないってとこも、間違いなくあります。

 要望のその①は、「句読点、返り点、送りがな、読みがななどを明確にして、できる限り読みやすくする」です。当然の要求だと思います。が、漢文は、基本、読めれば問題が解けます。読みやすくしたら、みんなが解答できて、差がなくなってしまいます。読みにくい問題もあり、読みやすい問題もあり、その中間もいろいろあって、ヴァラィティゆたかな状態の方が、自由を政治の根本原則としている民主主義国家には、ふさわしいような気がします。が、センター試験は、文科省のこの要求を、クリアーしていました。ですから、必要な基礎をきちんとマスターした生徒は、センターの漢文では、間違いなく満点が取れていた筈です。漢文は、zero or nothingで、やらなければ0点、ちょっとやっておけば100点と云う科目です。漢文は、英語にかけるエネルギーの100分の1以下で、満点が取れます。こんなことは、多少なりとも気のきいた受験生なら、誰でも知っていることだと思います。漢文を選択しない生徒が、なぜこんなに沢山いるのか、ちょっと不思議な気すらします。

 その②は、その①と被っていますが、「句点と読点とを区別して下さい」です。これも、入試レベルですと、当然だと思います。が、学問レベルだと違います。そもそも、漢文には句点も読点も存在してません。日本の古典の文章だって、本来、句点、読点はありません。センテンスの一文ずつ、ピリオドで区切れている英文とは、文章のそもそものあり方が、違います。文章は、切れ目なく流れて行くんです。どこかで読点(ブレス)が必要なら、その人(読む人)の感性に合わせて、読点をつけるんです。句点、読点は、印刷術が登場してからの発明品です。ですから、句点、読点の絶対的な基準と云うのは存在してません。が、まあこれは学問レベルでの話です。受験生には、句点と読点をはっきり打ってあるテキストを提示すべきです。文科省が、こう言った要望を出しているってことは、句点や読点の区別をせず、問題を作っている大学が存在しているわけです。学問的には正しくても、これはやはり悪問です。

 その③は、「二字熟語を返読する場合、二字の間はハイフンでつないで下さい」です。逆に言うと、ハイフンがあれば、二字熟語(三字熟語、四字熟語も次々にハイフンでつなぎます)だと判ります。親切です。つまり、受験生に親切にして下さいってことです。国民の負託を受けていると、少しは考えている中央官庁のお役人さんと、国民の負託など、まずもってほとんど感じてない、大学人との意識の差ってとこもあるのかもしれません。

 その④は「会話の部分には、「  」をつけて欲しい」です。私は毎日、源氏物語を読んでいます。会話や心中描写の部分に、「  」がないと、正直、何が何だか判らなくなります。これは、大学の先生だったら、簡単に解読できると云った、易しい問題ではありません。過去の偉大な注釈者たちが、何百年もかけて、思考を積み上げて、「  」の部分を確定して来たんです。「   」がなければ、基本、受験生には解読できません。が、おそらく、(会話をあらわす)送りがなの「ト」がついていて、そこに気がつくかどうかを試しているんだと思います。

 その⑤は「書き下し文を漢文に改めさせる、いわゆる復文を要求するのは望ましくない」です。漢文を書き下し文にすることはできます。逆は不可です。助字や助動詞は、書き下し文では、ひらがなで書くことになっています。そのひらがなの助字や助動詞が、どの漢字にあたるのかは、判別できません。たとえば、「また」だと、復・又・亦、「すなわち」だと、則・即・乃・便と、複数の漢字があります。まあですが、実際には、書き下し文に、漢字が書いてあって、ちょっと頭を働かせれば、漢文に直せるような問題だと推測できます(でなければ、捨ててもいい問題です)。

 その⑥は「教科書にほとんど出てこないような特殊な文字の読みとか、同訓字の意味の違いを問うなどは、避けられたい」です。
 その⑦は、「指示語の抜き出し問題などは、返り点・送りがな不要とか、訓点不要などと記して、受験生に無用の不安と混乱を生じさせないようにされたい」です。
 その⑧は、「白文を読ませる場合は、基本的な学力を身につけていれば、当然理解できる素直な構文の箇所とか、あるいは前後にそれと対になる部分があるなど、問題文中に解答のヒントがあるような箇所について検査するように、配慮されたい」です。再帰文字などの基本構文を学習しておけば、おそらく読めます。
 その⑨は「現行の漢文教科書に採録されている文章をそのまま問題文とするのは望ましくない」です。センター試験の国語の問題を、過去30年間に渡って、調べたことがあります。確かに、教科書に掲載してあるような、誰もが読んだことのある文章は、使ってません。センター試験を作成していた先生は、毎年、とんでもなく苦労をして、題材を探し、問題を作っていたんだろうと想像できます。
 その⑩は「問題文をあまりにも新奇な材料から取ることを控えよ」です。革命(辛亥革命)以後の中国の文章は、白話運動で、大きく様変わりしました。おそらく論語や孟子と云った、ベーシックな古典から、題材を集めて下さいと要望しているわけです。

 文科省の要望は、すべて正しいと言っていいと思います。まあですが、大学側は、悪問奇問を、出します。易しい問題では、差はつかないし、やむえないとも思います。悪問、奇問で点数が取れなくても、全教科に渡って、ベーシックな問題が、きちんと解答できれば、合格できる仕組みになっています。それは、ともかく、もし高二生が、このノートを読んでいれば、漢文は、捨てないで、選択して欲しいです。「漢文法基礎」のように分厚い参考書など読まなくても、薄いベーシックな参考書を、ちゃちゃっと仕上げるだけで(二週間もあれば仕上がります)漢文は、満点が取れます。

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