自#473「スポーツは、やっぱり声を出したもの勝ちってとこもあります。日頃から声を出す練習をすることも、大切です」

          「たかやん自由ノート473」

 7月上旬、期末試験中も、野球部は大会前なので、放課後、練習をしていました。私は、2階の社会科教室の窓の傍に立って、イリアスを読んでいました。社会科教室は、グランドからは、相当、離れているんですが、野球部の生徒たちが、元気良く声を出している様子が、伝わって来ました。太くて逞しい、全体に響くような声を出しているのは、おそらく監督かコーチです。これだけ声を出しても、ご近所からクレームが届かないのは、牧歌的な多摩地区の土地柄だろうと想像できます。私は、これまで7つの都立高校を経験しましたが、今、勤めているK高校の野球部が、もっとも声が出ている野球部です。結局、今年の夏の大会で、野球部は5回戦まで進み、5回戦で、私立のM高校に延長戦の末、5対6の僅差で、敗れました。私が勤めて来た学校の野球部で、5回戦まで進出したのは、今の学校が初めてです。声が出ている=それなりに強い、とストレートに言えると思います。
 イリアスでは、アキレウスの親友のパトロクロスが、アキレウスの武具を借りて出陣し、トロヤの城市まで迫る大活躍をしますが、最後、トロヤの英雄、ヘクトールに斃されます。パトロクロスの復讐をするをするために、アキレウスは、アガメムノンに対する怒りを鎮め、トロヤ軍と戦う決心をします。すぐにでも出陣したいんですが、パトロクロスが斃れた時、アキレウスの武具を、ヘクトールに奪われてしまっています。母親のテティスが、ヘパイストスのとこに出向いて、アキレウスのために、新しい武具を作ってもらっています。武具が到着するのを待つ必要があります。アキレウスは、トロヤ軍を見渡せる船端に立って、大音声で雄叫びを上げて、トロヤ軍を威嚇します。武具をつけて出陣する前に、トロヤ軍を圧倒しようとしたわけです。ギリシアびいきのパラスアテナも、アキレウスの雄叫びに唱和します。この二人の声を聞いて、トロヤ軍の士気は、だだ下がりになります。 昨日のnoteのタイトルに「22歳の茶髪に兄ちゃんが、大袈裟なガッツポーズとかを、まったく見せず、淡々としたクールな姿勢で・・・」と書きましたが、違ってました。新聞に、高得点を出した直後、叫びながらガッツポーズをしている写真が、掲載されていました。「I did it !!」と、快哉を叫んだと推測できます。
 私も声の大きさで、長い間、勝負して来たみたいなとこがあります。ライブ会場がキャパ1500人くらいの広さのホールだとしても、2階席の一番後ろから、MCをやじり倒せる自信があります。足立区のA高校に勤めていた頃、横浜の関内ホールで開催される、高校生バンドの準決勝大会に、何回か行きましたが、いつでも何故か、二階席の一番、後ろの席が割り当てられていました。が、当時は、30代の前半だったので、二階席の一番後ろから、赤子の手をひねるくらいの容易さで、MCをやじり倒していました。声の大きさと、はったりで、その場をしのいで来たみたいな事例は、これまで枚挙にいとまないほど、沢山あります。声が小さいよりは、大きい方が、役に立つし、ある程度、得もします。
 新聞のスポーツ欄に22歳の茶髪の兄ちゃん、つまり堀米雄斗くんが、決勝でトリックを決める瞬間の写真が掲載されていました。堀米くんの身体が、宙を舞っているような印象を受けます。両手を広げているんですが、肩から腕、手にかけてがまるで羽で、身体の重心が限りなくゼロに近い状態になって、宙に浮かんでいます。新聞に掲載されている写真なのに、この写真自体が、アートの域に到達しています。スケボーの裏側の模様と、堀米くんのTシャツのデザインとを、きちんとコラボさせています。堀米くんと、スケボーのそれぞれが、別個に空中を飛翔しています。で、着地した時点で、再び、密接にリンクする筈です。最高難度のトリック(技)にchallengeしているということは、この静止画を見ていても、理解できます。
 昨日、夕方のスポーツ番組に、堀米くんが出ていました。急遽、出演を依頼されたんだと推定できます。ツィッターのフォロワー数が、何十万人というスケールで増えたそうです。茶髪ですが、shyで、寡黙、イケメンで清楚な好青年です。今まで、堀米くんなんて、スケボーファン以外は、ほとんど誰も知らなかった筈ですが、ここへ来て、いっきに、にわかファンが激増したわけです。テレビ局は、売れそうな絵を、常に求めています。売れそうだと判断したら、ハイエナのように、テレビをはじめとするマスコミが、襲って来るわけです。スケボーを世の中に、もっと知らしめたいという気持ちはあると思いますが、まだ、22歳で、将来がありますし、日本のマスコミに消費されたりせず、すみやかにアメリカに帰って、ノーマルなスケボー人生に復帰された方が、望ましいんじゃないかと、老婆親切なことを、思ってしまいました。将来、スケボーのコメンテーターになったりするのは、別に悪いことではありませんが、そんなのは、30歳を超えてから、やればいいことです。まだ22歳です。22歳~26歳あたりが、きっと現役選手としての黄金時代です。
 堀米くんは、18歳で渡米し、スケボーで実績を出すことによって、スポンサーを獲得、21歳で、数億円かけて、練習場併設の4LDKの豪邸を購入したそうです。結果を出せば、21歳の青年が、数億円の豪邸を購入することができます。これが、アメリカンドリームです。日本では、どうあがいても、こういう展開にはなりません。まず、協会に金を吸い上げられます。日本の大人社会は、若者をさほど信用してません。いくら結果を出しても、年齢と実績をそれなりに積み重ねて、人間として大丈夫だという見きわめがつかなければ、資金を援助してくれるスポンサーはつきません。そもそも、スケボー普及のために社会貢献をしたいと考える企業が、日本にあるとは、正直、私には思えません。私が、スケボーの同好会を作ろうと努力したのは、今から25年前ですが、それから四半世紀を経た今でも、高校でスケボーの同好会を設立できるとは、ちょっと考えられません。日本人の多くは、バックトウザフューチャーの映画を見て、スケボーを知った筈です。この映画が上映されたのは1985年です。それから、36年経て、ここまで進歩したと言っていいのか、まだここまでしか到達してないと言うべきなのか。まあ、ストリートカルチャーと言うものに対しての冷淡な風潮は、今でも、本質、全然、変わってないと、私は想像しています。

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