美#148「団塊の世代が、全員75歳以上になりました。団塊の世代の動きで、世の中は、結構、変化しました。今後も変化するのか、or notなのか、多少は興味があります」

            「アートノート148」

 星に一輪だけ、赤い花が咲いている。惑星から少し離れた位置に見える満月と、オーバーラップしている。茎の部分に、quatre epines、4つのトゲがあるので、星の王子さまが大切にケアしていた薔薇だと推測できる。富士には、月見草が似合うのかもしれないが、薔薇は、借景が満月であっても、見劣りしない。この薔薇を、王子さまは、見捨てて、今、地球にやって来ている。何もかもが、終わってしまってから、本当に大切だったと気がつくのは、別段、薔薇に限った話ではないと思う。
 この薔薇は、どっか他の惑星から種が飛んで来て、王子さまの惑星で、花が開いた。美しい花だったが、気取り屋で、虚栄心も強く、本当の気持ちを伝えるのが苦手だった。フランスには、このタイプの女性は、きっと今でも、掃いて捨てるほど沢山いるんだろうと想像できる。
 王子さまは、この薔薇にle petit dejeuner(朝食)が欲しいと要求されると、如雨露(じょうろ)で水を掛けてあげていた。挿絵を見ると、かなり大きな如雨露(ラグビー部の選手が、グランドで倒れた時、水を掛けるが、その時に使う薬缶くらいの大きさ)で、薔薇の根元にどばっと水を掛けている。王子さまは、パイロットの制服を着て、帽子を被っている。
 薔薇に風除けが欲しいと要求されて、小さな屏風のようなものを、薔薇の前に立ててあげている。薔薇は、やたらと見栄を張って、強がりを言ってしまう。「Ils peuvent venir, les tigres. Je n'ai pas peur de leurs griffes!!」トラでも何でも来るがいいわ、鉤爪(カギツメ)なんて少しも怖くない。トラというより、大き目の犬が、薔薇の花を押しつぶそうにしているイラストを描いている。
 王子様の星は「ll fait tres froid chez vous」案外と、冷気が冷たいので、夜はガラスの蓋を被せてあげなきゃいけない。王子さまは、つま先立ちになって、蓋を被せてあげようとしている。
 王子さまの星には、le volcan en activite(活火山)が二つと、le volcan eteint(休火山)が一つ、合計3つの火山があった。王子さまは、この3つの火山の掃除をきちんとしていた。一種のすす払いのような作業だったと想像できる。この作業をきちんとしているので、朝食の準備をする時は、ちょうどくらいの火加減で、活火山が使えるらしい。休火山であっても、いつ何時、活性化するのかは予測できないので、休火山も平等に掃除をしていた。
 王子さまは、自分の星を離れて、小惑星325、326、327、328、329、330と6つのasteroidesを訪問する。最後の330は割合大きな星だったが、他はすべて文字通り小惑星だった。
 最初に訪問したasteroide 325には、王様が住んでいた。小さな惑星なので、王様と小さな年寄りの一匹のネズミしか住んでない。王様は、星の王子様がやって来て、大喜びした。そもそも、王様が一人だけでは、王様というアイデンティティは、確立できない。王様を王様として成立させるためには、un sujet 臣民の存在が必須。王様は、星の王子さまを、すぐさま臣民として認知した。
 ところで、日本の平安貴族の下襲の裾はやたらと長く後ろに垂れている。武士の礼装の長袴も、足の部分は完全に隠れてしまっていて、だぶだぶした裾は、引きずって歩かなければいけない。
 星の王子さまが訊ねた星の王様の裾は、左右に分かれていて、どちらも惑星を一周できるほどの長さだった。王子さまは、座りたかったが、星が小さく、王様の裾が長過ぎるので、座る場所がなかった。王様は、王冠は被っていたが、笏は持ってない。首には真珠のネックレス。服の襟と袖口の部分は赤で、服の地は白、黄色い星の模様が、そこかしこについていた。椅子は、背もたれの部分は長く、肘はついてない。時折、裁判にかける年寄りのネズミがいる筈だが、イラストでは描かれてなかった。
 王子さまが、次に訪れたのは、un vaniteux、うぬぼれの強い男が住む、小惑星326。うぬぼれ屋は、黄色の三揃いを着ている。鼻は赤鼻。頬っぺたも赤い。うぬぼれ屋は、太陽を背にして立っている。太陽までもが、うぬぼれ屋を、囃し立ててくれているという趣向なんだろうと想像できる。うぬぼれ屋は、シルクハットを被っている。誰かが、手を叩いて、褒めそやしてくれた時、この帽子を、片手で持ち上げて挨拶をする。星の王子さまは、5分ほどは手を叩いて、うぬぼれ屋を賞賛していたが、5分で飽きてしまった。人を褒めたり、よいしょしたりすることは、すぐに飽きる。人をディスる、嘘をつく、なりすましたりするのは、案外と飽きずに、エンドレスに続けられる。インターネットは、人間の弱点を、完膚なきまで、可視化してしまったと言える。
 次の惑星は、un buveur、のんべえが住む、小惑星327。のんべえは、アルコールだけを飲んでいる。私もかつて、アルコールを飲んでいたから、認識できているが、真のアルコール好きは、アルコールだけを飲む。料理とかツマミの類には、手を出さない。そもそも、料理やつまみを食べることは、わずらわしい。ワイン以外の酒は、アルコール単体で、飲める。アルコール濃度が高いと喉を痛めるので、水は飲んだ方がいいが、食べ物は断然不要。私が知っている真のアルコール好きは、酒だけを飲んでいた。例外はないと言っても過言ではない。王子さまが訪ねた小惑星327ののんべえも、テーブルには、アルコールの瓶とグラスしか置いてない。少し、離れたとこに、すでに飲み終えた空き瓶が半ダース、ダンボールの箱に入っている。                  
(to be continued)

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