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オープンハウス開催までのはなし ― なくしたくない日常の風景

本記事は2023年9月に開催する「高山活版社 オープンハウス」に関するものです。詳細は以下より。
https://note.com/takayamaprinting/n/na828078f5ecc

(文責:高山香織)

「印刷に興味がある人が集える場所を社内につくりたい」。社員とともに、いつからかそんな想いを抱くようになりました。包み隠さずに言えば、それは「高山活版社をなくしたくない」ということが本音かもしれません。

私たち姉弟が小学生の頃、週末に時々父が高山活版社へ連れてきてくれることがありました。滞在するのはいつもほんの数十分くらいだったと思うのですが、印象的だったのが会社の入り口の扉を開けるといつもプーンと香るインキの香りと、誰もいない工場の少し重苦しい空気感のなか窓から差し込む光。今ではすっかり私たちの日常の風景になってしまいましたが、初めて来社したお客さまから「インキなのか紙なのか、独特の香りがしますね」と言っていただく機会があると今でもその頃の記憶が一気に蘇ります。私たちにとっては忘れられない幼少の頃の風景と香りです。

子どもが生まれてからは、父がしていたように週末に子どもを会社に連れてくることもよくありました。まだよちよち歩きの息子が事務所の中を一人で歩き回り、目を離すと他の社員の机の引き出しを開けて中に入っている印刷物を引っ張り出していたなんていうこともありました。

高山活版社の歴史を物語としてまとめた「碩田橋通帖(せきでんばしとおりちょう)」。この冊子を書く原動力のひとつとなったのは、「時代とともに役割を失いつつある地域の小さな印刷会社の存在をなんとか知ってもらいたい」という思いからでした。1998年をピークに売り上げが下がり続け、「いずれなくなる職業」に印刷会社が挙がっていたことにずっとやるせなさを感じていたのです。

しかし人生とは何が起きるかわからないもので、私の日常は高山活版社が2014年に活版印刷を復活させた時を境にがらりと変わってしまいました。思いがけず印刷のおもしろさを知り、作りたいもの、足を運んでみたい場所、会ってみたい人ができたのです。それはとても幸せなことだったと思います。

現在では版を必要としないデジタル印刷が主流になりつつありますが、本来印刷物とはグーテンベルグが発明した活版印刷機を始まりとし、様々な段階を経て人の手により作りあげられるものでした。紙とインキだからこそ表現できる触感や香り、明治・大正時代から時を超えて残り続けることができる耐久性、自ら手を動かして印刷物を作り上げることの楽しさを知ってほしい。そう思うようになりました。

これまで「印刷に興味がある人が集える場所を社内につくりたい」という想いを持ち続けることができたのは、かつて先代たちが碩田橋通りにあった社屋の2階でサロンのような文化的な場所を開いていたことと、2022年に社員たちの中から「ラボやギャラリーのような場所を作ってはどうか」というアイデアが出たことが大きいかもしれません。その想いを形にするため、インターネットの登場により世界が大きく変わりゆくなかで「これからも社会に必要とされる印刷会社とはどうあるべきか」と自らに問い続けながら、ものづくりを生業としながら人が集う場を実際に作っている様々な先駆者たちを訪ね歩きました。

そして2023年9月。様々な出会いやタイミングが結実し、私たちは高山活版社という場をひらきます。ぜひ多くの方に印刷物に触れて印刷を知ってもらうことで、印刷について語り合うことができたらとても嬉しいです。オープンハウスを通して来場者のみなさんとともに紡ぐ新たな物語が生まれることが、今から楽しみでなりません。

ともにつくった文具 ― オープンハウスのフライヤー

私たちがやりたいこと。それはお客さまと「ともにつくる」ことです。

2023年7月。オープンハウスで実施予定の印刷実践のトライアルに、今回会場構成やデザインを担当してくださっている長尾周平さんと取り組みました。実は「自分で印刷をすることはできないんですか?」というびっくりするようなアイデアを出してくださったのが長尾さんです。彼がエプロンや軍手を付け、少年のようなキラキラした瞳でインキを練ったりオフセット印刷機を稼働させる様子をそばで見ていて、ひとつひとつの行程を心から楽しんでいるということがひしひしと伝わってきました。「自分がデザインしたデータを自ら印刷する」ということに興味を持ってくれる人がいるということは大きな発見でしたし、何よりとても嬉しく勇気をもらったような気がしました。

またオープンハウスのフライヤー制作時には再び長尾さんに工場に足を運んでもらい、印刷に立ち合ってもらいながらともにつくりあげました。オフセット印刷機で刷りたての用紙を何度も手に取っては眺め、腕を組んで何かを考え込む長尾さん。長尾さんが思い描く色を実現するために、細かな調整をする工場長。長尾さんが「自然光の下で見てみたい」と玄関の外に出てしゃがみ込んで用紙をじっと見つめ、真摯に向き合う姿が印象に残っています。こうしてふたりが納得する形になるまで数え切れないくらいのやりとりを重ね、フライヤーは形になりました。

完成したフライヤーを実際に手に取って開いてみた時、情報を伝えるというフライヤーとしての役割を終えた後もそばに置いて何度も開きたくなるような愛おしさと、物体としての存在感を感じずにはいられませんでした。もしかしたらこれが私たちの考える"文具"と言えるかもしれません。

▼印刷実践・工場見学
参加をご希望の方は以下のフォームよりお申し込みください。
https://reserva.be/takayamaprinting

▼フライヤーの配布先
全国各地に配布しております。現物をご覧になりたい方は以下のページ下部にあるリストをご確認のうえお近くの場所まで足をお運びください。
https://note.com/takayamaprinting/n/na828078f5ecc

▼オープンハウスの詳細はこちら

9月に向けて、社屋の2階の展示室が少しずつ少しずつ形になってきています。みなさまにオープンハウスを楽しんでいただけるよう、いつもはパソコンのキーボードやスマートフォンばかりを触っている右手を刷毛やローラーに持ち替えて、この夏季休業中は思いきりペンキと戯れました。

酷暑の折、みなさまにおかれましてはどうぞご自愛ください。仲間たちとともにオープンハウスを開催できることに心からの感謝を込めて。そしてぜひ元気な笑顔でみなさまをお迎えできるのを楽しみに、大分の地でお待ちしております。