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卒業式の約束

「俺たちは何があっても年に一回、同窓会をやろう。」と俺が言った。

大学の卒業式の日、いつもツルんでいた3人でした約束だ。

同窓会の日取は、ゴールデンウィーク明けの最初の金曜日に開催という事が通例となっている。
最初の数年はあの頃に戻ったようで楽しかったけど、今は心からそうとは思えない。

俺たちも、もう32歳になった。

戸部は高校教師で、甲子園も狙える野球部の監督として充実した生活を送っている。今年は部員がプロ野球のドラフトにかかるかもしれないという話だ。

貴文は今をときめくITベンチャーの執行役員で、多くのメディアからも注目されている新進気鋭のビジネスマンだ。今度、自身の著書も出版するらしい。

俺といえば新卒で入った会社で以前から確執のあった上司と劇的に揉めてしまい、居場所がなくなり退職する羽目に。現在は転職活動中。


今回は貴文いきつけの会員制の鉄板焼き屋。

話す内容と言えば、彼らの輝かしく充実した生活の話だ。つらい時間だ。
中でも一番つらかったのは貴文の「ここは俺が奢るよ。」という一言だった。


戸部と貴文は家が同じ方向なので、タクシーで帰って行った。

俺は、何とも言えない喪失感と敗北感を携え、夜の公園のベンチに一人座っていた。
飲みすぎたのか、少し寝てしまったようだ。目を覚ますと膝の上に紙に敷かれたモバイルバッテリーぐらいの黒い箱が置いてあった。
真ん中に黄色いボタンが鎮座している。敷かれた紙には

①10秒間だけやり直したい時にタイムトラベルできる。
②やり直したい10秒を思い浮かべながらボタンを押す。とだけ書いてあった。

そんな馬鹿な事はないだろうと思ったが、俺は迷わずボタンを押してみた。


「俺たちは何があっても年に一回、同窓会をやろう。

ただし条件が1つある。人生長いから成功する奴もその時はうまくいってない奴もいると思う、だから同窓会場所は何かとよくいってたあの店だ。
あそこなら、今の俺たちでもいけるから。どんな状態になってもいける。そして何よりうまい。わかったな?約束だぞ。」


一年後の同窓会


あいかわらず、輝かしい充実した生活の話だ。ただ、俺も新しい会社をみつけて、結構うまくいっている。
貴文が「ここは俺が奢るよ。」と言った。

「トリキで偉そうなこと言ってんじぁねーよ。」と俺は笑いながら言ったら、あいつらも笑った。

久しぶりに俺たちはあの頃に戻れたような気がした。

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