見出し画像

渡米14日目 新学期スタート!そして全てが動き出す

文字通り、全てが動き出した一日だった。6時過ぎに目を覚まし、ブログを更新すると8時過ぎに妻と妻と共に家を出て、これから子ども達のかかりつけ医となるであろうYuko Family Medicineに子ども達の問診フォームを提出に行くことになった。妻は一人で行くつもりだったようだが、僕もこれからお世話になるクリニックの様子の様子を見ておきたいし、子ども達に万が一のことがあった時のためにその経路も把握しておきたい。まだソファーベッドで寝静まっている子ども達を起こさないようにそっと鍵を閉めて、僕たちはブルックラインの中心部ビーコンストリートにあるクリニックまで向かうことにした。

とても天気のいい一日。街角には先週までとは打って変わって通勤、通学、はたまた散歩中の学生や大人達の姿を多く見かけた。クリニックをGoogleマップで調べてみると徒歩で30分はかかる場所にあった。先日、テーブルや食器をもらいに訪れたSさんのいるマンションの前の道を偶然通りかかり、

「あ、ここきたことある!この道ここにつながっていたんだね」

ふたりでちょっとした発見に嬉しくなる。見知らぬ街を歩いていると様々な発見があり、これまで点と点でしかなかったものが、線になり、やがて面になっていく。ただ今は、こんなに穏やかな気候で見るもの全てが新しい状況だから苦にはならないが、これが大雪の降る日に子ども達が体調を悪くした際に歩く道のりだとしたらどうだろう。クルマがあることを前提に生活圏が形成された街で、皆が持っているものを持っていないことは圧倒的に不利だ。道を歩いているとバスも頻繁に走っているので、どういう乗り継ぎが可能なのか、把握しておいた方がいいねと話した。

9時前にYuko Family Medicineの入っているMedical Buildingに到着し、無事に問診フォームを提出した。受付で対応してくれたシャナルさんによると、やはり予約でいっぱいで最初に診察できるのは早くて10月の第二週ぐらいになるという。

「実は子ども達の公立校入学の面談がこの後控えているんです。もし、かかりつけ医での診断が事前にされていないと、子ども達が学校に通い始めるのが遅れるなど何か不利なことはないでしょうか?」

そのことが心配で尋ねると、もしワクチンの接種が必要なら薬局のCVSなどで申し込めば数日以内に打ってもらえるから大丈夫だという。なにせ子ども達を現地の学校に通わせるなんて初めてのことで何をどこまで手を打っておけばいいか手探りな状況であることを話すと、初めて笑みがこぼれてこちらの事情に共感してくれて、きっと大丈夫ですよと返事が返ってきた。気づけば、全ての物事が心配性な僕の杞憂であることを心から願う日々の連続だ。

その後、同じくビーコンストリート沿いにある自然食品系のちょっとおしゃれなスーパーTrader Joe’sへと向かった。店はブルックラインの中心部とも言えるクーリッジコーナー駅のまさに目の前にあった。Trader Joe’sには以前15年以上前にニューヨークで暮らしていた時にもお世話になっていて、少し割高な印象があったが、Amazonなどを使ってネットで食品の買い物をすることに比べると、パスタもビールも手頃な価格設定で、僕たちはたくさんの食品や調味料を買い込んでしまった。

店を出たのは10時頃。帰りの経路を調べると、どうやらやはり直線で自宅に帰れる経路はなく、バス停まで15分ほど大回りして歩いたり、はたまたバスを乗り継いだりして、歩くよりも時間がかかってしまったり、到着予定時間が12時を過ぎてしまう経路もあった。今日は12時50分から、子ども達の学校が決まる大事なオンライン面談が控えている。こんなところでよくわからないバスに乗って、仮に遅刻でもすることになったら愚の骨頂だ。

「結構、荷物あるけど大丈夫?」

ちょっと手頃なビールまで見つけてしまい、大きな買い物袋3個分になった食品の山を見て妻が尋ねたが、歩いて30分の道のりなら、おそらく休憩しながら歩いても40分程度あれば着くだろう。それに調べると徒歩だとほぼ直線の道のりで帰ることができそうだ。僕たちはハーバード大学の名前がついたHarvard Avenueを下り、途中で同じく近所の公立校であるピアース小学校の前を通り過ぎ、まだ真夏の日差しが照りつける鋪道をちょっとクタクタになって歩きながら家路についた。校庭を楽しそうに駆け回る子ども達の姿を目撃して、「ああ早く、我が子達もあんなふうに遊ばせてあげたいな」としみじみ感じた。

いよいよオンライン面談!

12時45分、待ちに待ったこのときがやってきた。先週ブルックラインの公立校への入校を司るPublic School of Brooklineに全ての必要書類を提出し、今日がいよいよオンラインでの面談だった。12時50分から面談の予定だったが10分前ぐらいからZoomを立ち上げてスタンバイしてところ、早めに面談が始まった。

対応してくれたのはMegan(メーガン)さんという担当者ひとりで、包み込むような笑顔でとてもウェルカムな対応だった。NYU時代からの大親友がやはりMeganという名前で、なんだかご縁を感じて、ファーストインプレッションの時点からとても安心感を覚えた。

「提出してくれた書類は全てパーフェクトでしたよ」

開口一番、そう言ってくれてとても安心した。何か必要な書類が足りずにまた関係各所をたらい回しにされたり、それで子ども達の入校が遅れるのはなんとしても避けたかった。だから慎重に慎重を期して出生届から日本の学校の成績証明書、現在のコンドミニアムの賃貸契約書、ガスやネット契約証明など全てを提出したのだが、パーフェクトの太鼓判をもらってドッと肩の荷が降りたのを感じた。

結局、日本で修了した学年をそのまま引き継いで、中一の長男は7年生、小三の次男は3年生から転入できることになった。この後の手続きとしては、来週9月11日の月曜日に英語のテストがあり、その数日後に公立校であるLincoln School(リンカーン小中学校)での面談を経て、来週の後半には学校に通えることになるという。

「英語のテストでの結果を見て、どれだけ語学的なサポートが必要かを学校が判断することになりますが、これが入学に影響することは一切ありません。最初は全く英語が話せない子どももたくさんいるので、気構えることなくリラックスしてテストを受けて貰えばいいですよ」

そう説明してくれて、こちらの些細な懸念や初歩的な質問に対しても、とても丁寧に対応してくれた。そして30分近い面談は終わった。今日から新学期がスタートしているので、1日でも早く子ども達を学校に通わせてあげたいことを伝えると、英語テストの予約が詰まっているものの、もし空きが出たら案内しますねと言ってくれた。

次男、ドルフィンズのトライアウトへ

もうひとつ、なんとしても解決したい問題があった。水泳好きの次男が、「ドルフィンズ」というブルックライン市が運営する強豪のクラブチームに入りたがっていて、今日の夕方、トライアウト(選抜テスト)が行われるものの、何度ホームページからアクセスしても、「アドレスの登録に問題がある」とのメッセージが表示され弾かれてしまっていた。

世界屈指のアメリカの金メダリスト、ケーレブ・ドレセル選手に憧れ、オリンピック選手になるのが夢の次男にとって、今、このドルフィンズに入ることがこちらでの新生活の心の支えになっていて、トライアウトの日が近づいてきているにも関わらず、どうやら両親が進めている登録がうまくいっていないことに日々落胆の度合いを強めていて、「どうせうまくいかない気がする」と諦めモードが見え隠れするようになっていた。そんな次男の落胆をなんとか解消してあげたかった。

「登録がうまくいかないのは、まだ現地の公立校への入学が正式に決まっていないからですか?」

そうMeganに尋ねてみると、こっちでは私立に通っている子ども達もたくさんいるので、きっとそんなことはないはず。私だったら直接電話して確認してみるわと教えてくれた。

面談終了後、早速、ドルフィンズを運営するBrookline Recreationに電話すると、アドレスが登録できない問題を手際よく解消してくれた。さらに担当者に、次男が3歳の頃から水泳を続けてきたことや、オリンピック選手なること将来の夢であることを伝えると、

「どうしても参加したいなら、コーチに直接メールしてください」

とふたりのコーチのアドレスを教えてくれた。すでに大学に行かなければいけない時間が迫っていたので、すぐに嘆願のメールを打つと、もうすでに予約がいっぱいでWaitlist待ちの状態にも関わらず、9月7日と11日にひと枠づつ空きがあるので、もし4泳法全てで25メートルを泳げるならば、トライアウトに参加させてあげることができると返事が来た。

「ひろ!ドルフィンズ、選抜テスト受けられることになったよ!」

次男に伝えると目を輝かせて喜び、早速木曜日にトライアウトを申し込むことにした。ドルフィンズへの返信は妻にお願いして、僕は急いで準備をして16時の授業に遅れないように家を出た。

新学期で信号の角には子ども達の下校を見守る警察官が立っていたり、多くの学生の姿を目にする今日。街が息づいている。まるで日本の4月のような1日だ。電車の降り方がよくわからないうちに地下鉄の駅をひとつ乗り越してしまったが、余裕を持ってパラマウント劇場の5階にある教室にたどり着いた。シアターの上に学び舎があるというのが、なんとも性に合っている気がして嬉しくなり、記念に何度もそのシアターの外観を撮影した。


Fiction Film Directingクラス初日!

今日はいよいよ最初の授業となるFiction Film Directingのクラスがスタートする。教授はJulia Halperin先生で、この秋にも新たな新作を公開する現役の映画監督でもある。クラスは10数人程度の少人数であることも気にいた。授業は休憩を挟んで4時間近くになるが、初日の今日は自己紹介から始まり、先生が丁寧に今学期何を学ぶかについて説明してくれた。

「Directing(監督の仕事)とはなんですか?」

自由な意見を求められ、様々な意見が飛び交った。僕は「監督の仕事とはその映画の世界観を決めること。現場のクルー全体にモチベーションを与えながらも、その映画にとって必要な映像を確実にとってくること」だと自分なりの意見を伝えた。もともとネイティブでないことに加えて、まだ頭の中が英語脳に切り替わっていなくて、思考に言葉が追いつかないことがもどかしい。それでも発言しないでいると脳はどんどん退化していく。言葉が追いつかないことを承知で、それでも頭の中にあるイメージを伝えたいと、次々と発言を続けることにした。様々な意見を集約した後、ジュリアは、

「Directingとは、Translation(翻訳)作業そのもの」

と彼女なりの結論を伝えた。物語の着想、映像構成、キャスティング、演出、カメラワーク、編集に至るまで監督には、自らの頭の中にあるものを役やクルーに伝える必要があり、その翻訳作業の連続なのだと。確かにその通りだと思った。最初に結論ありきではなく、授業はディスカッションを通じて、個々人の気づきを促すスタイルで進んでいくので、様々なアイデアがスッと心に浸透してくる。

また授業の中では、いくつか名作や短編映画の映画のシーンを見せながら、ディレクターがどのような決断をすることによって、このシーンが生きたものになったのか、はたまた陳腐で表面的で全てを殺してしまうようなシーンになったのかを、やはり皆で議論し合いながら、気づきを深めていった。彼女はDirectrial Choice(監督としての選択)という言葉を何度も用いて、同じ脚本やストーリーでも監督としての力量や判断ひとつで映画の出来が大きく変わることを実例を持って伝えてくれた。

「皆さんのほとんどは、Writer/Director(脚本と監督を同時に行う映画作家)を目指していて、きっと最初から自ら書いた脚本を映画化したいという思いがあるかもしれない。でもこのクラスはあえて、実在する脚本をもとに監督するというトレーニングを通じて、Directrial Muscle(監督としての筋肉)を鍛えることを目的としています。それはなぜか?もし脚本も自分で手掛けていて映画がうまくいっていない場合、脚本が悪いのか、それとも演出が悪いのか(またはその両方なのか)が判別できない。優れた音楽家やスポーツ選手にも沢山の基礎練習が必要なように、このクラスでは、あなたたちの基礎的なDirectorial Muscle Muscle(監督としての筋肉)を鍛えます」

「監督としての筋肉を鍛える」そのためにここにやってきた僕にとって、彼女の言葉はとても心に響くものがあり、この先、授業はより実践的になり、様々な困難が待ち受けているだろうが、石に齧り付いてでも食らいついて行こうと決意を新たにした。

授業後、中国人留学生のミンユー(Minyu Chen)が話しかけてきてくれて、これまで中国で様々な教育番組系のドラマを手掛けてきた彼女もやはりフィクションがやりたくてエマーソンにきたことを話してくれた。ドキュメンタリーやインタレーション、アニメーションと様々な志向をもった学生がいて、基礎のクラスから始まって丸々3年学ぶ学生が多い中で、ある程度の経験があるため基礎的なクラスを免除されるAdvanced Standing(特待生)として、2年または2年半での卒後を認められる人もいる。彼女は僕と同じく特待生で、この秋学期にとる全てのクラスが全て共通していることもわかった。僕は同志に出会えたような嬉しさを覚えながら家路についた。

DAY14 20230906木3142ー3345ー3409


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?