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『社会のために』という無言の圧力

「給付金10万円をどのように使うか。」

ここのところメディアで頻繁に取り上げられている話題だ。

『好きなお店で買い物するため』とか『行きつけの飲食店で食事するため』という答えもあれば、『親・兄弟に渡す』という答えもあるし、『使わずに貯金する』という答えもある。

まさに答えは人の数だけあるのが「10万円何に使うか問題」だと思うが、ハッキリ言って僕はこれを話題に取り上げる意味をあまり感じない。


そもそもこの給付金は、政府が緊急経済対策として打ち立てた『特別定額給付金』で、日本国民であれば基本的に誰もが受給対象となる今までの日本史の中でも類を見ないであろう出来事だ。

「10万円をもらえる」というのはみんなが知っていることだけど、その目的とか政府の意図とか、おそらくそういうものをちゃんと理解している人は圧倒的に少ない。ぶっちゃけ僕もよく分かってない。

ただ何となく、「社会のために使ってほしい。これを使って停滞してしまった経済を立て直すために力を貸してほしい。」というメッセージがあることは感じる。

しかし僕は、この10万円を「社会のために」なんて意識を持って使う気はサラサラない。

これを言うと、非難してくる人はたくさんいるかもしれないけど、これが僕の嘘偽りない気持ちだ。

僕はこのお金をあくまで僕がしたいことに使うし、僕自身のために使う。


誤解がないように言っておくと、僕は何も「社会のために使う」ことが嫌だというわけではない。

その考え自体は素晴らしいものだと思うし、とても綺麗なものだとも思う。

僕が気に食わないのは、「社会のために使うよね?まさか自分の私利私欲で使うわけじゃないよね?」という無言の圧力が、今回の「10万円何に使うか問題」の話題に含まれていることだ。

例えばTwitterでは、「10万円は受け取らない」と表明したツイートがバズっていたけれど、これは「受け取らない=国に経済回復のために使ってもらう=社会のために」という構図が、みんなの頭の中に無意識に浮かんだからではないかと僕は思っている。

受け取らないという行為は、『自分のために使うのではない』ということがとても分かりやすい。何せ手元に置かないから、自分では使いようがないからだ。

そして今回の給付金の使い道は、きっとこういう「社会貢献」をすることが求められていて、これが正解であり正義であるという風潮がある。

僕としてはこれが気持ち悪くて仕方ない。


「社会のために」という考えは、決して誰かに煽動されて持つものではない。

あくまで自らの内から湧き上がってきて、自らが「そうしたい」という明確な意思を持ってこそはじめて意味を持つ。

というか、みんな給付金10万円を特別なものに仕立て上げすぎだ。

お金はどこまでいってもお金でしかなく、その価値は平等だ。

極端なことを言えば、自分で稼いだお金であろうと、誰かからだまし取ったお金であろうと、その金額が10万円であればそれは10万円なのだ。

自分で稼いだからプラスの価値があるとか、そんなんではない。


逆に僕は問いたいが、仮に給付金10万円を「社会のため」に使うと決めたとして、ではそれ以外の自分の手元にあるお金はどうする?

きっとこれも「社会のために」と即答できる人はあまりいないのではないだろうか。

今回のパンデミックで受けた経済的ダメージは、一過性の対策でどうにかなるものではない。聞いた話によると完全な回復のためには数年単位で取り組む必要があるという。

確かに給付金10万円を国民全員が「社会のために」使用すれば効果は出るだろうが、今の状況ではきっと焼け石に水レベルだ。

僕が言いたいのは、ここで無理に「社会のために」と気張るのではなく、長い目で見た時に「自分が社会のために何をしていけばいいか」を自分で考え、行動していくことが必要ではないかということ。

その意味で今回の給付金10万円は大切なキッカケの1つにはなるが、このお金自体に無理やり特別な意味を持たせる必要はない。

それに「社会のために」なんて考えてるか否かを問わず、僕達が普段生活用品を購入したりネットショッピングやらをやっていることだって、誰かに利益が入って経済を回す一役を買っている。

今でも十分、社会のためになっているのだ。


だから、無言の圧力で「社会のために」を強制するのはやめてほしい。

この圧力は短期的な効果は出せても、さらにその先のどこかで必ず反動がくる。

「社会のために」という大義名分が人を狂わせ、いつか誰かに牙をむく。

それも、とんでもない勢いとエネルギーを持って。

いま僕達に必要なのは大義名分ではないし、正義感でもないし、善意でもない。

自分ができることは何か、これからの社会とどう向き合っていくかをゆっくり考える時間であり、そこから湧き上がってくる思いやりだ。

僕は給付金10万円を、それを考えるトリガーとして捉えている。


#給付金をきっかけに

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