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ぼくとハメラちゃん

幼稚園では、もうすぐ運動会があります。先生たちは準備に大忙しです。
ぼくたちが手をのばしてもジャンプしても届かない所に「ばんこくき」が飾りつけられました。
とてもきれいです。いろんな国の国旗がならんでいます。
日本の国旗はすぐに見つけました。ほかにもたくさんの国旗があって,ぼくが知っているのもあれば,はじめて見る国旗もあります。同じかなと思っても、よく見るとちがっていたり動物が描かれていたり,文字のようなものが書かれているものもあります。
気になった国旗を先生に聞いてみました。
「せんせい,あの緑と黄色はどこの国?」
「あー,あれはブラジルよ。」
「じゃ,そのとなりは?」
「えー。ちょっとわかんないな。でも,そのとなりのとなりの旗はインドネシア。ハメラちゃんがいた国の旗だよ。」
「へー。そうなんだ。」
ハメラちゃんは,夏休みに外国からひっこしてきた女の子です。頭に布を巻いたお母さんがおむかえにきます。ハメラちゃんは日本語を少し話すことができるけど,ぼくはなんだかお友だちになることができずにいました。

その日の夕方、ぼくは国旗のことをもっと知りたくて図書室に行きました。
そこには,ぽつんとハメラちゃんが立っていて,本を読むわけでもなく何かをみつめていました。
「なに見てるの?」ぼくは,聞いてみました。
「これ。」
ハメラちゃんが指さしたその先を見ると,部屋のすみに七夕の笹かざりが立てかけられたままになっていました。
笹竹は茶色くなって葉っぱもほとんど枯れてなくなっていましたが,たんざくが残っていました。
「よめるの?」
「うん。‥せ・か・い・が・へ・い・わ・に・なり・ます・よ・う・に」
「すごいね。」
ぼくがそういうと,ハメラちゃんは,にっこりしました。
「どういう意味か分かるの?」
「うん。でも・・。」
「それ,ぼくが書いたんだよ。」
「どうするの?」
「えっ?」
ぼくは,すぐに意味がわかりませんでした。だから
「どうするって,どうもしないよ。ただ,おねがいを書いたんだよ。」と,こたえました。
「どうすれば平和になるの?」
「えっ?・・・。」
「せんそうがなくなるには,どうすればいいか考えたことがあるの?」
ハメラちゃんが思っていた以上に日本語を上手に話すことにおどろきました。同時になんだか責められたようで、ぼくには,しばらく時間が止まったように感じました。
そして,図書室に入る前に「じぶんが国王になったら,どんな国旗にしようかな。」と考えていたことも,なんだかはずかしいことのように思えました。
「ハメラちゃんは?」
ぼくは,おそるおそる聞いてみました。
「考えてるよ。」
そういったハメラちゃんは,ぼくより年上の人のようでした。
「考えているけど,まだどうしていいかわかんない。もっと大きくなって,大学とかいって,たくさんお勉強したらわかるのかなって。」
ぼくは,少しホッとしました。
「じゃ,いっしょに考えよう。」
「うん。」
ぼくとハメラちゃんは,図書室の机の上にちきゅうぎを置き、そばに地図を広げてみました。
「いっぱい,国があるね。」
「みんななかよくなって,ひとつになれないのかな?」
「ひとつの国になると国旗はひとつでいいね。」
「ぼくがデザインしようかな。」
「え~っ?。わたしよ。」
ハメラちゃんは,にっこりしながら,ながし目でぼくを見ました。
「あら,あなたたち,こんなとこにいたの。」
先生の声でした。

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