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【企業分析】T&K TOKA(4636)

こんにちは。高洲です。
早速ですが、分析に入ります!

第1回は、日本の印刷用インキメーカーであるT&K TOKA(以下、T&K社)の分析をします。

1. 企業概要

<創業ヒストリー:日本と中国の架け橋に>

創業は1949年。創業者の日本(京)と中国(中)の架け橋たらんという意志のもと、東華色素化学工業という社名で発足しました。

100年超の歴史があるDIC、東洋インキSCホールディングス、サカタインクスなどの同業大手と比べると少し社歴は浅いですが、国内の印刷用インキメーカーの売上高では第4位です。

<UV硬化型インキで国内トップシェア>

T&K社はUV硬化型インキで定評のあるインキメーカーです。インキとは、チラシや本、新聞などの印刷物に刷り込むカラフルなアレです。

インキと言っても様々な種類があるのですが、今日最も広く用いられているインキは「溶剤型」です。しかし、溶剤型は環境に有害な有機溶剤が揮発、また乾燥のための時間も要します。その点、UVインキは光を当てることによりごく短時間でインキが乾燥(硬化)し、有機溶剤の揮発もなく、環境面や生産性で優れたインキです。

T&K社はこのUVインキで国内トップシェアです。

2.マクロ環境

<国内:縮小するパイを奪いあう、厳しい業況>

国内の印刷インキ生産量は2006年をピークに減少が続いており、業況は非常に厳しいです。UVインキはインキの中でも価格・付加価値の高い分野ですが、それだけに市場の縮小から食い扶持を求めた同業が相次いで参入しており、以前と比べ利益の出しにくい事業となっています。

図1
図:国内インキ生産量の推移(出典:経済産業省 生産動態統計)


<海外:安定成長が見込まれる有望市場>

基本的に、インキの消費量は経済成長率に連動します。縮小が続く国内市場とは対照的に、海外のUV硬化型インキ市場は新興国経済の成長に合わせて拡大、2026年に約16億ドル(約2,000億円)に到達、また2021年~2026年のCAGRは4.6%と、相当程度高い水準が予測されています(※)。

また、新興国では経済成長とともに環境汚染が深刻な問題となっています。印刷業界は大気汚染の原因物質であるVOC(揮発性有機化合物)の主要な発生原因であり、国によっては厳しい環境規制の対象となっています。T&K社の得意とするUVインキはVOCを発生させないのため、ニーズが高まる可能性があります。
(※Mordor Intelligence Pvt Ltd (2022) UV Cured Printing Inks Market -   Growth, Trends, COVID-19 Impact, and Forecasts (2022 - 2027))


2.T&K社の特徴

<インキ事業が中心>

まず、インキ業界全体の傾向として、同業はインキ以外のより成長性の高い事業に活路を見出し、多角化を図る傾向にあります。一方でT&K社は「インキへの集中」を長らく方針に掲げ、現在でも報告セグメントは「印刷用インキ」のみとなっています。
実際のところ、樹脂などの機能性材料も手掛けているのですが、最近でもインキ・印刷関連の売上が8割を占めています。

事業構成

この事業戦略について、昔は印刷用インキ事業へ経営資源を集中させることにより、特定分野において企業規模に勝るライバルと互角以上に戦う技術力の源泉となったとも考えられますが、現在においては、市場縮小の著しい国内インキ事業への依存度が高い状況を生み出したと私は考えています。

実際、かつてはUV分野を牙城に、業界トップクラスの収益性で知られたT&K社でしたが、パイ縮小によりUV分野にも他社の参入が続き競争が激化、業績は悪化傾向にあります。

これを受けて、同社は海外への投資を通じて新たな領域への進出を図っていますが、今のところ国内の縮小を補うには至っていません。

図:T&K社の地域別売上高の推移


<中国の持分法適用会社の利益貢献が大きい>

同社は中国の証券市場に上場している「杭華油墨股份有限公司(以下、杭華社)」の株式の33.5%を保有し、持分法適用会社としています。杭華社は売上高200億強、営業利益20億強、時価総額400億の会社であり(2022/8/24時点)、利益・時価総額はT&K社を上回っています。杭華社の税引後利益のおよそ3割が持分法投資利益として営業外でT&K社のPLに取り込まれ、2021年3月期では787百万円、2022年3月期では738百万円が計上されています。

なお、T&K社の海外売上高比率は35%であり、同業他社と比較すると一見低いです。しかし、杭華社をT&K社の海外事業の一部であると捉えた場合、大きく見劣りする水準ではない、と捉えることもできるのかなと思います。

インキ各社の海外売上高比率

また、本分析はT&K社の理解を目的としています。杭華社の利益貢献の大きさは認識しているものの、T&K社のコントロール外の会社です。そのため、深くは立ち入りません。

3.BS&PL分析

<貸借対照表(B/S)>

(資産の部)

売上債権14,348百万円(20.4%)
→回収サイト
117日と長いです。回収サイトの長期化と焦げ付きリスクはセットですから、注意が必要です。

投資有価証券11,852百万円(16.8%)
かなり多いです。内訳を確認しましょう。

正体は関係会社株式でしたね。8,394百万円計上されています。
これは、持分法適用会社である中・台の2社の持分法評価額でしょう。

なお、関係会社株式の「連結貸借対照表計上額」と「時価」の差額が8,052百万円とかなり大きいです。これは、杭華社は上場しているため、持分法による評価額とは別に市場での評価額が存在するためで、両社の差が「差額」として表示されています。
この差額はオフバランス項目です。つまり、期末時点で約80億の資産がBS外に存在していたということです。かなり大きいですね。

(負債&純資産の部)

有利子負債7,449百万円(10.6%)。工夫次第で圧縮できそうな気もしますが、こんなものでしょう。

<損益計算書(P/L)>

営業利益率は2期連続で1%未満とかなり苦しいです。

一方、持分法による投資利益が営業外で21/3期:787百万円、22/3期:738百万円計上されています。T&K社の不振を杭華社などからの利益取り込みでカバーする構造です。

ところで、売上に比べて販管費の伸びが大きく、営業利益を圧迫しているように見えます。内訳を確認しましょう。

貸倒引当金繰入額が大きく増えています。その理由は「経営成績等の分析・検討内容」に記載がありました。

どうやら、インドネシアで売掛債権が焦げ付いたようです。もともと利益の薄い会社ですから、数億円の損失で営業利益が赤転スレスレです。

4.所感

<BSのマネジメントに課題>

資産の効率性が非常に低いです。総資産回転率が2015年には0.88でしたが、前期では0.63と大きく低下しています。これは、同業の中でもとりわけ低い水準です。また、ROAも同業比で低水準に留まっています。

総資産回転率の推移
総資産回転率、5年平均ROAの比較

市場のマイナス成長が続くなか、業界として事業用資産の収益性が低下してしまうのも理解できますが、このような状況だからこそ適切なBSのマネジメントが必要です。理念なくして膨張したBSは、前期の売上債権の焦げ付き然りですが、減損の対象となる資産の増大など、経営上のリスク要因にしかなりません。

PBRは0.4倍台で推移するなどマーケットからは非常に厳しい評価を受けていますが、違和感は感じません。成長投資も良いのですが、まずは適切な選択と集中、株主還元を通じてBSを圧縮を通じ、リスクの低減および企業価値の向上を図るべきだと考えています。

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