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Stay Hungry, Stay Foolishへのよくある誤解と、ジョブズのキャリアから僕たちが本当に学ぶべきこと

まだ台風で上海に閉じ込められているのでブログを書く(アップは帰ってきてからになった)。このツイートの続きと、ジョブズのスピーチ「Stay Hungry, Stay Foolish」スピーチについてだ。

いろんなテックギークにとってジョブズは無視できない存在だ。僕も1996年からずっと様々なApple製品を使ってるので、何度かツイートしている。褒めているときもけなしているときもある。

有名なStay Hungry, Stay Foolishスピーチ

ちょっとこのスピーチの話をしよう。

(公式の日本語字幕が途中で終わってるのが残念。これは最後まで字幕がついてるもの)

このスピーチはすごく有名で、内容もジョブズが自分の人生と仕事について語る興味深いものだ。いろんな解釈が発表されている。
もちろん、発表された言葉への解釈は人それぞれだ。僕はこのスピーチからこういうことを感じた。

Hungry:自分がやりたいとすごく思ったことをやろう

学生相手なので、ジョブズは学生時代の話から始める。ここで注目すべきは、「自主的に中退して講義にモグリ放題になったときに、急に授業が面白くなった」ということだ。勉強が、世間体や単位のためでなくて、自分にとって興味あるものを突き詰めるプロセスに変わったときに、同じ授業を受けているのに、大学が急に面白くなった。

多くの人が、彼がカリグラフィの講義をとったこと、それがMac他の美しさに繋がっていることを「先見の明」として褒める。でも、ジョブズはこのスピーチでは、そんなことは言っていない。

何の役に立つかなんて気にせず、ただ自分がやりたいと強く願うことをやろう。それは、なぜかはわからないが、必ず人生のどこかでつながる」と言っている。先見の明でなくて、興味本位で受けたことが、あとの仕事で繋がった。自分でもそんなことは予想していなかった。ということだ。ジョブズはそういうことを総称して魔法と言っている。

カリグラフィを例に出したのは、「美術みたいな、一見ムダそうなことでも」という意図がちょっとあると思う。(もともとのジョブズの専攻はコンピュータサイエンスで、中退したとはいえかなり多くの講義は出ていただろうし、多少なりともコンピュータサイエンスを学んだことは、カリグラフィよりよっぽど、その後のApple創業に大きく影響してるだろう)

Foolish:他人がバカにすることを恐れるな

Hungryかどうかは内的な要因の強さで決まる。一方でFoolishは他人がどう評価するかで決まる。ジョブズはこれについても、「他人の評価で人生を生きるな」と言っている。
自分で作った会社を追い出されるなど、人生には何度も逆境が訪れる。ジョブズは何度も畑違いの仕事に挑戦していて、失敗した事業や製品もとても多い。その成功と失敗を貫くのは「他人の評価を気にして人生を生きるのは馬鹿げてる」という信念だ。
HunglyとFoolishは同じことの別の側面で、「自分がやりたくて、他人が認めないことをやろう」という意味だと思う。
他人が認めないことをやりたがるのはイノベーターにとって大事だ。みんながやりたがることを他人よりうまくできるだけなら、起業家とは別の仕事のほうが向いてる。

日々死ぬと思ってやろう の真意

日々死ぬと思ってやろうは、実際に彼が早世してしまったことと紐付けて語られている。が、僕はこれは、HunglyやFoolishを強化する言葉だと思っている。
例にでたカリグラフィの授業が、仮にその後の人生にまったく役立たなくても、ジョブズは満足しただろう。彼はこのスピーチで、「その時やりたいことをやろう。将来のためじゃないし、結果のためでもない。これやったら(結果が出る前に)死んじゃっても後悔しないことをやろう」という趣旨の言葉を語っている。
死ぬ=結果が出ない ということだ。結果を期待するのでなく、行為そのものに惹かれて行うことは、より行動を強くする。
受験勉強をしないよりはするほうがマシだ。でも、勉強そのものが好きな人は、何か(合格や他人の評価)のために勉強する人を軽々と超えていく

つまり、
1.自分がすごくやりたいこと
2.世間からはバカと笑われること
3.成功や完成がゴールでなく、行為そのものにHunglyになって、結果見る前に死んじゃってもOKぐらいの気持ちでやろう

そうすれば、なぜかはわからないけど、いつか自分のやりたかったことが繋がってくるのだ。ジョブズはそれを「魔法」と言っているように思う。

ジョブズのStay Hungry, Stay Foolishは、起業家かくあるべしというメッセージだ。同じく優れた起業家であるポール・グレアムの「ハッカーと画家」とは多くの共通項がある。ぜんぜん違うタイプの2人の共通項は、自分の直感とは異なっても、ぜひ噛みしめるべき言葉だ。

付記:科学によって自分の思い込みを変えられるか

イノベーター、起業家はかくあるべし、という意味でこのスピーチはすばらしいのだけど、それらを超えてあらゆる人間が参考にしたほうがいいのは10分すぎから始まる彼と癌についてのやり取り、そしてその後だ。

ジョブズは膵臓がんが見つかるまで膵臓がどこにあるかも知らなかったこと、手術でそれが完治したことを語る。そしてさらに、「他人の言うことに踊らされるな、自分の道を歩け」という思いを強くする。

しかし、実際のジョブズは癌が再発し、56歳でこの世を去る。彼の癌治療への対応が、「Stay Foolish」だったことは様々なニュースが伝えている。(怪しげな代替医療にハマっていた、とか)

ジョブズのこのスピーチは、Whole Earth Catalogを紹介して終わる。スチュアート・ブランドのこの書籍は、ヒッピーのバイブルで、今もいろいろなところで紹介されている。Stay Hungry, Stay Foolishは、Whole Earth Catalogの最終号のメッセージだ。

一方でこの書籍Whole Earth Catalogを編集したスチュアート・ブランドは、その後も地球を良くするための対話を続け、ジョブズのスピーチの数年前に Whole Earth Discipline(地球の論点)という書籍を出版する。この本の内容は山形浩生さんが素晴らしい書評を書いている。

 七〇年代米西海岸文化を支えた「Whole Earth Catalog」。大企業と政府による消費と管理の枠組みに対抗し、個人の創意と自由に基づくエコライフスタイルを提案した雑誌だ。同誌の標語「Stay Hungry, Stay Foolish」はアップル社のジョブズの座右の銘にもなった。
 その伝説的な編集発行人が本書の著者スチュアート・ブランドだ。その後も電子コミュニティー初期の論客としてネット社会の議論形成に貢献した。いまの環境保護論者の多くは彼の影響下にある。
 本書はそのブランドが地球温暖化を懸念し、対策を提案した本だ。その答えは、都市化促進、気候工学、遺伝子工学、そして……原子力推進だ。
 ファンたちは仰天した。いずれもかつてのブランドが全否定した技術ばかり。だが本書は「転向」の根拠を反駁(はんばく)しがたい詳細さで説明する。

スチュアート・ブランドは、科学によって自分の意見を変え、いまも活動している。ジョブズがWhole Earth Disciplineの出版を知っていたのか、知らなかったのかはわからないが、もしこういうことにも興味ある人だったら、今も活動できていたんじゃないかと思う。

今見てもジョブズのスピーチは感動的だ。人生でなにかを成し遂げるために必要なものの多くが詰まっている。
一方でそれは、科学と両立できるものだ。スチュアート・ブランドは82歳になった今も活動している。

ジョブズとWhole Earth Catalogを考えるときに、スチュアート・ブランドのその後一緒に考えるのはぜひオススメだ。

僕の授業「深センの産業集積とハードウェアのマスイノベーション」は早稲田ビジネススクールの秋集中講義(MBAコース)で行われているもので、15コマのうち最後の1回だけは録画禁止で学生さんと僕がパーソナルなことふくめていろいろ話すもので、今回の話はその時に出たものだ。

他の講義では知財、産業構造、ケーススタディなどを、大学の授業として話している。

今みたいな状況の中で、彼が56歳で若くしてこの世を去ったことは様々なメッセージになる。Stay Hungly, Stay Foolishは大事だ。でも、それと科学は両立できると思う。
このブログを読んでいる人のほとんどは科学を愛することでもっと長生きできるはずだし、そのほうが良い未来が訪れるんじゃないかと思う。

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自分の中で整理がついてまとめたものは、何かしら記事やレポートにするけど、「まとまるまえのものや小ネタをすぐ見たい」という要望を聞いて、フォトレポートを始めることにしました。

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