ミームがチャートをハックする。TikTokは日本の音楽を変えつつあるのか?
こんにちは。朝山( @taasayan )です。
ここ数年、個人的には可処分時間のかなりの割合をTikTokに費やすようになったし、TikTokで新しい音楽を知ることも多くなりました。
今回はTikTokがどんな感じで音楽に影響を与えてるんだろうということを考えてみました。
懸念は解消され、TikTokの勢いが止まらない
TikTokは10代~20代の若者を中心に世界中で躍進を続けており、全世界で20億ダウンロードを突破しています。
TikTok Crosses 2 Billion Downloads After Best Quarter For Any App Ever
APP ANNIEの報告においても、TikTokは2020年、2021年Q1と連続で世界で最もダウンロードされているアプリ。
▼2020年
▼2021年Q1
日本だけで見てみても2020年で8番目に多くダウンロードされたアプリにランクイン。
このようにTikTokは全世界的にモメンタムが続いており、日本も例外ではなく利用者数、利用時間とともに増加していると推測できます。
昨年はアメリカにおいてTikTokがバンされる、あるいはオラクルに買収されるといった懸念が勃発し、「先行きが見えないリスクが大きいプラットフォーム」という見方もありましたが、直近ではバンの可能性は保留、オラクルによる買収の件も解消となり、アーティストやクリエイターにとっても活動を続ける上での懸念材料が取り除かれた状態と言えるでしょう。
仮説
個人的には数年前までは新たな音楽の発見はYouTubeやSpotifyがほとんどだったのですが、最近はTikTokもメインの発見の場の1つになりつつあります。
日本においてもTikTokの影響力が日増しに強くなる昨今、TikTokは日本の人気音楽にも何か影響を与えているのではないかと思いました。
「TikTok利用」と「トレンド音楽の変化」について因果関係がわからなくても、仮説を強固にするようなデータを見つけたいなと思いました。
そこで2つの具体的な仮説を持ってみました。
①TikTokでバイラルしてる楽曲は、従来のトップチャートと比較して何か音声的特徴があるのではないか
②日本の人気楽曲の傾向に何か変化が生まれているのではないか?
検証方法
上記の2つの仮説を以下の方法で検証してみようと思います。
検証方法①TikTokでバイラルしてる楽曲は、従来のトップチャートと比較して何か音声的特徴があるのではないか
Spotify Web APIを用いて、以下の2つのプレイリストの音声的特徴を比較し、TikTokでバイラルする楽曲の特徴を見つけることにしてみます。
・オリコンのトップチャート楽曲
(※2021年4月4日時点でデイリー、ウィークリー、マンスリーのいずれかにチャートインしていたシングル楽曲)
CD売上を中心としたトップチャートを発表しているオリコンを「日本の一般的な人気楽曲」の代表としてピックアップして、音声的特徴を検証します。
・TikTok Japan公式が出している日本のTikTokバイラルチャート
Spotify上にTikTok Japan公式が出しているバイラルチャートのプレイリストがあったのでこれを「TikTokでバイラルする楽曲の代表」としてピックアップして音声的特徴を検証します。
検証方法②日本の人気楽曲の傾向に何か変化が生まれているのではないか?
Spotify Web APIを用いて、Spotify公式が作成している年代別の日本の人気楽曲プレイリストの音声的特徴を取得して時系列の変化を見る
▼利用したプレイリスト
1970年代:My Generation: '70s
1980年代:My Generation: '80s
1990年代:My Generation: '90s
2000年代:My Generation: '00s
2010年代:My Generation: '10s
2020年:Top Tracks of 2020 Japan
2021年:トップ50 - 日本
※2010年代までは10年単位の人気楽曲プレイリスト、2020年、2021年は単年のトレンド楽曲プレイリスト
検証結果
Spotify Web Apiを用いると、ラウドネスやエネルギー、テンポなどさまざまな音声データを取得することができます。
そのなかでも、明確な差異が見られた「ダンスのしやすさ」と「曲の長さ」の結果を記載します。
検証結果①TikTokのバイラルソングはオリコンチャートと比較して115%ダンスしやすく、約50秒尺が短い
▼ダンスのしやすさ
・TikTokのバイラルチャート楽曲はORICONチャートの楽曲と比較して約115%「ダンスのしやすさ」の平均値が高い
▼曲の長さ
・TikTokのバイラルチャート楽曲はORICONチャートの楽曲と比較して、中央値が約50秒短い
検証結果②時系列でダンスのしやすさが上昇し、楽曲が短尺になってきている
▼ダンスのしやすさ
・2010年代以降「ダンスのしやすさ」が上昇している
・2020年から2021年にかけて1年で一気に上昇し、1970年代から現在に至るまでの過去最高値に達している
▼曲の長さ
・2000年代をピークに楽曲の尺は短くなり続けている
・2020年と2021年を比較しても1年でさらに短くなっている傾向が見える
考察
・TikTokのバイラルソングはオリコンチャートと比較して、相対的にダンスしやすく、曲が短い
・日本の人気楽曲を時系列で見るとダンスのしやすさが上昇し、曲が短くなってきている
という結果から「TikTokが日本の人気楽曲の音声的特徴の変化の要因になっている」という因果関係を示す結論にはならないですが、少なからずTikTokのような音楽を載せた短尺動画SNSが日本のトップチャートの音声的特徴に影響を及ぼしていると推測しています。
個人的な考察を追記します。
ミームがチャートをハックする
AKB48を代表とする従来のJ-POPアイドルは握手券という価値をCDに付加することでCDの売上をあげ、CD売上が重要指標であるオリコンチャートをハックし、さらに売上を伸ばしてきました。
ただ、オリコンチャートはYouTubeでの再生回数を計算に含まない仕組みになっており、現代においては人気度の実態を必ずしも表していない場合もあります。(※オリコン週間YouTubeチャートというYouTubeに特化したチャートは別途あります。)
一方で2010年代から存在感を増してきたビルボードチャートはYouTube再生回数などを計算に含みますし、Spotifyなどの各ストリーミングプラットフォームにおけるトップチャートを見る人も増えており、SpotifyやYouTube上での再生回数がより重要さをましてきました。
ストリーミングの再生回数を伸ばす上で、TikTokなどソーシャルメディア上における「ユーザー投稿」が鍵になっています。
TikTokのような短尺動画SNS上では特定の動きや楽曲などを軸にしてユーザーがマネとアレンジを加えて投稿し、拡散されていく「meme(ミーム)」と呼ばれる現象が起きています。
ミームにはクイズに回答するシンプルなものから、TikTokのエフェクトを使ったものなど非常に様々な形態がありますが、そのうちの1つのテンプレートが音楽に合わせた「ダンス」です。
ダンサビリティーが高い楽曲はユーザーの「この楽曲で踊って自己表現したい」という気持ちを刺激し、ミームになりやすい傾向があります。
例えばSpotifyの「 Viral hits on TikTok Music 🇯🇵 」にもチャートインしているNiziUはダンサブルな楽曲が多く、TikTokユーザーによく使用されています。
▼NiziUのMake you happyは既に11万投稿されている
▼NiziUのPoppin' Shakin' を利用したユーザー投稿
ミームのテーマとして楽曲を使ってもらえれば、以下の循環につながりやすいと推測できます。
①TikTokのユーザー投稿によってミームが発生し、楽曲の認知が広まる
②楽曲を知ったユーザーがSpotifyやYouTubeなどで再生し、ストリーミング回数が伸びる。あるいはCDが売れる
③ビルボードチャートなどをハックでき、さらに多くの人に知ってもらえる
このように「ミームがチャートをハックする」好循環を生みやすい傾向があるのではないかと推測します。
TikTokでミーム化を狙った楽曲としてDrakeのToosie Slideが挙げられます。
MVを見ていただけるとおわかりのとおり、サビの部分のダンスが印象的かつ非常に簡単で誰もがマネできるものになっています。
また"right foot up, left foot slide. Left foot up, right foot slide." のように歌詞自体がダンスのインストラクションになっています。
更にTikTokの15秒尺にきれいに収まるようにサビは15秒に。
Spotifyなど音楽配信サービスでのリリース前に、先にTikTokで一部音源を公開し、UGC起爆剤としてTikTokスターたちにダンス投稿をしてもらっています。
TikTok上でUGCが出て、充分なアテンションを獲得し、期待感が高まった状態でSpotifyなどで配信開始し、一気にチャートトップを取るという流れです。
以下の動画によると、Drakeは楽曲が完成するよりも前にダンサーに振り付けを依頼していたそうです。
それくらいTikTokでミーム化するという観点で「ダンスしやすさ」は重要なポイントだということでしょう。
ちなみに、「ダンスのしやすさ」の指標で日韓のガールズグループを比較してみると、明確な分布の違いがあり、NiziUやK-POPのガールズグループは意識してダンサビリティーの高い楽曲を制作しているという側面が垣間見られます。
▼日韓のガールズグループのダンサビリティー分布
■日本グループ
NiziU, 乃木坂48, 日向坂46, AKB48, 欅坂46, E-girls, ももいろクローバーZ, Perfume, BABYMETAL
■韓国グループ
IZ*ONE, BLACKPINK, TWICE, ITZY, MAMAMOO
アメリカのGenZはTikTokの影響で歴史上最もダンスがうまい世代と言われているそうです。現状の日本は相対的に見て、誰もが気軽にダンスをするような文化はあまりないと思われますが、今後TikTokの影響で日本人にとってダンスがより身近なものになると、TikTok上でのダンス投稿が増え、さらにダンサビリティーの高い楽曲がチャートを席巻する傾向が強まっていく可能性がありそうです。
音楽消費行動はアルバムから楽曲、そして部分消費へ
かつて音楽視聴はレコードやCDを購入し、アルバム単位で複数の楽曲をセットで体験することが基本でしたが、iTunesで楽曲単位で購入できるようになったり、YouTubeやSpotifyなどでストリーミングができるようになり楽曲単体での視聴行動が増加しました。
そしてTikTokが新たな音楽消費行動を生んでいます。
単体の楽曲の中でもTikTokに利用される15秒~60秒の切り取られた一部分のみを視聴する体験が中心になってきているのです。
実際にTikTokでバイラルしてる楽曲を見てみるとSugarCrash!やRenai Circulationなど1分30秒ほどのものも多く、オリコンチャート楽曲の中央値が4分ほどであることを考えると、非常に短尺であることがわかります。
SugarCrash!は750万投稿、Renai Circulationは420万投稿されている。
▼TikTokでバイラルしている青森ナイチンゲールの「ちょーっと、みなさんいいですか?」は2分
▼楽曲利用投稿数は3万、#青森ナイチンゲール の総視聴回数は3.4億回超え
TikTokで利用されるのは切り取られた一部分なので、長尺の大作楽曲でなくても、15秒内にキャッチーなメロディーやビート、あるいは歌詞を含んだ楽曲であればバイラルすることが可能なのです。
また、TikTokのような短尺コンテンツをサクサクと消費していく高速な体験になれたユーザーたちは長尺の楽曲を長々と聴き続けられなくなってきているという側面もあるでしょう。
このようにTikTok上での「部分視聴行動」がトップチャートの楽曲尺にも大きな影響を与えているのではないかと思うのです。
以上です。
日本におけるTikTokの勢いは続き、今後も音楽だけでなくいろいろな消費行動に大きな変化をもたらしていくと思います。
TikTokなど様々なソーシャルメディア情報をTwitterで発信しているのでよければ見てみてください!
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