激化するクリエイター争奪戦。 Instagramとクリエイターエコノミー
こんにちは、ホットリンクの朝山(@taasayan)です。
ソーシャルメディアの隆盛により、誰もがコンテンツを制作し、発信できる世界になり、ソーシャルメディアにおけるクリエイターが劇的に増加しました。
今回は、「クリエイター」と「ソーシャルメディア」にフォーカスして
・クリエイター獲得のために各ソーシャルメディアがどのようなことをしてるか
・なぜプラットフォームにとってクリエイターが大事なのか
・Instagramが今何を進めているのか
あたりについて書きます。
主要ソーシャルメディアのショート動画UGC領域への参入により熾烈なクリエイター争奪戦に
直近で、各ソーシャルメディアがTikTokに似た短尺縦型動画機能をリリースしています。
▼Snapchatの「Spotlight」
▼Instagramの「Reels」
引用:Introducing Instagram Reels
▼YouTubeの「Shorts」
引用:Bringing YouTube Shorts to the U.S.
▼Facebookの社内R&DグループNPEチームによる実験的アプリ「BARS」
引用:Facebook launches BARS, a TikTok-like app for creating and sharing raps
「クリエイター」と一口に言っても、ライターやミュージシャン、カメラマン、動画クリエイターなど非常にさまざまですが、上記のように各プラットフォームがショート動画のUGC領域に乗り込んだ今、とりわけショート動画クリエイターの獲得競争が激しくなっています。
クリエイター獲得のために各プラットフォームはクリエイターへの支払いによるインセンティブづくりやマネタイズ機能の整備を進めています。
TikTokは10億ドルのクリエイターファンドと複数のマネタイズ方法を用意
TikTokはTikTok Creator Fundを立ち上げ、3年間で10億ドルをUSのクリエイターに支払う予定だとアナウンスしています。
▼ 既にTikTok Creator Fundから報酬を得ているクリエイターたち
Tim Dessaint
Tammi Clarke
TikTokはCreator Fund以外にも、以下のようなクリエイターがマネタイズする方法を複数用意しています。
TikTokにはライブストリーマーに対してオーディエンスが投げ銭できる機能があります。クリエイターは投げ銭を得ることで "Diamonds" を集めることができ、ファンドからの支払いに換金することができます。
TikTokが用意しているブランドとクリエイターのマッチングツールを使うことで、企業のスポンサード案件を受けマネタイズすることが可能です。
このようにTikTok Creator Fundと複数のマネタイズ方法を用意することでショート動画クリエイターが集まり、他のプラットフォームに流出しないように努めています。
Snapchatの毎日100万ドル配布プログラム
Snapchatは、最もパフォーマンスが良かったSpotlightクリエイターに対して毎日100万ドル(1億円くらい)を配布するプログラムを実施しており、ショート動画クリエイターをSnapchatに呼び集め、投稿してもらうインセンティブを作っています。
このSpotlightのプログラムによって、25歳のSnapchatクリエイターSarah Callahanはフィットネス系コンテンツで163万ドルを稼ぎ、プランクやなぞなぞコンテンツが人気の21歳Joey Rogoffも170万ドルを稼いだそうです。
引用:Snapchat is paying $1 million a day to creators of popular short videos, and some are getting rich
マネタイズ方法が充実しているYouTube
YouTubeもShortsクリエイター向けの1億ドルのファンドを設立しました。
毎月、最も視聴数やエンゲージメントが高かったクリエイターに報酬を与える形になるようです。
その他にも、YouTubeは広告レベニューシェアやスーパーチャット、グッズ販売、チャンネルメンバーシップなど、クリエイターがマネタイズできる方法が非常に充実しているメディアです。
参考:Diversify your YouTube revenue
また、YouTube自体ではないですが、YouTubeスターのMr.Beastなどがファンドと協働して、クリエイターが新規の有望なクリエイターへの投資を行う「Creative Juice」を創設するといった動きもあります。
ついにTwitterも有料課金機能をアナウンス
Twitterもクリエイターに有料課金することで限定コンテンツを閲覧することができる「スーパーフォロー機能」をリリースすることをアナウンスしています。
Twitterが現在開発中のオーディオスペース「Spaces」においてもチケットを販売して、購入者のみが参加できる「Ticketed Spaces」をリリース予定。
直近でも好きなクリエイターにチップを送れる機能を開発中であることが発見されています。
今までは外部コンテンツのディストリビューションプラットフォームとして位置づけられていたTwitterですが、有料課金機能が実装されることによってクリエイターが集まりコンテンツを創り、Twitter内でユーザーがエンゲージメントするプラットフォームとして拡張していく可能性があります。
なぜクリエイターが大事なのか?
このようにソーシャルメディアのプラットフォーマーたちはクリエイターたちへの金銭的報酬を強化しています。
なぜクリエイターに投資するかと言うと、UGCプラットフォームにおいてクリエイターとクリエイターがつくるコンテンツがサービスの魅力であり、視聴ユーザー数や滞在時間を大きく変え、収益に直結するからです。
▼クリエイターが集まることから始まる循環
①良いクリエイターが集まる
②魅力的なコンテンツが増える
③視聴ユーザーが増え、滞在時間も伸びる
④プラットフォームもクリエイターも収益化しやすくなる
魅力的なコンテンツが増えることでユーザー数や滞在時間が伸びれば広告収益が伸びますし、サブスクリプション機能やeコマースの手数料などでも収益を伸ばすことができます。その収益をクリエイターに還元することでまたあらたな良質コンテンツを生成してもらうという循環が起きるのです。
このような構造があるため各プラットフォームはクリエイターの獲得に投資をしているのです。
Instagramがクリエイターエコシステムに本気
これまで数多くのクリエイターが生まれてきたInstagramですが、クリエイターのマネタイズ方法としては
・企業のスポンサード案件
・楽天roomなどの外部のアフィリエイトへの誘導
・個人のグッズショップに遷移させて購入してもらう
など「Instagramの外」で収益が発生するものであり、Instagram内でクリエイターがマネタイズする方法がない状況でした。
クリエイターにとっても収益化の選択肢が少ないですし、Instagramとしてもクリエイターエコノミーから得られる収益がInstagramに落ちない仕組みになってしまっていることを意味します。
そういった中、2021年1月くらいのThe Vergeのインタビューで、「クリエイターのために多様なマネタイズ方法を確立してく」とInstagram HeadのAdam Mosseriさんが話していました。
I want to make sure that we build meaningful services across all of those buckets, because if we want to be the No. 1 place for creators, we need to make sure that we offer a suite of services that they find meaningful and valuable as opposed to just one type of unstable value, which is distribution. I don’t want to have our eggs in one basket.
引用:BANNING PRESIDENT TRUMP WAS THE RIGHT DECISION, SAYS INSTAGRAM’S ADAM MOSSERI
4/28にもAdam MosseriさんとFacebookのMark Zuckerbergさんがインスタライブをやって、今後のInstagramにおけるクリエイターのマネタイズについて話してました。
クリエイターがInstagramに集まってくるようにInstagramがやっていること、今後やろうとしていることを紹介します。
Reelsクリエイターへの支払い
InstagramはTikTokと似た縦型ショート動画機能Reelsをリリースしており、ショート動画クリエイターの確保が重要な課題となっています。
THE WALL STREET JOURNALの記事によると、FacebookはTikTokのハイプロフィールクリエイターにお金を支払い、Reelsを利用してもらうように説得しているそうです。
TikTokやSnapchatがファンドを設立して、パフォーマンスが高いクリエイターにお金を支払っているのと同じ感じでしょうか。
今までのInstagramクリエイターの美しい静止画写真を撮影するスキルとショート動画制作の技能は異なるので、ショート動画クリエイターをInstagramに集める必要があります。Reelsに面白いクリエイターとコンテンツを増やすためにはTikTokのクリエイターにReelsを制作してもらうのが最も手っ取り早そうです。
ライブでの投げ銭機能
Instagramライブの視聴者がクリエイターに投げ銭できる機能を一部のクリエイターに解放しています。
引用:Doing More to Support Creators on Instagram
視聴者が購入できるバッジの種類は110円、210円、540円の3種類で、一度購入するとコメント欄で購入者であることがわかるバッジが表示され、優先的にコメントが表示されるようになります。
クリエイター側も購入者一覧を見ることができるようです。
クリエイターはバッジを集め、マイルストンを達成するとInstagramから収益のシェアをもらえるようになるみたいです。
クリエイターショップ
Instagramはビジネス向けに「Instagramショップ」という無料でInstagram上にショップを開設できる機能を出しています。
MosseriさんとZuckerbergさんのインスタライブによると、クリエイターもこのビジネス向け機能を頻繁に使っているらしく、ショップ機能をクリエイター向けに最適化した「クリエイターショップ」の機能開発を進めているそうです。
USなどでリリースされている「チェックアウト機能」とかけあわせればクリエイターは自身のグッズをInstagramのフォロワーにスムーズに買ってもらうことができます。
Instagramとしても、クリエイターショップでの収益の手数料を得ることができるでしょう。
アフィリエイト
パートナービジネスの商品をプロモートすることでクリエイターが利益を得られるアフィリエイト機能を開発しています。
具体的にはおそらく、ビジネスがクリエイターにショップタグの利用権を付与することができるようになり、クリエイター経由の売り上げに応じてアフィリエイト収益をもらえる形っぽいです。
▼パートナービジネスのショップタグの付与方法
①フィード投稿のキャプションを作成する際に@メンションをすることでプロダクトタグメニューを開く。プロダクトソースのリストからパートナーを選択する
②パートナーを選択したら、そのブランドのプロダクトカタログからプロダクトを選択できるようになる。リストからタグ付けしたいプロダクトを選択しタグ付けする
③投稿するとキャプション上でクリック可能な文字として現れる
現在はInstagramから楽天ROOMなど外部のアフィリエイトに流す人も多いですが、Instagram内でアフィリエイトができるようになると頑張って外部遷移させる必要がなくなりそうです。
ブランドコンテンツマーケットプレース
クリエイターとビジネスをマッチングするプラットフォームを再開発してるそうです。
現在もブランドコラボマネージャというFacebookとInstagramにおいてブランドとクリエイターをマッチングするツールがありますが、少なくとも日本ではほぼ使われてない印象です。
ブランドがInstagramクリエイターと協働するインフルエンサーマーケティングが盛んですが、ここのお金の流れにInstagramが介在できていないため、クリエイターへの支払いが発生してもInstagramにはお金が落ちない仕組みになっています。
(※インフルエンサーのオーガニック投稿だけでなく、ブランドコンテンツ広告というクリエイターの投稿をブランドが第三者配信する広告メニューが使われればInstagramに収益が発生します。)
一方でTikTokは「Creator Marketplace」というブランドとクリエイターのマッチングプラットフォームを自ら作って、基本的にTikTokを介してクリエイター起用が行われ、インフルエンサーマーケティングのお金の流れに介在できるように努めています。
Instagramもこのようにクリエイターとブランドのマッチングプラットフォームを強化しにかかるということなのかと思っています。
IGTV広告のレベニューシェア
InstagramはIGTVの再生中に流れる上限15秒のインストリーム広告をテスト開発中です。
Facebook広告マネージャの配信面にも「Instagram IGTV」が追加されてます。
Bloombergによると、この広告収益をIGTVクリエイターとレベニューシェアするプログラムをトップクリエイターに提案しているようです。
Instagram started reaching out to its top video creators on Friday, asking them to partner on ad tests. Those in the program will receive a 55% share of all advertising in IGTV, the same rate as YouTube, according to people familiar with the matter.
引用:Instagram to Roll Out IGTV Advertising in Challenge to YouTube
YouTubeと同じ収益の55%をクリエイターにシェアする形のようです。
Facebookクリエイターエコノミーの形成
このようにInstagramは魅力的なクリエイターが活動の場所としてInstagramを選んでくれるように、非常に多様なクリエイターのマネタイズ方法を確立しようとしています。
また、クリエイターに関わるお金の動きにInstagramが介在できる仕組みにすることでクリエイターエコノミーによってInstagramにも収益が落ちるように取り組んでいます。
Instagram内で購入が完結するチェックアウト機能に加え、支払いの方法にFacebookペイを追加しており、クリエイターに関わる全てのお金の動きにFacebookが介在する「Facebookクリエイターエコノミー」の形成を目指しているのではないでしょうか。
引用:Instagram Shop: Discover and Buy Products You Love, All In One Place
以上です
クリエイターの階層の固定化を防ぎ、新たなクリエイターが参入しやすくするためにInstagramがやってそうなランキング設計の工夫の推測についてもここに書いてますので、もし興味あれば見てみてください。
アサヤマのTwitterでもSNSの最新情報などをツイートしてるので、よければ見てみてください。
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