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【書店経営】待遇改善がキーとなり得るか

「瀬迫さん、この業界では給与の話はタブーなんですよ」

2021年6月、ある打ち合わせの際、出版関係者の方がこんな風に仰られました。

なぜ給料の話題になったのかというと、題材が書店経営だったからです。

以前のnoteでツイートを取り上げましたが、書店単体で経営が成り立たないかを勝手ながら模索しています。

薬局と本屋の掛け合わせ「ページ薬局」で一時注目を集めたとはいえ、本の売上は決して多くありません。

それは店名からもわかるようにあくまで主体は薬局で必達目標までは掲げず、本の販売を楽しむことや本との出会いの場作りを意識して運営を行ってきました。

もちろんこのスタイルで本との偶然の出会いを楽しんでもらえる薬局が他の場所でもできたら、と思いながらも、本を売るという商売はすごく良いことなのに何でこんなに立ち行かないんだろう、と度々考えるようになりました。


それで一人で悩んでばかりいても仕方ないと考え、出版関係の方に連絡を取り、現役書店員の方も含めて機会を設けてもらったというのが打ち合わせに至るまでの経緯です。

前提と書店経営に係る費用

いきなり待遇の話になったのではありません。

まず出版・書店業界の現状の共有といったところから口火は切られました。


業界に様々な課題があることを改めて確認しつつ、本質的なところにメスを入れようにも再販制度、委託制度の2つを考慮すると決して容易ではないとの話に。

ならば現行の制度のもと、本で売上を作るにはどうしたらいいのかを考えるべきだとの方向になりました。

まだ実施していなければnoteで紹介した他の書店での経営手段を取り入れるのも有効だと思います。

これら経営手段に加え、利益を考慮するなら売上も然り、費用にも目を向けなければなりません。


売上ー費用=利益

当たり前ですが利益を生み出さなくては経営は成り立ちません。

随分と前から出版不況が叫ばれている中、売上を上げるというのがいかに困難かは曲がりなりにも肌で感じています。


一方で費用については家賃や人件費が割合として大半を占めるかと思います。

そして、すでに多くの本屋さんが人件費は切り詰めている印象を受けています。


「書店員 平均年収」と検索し、あるサイトでは正社員の全国平均は350~400万円と書かれていました。

これだけだと書店員の待遇が悪すぎるとまで言えないかもしれませんが、実情としては雇用形態として正社員の枠は少なく、契約社員やパートといった方が多いと感じています。

「本で売上を作る」にどこまでコミットできるか

固定費の見直しによって改善できる部分もありますが、費用を削減するとの観点で書店経営を立て直すのはもはや限界ではないかと思います。

やはり売上を作る方向で考えなくてはなりません。


では先ほど述べたような経営手段の他にどんなことが考えられるかというと、「人」という要素が挙げられるのではないかと考えました。

前にnoteでもまとめましたが、いわゆるファンの獲得が売上を伸ばす要因の一つになるのだと思います。

何を今更、と思われたかもしれませんが、ファンを作って本の売上を伸ばそうとしている本屋さんをどれだけ列挙できるでしょうか?

批判をしたいわけではないのですが、これまで何度も足を運んできたチェーン書店からそのように感じたことはほとんどありません。


ファンを獲得しようと思えば、お客さんとのコミュニケーションは必須です。

ではそのコミュニケーションを取る際、一番の糸口となり得るのは「本」の話題だと思います。


本の知識をある程度備えており、コミュニケーションが取れる。

本の話題でコミュニケーションを取ってファンを獲得し、本で売上を作ろうとする。

理想も理想ですが仮に店舗の書店員さん全員がこのような意識を持てれば、活路を見出せるのではないかとも思えてきました。

エキスパート書店員が生まれにくい理由の考察

本に詳しく、接客レベルも経営に対する意識も高い書店員さん。

こんな人がいたら苦労しないと嘆きも聞こえてきそうですが、書店員さんの待遇って厳しくないですか?と日頃薄っすら感じている疑問に行きついたのです。

タブーだと言われたのは、本が売れないとはいえ出版社や取次はそこまでではなく、書店員さんが際立って厳しいから、といったところではないかと推測しています。


上で述べた通り正社員の枠は少なく、ほとんどの方が契約社員やパートタイマー。

給料も決して高くはないため、知識を身につけようにも本にばかりお金や時間を割きにくい。

あるチェーン書店では何年間勤めても昇給の機会などないに等しく、POPの用紙すら自腹だと伺ったこともあります。


幼い頃より本好きの本の虫、みたいなアドバンテージがあれば別ですが、このような状況下でエキスパート書店員が生まれるには無理があると思います。

本が売れないのに給料を上げろというのか?とお叱りを受けそうですが、経営側の心情が理解できないのではありません。

ただ売上を作ろうとするなら経営手段然り、「人」にも目を向けなければジリ貧となるばかりではないでしょうか。

平均水準より高い待遇を実現できれば?

自分の売りたいと思った本を買ってもらえるのは書店員の醍醐味です。

その醍醐味ばかりに委ねるのではなく、売上の一部が自分の給与に反映されたり、売上目標を達成できたらインセンティブがつくとなったりすれば、より数字を意識できそうだと思います。

何も営業職のような報酬体系にしなくともベースがある程度高く、しかし給料を維持したければ売上目標達成はマスト、みたいな形態でもいいのかもしれません。

いずれにせよ今と違った待遇を実現できれば、売っても売らなくても大差がないのと、売上への意識や取り組みが同じということは考えにくいと思います。


待遇を良くすれば売上が伸びる、といった単純な話ではないのは明白です。

それでも書店単体で経営を成り立たそうとするなら、値段が同じ本を誰から買うか、書店員という「人」の要素は無視できないと思います。


書店単体で経営を成り立たすという壮大なテーマ。

2021年7月、2回目の打ち合わせを終えて次回は8月に予定しています。

待遇の改善がキーとなり得るのか、他の切り口も踏まえてひっそりと可能性を探っていきたいと思います。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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