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また春に会おう

1月から4月まで、仕事の関係で毎週末東京に行っていた。
近所から東京までは新幹線で1時間半前後。長距離バスに乗れば3時間強で着く。ゆったりと行けることを選択して、いつもバスで向かっていた。
3時間半も一体何をするんだとよく聞かれるが、ドラマや映画を観たり、東京での仕事の資料などを眺めたりとそれなりに有意義に過ごすこともあるが、実のところほとんどの時間を寝ていた。長距離バスで寝ると身体が痛くなることは必須なのだが、ついうとうとしてしまうのだ。身体が痛くなってしまうことに関して良い解消法があればぜひ聞きたいところだ

さて、長距離バスに乗ったことある方は分かるだろうが、走行距離に合わせて休憩がある。私はいつも同じルートのバスに乗るため、必ず決まったサービスエリアに停まる。毎週末通うものだからどこに何があるかはもちろん、新作で何が入ったかをチェックするのがもっぱらの楽しみになっている。

春の気配が感じられるようになった頃、いつものサービスエリアに停まった。用を足そうと足を運んでいると入口頭上で「チチチチ」と声が聞こえた。ふと見上げると、そこにはこぢんまりとしたつばめの巣と、中で押し合いへし合い親からの給餌を待つヒナ達がいた。
黄色いくちばしを一生懸命に開き、我先に貰わんとする表情に思わず笑ってしまい、それ以降観察するのが楽しみの一つになった。
成長を見ている気分はまるで親戚だ。いつの間に大きくなっていき、大人に混じろうとする姿には感動を覚える。

3月中旬、いつも見ていた巣の周りがやたらと賑やかだった。あの雛たちが飛ぶ練習をしていたのだ。風を切って飛ぶ親に必死について行くが、なかなかまだ体力と技術が足りないようで地面に降りて休憩してる子もいる。地上は猫や野生動物の縄張りだから小鳥がぼんやり立っているのは危険極まりないのだが、まだ彼らはそんなことは知らない。その姿がなんとも言えず可愛いのだ。
黄色いくちばしはまるで小学生が被る黄色い帽子のようで、可愛らしさと大人になってゆく逞しさが見られた。

そして先日、ふと見た時にあの巣が無人なのに気づいた。かさとも音はせず、旅立っていった家は静寂に包まれていた。毎週末の楽しみであったからこそ、少しの寂しさを感じていたが「チチチチ」と鳴く声を聴き、振り返った。つばめが一羽、電灯の上から自分の家を見下ろしていた。
その子と目が合ったと思う。つやつやとした羽色に赤い顔、そして黄色いくちばしをもつ小柄なつばめだった。少しの間見つめ合い、その子は翼を広げまだ見ぬ世界へと駆けて行った。

いってらっしゃい、また春に会おう。
その時は素敵なパートナーを連れておいで。

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