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世の中の現象を数式で表すことができるはずなので、世界の人口も数式で表してみた

この記事は、偏愛とマーケティング研究所のマガジン「偏愛研究レポート」に収録されています。毎週月曜に偏愛とマーケティング研究所メンバーの頭の中が更新されていくので、ぜひご覧ください。

どうも、数学好きな人がよく言う「この数式は美しい」の意味が最近ちょっぴりわかってきた納富です。

今回はなぜ美しく感じてしまうのかもちょっぴり書いているので、「数式が美しいなんて理解できないや…」とちょっと引き気味な方は必ず最後まで読んでください(切望)

世の中の現象を数式で表すことができるはず

  • 生き物の成長

  • 津波の予測

  • スポーツカーの形

  • 経済の成長

これらは、全て数式(特に微分方程式)で表すことができています。そして、200年以上に渡り上記のような"世の中の現象を数式で表すこと"が社会問題の解決に繋がっているのです。

今となっては「微分方程式を使って数式化(モデル化)し、将来予測をする」ということは一般的になってきましたが、よくよく考えてみると「最初にこれをやり出した人めちゃくちゃすごいな」なんて思ったわけです。

そこでこの世の中の現象を数式で表すことの原点となった人は誰なんだと調べてみることにしました。

すると、イギリスの経済学者の名前が出てきました。
トマス・ロバート・マルサス(1766-1834)という人物です。

人口を数式で表してしまった変態的数学者

一体どういったモチベーションで人口を数式で表そうと考えたのか。気になってしょうがないですが、それと同時に人口はどのような数式で表すことができるのかを気になっている方も多いと思うので、数式を紹介します。

そもそも人口を数式で表すとなると、さまざまな要因が考えられます。

この辺に関しては、下の記事を読んでもらえると
"数式で表現するにはさまざまな要因がある"という言葉の意味が理解できます。

例えば、人口を決定する要因として、その国の生活水準が影響していたり、水の綺麗さみたいなものが影響しているのかもしれません。

しかし、考えられる要因が多すぎると式も複雑になってしまうので、マルサスは「その時の人口」だけに着目することにしました。

なぜその時の人口に着目したのかというと、
人口が多ければ、たくさん産まれてたくさん死にます。逆に人口が少なければ、産まれてくる人数も少なく死ぬ人数も少ないです。つまり、人口の増減はその時の人口に比例すると考えたのです。

まず、ある時刻t(例えばこれを書いている2024年4月29日だとしましょう)におけるある国(日本としましょう)の総人口をN(t)(約1.2億人)としましょう。

そうすると、今この瞬間の短い時間間隔(あなたがこれを見た3秒程度とイメージすると分かりやすいかも)dtにおける出生数と死亡数は、ともにその時点での総人口と時間間隔に比例するので、

$$
出生数 = \alpha Ndt, \quad 死亡数 = \beta Ndt
$$

と表すことができるのです。
この時点で、すでに数学があまり得意でない方からすると「何言ってんだ」みたいな状況になっているかもしれませんが、わかりやすく言うと、

  • 出生数は、その時点での人口が多い方が大きい値になる。
    (そりゃ人口が10人しかいない国と1億人いる国では、出生数が人口が多い国の方が多くなりますよね)

  • 死亡数も上記と同じ

ということです。
では、今回設定した短い時間間隔dtにおける人口の増加数(今回はこれをdNとします)は、

$$
(人口の増加数) = (産まれた人数)-(死亡した人数)
$$

で表すことができます。
これを数式で記述すると、

$$
dN = \alpha Ndt - \beta Ndt= \gamma Ndt, \\
ただし \gamma \equiv \alpha - \beta
$$

となるわけです。

余談ですが、「短い●●」を数式で表すと「d●」のようになります。この「d」はデルタの頭文字で「ほんの一瞬」を表しています。だからこそ、今回は"時間(t)が"短いので、「dt」と表します。

さて、上の式の両辺をdtで割ると下のような式になります。

$$
\frac{dN}{dt} = \gamma N \quad (\gammaは比例定数)
\\(マルサスの人口モデル)
$$

ここからは高校数学の内容になってくるのですが、

$$
\frac{dN}{dt}
$$

これどこかで見たことありませんか??

$$
\frac{dy}{dx} = f'(x)
$$

そうです。大学入試で必ずと言っていいほど出題される微分です。

上記の数式はyをxで微分していますが、今回は「Nをtで微分している」というように見ることができます。このように世の中には微分方程式で表すことができるものが多く存在します。

実際に当たっているのか?

数式にすることで、人口の変動予測ができるようになります。
一見、マルサスの人口モデルはかなりシンプルで本当にそれで予測できるの?と疑ってしまいます。

実際に分析をしている記事を見つけたのでその結果を引用します。

https://home.hirosaki-u.ac.jp/relativity/%e7%90%86%e5%b7%a5%e7%b3%bb%e3%81%ae%e6%95%b0%e5%ad%a6c/%e5%b8%b8%e5%be%ae%e5%88%86%e6%96%b9%e7%a8%8b%e5%bc%8f/%e3%83%9e%e3%83%ab%e3%82%b5%e3%82%b9%e3%81%ae%e4%ba%ba%e5%8f%a3%e3%83%a2%e3%83%87%e3%83%ab/

マルサスの人口モデル1860年ごろまでは一致していますが、それ以降に関しては乖離が徐々に大きくなっていきます。

この原因として考えれるのが、人口の増え方がその瞬間の人口だけの影響しか受けないのであれば、マルサスモデルに従いますが、その他にも食べ物などの生活資源の影響があるので乖離が起きていることです。

実際には乖離が大きいので、それほど精度は高くないですが、数式で表せること、さらにその式がかなりシンプルな形で表現できることが何よりも当時からするとかなりインパクトがあったと思います。

より良い数式を求める数学者たち

マルサスの人口増加モデルでは乖離が大きくなってしまうので、数学者たちはより乖離が小さくなるような数式を追い求めます。

そこでヴェアフルストという数学者がマルサスの人口モデルを修正して、食べ物の問題や人口の過密問題などを考慮した人口モデルを作成しました。
その式がこちらです。

$$
\frac{dN}{dt} = \gamma N(1-\frac{N}{N_{max}})
$$

簡単に説明すると、「人口は増加し続ける(ここまではマルサスと同じ)が、上限が存在する」ということを数式で表現したのです。

するとこれまでよりかなり人口の増加を近似できるようになったのです。

https://home.hirosaki-u.ac.jp/relativity/%e7%90%86%e5%b7%a5%e7%b3%bb%e3%81%ae%e6%95%b0%e5%ad%a6c/%e5%b8%b8%e5%be%ae%e5%88%86%e6%96%b9%e7%a8%8b%e5%bc%8f/%e3%83%b4%e3%82%a7%e3%82%a2%e3%83%95%e3%83%ab%e3%82%b9%e3%83%88%e3%81%ab%e3%82%88%e3%82%8b%e4%bf%ae%e6%ad%a3%e4%ba%ba%e5%8f%a3%e3%83%a2%e3%83%87%e3%83%ab/

番外編:数式が美しいとは

さて、ここまでは小難しい内容ばかりを書いてしまったので、読んでいる人にとっては頭を使って読んでいただいたかもしれませんが、ここからは気を抜いてダラーっと読んでください。

「この数式は美しいですね」

大学の数学の先生って僕が知る限りほとんどが、ジーパンに襟付きのチェックシャツを着ています。
このジーパン襟付きチェックシャツの先生たちの口癖の1つとして「この式は美しいですね」があります。

何を言っているのだろうか。
当時の僕は、正直全く理解できません。

彼らの目には数式が芸術作品のように見えているのだろうか。

全く理解できないまま、数年が経ち最近になってやっと「数式の美しさ」というやつをちょっぴり理解できてきた気がします。

もちろん美しさの指標は人それぞれなので、一概には言えないが、数式の美しさを僕なりに言語化すると

  • その数式を導出するときの考え方

  • 複雑だったものが単純な結果に落ち着く

かなと考えています。

その数式を導出するときの考え方

これを読んでくれている人の中には、小売店なんかで商品の開発秘話に惹かれて購入した経験はないでしょうか?

これと全く同じです。

その数式が導出するまでの考え方に惹かれてしまい、美しく見えるのです。

複雑だっとものが単純な結果に落ち着く

数学が好きな人は、複雑な数式を解くのも苦に感じないなんて思われがちですが、むしろその逆です。「いかにめんどくさいことを省略できるのか」なんてモチベーションの人が大半なのです(少なくとも僕の周りはそう)。だからこそ複雑な数式なんて見るともうかなりテンションが低くなります。

そんな中で、イヤイヤ計算を進めていると超単純な式になったらどうだろうか。
これはかなりテンション上がります。

マリオカートで隠しルートを見つけた時と同じ気持ちです。

そして、一見複雑な事象がかなり単純な形になるので、この核心をついた短い数式に対して美しいと感じています。

最後に

人口の増減を含めよの数学者たちは一体なぜ数式で表そうとしたのか。
ただの興味かもやったのかもしれない。
もしかすると、数式にすることをアートと捉えているのかもしれない。

しかし、それが今の世の中に大きく影響を与えることに繋がっている。

偏愛とマーケティング研究所について

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著者: 納富 崇 / NOTOMI Takashi (X: @takashi_notomi)
偏愛とマーケティング研究所 代表 / データサイエンティスト


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