苦いタバコと甘いキス⑬
夕弥は高校生活の折り返し点に立ち、日常の一コマとして、友人に誘われる形でタバコを手にしていた。彼にとって、これは些細ながらも日常からの一時の逸脱であり、ほんの小さな冒険だった。しかし、彼はその行動が、彼と小薪の関係に微妙な影を落とすことを予想していなかった。
夕方の公園、桜の木々は既に満開を過ぎ、散り始めていた。二人が手をつないで歩く中、落ちた花びらが足元を彩る。夕弥の心は、内緒にしていたタバコのことで不安でいっぱいだった。
べンチに腰を下ろした後、彼らの間で交わされる甘いキスの最中に、夕弥の唇から漂ったタバコの香りに、小薪の表情が曇った。「タバコの香りがする…夕弥、吸ってたの?」彼女の声には失望が滲んでいた。
夕弥は一瞬言い訳を考えたが、すぐに彼女の悲しげな瞳に気づき、心を鷲掴みにされた。小薪の祖父がタバコの煙によって苦しんでいたこと長年の喫煙のせいで健康を害し、最終的には病に倒れたことを思い出し、彼女のタバコへの嫌悪感がどこから来ているのか、改めて理解した。「ごめん、試しに…」と言いかけたが、小薪の表情を見て言葉を飲み込んだ。
小薪は静かな声で言った。「タバコを吸うなら、もうキスはしないわ。」
「もうしない。約束する」と夕弥は静かに言った。小薪はゆっくりと頷いた。二人の間にはしばらく沈黙が流れた。桜の花が優しく舞い降りる中、彼女の言葉は夕弥の心に重く響いた。夕弥は深く反省し、小薪の手を握り、心からの謝罪を口にした。「本当にごめん。もう二度と吸わないって約束する。」
小薪はしばらく沈黙していたが、やがて夕弥の言葉に心を開き、ゆっくりと彼に近づいた。小薪は夕弥の真摯な表情を見つめ、微笑んだ。「仕方ないね」と言いながら、彼に近づき、優しく彼の唇にキスをした。そのキスは、許しと愛情の深さを象徴していた。
「約束だよ」と小薪は優しく言い、夕弥は安堵の息を吐いた。二人は桜の下でその瞬間を共有し、再びお互いの絆を確認した。夕日が彼らを温かく包み込みながら、二人は互いの存在を感じて、この一日を振り返った。
「これからは、正直にすべて話すよ」と夕弥は小さく囁いた。小薪は微笑んで、夕弥の手を握りしめた。
夕方の公園では、桜の木の下のベンチが夕日の柔らかな光に照らされていた。夕弥と小薪はそこに座り、一日の静かな終わりを感じていた。冷える空気とは対照的に、二人の間には温かい雰囲気が流れていた。
「少し寒いね」と夕弥が言うと、小薪は優しく微笑んだ。「こうすると温かいかな」と言いながら、彼女は自分の膝を彼に提供した。夕弥は少し驚いたが、彼女の提案に感謝しながら頭をそっと彼女の膝に乗せた。小薪は彼の頭を優しく撫で、彼を温かく包み込んだ。
「こんな風に一緒にいられると、何も心配いらないね」と夕弥が言った。小薪は彼の目を見つめ、「大切な人と一緒にいる時は、どんな時も特別なの」と答えた。
夕日がゆっくりと地平線に沈んでいく中、二人は互いの温もりを感じながら、静かに時を過ごした。このひとときは、夕弥にとって心の安らぎをもたらし、彼は小薪への感謝の気持ちを新たにした。
やがて、二人はベンチから立ち上がり、公園を後にした。手を繋ぎながら帰路につく彼らの心は、互いを大切にし、支え合うという確かな決意で満たされていた。夕焼けが彼らの道を照らし、新たな一歩を踏み出す勇気を与えていた。
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