天使たち

40枚目 マイケル・ツィマリングがミックスしたアルバムその4/THE STREET SLIDERS「天使たち」(1986年)

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マイケル・ツィマリングの仕事の4回目です。前回のBOOWY「BOOWY」までの3枚は西ドイツのハンザ・スタジオでの仕事でしたが、今回からは来日後に手掛けた作品です。

ストリート・スライダーズほど、他のメンバーとやっている姿が想像できないバンドはありません。すべてが自分たちの流儀の中で完結し、外部からの干渉を寄せ付けない、そんな印象すらあります。アルバムもデビュー作以外すべてセルフ・プロデュースで作ってきた彼らがなぜ佐久間正英にプロデュースを依頼したのか分かりませんが、5枚目となるアルバム「天使たち」は、メンバーも認めている通り、転機となる作品になりました。

もともとは、シングル「Angel Duster」のプロデュースを依頼したところから始まったようです。そこから、12インチの「Back To Back」、「Special Women」、アルバム「天使たち」、「Boys Jump The Midnight」のシングル・カット(エディットされたシングル・ヴァージョン)と、ほとんど奇跡的ともいえそうなほどの名曲が次々と産み落とされていきます。これらの作品に対し、オーバー・プロデュースだという評価があることは確かですが、あくまでもバンドがやろうとしていることが第一で、そのサポートや先生のような裏方の役割に徹するというスタンスの佐久間が、バンドが望む以上のことをしたとは考えにくいところもあります。では、現場では何が起こったのでしょう。

まず、バンドの黄金期であったことは間違いないでしょう。ハリーの感覚が研ぎ澄まされていたことは、楽曲から感じ取れます。蘭丸もギターの腕を急速に上げていった時期だし、ズズのドラムスの音のデカさは相変わらずだったでしょう。変わったのはジェームスのベースです。

ジェームスのベースは、絡み合う2本のギターと直線的なドラムスの間の隙間を埋める立体的なフレーズが特徴なのですが、時にその隙間からはみ出してしまうようなフレーズを弾いてしまったり、グルーヴ感のぬるさが気になりました。つまり、メリハリがなかったのです。理由としては、サウンド的に非常に難しいポジションを担っていたこともあったでしょう。しかし、この頃からベースの音が立ち、グルーヴを引っ張っていくようになります。それによってバンドの演奏のドライヴ感が格段に上がり、ヘヴィなグルーヴを出し始めます。リズム構造の変化。これは本当に劇的でした。

実はこの時期のスライダーズによく似た事例があります。それは、68年頃のジェイムズ・ブラウン・バンドです。クライド・スタブルフィールドとジャボ・スタークスという世紀の名ドラマーがリズムをしっかりと作り(ツインドラムですが、同時には叩きません)、フレッド・ウェズリーやセント・クレア・ピンクニーらのホーンセクションが組み立てるフレーズが多様なグルーヴを作り出し、それを前面に押し出した当時のJBバンドは、どうしてもベーシストの存在感が薄くなりがちでした。しかし、70年にバンドの再編が起き、ベーシストがブーツィ・コリンズに変わると(これが初代JB's)、バンドのリズムの主体が変わります。ベースはドラムと一体となってグルーヴを作り出し、ホーンセクションはグルーヴにアクセントを与えるポジションに移行します。それによって前後に複雑に揺れていたグルーヴがシンプルで直線的な方向に固定されたのです。このホーンセクションをギターに置き換えてみましょう。そうやってスライダーズの曲を聴いてみると、例えば、「カメレオン」という曲などは、構造がまるっきり68年のJBだということがわかります。(気になる方は68年のJB→「Say It Live And Loud: Live In Dallas 08.26.68」を、71年のJB→「Love Power Peace: Live At The Olympia Paris 1971」を聞き比べてみるといいでしょう)

佐久間は一体何をジェームスに吹き込んだのか。それはおそらく、ドラムスとのシンクロとアタックの出し方だと思います。これまで、ギターとドラムスの間を独立するような形でフレーズを組み立ててきたベースをドラムスの1泊目にきちんと合わせることでブレをなくし、リズムがスッキリしたことで推進力が増しました。これはJBが言う<ザ・ワンの理論>(1拍目を合わせれば何をやってもいい)と同じです。もう1つは、佐久間式ピッキングの伝授です。ジェームスはピック弾きが苦手だったようですが、この逆アングル・ピッキングによって、音のツブが立つようになりました。このリズム構造の変化によって、アンサンブルに隙間が増えましたが、そこは佐久間が弾くキーボードやホーンでカバーしています。この作品以降のスライダーズが、16ビートを取り入れるなど徐々にファンキーさを増していくのはこれがきっかけだったのではないかと思います。また、元々レゲエ好きだった彼らは、音の隙間を活かすことにもすぐ慣れました。具体的なことは想像するしかありませんが、佐久間が彼らにしたのはそれくらいだと思います。

そして、サウンドの質感を一変させたのがツィマリングです。音抜けの良さ、アタック感を強調した派手で迫力ある音作りは、これまでルーズさが特徴だったスライダーズにとってはかなりドラスティックな変化になったはずです。日本のロックシーンがメジャー化して、ラジオなどでのオンエアが増えていく中で、このサウンドは時代の要請に合致していました。

そして、スライダーズはこの作品でブレイク。ついには武道館のステージに立ちます。そこにはキーボードを弾く佐久間の姿があり、このステージを収録したアルバム「THE LIVE Heaven and Hell」のミックスは、ツィマリングがハンザ・スタジオで行っています。

【収録曲】
■LP
A1. Boys Jump The Midnight
A2. Special Women
A3. Back To Back
A4. 蜃気楼
A5. VELVET SKY
B1. Angel Duster
B2. Bun Bun
B3. Lay down the city
B4. Shake My Head
B5. Party is Over
B6. 嵐のあと

■CD
01. Boys Jump The Midnight
02. Special Women
03. Back To Back
04. 蜃気楼
05. VELVET SKY
06. Angel Duster
07. Bun Bun
08. Lay down the city
09. Shake My Head
10. Up & Down Baby
11. No Down
12. Party is Over
13. 嵐のあと

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