見出し画像

16枚目 GENOA「ONLY THRASH…BUT THRASH!!」(1988年)

 たまにはマニアックなところいってみましょうか。
 スラッシュとスラッシュ・メタルは違うってわかりますか?または、ハードコアとスケーター・ロックは違うって分かりますか?もちろん、サウンドの共通点はありますが、それ以上にアーティスト自身のアティチュードや指向性の違いがあるのかもしれません。問題は、ここらへんのジャンルの人たちは恐いので(メタルの人は優しいけど)、ヘタなことを言うとぶっとばされるということですw

 という事件を起こしたのがGENOA(ゲノア)です。彼らが87年に1stミニアルバム「What A Wonderful Life, Ha!!」をリリースしたときのこと。これはクラウン傘下のViceからのリリースということもあって(クラウンはメジャーレーベルでしたが、Viceはインディーズのアーティストの作品をリリースする、メジャーとインディーズの中間的な立ち位置のレーベルでした)、FM東京でやっていたインディーズ専門の番組に出たんですね。そのときに彼らの音楽は<スケーター・ロック>と紹介されたんですが、それに腹をたてた彼らは「俺らはスケボーなんかやらねぇ」とかなんとか言い放ち、番組を放棄してしまったそうです。当時はスーサイダル・テンデンシーズに代表されるような西海岸のスラッシーなサウンドのミクスチャーロックがスケボーなどの文化とミックスされる形で上陸してた頃なので、それらと同列に捉えられてしまったんでしょう。しかし、GENOAはスケボーはおろか、ギャング的な文化とも縁がないバンドです。どちらかといえば、ハードコア(これも語弊を招く可能性がありますが、アメリカ的なハードコアではなく、日本の暴力的なハードコア)寄りの世界で活動してきました。彼らがスケート・ロックだと言われるのは、今で言えば、ラッパーは全員ギャングスタだと言われるようなものでしょう。ちなみに、彼らはツアー先で気に入らない対バンを潰してくることでも有名で(ステージではなく、腕力でw)、暴力的ということに間違いはないのですが。

 そんなわけで、それらの境界線上で活動してきたGENOAを特定のジャンルに押し込めるのは難しいのですが、彼らは自らの音楽性をただの<スラッシュ>と呼んでいます。
 トミタのヴォーカルはハードコア的な吐き捨て型ながら非常に歌心が有り、メロディックなラインにも対応できる珍しいタイプのシンガーでした。ギターとドラムは実の兄弟で、ギターの兄セイジは、ハードコア的なノイジーなサウンドを作りつつも、弾いている内容はスラッシュ的なフレーズを構築して楽曲の世界観を作り出していました。弟のノブは金髪リーゼントのめちゃめちゃイカツい体型で(ちなみに、兄を<兄者>と呼ぶw)、見るからに恐そうな人でした。しかし、ドラムは凄腕で、2バスの高速フレーズを難なく叩ききります。その安定感は、他のハードコア系ドラマーを寄せ付けません。そして、サウンド面で最も個性的だったのがエバラのベースで、まるでペタペタにミュートしたバスドラムのような音でゴリゴリと引き倒します。アンプのセッティングも異様だったと聞きますが、どうやったらあんな音になるのか想像もつきません。
 楽曲もしっかりと構成されていて、ハードコア的な勢いイッパツでは演奏できないものばかりです。それでいてハードコア並のパワーと勢いがないと成り立たないという、なかなかのハードルの高さです。彼らはドアーズの「Light My Fire」やU2の「New Year's Day」などのカヴァーもしているので、普通のロックをハードコア的な世界観でスラッシーに演奏したというのがベースにあるのかもしれません。音楽の指向性は違いますが、プログレッシヴな一面という意味では、初期のDOOMに通じるようなものがあるように思います。もちろん、本人たちはそんなことは全く思っていないと思いますが。

 彼らの作品は、現在どれも入手困難なのですが、楽曲面で最も充実していると思われる「ONLY THRASH…BUT THRASH」を挙げておきましょう。その名の通り、オリジナルは1500本限定のカセットテープで(しっかりとNot Demoと記載があります)、91年に「BLACK TAPE」というタイトルでCD化もされていますが、こちらもそれ以降は再発されることなく、かなりのレアアイテムとなっています。全10曲で20分強という収録時間ながら、よく練られた楽曲が詰まっていて、充実度はかなりのものです。聴いてみたい人はYoutubeを検索してみてください。

 このしばらく後に、ヴォーカルのトミタが脱退、代わりに元コンチネンタル・キッズのアキラが加入して、まさに"最恐"となるのですが、音楽的にはトミタ在籍時の方が充実していたと思います。

 トミタ在籍時の貴重なライヴ映像がありました。いちばん勢いがあった時期ですね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?