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44枚目 白井貴子& The Crazy Boys「NEXT GATE LIVE」(1986年)/ 佐野元春から受け継がれていくルーツとしてのアメリカン・ミュージックという視点

#jrock #80s #白井貴子

80年代中期に山下久美子と双璧の人気を誇った女性ロッカーが白井貴子です。87年に2枚組の「Cosmic Child」をリリースすると、バンドを解散してイギリスへ。90年にシーンに復活するものの、そこには既に居場所はありませんでした。そのせいか、それ以降も音楽的な再評価をされることなく現在に至ります。山下久美子がBOOWYと共に時代の最先端の音を作っていったのに対して、ビートルズでいう「ホワイト・アルバム」的なアルバムである「Cosmic Child」を作った白井は、音楽的なところを含め、時代に乗ることよりも自らを見つめ直す探す作業を選びました。ただそのタイミングが悪かったことは否めません。

もともとは81年にポップスシンガーとしてデビューしましたが(デビュー当時は事務所の先輩でもある佐野元春のコーラス隊、プリティ・フラミンゴスのメンバーとしても活動。元春の「サムデイ」をカヴァーしたのはその流れでしょう)、82年にTICKETというバックバンドを結成すると、徐々にロック化。翌年、TICKETがCRAZY BOYSと改名すると、それが作品にも反映されるようになっていきます。

それが、結実したのが85年の「Flower Power」というアルバムで、楽曲のクオリティ、アレンジ、演奏などすへてがうまく噛み合った傑作となりました。もともとあまり歌謡曲やニューミュージックを感じないアメリカンロック風のシンプルな曲を書く人でしたから(ポップな曲なのにリフの活かし方がうまい)、ロックなアレンジはバッチリはまるんですね。ここからは名曲「Foolish War」が生まれています。また、非常に美しいメロディを持ったバラードの名曲もたくさん書いており、ピアノで4分のブロックコードを入れてくるようなお決まりのパターンを使わないことも好感が持てました。しかし、「プリンセスTIFFA」のように化粧品のCMで大量オンエアされたような曲があるにも関わらず、シングルヒットにはあまり恵まれませんでした。それを意識するあまり中途半端な出来になったと思われる「Raspberry Kick」のようなアルバムを生んだり、音楽業界に疑問を持って活動休止に至ったりという伏線になっていった気がします。

ここで紹介するのは、2枚組ライヴアルバムの「NEXT GATE LIVE」です。ベスト盤的な選曲はこういう企画で選ぶにはちょっと反則気味ですが、白井貴子の良さがいちばん出ているのがこのアルバムだと思います。島田紳助のレーシングチームのために書き下ろしたという12インチ「NEXT GATE」の後、1986年8月9日に西武球場で行われたライヴを収録したもので、この時の演奏の充実度はかなりのものでした。

バンドのメンバーを紹介しておくと、TICKET時代は片山敦夫key(浜田麻里、サザンオールスターズなど)、春山信吾b(TM NETWORK、氷室京介など)、太刀川紳一g(ツイストなど)、山田亘ds(TM NETWORK、FENCE OF DEFENSEなど)と実力派が揃っており、CRAZY BOYSではギターが南明男(明朗)と本田清巳のツイン編成になり、ドラムスも西川貴博(浅香唯のダンナとして有名)からカースケこと河村智康(桑田佳祐、椎名林檎、Superflyなど)へと変わっていきました。B-ing系やアミューズ系のプレイヤーが多いのが意外ですね。

このアルバムでは、本田、南、片山、春山、カースケというラインナップで、このメンバーになって1年ほど経っていました。カースケの大きなタイム感のドラミングとポップな曲でもシンプルにロックのエッセンスを持ち込む本田のギター、それらを総括してまとめ上げていく片山のキーボードなど、見事としか言いようがありません。この背景には、白井本人は意識していなかったかもしれませんが、ブルース・スプリングスティーンのサウンドを標榜していたと思われる節があります。例えば、「Back Again」のヘヴィーなグルーヴ。「二人のSummer Time」や「Sing」の深遠な世界観は、スプリングスティーンの背景に透けてみえたアメリカンゴシック的なものに通じるように思えます。また、「CHECKしてしまった!」ようなオールディーズ感覚のロックンロールを見事にこなしていまうところもまたスプリングスティーン的です。「Japanese Boys & Girls~内気なマイボーイ」のメドレーでは、明らかにスプリングスティーンを意識したアレンジも見られます。これは白井の作曲センスに加え、片山を中心としたCRAZY BOYSの力量も非常に大きかったと思います。ただ唯一残念なのは、MCが非常に時代を感じさせて、今聴くとちょっとイタいことですねw 

そして、この大きなグルーヴ感は、やはり同じ事務所の後輩である渡辺美里に引き継がれていきます。実は白井は渡辺に作曲を教えた先生でもあります。渡辺はここに佐野元春にも通じる50年代ビートジェネレーションの言葉のスピード感とフィービー・スノウのブルース感覚を持ち込みました。つまり、このスプリングスティーンを柱としたルーツとしてのアメリカン・ミュージックへの意識は、この時期のハートランドという事務所の方針の一つとしてあったのかもしれません。これが佐野元春からずっと受け継がれていくわけですね。

90年代以降の白井は、NHKのレポーターとして知名度を得ますが、悔やまれるのは、なぜアメリカでなくイギリスへ行ったのかなのです。アメリカだったら今頃シェリル・クロウのような曲を書くようになってたかもしれないなーと思ってしまうのです。

【収録曲】
A1. Theme for Next Gate
A2. Non Age
A3. Raspberry Gun
A4. Chance!
A5. 気まぐれ Lover Boy
B1. Together
B2. Shining Dance
B3. Back Again
B4. A Friend Of Mine
C1. 二人のSummer Time
C2. Sing
C3. PRINCESS TIFFA
C4. Checkしてしまった!!
D1. Japanese-Girls and Boys〜内気なMy Boy〜Japanese-Girls and Boys
D2. 今夜はIt's All Right
D3. Rock Tonight
D4. Next Gate

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