見出し画像

Japanese Rock 80’s on Radio 
第12回 2021.3.6放送分「反戦歌特集」

12回目の放送は、ウクライナ情勢を受けての反戦歌特集です。

最近の傾向として、<両側の視点から見なくちゃダメ><偏っちゃダメ>ということばかりが浸透して、ウクライナが悪いなんてバカなことを言い出す人も見受けられますが、歴史的背景はさておいても、武力行使をしたらイカンのですよ。
それはどんな理由があろうとも絶対悪なんです。
しかも、そんな歴史やイデオロギーとは関係ない一般人まで殺戮している。
そこにはどんな正当性も通用しません。

ただ、戦争反対!では浅はかさが否めないので、視野を広げて、戦争から派生する感覚を歌にしたものを選んでみました。
どんなに反戦を願っても実効的な力にはなれないただのいち市民ができることといえば、考えて認識することです。
そんなわけで、戦争の周辺にある"感覚"を集めてみました。

ただ、どうしても戦争が起こってから2〜3年後にそういった歌が世に出てくるという循環があるので、今回は80年代以降のものも含めました。
選曲していく中で90年代が落ちて、80年代と2000年代になってしまいました。

ほかにもRCとかブルーハーツとか元春とか渋さとかビブラとか浜田真理子とか、かけたい曲はもろもろあったんですが。
また機会があれば。

M1 浜田省吾「A New Style War」(86年)

北村さんの選曲。『J.BOY』のオープニング曲。
曲調からしてもすっごくアメリカっぽい。
スプリングスティーンの”勘違いされた”愛国感というか。
ただ、この曲にはメッセージが何もなくて、おそろしく空虚。
兵士たちに個の考えなど許されず、ただ命令で動くのみ。
その与えられた状況というのが逆に恐ろしい。



M2 白井貴子&Crazy Boys「Foolish War」(85年)

北村さんの選曲。『Flower Power』収録。シングルにもなりました。
これはわかりやすい反戦歌。
戦争に限らず、日常の諍いに当てはめて考えることもできます。

<なぜ人は心 憎しみをいだくの あんなに愛した 日々を忘れて>

そういう人の心って大事だよな、最後はここに集約されるよなと思わされます。
そして、単純にすごくいい曲。


M3 泉谷しげる「国旗はためく下に」(88年)

以下、池上選曲。
『HOWLING LIVE』より。オリジナルは『光と影』(73年)。
イズミヤのオヤブンの代表曲の一つ。
大義名分の下には個人は無力ということを歌った歌。

<ユメを語るは禁じられて ただただわりきれと>
<ハタをかかげて他国へとび 恥の上ぬりこの上なし>
<国旗はためく下に集まれ ゆうずうのきかぬ自由にカンパイ>

イズミヤは地べたを這いずり回ってる人や、道を踏み外した人の本心を描くのが圧倒的にうまい。



M4 ARB「抵抗の歌」(89年)

『SYMPATHY』収録。
石橋凌らしい、権力や大きな力には靡かない決意の歌。
レジスタンスのマインドですね。

<この旗は染まらない どんな色にも染まらない>

イズミヤの曲もそうですが、<旗>というのはシンボルなので、小さな個を強引にひとまとめにした力の象徴でもあります。
ちなみに、ソウルフラワー・ユニオンには「世界市民はすべての旗を降ろす」という曲があります。大切なものは体制じゃなくそれぞれの自分なんだというメッセージですね。


M5 MUTE BEAT「KIYEV NO SORA」(88年)

『LOVER’S ROCK』収録のレゲエ・インスト。
タイトルがキエフだから選んだんですが、反戦というより、チェルノブイリですね。
アルバムタイトルが『LOVER’S ROCK』なのに、ジャケットの写真は原発の煙突から煙が噴出する写真。
強烈な皮肉です。



M6 和久井光司「世界が僕らを黙らせる」(03年)

『Torch Song Trilogy』収録のトーキング・ブルース。
ニューヨーク・ワールドトレードセンターに行ったニュースキャスターと、アフガニスタンのカブールから戻ってきたルポライターが、”世界の嘆きを餌に彼女をベッドに連れ込もうとしている”。
現地で体を張ってきても、女を誘うための話のネタにしかならない。
皮肉というよりこれが平和な国の現実なのかもしれない。

音源はネット上になし。

M7 冨田ラボ「Shipbuilding」(03年)

『Shipbuilding』収録のインスト。
これは妄想とこじつけで選びました。

Elvis Costelloが歌詞を書いて、Robert Wyattが歌った「Shipbuilding」という名曲がありまして(コステロのヴァージョンもあり)。
80年代初頭に、新自由主義を掲げたサッチャー政権下のイギリスで、需要の少ない造船業はどんどん陰っていく。
そんな時にフォークランド紛争が起きて、軍艦の需要が出て、造船の街は活気づいた。
しかし、そこで働く工夫の息子は戦争に駆り出され、「クリスマスには戻ってくるからね」と出ていく。

富田ラボの曲はこの曲へのオマージュなんじゃないかと思ったんですよ。
ぜんぜん違ったらごめんなさいなんですけど、考えること、想像を膨らませることは大事だよねという意味も込めて。


M8 SOUL FLOWER UNION「うたは自由をめざす!」(03年)

『シャラーム・サラーム』収録。
ソウルフラワーというか、中川敬には反戦とか政治的な曲が多いイメージがあると思うんですが、実際には直接的な曲は意外に少なくて、そういう状況下にある市井の人々の姿を歌った歌が多いんですね。

どんな環境でも、国家の体制や状況とは関係なく、そこには生きたいという気持ちがあって、<うた>を<人々の心>と置き換えると、どんな境遇に生きる人々も前向きに生きてるんだということが伝わると思います。

最初はヴィクトル・ハラ「平和に生きる権利」のカヴァーを選ぼうかと思ったんですが、暗い曲ばかりになるのが嫌だったので、あえて希望の歌を選びました。


M9 元ちとせ「語り継ぐこと」(06年)

『ハナダイロ』収録。
最後は「満月の夕」の平安隆のウチナーグチ・ヴァージョンで締めようと思ったんですが、ソウルフラワーの曲はかけたしということでこっちにしました。

元ちとせは奄美大島出身。
奄美は多少の空爆はあったものの沖縄のように戦場にはならなかったんですが、やはりアメリカ軍に占領された歴史があります。
その時に<北部琉球>と位置付けられたんですね。
これに島の人々は反発しました。
奄美は鹿児島県の奄美であると。
こういうところ、ロシアとウクライナの関係のようでもあります。
そこから紆余曲折を経て、奄美は沖縄よりも早く、53年12月25日に本土復帰を勝ち取ります。

そういった歴史を忘れずに語り継いでいこうというのがこの歌です。
歌詞だけ見ると歴史を知らない人には何も分からないかもしれませんが、元ちとせのコブシ全開の歌い方が島の歴史を強烈に浮かび上がらせるようで、これが音楽の力だなって思うんですよ。
個人的にはこれが究極の反戦歌です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?