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17枚目 DOOM「No More Pain…」(1987年)

 Doomは凄い。その言葉はキャッチフレーズのように僕の頭の中に記憶されています。雑誌などに載っている彼らに言及した記事には、常に"凄い"と書かれていました。もはや刷り込みともいっていいほど。彼らの音を初めて聴いたのはビクターから出た「SKULL THRASH ZONE」(1987年、Xを2曲収録していることで有名なオムニバス盤)で、そこに収録されていた2曲は圧倒的にカッコよかった。音楽的にはなにやら難しそうな感じもしたのですが、何よりもそのエネルギーに圧倒されました。それで、シングルの「Go Mad Yourself」を買いました。ついでにZadkielのピクチャーシングルも買いました。まだ新品で売っている時代でした。


 Doomのどこが凄いのか。いくつかありますが、まずはそのビジュアルです。白塗りした顔の異様さ。当時は白塗りというのはけっこう定番で、アンダーグラウンド感や演劇的な演出をしたいアーティストはよくやっていました。筋少のモヨ子(オーケン)然り、GASTUNKのBAKI然り。しかし、Doomの場合はメンバー3人ともが白塗りという異様さ。ホラー感覚に近かったでしょうか。しかし、音はもっと凄かったのでした。藤田タカシのダミ声ヴォーカルの迫力。その歪みきったギターの異様なテンションの高さ。広川錠一のどこか混沌としたドラミング、それ以上に諸田コウのテクニカルなフレットレス・ベースの凄さ。その縦横無尽に弾きまくる音数の多さと豊かなフレージング。フレットレスなのにスラップから両手タッピングまでしてしまうテクニック。ステンレスを加工した指板だとか(なんと両面テープでネックに貼り付けられていた)、レモンオイルを塗らないと弾けないだとか、アンダーグラウンドなバンドにしてはかなりマニアックな情報まで知られていました。それだけその実力が高く知られ、人気があったということでしょう。その人気は早くから海外にまで飛び火して、ニューヨークのCGBGのライヴレポートなども雑誌で読んだ記憶があります。

 もちろん、そういったメンバー個々のテクニックやキャラクターも際だっていたのですが、その音楽性もユニークでした。パンクでもなければスラッシュでもない。メタル的ではあっても、普通のメタルとはかけ離れている。変拍子あり、ジャズのようなドラミングあり、ベースはロック界のジャコパスかという感じで、どこに当てはめてもはみ出してしまうのです。いまの耳で聞くと、インディーズ期の作品にはブルースの匂いもします。しかし、最も影響を受けた音楽というものを挙げると、Venomということになるでしょう。82年に出たVenomの2ndアルバムにして代表作である「Black Metal」は、曲によってはDoomそのものといってもいいほど。Venomからかなりの影響を受けていることは間違いないと思いますし、Doom結成前に諸田と広川がやっていたバンド、ZadkielはやはりVenomやMotorheadを意識したバンドでした。

 Doomがもっとも得体の知れない魅力を放っていたのがインディーズ時代、この「No More Pain」でしょう。かなりマニアックな作品ながら、5000枚ものセールスを記録しました(初回版LPにはライヴを2曲収録したソノシート付き。後に「Go Mad Yourself」の4曲を組み込んだ12曲のアルバムとしてCD化。ジャケは別デザイン)。ここで聴ける混沌とした音像は、ただでさえ妖しい魅力を放つDoomの音楽をさらに激しくエモーショナルに響かせます。恐ろしいほどのテンションの高い音が塊となって怒濤の如く押し寄せてくる、そういう音はメジャー期には聞かれません。聴き始めたらアルバムの最後まで一瞬たりとも気が抜けません。

 Doomの音楽は環境によってどんどん変わっていきます。インディーズで混沌としていたサウンドはメジャーで整理され、アメリカ・レコーディングでハードロック的なシンプルさを持ち、最後はインダストリアルにまで辿り着きました。例えば、GASTUNKもアメリカでレコーディングしていますが、やはりシンプルなハードロック的味付けをされ、本来の持ち味を少し損ねてしまった気がしました。しかし、Doomはそういったものも全部飲み込んでしまうのです。そういった意味では、非常の懐の深いバンドなのかもしれません。ベースの諸田コウは病弱で、バンドの全盛期にはそれが活動の障害となることもありました(結果、体調の問題で脱退)が、彼が亡くなってしまった今、その個性の大きさに改めて気付かされます。

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