飛行夢

4枚目 ZABADAK「飛行夢(そら とぶ ゆめ)(1989年)

 80年代は男女コンビのアーティスト、というよりクリエイター・チームみたいな活動をしている人が多かった印象があります。サロン・ミュージック然り、Dip in the Pool然り、そして、このZABADAKはその筆頭ともいえる存在でしょう。

 もっとも、活動開始時は吉良知彦、上野洋子、松田克志の3人組でした。ケイト・ブッシュを標榜した音楽を作っていましたが、ノルウェーのフラ・リッポ・リッピのカヴァーをやったり、上野洋子が(おそらくビジュアルから)日本のダニエル・ダックスと呼ばれたり、透明感のある音楽の魅力とはうらはらに、どうもつかみどころのない存在だった印象があります。この時期はCM音楽を数多く手がけていたこともあってか、作品から顔がみえにくいところがありました。結局、東芝EMIから2枚のミニアルバムをリリースした後、松田が脱退。さらにフルアルバムを1枚残し、ムーン・レコードに移籍。ここから一気に動き出すのです。

 移籍第1弾となる「飛行夢(そら とぶ ゆめ)」は、元サディスティック・ミカ・バンドの今井裕のプロデュースのもと、アイルランドのダブリンで録音。ミキシングはフェアグラウンド・アトラクションをプロデュースしたケヴィン・モロニーが担当。そのせいか、これまでの透明感に人肌の温もりが通ったような、心安らぐ作品となりました。例えるなら、フィドルが発する軋むようなノイズの温かさといえばいいでしょうか。

 また、上野の才能が開花した作品でもあります。シンガーとしては、全10曲中8曲でリードを担当。これまでの萌え声で舌足らずかつ少し不安定なヴォーカルも魅力的でしたが、発声をきちんと学んだのか、しなやかで伸びのある声に変わっています。また、作曲家としての才能も「砂煙りのまち」や「WALKING TOUR」といった名曲を書くまでになりました。これらの楽曲は、今であれば菅野よう子の諸作品とも通じる空気を持っているように思います。アニメなどとの親和性も良さそうです。面白いのが、そのほとんどが3拍子だということです。初期の「Poland」や「Glass Forest」といった3拍子の名曲は吉良が書いたものでしたが、これ以降、上野が3拍子、吉良が4拍子を書くという棲み分けが暗黙のうちに進みます。

 そして、この作品以降はよりアイリッシュ色を強め、上野の音楽性はより民族的な音楽に向かい、吉良は彼のルーツでもあるプログレ趣味を出し始めます。結果、それが"のれん分け"につながってしまうのですが。

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