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53枚目 ASYLUM「ASYLUM」(1989年)/民族音楽的なプリミティヴなエネルギーを発する最高傑作

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元祖ヴィジュアル系と言われるバンドは沢山いますが、その中にポジパン=ポジティヴ・パンクと呼ばれたジャンルの占める割合は大きいと思います。

ASYLUMはYBO2の故北村昌士が立ち上げた80年代を代表するインディー・レーベルであるトランス・レコードの看板アーティストの1つ。今となっては、ポジパンからビジュアル系に繋がる先駆者の一人と認識されていますが、当時は、ハードコア・パンクから出発して様々な個性を花開かせたバンドの1つという位置づけた方が自然だったと思います。

85年にヴォーカルのガゼルを中心に結成。翌86年に初音源となるソノシートに続き、トランスからシングル「OUT IN THE STREETS」をリリース。これが評判となり、87年にフルアルバム「CRYSTAL DAYS」をリリース。インディーズ・チャートでNo.1になるヒットを記録します。この頃はパンク的な性急なビートと、ガゼルの耽美的なヴォーカル、歌詞の内省的な世界観と、まさにポジティヴ・パンクそのものでした。そこから急速に音楽性を発展させていったのが、88年に出た12インチ「Nothing To Be A Friend」で、バロック風のムードや、インド風のドローンを加え、ガゼルのピーター・ハミル趣味が前面に出てくるのもこの頃から。さらに、アリガのベースが変態的なラインを臆面もなく弾き始めるのもここからです。

そんな、一般受けの要素などまるでないように見えたASYLUMがメジャーデビューしたことに驚いた人も多かったのではないでしょうか。メジャーに行くこと、すなわち、セルアウトすること。ロックは売れるためにやるものではない、というのが当時の考え方でした。実際に、メジャーで制作した音源は、牙を抜かれたようになってしまったものも少なくありません。

しかし、ASYLUMの場合は、吉と出たようです。まず、レコード会社がビクターだったことです。ビクターには先鋭的なものを良しとする空気でもあるんでしょうか。例えば、当時はSOSというインディーズを扱うレーベルがあり、ここからリリースするアーティストは、もはやメジャーなのかインディーズなのかもわからないような感じで、音源もインディーズのクリエイティヴィティそのままに、メジャーのクオリティで仕上げたという感じでした。ここからはDOOMが単独作をリリースしており、ASYLUMがそれに続き、その1ヶ月後にはなんとYBO2もまでがメジャー・リリースを果たします。

その初メジャー作品「ASYLUM」は、熱心なファンの間では名盤として囁かれる作品。もはやポジパンというにはあまりにもプログレッシヴで、民族音楽的なプリミティヴなエネルギーを発する音楽になっていたのです。楽曲の構成はより複雑になり、音質が向上したことでサウンドに明快な輪郭が生まれ、曖昧さが後退したことでより音楽そのものの難易度が浮上してきました。

その理由として大きいのが、このアルバムからギターにヒロシが加入し、AKIとのツインギター態勢になったことです。左右に分けられた2本のギターは、ソリッドかつ深く歪んだ音色でニュアンスが単音と複音のフレーズで絡み合い、まるで1つのフレーズを奏でているように聞こえます。これは非常に独創的で、かなりアレンジを練り上げたと思われます。

しかし、演奏そのものは、妙に違和感というか、落ち着かない感じがします。それは2本のギターのシンクロ度が低く、タイム感も非常に不安定だからだと思われます。要するに、単純にギターがヘタクソというだけのことなんですが、フレーズ自体は非常に練り上げられているので、確信犯のようにすら聞こえてきます。それを支えているのが安定したリズム隊で、特にずるずると滑っていくような不思議なフレーズを連発するアリガのベースは、個性的という以外の何者でもありません。

あと、ASYLUMがなぜビジュアル系の元祖的な扱いを受けるかなのですが、ガゼルの怪しげなルックスもそうですが、やはりその歌唱法に行き着くと思います。耽美的でナルシスティックな艶やかな歌い回しから、突然逆ギレするかのようなスクリームという静と動の対比は、まさにビジュアルの王道である美と激という点に結びついていきます。

この後、AKIは脱退してしまうのですが、実はこれクビだったらしく、ヒロシの加入も、ガゼルの要望に応えられないAKIの技量不足を補完するためだったようです。そして、その代わりに加入したのが、Dip The Flagのヤマジカズヒデでした。

ところで、ガゼルくんがX「紅」のコーラスに入ってるのは有名な話です。

【収録曲】
1. The Shade
2. Out of my times
3. The Thousand Tragedies
4. Collectors
5. Still…
6. Stained Grass
7. Plastic Clay
8. Leave me alone

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