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18枚目 GASTUNK「UNDER THE SUN」(1987年)

 80年代後半のアンダーグラウンド・シーンの中で、最も影響力を持ったバンド。その筆頭に挙げられるのがGASTUNKでしょう。特にBAKIの持つカリスマ性と個性的な歌い方は、後進に大きな影響を与えてきました。例えば、DEAD ENDのMorrieはその影響を公言して憚らないですし、Xも然り。Doomなどもそうでしょう。90年代には、L'Arc〜en〜Cielや黒夢らもその影響を公言しています。上記のように、巨大な個性に影響を与えたバンドという意味では、GASTUNKは神格化さえされてもおかしくないはずです。しかし、彼らはそれを拒否しました。99年にXのHIDE追悼のため1度目の再結成をしたとき、BAKIは彼らがまだアンダーグラウンドだった時代の白塗りでステージに登場しました(しかも、スキンヘッド)。それはお約束のお涙頂戴物語にしたくなかったというのもあるでしょう。それ以上に、GASTUNKを伝説のバンドだとか、神格化ということから逃れたかったからではないかと思うのです。

 もともとはハードコア・シーンの中から生まれたバンドでした。メンバー全員がハードコア・パンク・バンドの出身。そのような再編成的な新バンド結成は特に珍しいことではありませんが、彼らのようにハードコアの枠を超えて、新たな音楽性を求めたバンドは多くありません。
 GASTUNKの音楽性を簡単に表すなら<カオス>と<ドラマ>でしょう。なんと言っても印象に残るのは、BAKIのヴォーカルです。ハードコア的なシャウト声と声を朗々と響かせるシンギング・スタイルを使い分ける ヴォーカルのインパクトは相当なものです。さらにダブルミーニングだらけの歌詞はリスナーに謎かけをしてくるかのようです。それを支えるのが TATSUが作り出す楽曲です。激しく、カオティックながらもドラマティックな展開を持っていて、BAKIの物語を後押しします。テクニカルながらも暴力的な美しさを持ったギタースタイルも魅力です。

 彼らのサウンドが変わり始めたのは、ドラマーの交代が大きかったと思います。MATSUMURAの気合い一発で直線的に加速していくドラミングはハードコアの王道スタイルといってもよく、例えば、リップ・クリームのPILLなども似たようなタイプだと思います。初期にはTATSUの書く楽曲もそれに合ったストレートなハードコアスタイルのものも多かったのですが、徐々に構成などに凝ったものが増えていきました。MATSUMURAに変わって非常にテクニカルで安定したプレイをするPAZZが加入すると、TATSUのソングライティング能力やギタープレイは一気に開花していきます。

 GASTUNKのアルバムは1stアルバムの「DEAD SONG」(1985年)が名盤としてよく採り上げられるのですが、ここではあえてPAZZが加入した最初の作品でメジャーデビュー作の「UNDER THE SUN」を採り上げます。「DEAD SONG」では楽曲も各メンバーのプレイスタイルも既に方向性は出来上がっているのですが、「Mr.GAZIME」などこの後に出る数枚のシングルを順に聴いていくと、ほんの1〜2年で一気に成長していくのがよくわかります。特にBAKIのヴォーカルはどんどん声が太くなり、声の説得力が増大していくのがわかるでしょう。それが一定の完成度に達したのが「UNDER THE SUN」だったのです。ただし、テクニカルなPAZZのドラミングは、バンドの技術的な面に裏打ちされた可能性を増大させ、その結果、GASTUNKがメタルになったなどといわれたりもしました。次作「MOTHER」はアメリカで録音した結果、ストレートなハードロック色が強まりGASTUNKの特徴であるカオティックなサウンドが薄れてしまいます。そういったものが絶妙なバランスで保たれていたのが「UNDER THE SUN」なのです。

 ギリシャの神々の名前が刻み込まれたオープニングの「BARUTH」は7分強にも及び、プログレ的で壮大な物語を展開します。このアルバムのハイライトといっていい「SMASH THE WALL」はカオスの極みでありながら、楽曲の構成力、演奏の技術力など、音楽的にも凄まじいレベルに到達しています。ラストの「REGINA」は「DEAD SONG」の流れを汲む"ハートフル・メロディー"なバラードで、この路線は次作以降より表面化していきます。

 ちなみに、やはりカオスなジャケットのイラストは横尾忠則によるものです。

 最後にもう1つ想像で書いておきます。TATSUがどんなに激しい曲を書いても、そこにはどこか牧歌的で深遠なものを感じていました。それはBAKIの存在や歌詞が理由なのではないかと思っていたのですが、TATSUがフェイバリット・ギタリストの1人にジョン・レンボーンの名前を挙げていることで考えが変わりました。ジョン・レンボーンは、ブリティッシュ・フォークのギタリストで、やはりその道の大物バート・ヤンシュと共にペンタングルに在籍し活躍しました。ソロでは、クラシックや古楽にまで手を伸ばし、民音楽的な一面も見せる作品を作っています。TATSUの音楽性の背景にはそういった要素が少なからずあるような気がしています。

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