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8枚目 KATZE「STAY FREE」(1989年)

 最近、布袋寅泰のライヴのバックコーラスをパーソンズのJILLとKATZEの中村敦が担当したことがニュースになっていました。中村のヴォーカルの力強さはさらに増していましたが、その容姿は全盛期とはかけ離れたものでした。それでも話題になるのは、まだ待っているファンが多いということなのでしょう。

 シーンとメディアの狭間に挟まれたまま、評価の定まらないバンド。なのに、一部からは熱狂的な人気を持って語られる。しかし、それら全てが漠然としている。KATZEの印象はそんな感じでしょうか。それは彼らの出自があまり明らかになっていないからかもしれません。

 KATZEの登場は突然でした。山口県下関出身。地元で活動するいくつかのアマチュアバンドが同時期に解散し、それらのメンバーが集まって結成。ポプコンなどのコンテストへの出場はありますが、地元ではほどほどの活動しかないにも関わらず上京話が進み、そのままデビュー。本当に明らかにするほどの活動はなかったようです。しかし、間違いなく実力派でした。

 彼らの楽曲は、いわば完全に売れ線の音でした。洋楽からの影響を指摘するのが難しいほど日本語との相性がいいキャッチーなメロディを、リズム隊の高山兄弟が作り出すどっしりと重い8ビートが雰囲気で流すことを許さない。パワフルな中村敦のヴォーカルは、言葉と感情をしっかりと伝え、尾上賢のギターは歌の背景に彩りをつける。4者4様、甘辛美麗なルックスの良さも含め、このバランス感覚の良さは、アマチュアの世界では奇跡的でした。

 当然、事務所やレコード会社はタイアップを取って、全力で売り出しにかかったことでしょう。BOOWYが解散したすぐ後のデビューだったこともあってか、その穴を埋める存在になることを期待されたのは言うまでもありません。その資質も十分にあったと思います。しかし、彼らの活動スタンスは硬派でした。デビューシングルのトラブルもあってか、一切のタイアップを拒否して、音楽そのもので勝負に出ます。結果、メディアへの露出は少なめとなり、ビッグネームにはなれませんでしたが、ファンは非常に熱心で、例えば、TOKIOの城島茂を筆頭に、芸能界にも熱心なファンがいることは有名で、彼らがそれを公言してしまうのも、思い入れの強さ故と言えるでしょう。

 ファーストとセカンドのどちらを採り上げるべきか迷ったのですが、いい曲が揃っているがまだ堅さのとれないファーストよりも、慣れが出てきたのか、より大きな演奏をするようになったセカンドを選びました。
 「Hold Me」「Love Generation」「Rocket Rock」などの代表曲が収録されていますが、何と言ってもタイトル曲の「STAY FREE」の存在がこのアルバムを特別なものにしてします。大人になってから聴くと気恥ずかしささえ感じてしまうような、親友への甘酸っぱいメッセージソングですが、ノスタルジーを上回る熱いものが、聴く者を"少年"時代に引き戻します。そう、KATZEの大きな特長は、メンバーの美形っぷりに反して、男のファンが多いことなのです。素直さとひたむきさをもって飾ることなく自らを曝け出し、夢を語ったバンドだったことが、男性ファンの心を掴んだのでしょう。

 3枚目と4枚目は少し作風が変わり、トータルでみた時に曲のクオリティがガクンと落ちます。ここには僕が度々指摘しているアマチュア時代の財産問題があるように思います。つまり、アマチュア時代の曲を使い果たした時、メジャーでの量産体制に対応できるのかということです。これに対応できないとそこから様々な問題が発生し、バンドが崩壊していく原因となるのです。KATZEの解散の理由はメンバーの脱退に伴う解散ということですが、無関係ではないような気がしています。

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